「ローサン」(Lothan)、「勇猛なる男たちの頭領」(Captain of Men of Valour)、「新月の息子らに勝利を収めたる者」(Victorious over the Sons of the New Moon)、そして、「隠されたる知恵の守護者」(Guardian of the Hidden Wisdom)。「赤き国で道を作る者」(Maker of Roads in the Red Lands)、そして「秘密の城砦を建てる者」(Builder of the Secret Fort)。「アビソベル」(Abisobel)の傍で、かつて「ラドサ」(Ladosa)にて「神エローの書記」(Scribe of the God Eloah)であり、「イスワラの神殿」(Temple of Iswarah)において彼の「知恵の父祖たち」(Fathers in Wisdom)に対して「新神殿」(the New Temple)内の「記録の番人」(Keeper of Records)よ、こんにちは。貴方が成功裏に、平安に、そして健康に地上で長生きし、そして知識を持って旅立ちますように。
私たちは良い国を去り、心は深い悲しみで重苦しい。船は5隻で、そして私は自分の船に目をやるとそれが良い状態である事が分かった。その船はアロンウッド(alonwood)で出来ており、頑丈なマストが立っていた。マストの周囲全体に樽が縛られていた。外板に沿って、捌かれた索具は放置されていたが、全ての開けた場所は梱包されたり縛られたりしたもので満たされていた。船舶の為に多量の革や革製のひしゃくがあった。周囲を輪で留めてある木製の大きな手桶が10個あり、編み革で取り扱われた。船首の間には、案内棒が立っており、その元には木製のあらゆる種類の珍しいものや海の男たちによって使われる索具が保管されていた。投石器や炎を投げる器械があった。側面に括りつけることが出来た背の高い盾の防護壁があった。倉庫にはあらゆる種類の武器や多量の甲冑が入れられていた。料理の為の深鍋や火鉢があった。
マストの後ろには倉庫があって、その中には100の油壷、それと少なくもない葡萄酒と酢があった。食物の樽があり、それ以上のものがかごの中に保存されていた。多数の大きな水差しが紐で縛られていて、布地にくるんだ干し肉が蓄えられていた。干しナツメヤシや干しイチジクや小さな果物が大量にあった。水や食事用の皿が欠乏する事は無かった。漁の為の網があり、鳥を捕まえるための鉤があった。
海の男たちのかしらは「夜の親指」と呼ばれる切れ込みの入った棒の扱いに長けており、それによって彼は広大なる大海原に渡って導かれていた。我々は、「ネバム」(Nebam)が発った「ケフター」(Keftor)と対決した。というのも、彼らは厄介者であったからである。難破した「メルカットの人々」(Men of Melkat)が現れたので、我々は勇猛なる者たちを二十人引き取った。我々は海沿いの多くの国々を通過したが、そこには黄泉の国の炎によって引き裂かれる前にかつて広い海に囲まれた「ポシドゥマ」(Posidma)の統治した場所があった。「ホグブリム」(Hogburim)の国の傍で、我々は海原を進んで「アスレサン」(Athlesan)の門へと赴き、そしてそれを越えて「タプイム」(Tapuim)の海を横切った。
船一隻と40人の男たちと6人の男たちの世帯が途中で失われた。私には3隻の船が残され、その一つはその国に投錨された。私は戦闘で12人の男たちを失い、10人が病によって消え失せた。200人の戦闘員が私と共に居た。110人の技能を有する者たちがいて、100人の農奴たちがいた。60世帯はその牛や羊、穀物や道具類や荷馬車と共に在った。我々と共にあるものは全て数え挙げられていて、その勘定は日々増加している。
宿営地はよく整えられ、壁で囲われているので浸水することが無い。木々や土壌がその建造の素材である。我々の周囲に大木があったが、建物用の石材が無い。というのも、土壌が深いからである。人々が水路を遮った場所よりも上には水流が達する事は無いが、多量の雨が降る。
その地には野蛮人がいて、彼らは皮膚に模様を描いている。
その野蛮人たちは毛むくじゃらな者たちで、その神々は野生植物である。彼らの居所は地面の上にある籠のような物で、そして彼らは不潔である。その女たちはあばずれ女の様であり、木々の間で荒っぽい叫び声を発するが、その男たちは静かで沈黙している。
彼らには柱で出来た神殿があり、それは部分的に屋根が葺かれ、大きな丸太で取り囲まれていて、また丸太が敷かれている。獣皮や彩色された革が吊るされているが、布地はない。祭壇には植物が配置され、彼らのいと高き神々が供え物の中の生命の精を食する事が出来るようにし、そしてそれを自分たちの元へと引き戻す。
私には何故だか分からないのだが、彼らは処女を籠に閉じ込めるが、籠の中の女たちは処女であり、良く世話が為される。処女性は猟犬が解き放たれるように解放されるというのか?
その野蛮人たちは無学であり穏やかな話し方ではない。彼らは野犬の親類の様であるが、子供に対しては彼らは優しい。(ある時)石工である「フィコル」(Fikol)の子供たちが森の中で迷子になって、野獣たちが夜、彼らを取り囲んだ。その野蛮人たちはその子供たちがそこに居るのを見つけると、彼らを運び去って彼らに食事を与えた。その後、勇猛なる者たちの捜索隊がその場所にやって来て、その子供たちは彼らを見ると、その野蛮人たちから逃げ出した。その勇猛なる者たちは、野蛮人たちが子供をさらったと思って、その野蛮人たちを殺した。というのも、その野蛮人たちは言葉を知らなかったからである。それから後、我々は彼らのやり方を見て来たのである。
110人の野蛮人たちを我々は農奴として擁している。その男たちは宿営地周囲で土壌や木材の作業に従事している。私は水流の中に壁を建築するように指示し、それは河岸に向かって桟橋を取り囲み、そこには船を停泊させる事が出来る。
その壁の内側の水の領域に、私は神殿を建設した。が、私と一緒に全ての者たちがそこへ行く訳では無い。我々は単一の民族ではない。その神殿の門は、木製の柱の上にあって、石の上を回転し、その中の柱も木製である。大きな梁がその屋根を支え、その壁は木材と日干し煉瓦で出来ている。その床は精細にかいた砂で出来ており、そして供え物の前には祭壇が石の上に置かれている。人々を惑わすような意匠の偶像は存在しない。というのも、その神殿が貧乏であるとしても、無知を保持する事はないからである。我々には悪い者たちは居ない。勇猛なる男たちや技術を有する男たち、陸の男たち、そして海の男たち。それだけである。
祭壇の下には、「生命の墓」(Grave of Life)があって、モルタルで乾燥させてある。その場所には「大いなる神秘の収納箱」(Great Chest of Mysteries)があって、「生命の壺」(Urns of Life)の中には記録が入っている。それらは良く保存されており、無学の輩たちからは安全が確保されており、すべて「東方の地域」(Eastern Quarter)に関する記録である。かくして、貴方の占いに従って全ての事が行われていて、申し分ない。
(複製された写本とそれに続くものの間には、完全な(板状の)写本があったが、そこに書かれている内容は無効なものであった)
地の果ての土地では、殆ど日差しが無く、そこの人々は水で具合が悪くなる。湿気は我々の間で病気をもたらし、歯は歯茎の中で緩くなり、皮膚は皮がむける。肉は膨れ上がり、指の跡を残してしまう。
その地の人々は我々を取り囲み、我々は彼らを木々の間に見つけることが出来ない。ローサンは、森の中の内陸部への三日間の旅において、12人の勇猛なる男たちと共に殺された。彼は夜に死んだ。二人の男たちがそこの野蛮人たちに捕らえられて、籠の中で焼かれた。
人々が、我々の仲間であるが、「炎の子らの国」(the Land of the Sons of Fire)から船でやって来た。筆記者「アルマン」(Alman)、そして建築者「コラ」(Kora)がやって来た。戦に並外れた男であるホスキア(Hoskiah)が、我々から離れて行ったが、「ケダリス」(Kedaris)を経由して彼らをここへ連れて来た。炎の子らは400人がいたが、戦士は殆どいなかった。彼らは勇猛なる男たちではない。彼らは海の男たち、耕作者、そして交易者たちである。彼らの中に建築者がいて、木材や石材の加工に熟練した者たちがいる。というのも、彼らはこの地に街を構築する為にやって来たのである。
この地、「木々の王国」(the Kingdom of the Trees)は、街の為の土地ではない。木々が我々を閉じ込めて捕らわれの身とする。木々は我々に危害を加える為に待ち伏せしている者たちを隠匿する。家を建てれば、木々が屋根を占領し、そして植物が壁を這いまわる。穀物を栽培すると腐り、雑草が他の生育する食物を包んでしまう。至るところが灰色じみていて、ここでは太陽の顔でさえ薄暗い。
人々は熱も無いのに震えがきて、そして空気はきれいではなく湿気と混じり合っている。野犬が木々の間に潜んでいて、不注意な者を破片へと引き裂く。殆ど石材が見当たらず、それらは粘着物に覆われている。野生の果物や薬草は悪臭を放ち、それらを食べた者たちは死んだ。この地の野蛮人たちは自分たち自身の子供を食し、彼らの体に死者の脂肪を塗る。大きく毛むくじゃらな体で犬の頭をした人々の人種がいて、彼らは子供たちをさらっていってそれを食べる。「アモラ」(Amora)の妻である「アルーサ」(Arutha)は、その人種の男に犯されて死んだ。彼らにどんな矢も貫く事が出来ない獣皮の盾を持っている。
「天の書」(Book of Heaven)は炎の子らに明かされていて、その中で彼らは海を横切る道を見つけた。彼らはさすらい人の知恵に満ちている。我々が船乗りの手によって海を通ってやって来たように、我々は出ていくであろう。我々は夜の輝く矢の吉兆を待ち焦がれている。我々の人々は疲れ果てていて、そして勇猛なる男たちの間で呟きがある。というのも、彼らは「木々の霊」(Spirit of the Trees)を恐れているのである。その息が我々を取り囲む。その灰色の指の爪が我々の所有物を台無しにする。その霊が我々の家畜を死に至らせ、我々の穀物を枯らす。その霊に対して、我々は無力である。その霊はこの地を奪われ、木々の間から切り倒されたのであり、彼は決して忘れることが無いであろう。
「偉大なる秘密と聖なる知恵」(the Great Secrets and Sacred Wisdom)は我らの子供たちの為に確保されている。我々はそれらと我ら自身を炎の子らの手に託している。我々はこの地を離れ、そして西へ向かって、「ヒレー」(Hireh)へ向かって航海し、そこには「白石の国」(the Land of White Stone)が広がっている。そこで、我々は石とレンガで建築することが出来る。ここに我々の出発時の勘定を記す。ローサンと共に来た者たちのうち、90人の勇猛なる男たちと、うち35の世帯。遅れてやって来た、そして炎の子らを含めて70人の勇猛なる男たち。82人の技師たちと、うち8の新しく形成された世帯。ホスキアと共にやって来た勇猛なる男たちとその世帯。遅れて来た9つの世帯。
240人の農奴がいる。これらの内、110人が投石器と棍棒を携えている。いくらかの者たちは戦闘用石斧や金属を巻いた棍棒を有するが、彼らのうちには研ぎ澄まされた武器は無い。
全ての世帯のうち、104の家には子供と未婚の女がいるが、多くの者たちがこの地に根付く病で死んだからである。奴隷もいるが、殆どが森の中で死んだか消え失せた。
牛は全滅し、少数の羊やヤギがいる。各勇猛なる男たちには二升の穀物が毎朝、そして他の者たちには一升が毎朝支給される。穀物は、60の大籠分在庫がある。炎で乾燥させた薬草は、45アンクリム(ankrim)注1 ある。炎で炒めた魚といくらかの肉がある。
110籠の角状の注2 堅果があって、それは苦みがあり、酸味がでてくる。「木々の人たち」(Men of the Trees)がそれを食し、そのような人たちにとってそれは妥当な食物である。この地で育つ「ナラー」(narah)の実があって、それは甘みがあるが腹を満たすものではない。また、多量のケーキに適した果実がある。
一度溶かした武器用の金属や金銀の断片がある。技師たちの為のあらゆる種類の道具があり、家庭には多量の陶器がある。が、その多くは木々の人たちに持っていかれ、布地については殆ど残っておらず、人々は獣皮や植物を編んだ繊維を身に着けている。
「悲しみの港」(Harbour of Sorrow)を我々は後にし、4隻の船で日没へ向かって航海する。一隻の船は炎の子らの国へ行った。ローサンの霊よ、我々が遠くへと向かい見知らぬ者たちの間にある時に、我々と共に在れ!
注1:"ankrim"は何らかの単位であろうが、今となってはその具体的な意味は不明である。
注2:原語は"cuped nuts"。"cuped"なる言葉は存在せず、"cubed"の誤植と解釈して訳出したが、この解釈に自信は無い。
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