第六章 ヒラム(Hiram)の物語

「ペラス」(Pelath)の息子「スート」(Thute)、「ヘシム」(Hethim)の地にある「エランモラ」(Elanmora)の自由民が、彼の人生の収穫期の年、彼の心が知恵と知力に満ちていた時に以下の事を書いた。ただの目をもってこれらの事を読む者は、殆ど利益を引き出す事はないであろう。しかし、教え導かれて高揚した心をもってこれらの事を受け取る者は、彼自身の霊の深みの中に反響を見出すであろう。

「ハシェム」(Hashem)の息子である「ヒラム・ウリバス」(Hiram Urias)がまだあごひげ無しの若者であり、金持ちたちや輝かしい彼の父の家の間で楽しみにふけっていた間、遠い土地から一人の賢者がやって来た。その賢者は、豪華な隊商に同乗する地位の高い者としてではなく、くたびれた足を引きずり、水と食べ物を求めて来た。それらの物は彼に拒否されることは無く、そして彼が物陰に座って喉の渇きを和らげ彼の空腹を満足させている時、その若者、ヒラムが礼儀正しい挨拶と共に彼のもとへやって来た。その賢者は喜び、彼の口から宝石のような言葉がどっと溢れて来たので、その若者は知恵と「真実」(Truth)への想いで満たされるようになり、その日から先、彼は自分の人生をそれらのものの探究に捧げる事を誓った。

その賢者の出発後、ヒラムは彼の父の(家の)屋根の下で落ち着かなくなり、間もなく一包みの食物と革袋一個の水を持参して「ウラスリム」(Uraslim)へと出発した。そこに到着して、彼は、「炎の有翼神」(Winged God of Fire)の神殿の召使であるガベル(Gabel)の家で就寝し、そしてそこから彼は、エジプトへの道にある「ターガルッド」(Tirgalud)の先に在る「ベスシェミス」(Bethshemis)へ向かって旅をした。ヒラムは彼の人々の間の若い男であり、背が高く、投げかけるような明るい瞳の一瞥を有していた。彼の長く、帯で束ねた髪は彼の注1肩まで低く垂れさがり、彼の闊歩は幅広くしっかりとしていた。

彼は黄昏間際にベスシェミスへとやって来たが、街へ入るには具合の宜しくない時間であった。それ故に、暗闇が彼の周囲を取り囲んだ時、彼はブドウ園の壁の元に寝る準備をした。このブドウ園は裕福な未亡人によって所有されていたが、その若い男が夜の準備をしているのを見掛けると、人を使いに出して彼を彼女の客間に連れて来させた。その未亡人は年寄りでもなくまた美しくない訳でもなく、彼女がその顔立ちの整った若い男と会うと、彼女は心を躍らせ、彼を歓迎して迎えた。ヒラムは朝の光と共に発つ事は無く、その未亡人は彼女の地所での高い地位を彼に申し出る始末であった。ヒラムはそれを受諾した。というのも、彼は若く、その名誉を喜んだのだが、時が経つとその未亡人は彼に魅了され、そして彼を彼女の夫にしたいと望むようになった。ヒラムはそれから逃れる方法を求めた。というのも、彼は既にその女の数多の恋人たちの話について耳にしていたからだ。

その未亡人はヒラムに言った。「私の夫になって下さい。というのも、前の夫は死んでしまい、そして相続人を残しませんでした。貴方の男らしさの果実を私たちで楽しみましょう。というのも、私は、素晴らしい息子を持つ事が出来る様に、貴方の体の種を望んでいるからです。私は貴方に青や赤のローブを差し上げ、それらは金の鎖のモールで飾られるでしょう。貴方は黄銅で縁取られ、銅の竿で担がれた高価な馬車に乗るでしょう。数多の召使が貴方に随行し、そして「東方や西方」(East and West)から連れて来られる賢者たちは貴方の心を知恵で満たすでしょう。貴方は、ご自分の望みを満たす如何なるものにも不足する事はないでしょう。」

ヒラムは気が気でなかった。というのも、彼は若く、そしてそのような状況に対処する知恵に欠けていたからだ。彼は軽率に次のような言葉でその未亡人に答えた。「貴女は美しい女性で、それだけならば貴女は男性たちにとって望ましい宝です。しかし、それがどうやって私との結婚となりましょうか?貴女は数多くの恋人たちを持っていらっしゃったと伺ってますし、彼らは、貴女が冷たい部屋の中で燻る炎、風や砂を防ぐ事のない扉、屋根の下で眠る人の上に落ちて来る屋根、舟乗りを溺れさせる舟、流砂の外皮、渇きをいやす事のない水、腹に重くのしかかる食物であると気付いています。貴女は、彼が満足の喜びの中を歩むように、どの男性を節操を持って愛したことがあるのでしょうか?どの男性が貴女の事を彼のものであると言った事があるのでしょうか?」

彼の口からのその言葉はその未亡人をスズメバチの如く刺し、そして彼女は女性のやり方にに従って烈火の如く怒り出した。彼女は召使たちを呼び出し、彼らはヒラムを棒で打ち付け、彼を彼女の地所から追い払った。彼の心の中のちょっと多くなった知恵を持って、彼はエジプトへの旅を継続し、そして何日もの後に、彼は「オン」(On)の街に到着した。

ヒラムはその町の郊外で「南方の男たち」(Southern Men)に混じって居住した。というのも、多くの者たちが戦争中に捕らえられて奴隷とされたからである。欲情した時に、これらの男たちは蜂蜜のような甘い匂いを発散させるが、それは男たちには分からない一方、全ての女たちがその匂いに屈服することになる。これがエジプトの国がその純粋さを犠牲にした方法である。ヒラムがエジプトへ来た時代には、「ファラオ・アスモス」(Pharaoh Athmos)がエジプトを支配していた。

当時、エジプトは「アブラマイテス」(Abramites)と交戦状態にあった。というのも、彼らの偉大な赤い頭の王が「パラン」(Paran)の王子の妻と姦通を犯したからである。自責の念に駆られている王は自分が蒔いた種を刈った。というのも、彼の最もお気に入りの娘は彼女の兄弟によって強姦され、そして彼の妻たちは全ての人々の眼前で強姦されて屈辱を与えられた。戦争の為、オンの街にはたくさんの異邦人の出入りがあり、ヒラムは(誰にも)気付かれずに済んだ。

ヒラムは長らくエジプトに居住し、そしてその知恵を吸収したが、彼の心を最も喜ばした事はエジプトで長らく隠されてきた宝の話であった。彼は、その素晴らしい多彩な卵が永遠の生命を人間たちに与えるという巣を燃やす鳥について知った。彼は、蛇の真珠と最も暗い夜においてさえ太陽の光で照り輝く宝石について聞き及んだ。これらの全ての物を、彼自身で所有したいと願った。

その巣を燃やす鳥の巣篭る場所はエジプト東方の「モスベニム」(Mothbenim)の中にあった。しかし、その卵のうちの一つがエジプトの宝のうちにあった。その卵、真珠および宝石は、「インミシュペット」(Inmishpet)と呼ばれた島の上にある暗い洞穴の中に保護されていたが、その島は「シダナ」(Sidana)と呼ばれた湖の真ん中に配置されていた。その湖の水中には、一部獣、一部魚である恐ろしい水生の化け物たちがいた。その湖畔には、宝の守り主である姿かたちを変える事が出来る僧侶たちが住んでいた。

その湖の北方には、羊飼い「ネイミン」(Naymin)が寺院の羊の群れの世話をしていた広大な牧草地があった。が、ネイミンは齢を取っており、彼には跡継ぎの息子がいなかった。それ故に、彼はヒラムを彼の世帯に入れて、ヒラムは彼にとって息子のようになり、寺院の羊の世話をするようになり、そしてエジプト人は誰も彼と共にはいなかった。

ある日、羊たちがまだ子羊たちに乳を与えている間に、ヒラムは外出して放牧地へ行き、暑さゆえに涼しい水辺の近くに座った。物陰にもたれながら、彼は自分のフルートで陽気な羊飼いの旋律を奏でた。多くの場合、誰にも彼の邪魔をされることなく、彼はそこにいた。しかしそれでも、「エルレの処女たちの家」(House of the Virgins of Elre)が遠くない場所に存在していたのだが、そこに住む乙女たちは滅多に外出する事がなかった。

しかし、この日、「高僧」(High Priest)の娘である「アス」(Asu)が外出し、そしてそのフルートの旋律を耳にしながら近づいて聞いた。しかし、彼らの間に茂みがあったので、ヒラムは彼女の姿を見る事が出来なかった。その乙女は、彼女の足の履物を取って座った。

遠くにいる羊たちの一匹が鳴き声を上げるのを聞いて、ヒラムは演奏を止めて立ち上がり、彼の背中がその乙女の方を向いた。彼女は、彼が立ち上がったのを見て、彼が彼女を見つける前にこっそりと立ち去ろうとしたが、そうしようとしたところ彼女の足に棘が突き刺さったので、彼女は痛みの叫び声を上げた。ヒラムは振り向いて、彼女の災難を見て、彼女を助けようと急いだ。彼は優しく棘を引き抜き、彼女を水の溜まった場所まで運んで、彼女が冷たい水で足を洗えるようにした。彼女が足を洗っている間、彼は自分のフルートで甘美な旋律を奏でて彼女を慰めた。

その乙女はヒラムとの恋に陥り、そして彼もまた彼女との恋に陥った。しかし、彼女は捧げられた処女にして「高僧」(High Priest)の娘だったので、どちらも自分たちの心の扉を開くことが出来なかった。その乙女は泣きながら幾夜も過ごした。というのも、彼女は何の救済策もない恋心を抱いたからである。ヒラムは自分の群れを他の牧草地へと移したが、彼らの心は初めて会った場所へと引き寄せられ、彼らは再び会い、更に再び会った。

さて、ネイミン(Naymin)の妻は、ヒラムが病気の様に思い焦がれているのに気付いて、彼女はその事を彼に話すと、彼は彼女に、「エルレの処女たちの家」(House of the Virgins of Elre)の乙女であるアス(Asu)の事を話した。ネイミン(Naymin)の妻は、この絶望的な恋に慰めの言葉を掛けたが、それが殆ど役に立たない事を悟っていた。

定めの時にあって、ヒラムは自分の(羊の)群れを湖の反対側の遠く離れた牧草地へと連れて行った。彼が家を離れている間、ネイミン(Naymin)の妻は、彼がよくアス(Asu)と会っていた場所まで行き、そしてある日アス(Asu)はやって来た。ネイミン(Naymin)の妻は寺院のために薬草を収集する者であり、彼女のことを知っていた。彼女たちは、ヒラムや神々、僧侶たちそのやり方や僧侶たちに仕える者たち、人生や男や女について多くの事を話した。

それから、ヒラムが戻って来た時、羊の屠殺の饗宴に近かった。そしてこの時には、子羊の犠牲は湖の水生怪物へと捧げられた。不在の間、ヒラムはアスとエジプトの宝の事を考えていたが、その両者共に見た所では等しく獲得困難であった。ネイミンの妻は珍しい程彼に話しかけたが、ヒラムは不思議に思った。というのも、そのような話し方は女性たちのやり方では無いからである。

羊の屠殺の饗宴の前夜に、島への年次巡礼の為に湖の舟が整えられた。それらの中には、「エラブ」(Erab)の偉大なる舟があり、これは「天を焦がすもの」(Scorcher of Heaven)が太陽と共に昇った時、そして地上が打ちのめされた時の記念に保存されているものである。この舟から犠牲となる子羊たちが水生怪獣たちに捧げられ、そしてその舟上にはアスと八人の処女たちが仕えていた。そこには、「高僧」もまた司式していた。

ヒラムは頭の中で、自分の注2命を危険に晒して、自分自身がエジプトの宝を手に入れることが出来るかもしれないという計画を思いついた。この年、今や虚弱であるネイミンだけが、彼を支援する二人の少年の僧侶と一緒に生贄の子羊を担当するであろう。彼らは、かつて三分の一の範囲を作る事によって炎の雹による破壊から地上を救った「輝く顎鬚を有する者」(Bight Bearded One)に捧げられた「湖の寺院」(Temple of the Lake)からやって来た。

饗宴の前夜、ヒラムは舟の傍で自分の羊の小さな群れと共に眠っていた。そして夜明けと共にそれらは舟に乗せられた。太陽が高く昇ると、「高僧」(the High Priest)が他の多くの僧侶たちや王子たちと共にやって来て、そして処女たちも同様にやって来た。彼らは「出立の寺院」(Temple of Departure)にて生贄を捧げ、そして水上へと出発した。もう一つの舟にはネイミンと彼の妻が乗っていて、更に人々で満たされたその他の舟があった。

水上で供儀が為された後、ボートの一群は島に到着し、「島の儀式」(Island Ceremony)の為の準備が為されて、それは夜通しで続いた。暗くなると子羊たちが捧げられて、湖水は血で赤く染まり、そして水生怪物たちは肉で満足した。

さて、その島のその洞窟は、とっくに忘却された昔にそこで死んだ者である「モットの霊」(Spirit of Mot)によって人間たちから守られていて、そして僧侶たちがその入口を警備していた。しかし、ヒラムはその「モットの霊」を恐れていなかった。というのも、モットが有するのと同じ血筋の傷を体に帯びている者に対し、「モットの霊」は何の危害も加える事が出来なかったからだ。異邦人ヒラムは、子供の頃、そのように他の人たちから区別されてきた。

その夜の6度目の祈祷時に、3人の処女が宝を持ち出すためにその洞穴に入った。そして彼女らと共に、子羊の血で清められる事によって保護された一人の僧侶が同行した。「宝の守護者」(Guardians of the Treasures)であり、その島を離れなかった5人の僧侶たちも同様に彼女らと共にその洞窟の中へと入ったが、彼らは動物の皮で装い、獣の頭で顔を覆っていた。宝は持ち出され、皆が見る事が出来る様に、洞穴傍の岩壁に接した祭壇の上へと置かれた。その祭壇の上には麻の布と黄金が横たえてあった。人々がその宝の前を横切り、踊って歌っていた間に、僧侶たちがやって来てその洞穴の中に入っていった。

洞窟の前、湖へと導かれた道から離れた場所に、「清めの水溜まり」(Pool of Purification)へと通じる小道があった。そこで、乙女たちは沐浴した後、男たちや女たちが一人ずつやって来てその水で体を清めた。彼らはその後、入江を通じて湖へと入っていき、浜に沿って、水位が腰よりもかなり高い位置に達する事が無い水の中を渡って行き、階段を上って小さな迫持の寺院を通って再び道へと抜けた。もし彼らが本当に清められていたのであるならば、彼らは決して水生怪物たちに触れられることがなかった。

乙女が水生怪物たちに引きずり込まれたことは今まで無かったのだが、この恐ろしい夜、一人の乙女が水溜まりと寺院の間を通過している間に、大きな断末魔の叫びが上がり、直ちに止んだ。その島は不吉な静寂に包まれ、そして夜が過ぎゆくと共に、アスの名前が口から口へと囁かれた。宝は、畏怖のとばりの元、陰影と静寂の中運び戻されたが、「高僧」は悲しみと不面目で首を垂れていた。

舟が島を発つ時、ヒラムが舟に居ない事に気付く者は無かった。というのも、彼の本分が為されたら、彼はどんな舟でも戻る事が出来たからだ。そして、その夜シダナの湖水を切って進む不審な舟はどれ一つとしてなかった。ヒラムはネイミンの羊飼いの小屋へと戻ったが、彼は何も言われなかった。というのも、ネイミンは彼が寺院で悲しんでいる人々と一緒であったと思ったし、そしていつも多くの者たちが数日間に渡って留まっていたからである。

ヒラムは元気を回復すると、くたびれて年齢と悲しみで気が重くなっていたネイミンの元を発ち、自分の羊の群れへと戻る準備をした。アスの死による悲しみに暮れて、恐らく自分の羊の中の馴染みの孤独以外には、彼はどこにも慰めを見出すことが出来なかった。しかし、ネイミンの妻は言った。「私はちょっと貴方と一緒に歩きましょう。というのも、私もまた患っており、しかしそれでも必要であるが見つけ難い薬草を探さなければならないから。」二人は少し遠くまで歩くと、彼女は言った。「私はこっちに行きましょう。貴方は私について来て、貴方の助力が必要かもしれない年老いた女と調子を合わせて下さいませんか?」

ヒラムは言う事を聞いた。というのも、彼は彼女の奇妙なやり方を理解できなかったが、その女性はまさに彼自身の母の様であったからだ。彼女は彼を茂みに囲まれた窪地へと連れて行った。すると、見よ、そこにはアスの姿があった。抱擁と挨拶、そして事情の説明が終わると、ネイミンの妻は言った。「貴方はここに留まる事は出来ません。ここに衣類や食物があり、そしてその乙女を追う追手もおらず、そして誰も貴方の出立を勘ぐる者もいないでしょう。今晩発ちなさい。ここについては何も考えずに。というのも、貴方は若いので、別れの苦悶が過ぎ去った後には、貴方の前に喜びの生涯があるからです。」

ヒラムは言った。「私が今感じているよりも大きな喜びや嬉しさを今まで感じた事はなかったでしょう。しかし、この事は既に私に果たされている重荷をいや増し、思う以上に単純という訳にはまいりません。というのも、次の事を貴女は知らなければなりません。私はエジプトの宝を持ち出し、そして誰もそれを発見できない場所に隠しました。私が何も変わらず自分の仕事、自分の羊とフルート以外に何の考えも無い羊飼いの仕事に精を出していたならば、誰が私を疑うでしょうか?私は幾ばくかの日が最初に過ぎていくとは思いますが、(宝が盗難された事に対する)叫びはたった今でさえ引き起こされ得ます。その時、追跡が全ての方角に為されるとはいえ、誰が出て行ったあらゆる者の足取りを追跡する事が出来ましょうか?何故貴女はご自分の計画を私に伝えて下さらなかったのか?」

ネイミンの妻は言った。「実現するかどうかも分からない、あるいは貴方の視線や態度によってばれてしまいかねない事について事前に貴方に話をしておく事がどうして出来たであろうか?我々もまた、貴方は、愛を除いて、フルートを演奏する以外に何の考えもない純然たる羊飼いであると考えていました。かくなる上は、貴方はその乙女と共に逃れて、その宝を放棄して下さいませんか?あるいは、彼女を独りで逃れさせて下さい。というのも、彼女は逃げなければなりません。」

ヒラムは言った。「私は宝の為に愛を捨て去る事は出来ません。しかし、命注3の為にこの宝を捨て去る事や、それを崩壊させる事もできません。それ故に、この乙女、アスを変装させて、共に我々は宝無しの安全な場所へ向けて出立しましょう。誰もまだ彼女が生きていると疑わないでしょう。そして、時満ちて、私は戻ってきてその宝を取り戻しましょう。というのも、誰もその隠し場所を見つける事は出来ないからです。しかし、私は性急に出発する事はありません。暫く待ちそしてネイミンに別れの挨拶をし、定めの時に発ちましょう。」

ヒラムはアスの元を去り、ネイミンの妻と共に戻った。小屋の中に入りネイミンに近づいて、ヒラムは、誰も等閑視する事が出来ない様な幻を見たので、自分の父祖たちの地へと行かなければならないが、この季節が再びやって来るまでに戻ってくるつもりだとネイミンに告げた。その夜、大きな叫び声が寺院の間で沸き起こり、そして夜明けに人々がやって来てネイミンやその同居人たちに尋問をしたが、彼らが純然たる羊飼いである事を見出すのみであった。

ヒラムは出発した。ネイミンのロバを連れ、そして彼と共にネイミンの妻も同行した。彼らは、ぎこちない踊りで食い扶持をつなぎ、洗顔もせず、衣服も不潔な乞食の少女に偽装したアスと合流した。一行は盗まれた宝を探し求める男たちに付き添われ、そして一行の所持品は全ての人々の目の前で開示された。七日の後、ネイミンの妻は自宅へと戻った。

ヒラムとアスは、エジプトの境界の外の「フェニス」(Fenis)の近くにある「ベセリム」(Bethelim)にやって来るまで進み続けた。そして、彼らはそこで「ケロフィム人」(the Kerofim)に混じって居住した。時が満ちて、ヒラムはエジプトへ戻り、それらを水と油で満たされた他の革袋の中に隠された革袋の中に封入して宝を取り戻した。ところで、ヒラムがエジプトを去りそしてベセリムに近づいた時、彼は、自分が去った住処が最早建っておらず、その周囲の敷地には燃えた茂みが一面に生えていたのを見た。焼き尽くされた廃墟の中に、彼は遺体や骨を発見し、それらがアスと彼女と同居していたケロフィム人のものである事を悟った。彼は彼らが剣で殺された事を理解した。

ヒラムはその死の場所で長居をせず、安全な場所に自分自身を連れ出す事を考えた。しかし、その土地が危険なのを知っていたので、彼は、巣を焼く鳥の卵と二つ以外のすべての真珠、そして宝石の大部分を隠す場所を探し求めた。それらの安全を確保したので、彼は自分の道を進み続けた。

ヒラムは、ほぼ二日間の旅の距離を離れた小規模な木立の生えた場所へとやって来た。ここで、彼が寝ている間、二匹の野生の猪がやって来て、革袋の一片に括りつけておいた3つの宝石が飲み込まれてしまった。後に、彼が渡渉している間に一つを失い、そして一つは彼が寺院で宿り場を探し求めている時に彼から盗まれた。二つの真珠と二つの宝石は、他の僧侶たちによって彼から掠め取られて彼らの神の宝庫へと奉納された。彼が自分と共に所持していた残りの宝は、彼が待ち伏せされた時に失われた。その時彼の命は容赦されたのだが、彼は出血したまま放置され、死ぬ間際であった。ヒラムは道路脇に横たわっていたので、彼は放浪の金属細工師たちによって救助され、そして彼らの尽力によって健康を取り戻した。というのも、彼らは彼自身の血族であったからである。

ヒラムはその金属細工師たちの元に数年間留まり、そして彼らの工芸を学んだ。ヒラムは武器の作成とその使用において熟練した。時が満ちて、彼は宝を秘匿した場所へと戻り、それらを取り戻した。そして、彼は海の傍の街へと出かけ、遠く離れた地へ行く為の船を買った。それ以来、誰も彼を見た者はいない。が、彼はある王の娘と結婚し、異国の人々の間で王子となったと言われている。

斯様なるのがヒラムの物語である。書かれた通り、それはくどい物語であり、そしてよく保持されているが、大きな意味は無い。それは架空の描写を有し、そして無価値な詩的空想の飛躍にふけっている。それ故に、それは概略で描写され、そして少ない節に切り詰められている。


脚注

注1:原語は"bis"。これは明らかに"his"の誤植であろう。

注2:原語は"bis"。これは明らかに"his"の誤植であろう。ここでは「自分の」と訳出した。

注3:原語は"lif e"。なぜかfとeの間にスペースが挿入されているが、これは誤植であろう。

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