第七章 聖なる記録 第七部

これがその方法であり、それによって「岩の洞穴」(Cavern of Stone)の中の居住地を通じて、地上の「切望する者たち」(Aspiring Ones)が恐ろしい地平線を渡ることが出来るのである。このようにして、人々は「西の地平線」(Western Horizon)の向こうの「栄光の王国」(Realms of Glory)に関する真実(Truth)を知るようになるのである。が、それは大変な危険と種々の恐怖が押し寄せてくる道であり、そして多くの者が正気を失って戻ってくるのである。

この「切望する者」は地上のものであり、彼は世俗に縛られている。彼は「再生と復活の大釜」(Cauldron of Rebirth and Regeneration)の前の洞穴の中に座し、解放する煎じ物から生じる煙を吸引する。彼は自分の肉体の上に浮かび上がり、5つの羽毛の羽根で飛翔する。その煎じ物の(材料の)名前は「秘密なる神秘の本」(Book of Secret Mysteries)の中に記録されており、そこには恐ろしい配合方法がある。その本の中には、彼は隼のように上昇することが出来、隼よりも別な風に飛翔することは出来ないと書かれている。彼は他の如何なる鳥のようにも飛翔することは出来ない。

彼は地上の生理的欲求から逃れ、その足枷は彼から外れる。その「切望する者」は、付き添いの者たちを置き去りにし、彼は彼らと共に在らず、彼は地上のものならず、かといって彼は天界的なるものでもない。彼はこれら二つの世界が遭遇し、混ざり合う場所に存在している。彼の肉体は霊なくして動き、広大なる幻影の酸味のある黄色いパンにあずかっている。その「切望する者」は、灰色の大麦の煎じ物を飲み、そしてハリッシュ(harish)注1のワインを長い時間かけて一口飲み、緑褐色のホリス(horris)注2のケーキを食べる。彼は解放の木の果実を食べ、煙るゴブレットの中にある黒キノコの煎じ物を飲む。このようにして、彼は眠り、付き添いの者たちは「再生の子宮」(Womb of Rebirth)と呼ばれる容器の中へ彼を横たえる。彼は「幻視の場」(Place of Visions)に在り、マストの先の鳥のような状態に留まる。

彼は覆いを被せられ、そして彼のもがきによって彼が起き上がらないようにされる。彼の声は奇妙な言葉を話すように聞こえるが、それは彼がずっと以前に他界していて、現在は「広大なる湖」(Wide Lake)の向こう側の事を管理している彼の先祖に頼るからである。彼はもう一つの光景(霊的な幻視)への戸口である眩惑の間(dazzling chamber)へと入るので、彼の肉体は静止状態となる。

さて、彼は、彼の通過を妨げる「乾燥した空気の壁」(Walls of Dry Air)を突破し、上なる虹色の「輝く雲」(Clouds of Radiance)へと上らなければならない。高みにおいて、彼は自分の下を見おろして「うねる経験の水路」(Winding Canal of Experience)の流れを見、そして彼に降りかかった全ての事の意味について理解する。今や彼は四つの目を持ち、それらは内なるそして外なる目であり、そしてより高く上昇して彼は広大なる意識の高みを獲得する。

ここで彼は「先導者」(Pathfinder)と出逢い、素早くその後に従う。彼はその「守護者」(Guardian)に適切に話しかける。彼は「境界地に潜むもの」(Lurker on the Threshold)の傍を通過する時、彼の目注3を覆い、そして彼は「道を開く者」(Opener of Ways)の住処へと到達するまで進み続ける。

さて、この「切望する者」の体はソワソワし、そして彼に付き添う者たちは彼の顔の上に「ホリ」(Hori)注4の力を据える。彼は「太陽神」(The Sungod)の声を聞き、その声が言うには、「私は必要な名前を知っている。私は「名を知る者」(Knower of Names)である。私は「無窮なる者」(The Limitless One)の名前を知っている。「東方と西方の君主たち」(The Lords of East and West)の上で、私は「最も力のある者」(One Most Powerful)である。」

この「切望する者」は湿気で覆われ、彼は身悶えし、叫び、奮闘する。「人付き合いの良い看護人」(The Companionable Watcher)は、彼が「太陽神」の保護から離れ、「暗黒の仲間たち」(Friends of Darkness)に捕らえられたことを知るが、彼は奮闘して彼らに打ち勝ち、そして事なきを得る。そして、その「切望する者」は復帰する。

百の輝く太陽が上空に旋回し、ささやきは雷鳴の如く轟き回り、多種多様なる色合いの光が、風を受ける川葦のように上空に揺れる。全てのものが煌めく陽炎のうちに踊るように見えるかと思うと、それらはひっくり返ってそのもの自体へと折り返す。そして、そのような美しさは人間の言葉ではそれを表現出来ないように生み出される。全てのものがそれ自体に煌めく形態を帯び、それを通じて他の形態を見ることが出来る。素晴らしい旋律の音楽が一面に脈打ち、一方、あらゆるものが柔らかい律動を刻む。空中には非地上的なる美しい声が満ち、栄光と光輝はここかしこに在る。そこで、その「切望する者」は目覚める。

彼は起き上がる。見よ、彼は栄光なる幻視によって眩惑させられている者のように現れて歩く。彼はよろめき、支え無しでは歩くことが出来ない。彼の喉はヒリヒリし、彼の口の中は一面に乾燥している。彼の頭には太鼓の音が反響している。忘却のカップに注がれたおいしい水が彼に与えられ、彼はそれを深々と飲み、全ての具合は良い。彼は「生まれ変わりし者」(Reborn One)であり、彼は「正しい知識のある者」(Enlightened One)である。彼は「岩の洞穴」から蘇りし者である。


脚注

注1:"harish"の正確な意味が不明である。小文字で始まる単語であるが人の名前かもしれないが、何らかの薬用植物の名前かもしれない。そのまま音訳して「ハリッシュ」としてある。

注2:"horris"の正確な意味が不明である。小文字で始まる単語であるが人の名前かもしれないが、何らかの薬用植物の名前かもしれない。そのまま音訳して「ホリス」としてある。

注3:原語は、"bis eyes"。これは"his eyes"であろう。

注4:"Hori"が何を指すのか、現代人の我々には分からない。そのまま音訳した。

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