第二章 聖なる記録 第二部

「ガルミ」(Garmi)の文書は、「炎の子ら」(Sons of Fire)がそこからやってきた双子の都市の「導師ナダイェス」(Nadayeth The Enlightener)の手によって、彼が王の憤怒から逃れた時にもたらされた。彼は、「教養ある者たち」(Learned Ones)の前に色とりどりの美しい物事を広め、彼らにそのようなやり方で話しかけた。そして、私、「ラヴォス」(Lavos)は、「炎の子ら」の言葉でそれを記録した。見よ、それは「夜明けの地」(Land of Dawning)である。その土地は常に輝かしい「光の地」(Land of Light)と常に薄暗い「暗黒の地」(Land of Darkness)の間に位置している。それらの地は帳の向こうの地であり、その帳のこちら側が「暮らしの地」(Land of Living)である。

「大志を抱きたる者」(The Aspiring One)は幻想の海に乗り出した。彼の船は海上にあるが、新しい生活の約束がかなう岸へはまだ到達してはいなかった。今、彼は二つの存在によって導かれている。一つは愛らしい乙女で、もう一つは不快な顔つきの男である。これら二者がお互いにせめぎ合い、各々が船の片側を掴むので、その船は直ちに転覆する。乙女は「大志を抱きたる者」を下方へ引きずり込もうとし、他方不快な顔つきの男はその者を浮かばせようとする。しかし、「大志を抱きたる者」は彼に対してもがく。彼らは輝く砂浜へと辿り着き、そこでは「真実の光」(Light of Truth)がその乙女をひどい顔つきの老婆へと変え、その男を美しい若者へと変える。その「大志を抱きたる者」は、一人の死者として「ショデュー」(Shodew)の砂の上に横たわる。というのも、彼は彼を救おうとした男に対抗して争ったからである。

「麗しき者」(The Beauteous One)が侍女を伴ってやって来る。そして、彼女らと共に「大志を抱きたる者」の地上生活の仲間が居る。そこにはまた、彼の魂の自己(soulself)もいて、彼の抱擁を待っている。「大志を抱きたる者」は死者として横たわっている。というのも、彼は彼の救済者を知らなかったからだ。「歓迎者」(The Welcomers)たる周囲に立つ者たちは、所在なげに待つ。「麗しき者」は体を折り曲げて横たわった者を上から覗き込んで言う。「生き返りなさい。ここは死が支配する場所ではありません。」彼は動いて、彼女は言った。「起き上がって、貴方の死の残渣を投げ捨てなさい。」

「大志を抱きたる者」は目を開いて上半身を起こし、美の光景を前にして自分の目を覆い、それによって目がくらみ、そして彼女は彼を元気づける。侍女たちは涙を流し、その涙は「大志を抱きたる者」の生命の血である。「麗しき者」は言う。「私は死者たる貴方が生きられるように、目がくらんだ貴方が見れるように、欺かれた貴方が「真実」(Truth)を知ることができるように、やって来たのです。」魂の自己は言う。「私は貴方を抱擁するために、貴方を保護するために、貴方をかくまうためにやって来たのです。私は貴方の頼みになる者です。」

コハール(Kohar)たるものが言う。「私は貴方の顔を輝かせるためにやって来ました。貴方が私であるように、私は貴方です。私は貴方を待っておりました。私は貴方の為に悲しみましたし、そして貴方が歓喜する時に私も歓喜しました。我々が離れている間、私は貴方を忘れたことがないのです。私は(貴方によって)話されたあらゆる言葉を聞き、それらは貴方の為に記録されています。私はあらゆる貴方が見た事物を記録しました。私はあらゆる貴方が聞いたことを記録しました。私はあらゆる貴方が嗅いだ匂い、味わった味を記録しました。あらゆる記憶は貴方のために確保されています。ここで、私は貴方に形質と実質を差し上げましょう。」

こちらは「使者」(The Herald)であり、彼はその男(大志を抱きたる者)とそのコハールの間に立ち、「調停人」(The Adjuster)や「歓迎者」(Welcomer)らと共に、「審判の間」(Hall of Judgement)まで行き、「生命の主」(Lord of Life)、「運命の主」(Master of Destinies)の前に立つ。そこで「より劣った神々」(The Lesser Gods)たる「永遠の主ら」(The Lords of Eternity)がやって来て、そして彼らは「光輝の門」(Gates of Splendour)へと入る。「清算人」(The Balancer)がその秘密の場所からやって来る。「暗黒への歓迎者」(The Greeter to Darkness)がその扉に立ち、「光輝への歓迎者」(The Greeter to Splendour)がその扉に立ち、彼らは互いに面していた。歓迎者たち、この男の地上生活の馬が合う仲間たちは周囲に立ち、彼らはそこ、「審判の間」にいる。

「清算人」は二つの流体風の揺れ動く円柱状のものをもたらし、それらをコハールのそれぞれの側へと立てる。そして、一方は「大志を抱きたる者」の形態をとるが、それは彼のすべての邪悪さと弱さを反映するので、その姿はひどい奇形となる。もう一方は明るく輝く。というのも、それは彼のすべての善良と霊的資質を反映するからである。その後、二つの円柱はコハールの中へ結合して戻され、「調停人」が正義と慈愛をもって調整する。その後、「大志を抱きたる者」は 注1 彼のコハールの中、彼の真の似姿の中で前へ立つが、それは彼の全ての肉体的な似姿と共に混ぜたものである

「大志を抱きたる者」は右手の扉へと引かれて行き、その扉を通過し、そして虹の道の上へと歩を進める。彼は、「歓迎者たち」、今や彼らの真の姿を彼に示している彼の地上生活の仲間たちに伴われている。彼らは歌い、彼らは踊り、彼らは歓喜し、更にこの再会の集いには多大なる喜びがある。「真実」の言葉が不動のものとなり、実現する。大昔の約束が実現する。この世を去る者は戻って来て、眠りにつく者は目を覚まし、死ぬものは生き返るであろう。「大志を抱きたる者」は「栄光の領域」(Regions of Glory)に及第して入ったのだ。

さて、生命の乗り物によって引き払われた死体を見よ。それは死の着衣の中で眠っている。というのも、活気を与える霊が立ち去ったからである。地上的なる肉体だけが留まり、それを全体として保持することは出来ない。それはバラバラになり、腐敗する準備をしている。「死者の仲間ら」(The Companions of the Dead)がそれを彼らの仲間に加え、それが腐敗しないようになされ、通信の扉とされるであろう。それにはきちんと死者に属する物事が与えられる。

地上に残る者たちは、彼らの前に現れる「生命の亡霊なる者」(Life Shadow of the One)を恐れる。死体はその死の包みで覆われる。それは清められ、きれいにされて、必要な物が与えられる。かくして、「生命の亡霊」(Life Shadow)は空の死体に平穏に住み、それはその死体が自分の棲み処であると信じるようになり、彷徨い出ることがないであろう。おお、亡霊よ、彷徨い出ることなかれ。その墳墓の中にとどまり、盗みに来る者、死体を損壊しようとする者、閉じられた場所を暴こうとする者を捕らえよ。捕らえて取り付け、捕らえて取り付け!

「死者の仲間たち」(Companions of the Dead)は次のように話す。「かつて在りしこの男の「生命の亡霊」は、決して休まることなく、決して彷徨うことなく、常に(死体を)保護しており、常に警戒している。それは(そこに)留まる。というのも、それは拘束する大群によってその空っぽの死体に縛り付けられているからである。」

彼らは言う。「この男の霊は「不死なる地」(Land of Immortality)において覚醒しており、「境界の向こうの地」(Land Beyond the Horizon)にて歓喜している。彼は「境界の英雄」(Hero of the Horizon)である。彼が死んでいると考えることによって彼を損なうことなかれ。彼は死ぬことは出来ない。というのも、彼は「絶えず生きるもの」(the Ever Living)と共に在るからである。彼は死へと消え失せたのではない。彼はどこかで生きるために立ち去ったのである。彼の死体の水分を、それがやって来た地上の水の流れの中へと帰せしめよ。彼の死体の中の固い部分を、それがそこからやって来たちりへと帰せしめよ。彼の骨を、それがかつてそうであったように、石へと再結合せしめよ。」

「泣くことなかれ。というのも、貴方の涙や悲嘆の声は彼の熱心な霊を抑止してしまうためだ。死の哀歌を歌われよ。その反響が「光の地」(Region of Light)にて警報注2を鳴らし、「光輝なる者ら」(Splendid Ones)や「歓迎者ら」(Welcomers)が約束の地へとやって来るように。悲嘆にくれる心を持つ者に喜びを強制するのは適切ではないが、一時的なる別れのためにだけ悲しむようにせよ。」

「かつて在りしこの男の地上的なる死体が、見捨てられたとしてはならない。関心と好意をもって取り囲まれよ。それが生命の実体を伝えることが出来る様に。それを維持せよ、「生命の亡霊」がその中に留まることが出来るように。」

「貴方は今何を見るのか?それを凝視せよ。その儚い死すべきものが包まれて沈黙し、応答がない。貴方の肉体の目、それは霊の事を認識することが出来ないが、その目をもって貴方が見るこれについて熟考せよ。たった短い時間だけ貴方の霊の目が開いたならば、貴方は何かすっかり異なった事を認識し、そして貴方は彼の輝く、不死の霊が、栄光へと高められた者たちの一団の中を歩いているのを知るであろう。」

「別離の時が、別れの時が、扉を閉める時がやってきた。」

「おお、死去したものは栄光へと高められ、悲しむ我々を置いて行った。我々が貴方に手を貸し、そして我々の愛と供え物の保護をもって貴方を囲んだように、これから、我々が地上で残されている人生の日々において我々に手を貸し給え。」


脚注

注1:この節に関係詞"which"がある。原文では"whicn"となっているが。

注2:原語は"toscin"。そのような単語は存在せず、前後の文脈から"tocsin"(警報)であろうと推察した。

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