第十三章 ヨシラの方法

ヨシラは、各人の内部には「肉体の主」(Lord of the Body)という小さな人が宿っており、それが人間たちの生命であると教えた。人が眠っている間、その小さな人は望むように四方八方を彷徨って出かけており、死に際しては永遠にその人から旅立っていく。

その「肉体の主」は人間の目には見ることが出来ないが、全てを見ることが出来る「二度生まれし者」(Twice Born)の目には隠されることがない。死に際して旅立つ時、「肉体の主」は人間の口から出て来て、神々しい羽が生えてくるまで暫く待つ。その後、それは「西方の神の国」(Western Kingdom)へと飛び去り、そこで羽を脱ぎ捨てる。

「肉体の主」が旅をする所ではどこでも、地上で作られた住処はまったく必要なく、それ故に「この世を去った者」(Departed One)の地上的な住居を燃やすのは無益なことである。しかし、その住居が残っていて清められていないと、そこは「暗黒の場所」(Place of Darkness)から生じる影たちが集まる場所となる。その住居が破壊されない代わりに、そこは香と水で清められて、保護のためのホキュー(hokew) 注1 を補充しなければならない。

もし人が眠っているもう一人の人に近づくのであるならば、その眠っている人の「肉体の主」が穏やかに戻ることができるように、静かに優しく起こさなければならない。というのも、もし「肉体の主」が戻る前にその人が起こされたり、あるいは「肉体の主」が驚いて急に戻ってくるのであるならば、その人は具合が悪くなるであろうからである。それ故に、眠っている人を起こすときには、外にいる存在に優しく呼びかけるのが良い。

人間の体が、存在するルキムの熱なしに具合が悪くなるならば、あるいはその男または女が狂気の「暗黒の霊たち」(Dark Spirits)によって捕らえられて苦しめられるのであるならば、それは「肉体の主」の昼寝によって引き起こされている可能性がある。従って、その「肉体の主」が昼寝から目覚めるならば、あるいはその落ち着かない状態から復帰するならば、その男または女は回復するかもしれない。ヨシラは魔法使いたちのやり方に従ってこれらの事が為されることを許可した。

ヨシラは、人間の体の中の多くの種類の病気の治し方や、薬草の生命や成長する物を含む飲物の使い方を教えた。彼は生命が人間の体から離れることを防ぐために炎を使った。こういったことを実行する方法は、「薬物療法の書」(Book of Medications)に書かれている。

ヨシラが彼の息子たちと共にタムエラ(Tamuera)の地へ来た時、そこの人々は暗黒の内に住み、全ての知識について無知であった。彼らは自分たちのうちで多数の一族へと分割されていて、争いが起こりがちであった。彼らには王がおらず、年寄りたちが支配していた。欺きによって人々を支配する魔法使いたちが多数おり、そして「慣習を守る者たち」(Keepers of Customs)や「物語を語る者たち」(Teller of Tales)とよばれる者たちがいた。

一つの種族が沼沢地の真ん中にある大木と生い茂った森の間に住んでいた。彼らの住居は隆起した高台の上に葦と石で造られていた。これらの人々は「パンヘタの子ら」(Children of Panheta)と呼ばれていた。というのも、人間たちが最初に水の中に創られた時代以降、彼は人々の神であったからである。

もう一つの種族が木々から離れた流水の届かない場所に住んでいて、彼らには名称がなかった。彼らは自分たちの住居として穴を掘ったり、山腹にある洞穴に住処を求めた。この人々は神々を持たなかったが、「暗黒の霊」(Dark Spirits)と夜に人間を捕らえる森の「カマワム」(Kamawam)を崇拝していた。捕らえられた人間たちが自分の一族の下へ戻ると、彼らは言葉を失い、口がきけなくなった。彼らは狂気の真っただ中で死に、自分の体を引き裂いた。しかし、その森には「カマワム」などいなかった。この狂気は、人間の心の中に恐怖を染み込ませようとする魔法使いの仕業であった。

それがもたらされたやり口は次のようであった:魔法使いたちが人間たちを夜に捕捉すると、魔法使いたちは人間たちを秘密の場所へ連れて行き、そこでその者たちの舌を細い針を使って十分に裏側まで刺し通した。かくして、その者たちの舌は腫れ上がるので、その舌をそのように刺された者たちは話す力を失った。その魔法使いたちはまたその犠牲者たちのウエストの辺りに細長い木端を刺し通したので、誰もその木端が挿入されている場所を発見することができなかった。魔法使いたちは、他の破片を犠牲者たちのプライベートな部分と肛門の間の中間点に押し込んだ。そして誰もその破片がそこにあることを見つけることが出来ず、その犠牲者たちが針や破片で突き刺されていたことを知ることは出来なかった。

ヨシラは、この悪事を働いていた魔法使いたちの全てに強力な呪いをかけたので、彼らの腹を食いちぎる悪霊によって狂気へと追い立てられた。それより後、その地では「カマワム」はもはや知られることはなくなった。

ヨシラは人々に、石から金属を打ち出す事と石を焼くことを教えて、彼らの悪い考えを放棄させた。彼は人々にクレーの作業を教え、また布の織り方やビールの作り方を教えた。

ヨシラがその地へやって来た時、人々は水路の切り開き方や穀物の種まき 注2 について何も知らなかった。が、ヨシラがそういった事を彼らに教えた。その地に豊饒さをもたらしたのはヨシラである。流水の真ん中で死に、人々に活気を与えたのはヨシラであり、彼の言行録は未だに彼らの間にある。それ故に、土壌が実り豊かとなったのは、太古の時代に死んだ「偉大なる者の霊」(Spirit of the Great One)のお陰によるのである。呼吸をする人間の胸のように上げ下げする新鮮な水の届く範囲の向こうでは、土地は死んだ状態となっている。そこは男を知らない女のように不毛であり続けている。もしその地が新鮮な水ではなく他の水で補給されるのであるならば、そこが荒野となるまで毎年豊かな収穫量が減じていくことは、古くからいる者たちにさえ知られていた。その土壌の豊かさは、水だけによってもたらされるのではなく、水の中の生命によってもたらされる。生命は生命よりやってきて、生命なきものは、生命をこしらえることができないのである。

それ故に、良い土地は三重の神と縁付けられたものであり、そのように縁付けられていない土地は不毛であり続ける。そのように縁付けられた土地は勢い増す流水によって覆われ、縁付けられていない土地は流水に顧みられることはない。

「パンヘタの子ら」(The Children of Panheta)について、次のような事が書かれていた:ヨシラは人が人に話しかけるようにパンヘタと話した。それ故に、「インタ」(Inta)の法は変わることがなく、土や砂の上に住む者たちの同類を束縛し続けた。もし誰か男が「インタ」の中に混じっていくのであるならば、その法が彼の法となり、もし誰か女が自分の人々を離れて「インタ」の間に住むのであるならば、彼女もまた彼らのようになり、戻ってこないかもしれない。

「太陽の霊」(Sunspirit)でさえ星々の間に設定された道を旅するが如く、人間の霊もまた流水の動きと共に旅をするのである。それ故に、もし人が死ぬならば、その死体は大河に沿って縦方向に埋葬しなければならない。

たとえ物が生育する土地がその血縁がその土地に存する一族に所属するとしても、一人の人が、そこから生育する物をどんなものでも、それが牧草であれ薬草であれ木であれ、自分だけ独占して所有することは出来ない。が、各人は男であれ女であれ、あらゆる薬草や果物を、日の入りまでに両手で集めたり食べたりすることが出来るだけの量を取ることができる。

食べることが出来る種子である全ての物のうち、各人は自分のために広口瓶や食物さおから吊り下げられる範囲で保存できるだけを集めることができる。食べることが出来る種子である全ての物であって、広口瓶や食物さおから吊り下げるなどして保存できない物については、一族の穴の中に保存するものとする。その穴の中には、炎で加熱して冷却したもの以外は、如何なる物も置いてはならない。

「生命の霊」(Spirit of Life)が人間の食べる物に宿っているのと同時に、食べ物の元となる生き物の中にも宿っている。それ故に、人間の食物を宿すいかなる木や茂みも切ったり折ったりしてはならない。

獣の血は、人間の血が土壌から悲鳴をあげるのと同様に、土壌から悲鳴をあげる。それ故に、もし血を流したのであるならば、その血はなだめられなければならない。

食物として必要とされるのでなければ、如何なる獣も殺してはならない。そして、頭部と腹部の内臓の如何なるものも埋めなければならない。取り出される他の如何なる部位も、食用以外に利用されるであろう骨や皮を除いて、食べたり焼いたりするものとする。

炎は人間の役に立つ。が、炎は同時に人間の主となることができる。炎の性質を考えよ。炎は自発的にあるいは自分の意思で木材からぱっと出て来るのではないか?それには人間の関与が必要であろうか?炎は木材の中に内在していて、炎の霊が存在するのであろうか?

人間のうちの愚かな者たちだけが自分で制御できない何かを始める。目的の為に必要な分量以上の木材を使用して、炎が大量の煙を出し、煌々とした輝きを維持する状態となるまで大きくしてはならない。炎を、脅威無しに役に立つ正しい場所から迷い出させてはならない。

全ての男と女は適齢期の年齢に達したならば、配偶者を得なければならない。それに失敗した者たちは、最も高い尊重を得ることは出来ない。

人が犯した不正な事に従って、人は罰せられるものとする。同様に、彼は不正の性質に従って処分されるものとする。過去の時代からの慣習は役に立たない指針ではない。

ヨシラが「インタ」の居住する場所へやって来た時、彼らは次のようにヨシラを歓迎した。「我々が貴方と会った時、我々の心は喜びに満たされた。我々の内の生命は新たなものとなり、我々は満ち足りていたとはいえ、貴方は元気の回復と喜びをもたらした。」ヨシラはこの人々を離乳していない子らと呼んだ。


脚注

注1:ホキュー(hokew)については、第十二章 ヨシラの戒律を参照のこと。

注2:原語は、"sowing of com"。"com"は"corn"(穀物)の誤りであろう。

Copyright© 2015-2022 栗島隆一 無断複製・転載を禁ず