第十五章 カドミスの書

我々の主君「ロダス」(Lodas)、「カドミス」(Kadmis)と「カルラ」(Karla)の息子の命令で、「ホルセニ」(Hortheni)に生まれた著述家「オレイルガ」(Orailuga)の手によって。寺院歴87度目の年、「バルグレン」(Balgren)の四年目の周期に、そして誓いの八年目の年に。

人間が空気の中を動くように、「神」(God)は善の中を動き回る。「神」は死すべき定めたる人間として人間にとって理解出来ないが、霊的な人間として理解可能である。なので、「神」は単なる人間たちの属性を持った「存在」(Being)であるのではなく、霊の中の「至高なる霊」(Supreme Spirit)なのである。人間が物質的創造物の頂点に位置するように、「至高なる霊」は霊的なる圏の上の「究極なる単一体」(Ultimate Unity)なのである。

この日より先、我々は「至高なる霊の名匠」(Craftsman of The Supreme Spirit)として知られ、そして我々が「葦の谷」(Valley of Reeds)と呼ぶ「グレイス」(Glaith)の海の上のこの地は、我々の周囲の者たちには「カーステフラン」(Carsteflan)として知られるが、「至高なる霊の鍛冶場」(Smithy of The Supreme Spirit)と呼ばれるであろう。

我々に約束された地の境界は、目印の標柱から3040組のペース(paces)注1にある上下の海である。目印の標柱の下の方には、1012組のペースである。その海とその区部では、そのより遠方の浅瀬の向こうまで魚を釣ったり、葦を集めたり、海藻類を切り取ったりする事が出来る。

その目印の標柱の陸側では、4090ペースの地点に「カルラネ」(Calraneh)によって真っ直ぐに置かれた石があり、そしてそこには「東方」(East)の境界がある。ここから外部の方面には、両側2500組のペースの位置に誰もが認識するであろう目印の石が配置されている。これらの石から海岸沿いの目印の標柱までの間が、「北方」(North)と「南方」(South)の境界である。

境界内では、土地は木々の繁茂から免れるものとし、そして放牧したり種子を蒔いたりするものとする。そしてそこに、我々の住居を構えるものとする。我々の周囲の森では、木材を集める事が出来、そこで豚を飼育し、そして我々は狩猟を行う事が出来る。

「人々の家」(The House of Men)は以前と同様に残るものとするが、我々は最早部分に分かれないものとする。そこでは人々は、過去に人々がその様であったような状態で扱われる。もしある人が妻子無く高齢に達していて、あるいは彼の代わりに家督を継いでいる息子がいるのであるならば、彼はもっぱら「人々の家」へと入ることが出来る。

如何なる者も、「家の支配人」(Houseruler)の裁量無しに、あるいはその者がそこに居るのが不可能である場合を除いて、自分の順番の時に「人々の家」を留守にすることは出来ないものとする。しかし、勤務していない全ての時間は、「家の支配人」の裁量によってそれが撤回されない限り、後に倍の時間勤務するものとする。

「人々の家」の外部の統治者は、評議会によって選定される者であるとし、その評議会は冬至前夜の一日前の正午に会合で共に選定される四人であるとする。統治者と評議会は、我々の間の全ての事を統治・審判するものとするが、彼らはこれらの命令を変更してはならず、それは我々の間に岩の如く屹立するものとする。我々は我々の暮らしをそれらの命令によって統治し、それらの命令を遵守し、そして後に続く者たちへそれらの命令を引き渡していく。これらは、「聖典」(Holy Writ)の言葉と共に、我々の間にある死すべき定めたる「真実の光」(Light of Truth)の為の蝋燭であり容器である。それらの言葉は、現在そしてこれより後、その光の中を歩む全ての者たちによって崇められるものとする。

それらの言葉は腐敗しないように作られた銅板に刻まれ、そして記録と共に神聖なる壺の中に入れられるものとする。更に、それらの言葉は我々の元に残り、木製の碑板上に書かれて我々の間にあるものとする。

我々は「ホスキア」(Hoskiah)の命令を維持するものとし、それとその罰を受け入れるものとする。もっとも罰は、男は鞭でそして女は革の集合物または木製の棒によって打擲されるように、評議会によって変更する事が出来る。我々には今や、我々と共に「アモス」(Amos)の法規命令があり、それらのみがホスキアの法規命令に先んじて有効なものであるとする。他の全ての法律はその番号付けの順序に応じて有効であるものとする。法律に相違するものがあるところでは、その一方はもう一方に反して決められないものとするが、最新のものが最高位に有効であるものとし、そしてそれ以外のものは従属的であるものとする。

「古い法」(Old Law)の法規命令は、書かれたものではないが、その維持が審判において慣習である時にのみ、維持されるものとする。

如何なる者にもこれらの土地の上にレンガや石の住居を建てさせてはならない。というのも、これは我々がその間に居住する人々に対して、非合法な事であるからである。

もしある法規命令が他のものに反して規定されているのであるならば、アモスとホスキアの法規命令の間にあるものを除いては、最後に書かれた法規命令が有効であるものとする。如何なる者にも自分の利益の為に他人の家畜上の焼印のマークを変更させてはならない。というのも、これは非合法的な事であるからである。もし為されるのであるならば、その不正は二倍の価額を返還する事によって調停されるものとし、そしてもし再び為されたのであるならば、三倍の価額を返還するものとする。

我々の間の如何なる者にも我々の兄弟分の方法以外のやり方で崇拝をさせてはならない。儀式に対しては、何も付け加えてはならないし、何も取り除いてはならない。我々の信仰は、恥じることなく、我々の全ての力をもって男らしく維持されるものとする。

貴方は危機が脅かす時に臆病であってはならないし、追い詰められた時に無関心であってはならない。我々の間の如何なる者も、我々の信仰が嘲られた時に物申さない様であってはならないし、その敵前において無抵抗であってはならない。もし誰かがこの事に臆病となりあるいはしくじるのであるならば、彼は我々の間に列せられてはならない。

人間たちの仕事は不完全であり、如何なる者であっても「真実の光」(Light of Truth)をその絶対的な純粋状態で見たことがある者はいない。それ故に、我々の書かれた記録の本文の中の二つの事が矛盾するように見える事があっても、より卓越した理解を通じてそれらの折り合いをつける事が出来ないにせよ、明らかな誤りを除き、より後に書かれた事の方がより無難な解釈であるものとする。誠実で、親切で、そして常識的な人間であれ。多数の人々の手を渡ったどのような物も、汚染から逃れる事が出来ない。誠実さや勤勉さのみがその純粋さを保つであろう。それでも、何かを確立したのであるならば、それをしっかりと維持せよ。この偽りの圏において、川の激流によって海へと押し流される人が丸太にしがみつくように、あらゆる真実にしがみつく事だ。

自分が行ったかもしれない事で捕らわれた者であって、まだ評議会の前に引き出されていないかまたは罰せられていない者は全て、水辺に閉じ込められておくものとする。人は罰として閉じ込められることが出来、そしてその獄舎は覆われるかまたは覆われないものとする。もし人が死ななければならないならば、その者は、我々の周囲の人々によって為されるように、綺麗な水かまたは汚れた水の中で死ぬことが出来る。審判においては、如何なる者も人を傷つけて殺してはならない。

もし自分の兄弟が死んでその妻が未保護の状態にあるならば、その者は自分の兄弟の妻を自分の世帯に迎え入れるものとする。どのような者でも、その血族または法的な親族の保護されていない者たちについては、その者の責任になるものとする。「天の君」(Lord of Heaven)は「天の女王」(Queen of Heaven)とつがったのであるから、「古い法」(Old Law)の元では兄と妹(または姉と弟)はお互いに禁じられてはいない。

男は欲望の目をもって自分の血族または法的な親族の誰かの裸を凝視してはならない。また、如何なる女も自分の裸を自分の夫以外の誰か男に晒してはならない。罰は火炙りまたは投獄のいずれかによって実施されることが出来る。

あらゆる男は、斧槌、弓、槍、剣、投げ槍または投石器を用いて戦いかつ自分の身を守る事を学ぶものとする。また全ての自分が管理する武器は鋭利にしておくものとする。

我々の間のあらゆる者は、書かれている事を理解する事によって、または記憶する事によって「聖典」(Holy Writ)の言葉を学ぶものとする。それらの言葉は、それらが銅板や木版に削り込まれるように、その者の心に切り込むものとする。

この記録は今日、「炎の子ら」(Sons of Fire)の文字ではなく、「聖なる文字」(Sacred Characters)にて書かれるものとする。最初から最後までの複写には、「五柱の赤神の人々」(People of the Five Red Gods)の文字、つまり「文書の長」(Master of Writing)によって見られた天の印の文字が用いられるものとする。

(多数の後続の章が紛失。)


脚注

注1:"pace(s)"は恐らく歩幅に基づく長さの単位であろう。ここでは「ペース」と音訳する。

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