第十四章 ヨヌアの巻物

我が目の前から去れ、おお、「醜悪なる者」(Hideous One)よ。「恐ろしい姿の者たち」(Fearsomely Formed Ones)の自ら歪んだ魂たちが住まう太陽なき真っ暗な住処の辺りの暗黒なる影へ、こそこそと去るが良い。お前たちのくすんだ融和性のある陰気なる安息の地へ戻れ。

去れ、視界から失せろ。というのも、お前のむかつくような様は、悪い考えや、私が出くわして打ち勝った誘惑の考えを、今や私は喜んで忘れた考えを私の心の中に再びもたらす。お前は卑しく絶望的な悪霊であり、不格好で、卑猥な考えで頭が満ち、隙間を嗅ぎまわり、手や脚は発達が阻害されていて、見るにも身の毛のよだつ。お前をそのように形作るのに、どんなに恐ろしい考えや不純な行いがお前のものとなってきたのであろうか!

去れ、お前自身の一族のもとへ引け。お前自身の愚かさには与えられない明るい楽しみの一瞥を求めて、お前がこそこそと、心配して、惨めに潜んでいる薄明りの境界領域から引け。お前がみじめな親和性を有する場所へ、お前自身の暗黒なる、引き寄せ合う仲間たちの元へ引け。

「隠されし門の守護者たち」(Guardians of the Hidden Gates)はお前を追い払う。かつて美と潔癖を見出すために苦闘していた「神々しい者たち」(Glorious Ones)の進路をお前が汚すといけないから。この場所の光は絶えず広がり、そして一人の「神々しい者」(Glorious One)はすぐにお前が今闇の中でこそこそ歩いている場所を歩んでいくだろう。下がれ、分け隔つ炎から下がれ。包み込む暗闇の悲しき慰めへと下がれ。お前の不潔で惨めな仲間の元へ下がれ。寛大に覆い隠す闇へと下がれ。

お前の運命は私の心を悲しませる。お前はそこで、安心させる暗闇の中で慰めを見出すことが出来るのか?優しい言葉がお前の日々の重荷を軽くすることがあるのか?ヘドロと排出物の内に休む場所があるのか?おお、「堕落せし者」(Fallen One)よ、かつて自惚れ、身勝手さ、傲慢さの内にかくも誇らしげに「地上」(Earth)を歩いていた者よ、退却せよ。お前の手の届かない所に存在する美と喜びの光景でこれ以上お前自身を苦しめるな。おお、「ヘドロの中をのたうち回る者」(Wriggler in the Slime)よ、清めの炎から下がれ。今何がお前の役に立つというのか?

おお、「不愉快なる者」(Repellent One)よ、悪事と良かざる行いは斯様にお前を呪い、腐敗と汚物の慰めにならない腕の中へと引き渡された者よ、「地上」(Earth)では斯様な人を欺く為の柔和さと自己満足の内に盛装して現れ、楽しみと贅沢さの内に住みし者よ、去れ、暗き影の中へと退け、「神々しい者たち」(Glorious Ones)の純粋なる注視からお前自身を隠すが良い。

おお、「のたうつ者」(Squirming One)よ、お前は引き返すのか、不面目な肉体は例え炎にさえ値しない。その醜い塊は、自制と無私の勤めの開花の形成によって彫刻されたのではなく、憐みや愛の性質によってかたどられたのではなく、誠実な善行の磨かれた開花への調和によって洗練されたのではないのだが、啓示される光の領域付近においてその場所を有しない。見よ、純粋なる光がお前の上に注がれる時、お前は苦痛に焦がされるのではないか?お前のその非常に恐ろしく陰鬱な住処においては、本当に惨めさがお前の取り分なのだ。

見よ、お前のヘドロの隠れ場所は純粋なギラギラと眩しい輝きから縮み上がり、分裂し、ヒビが入り、後退し、ヘドロの床を持つお前の暗黒なる洞穴へと後退する。見えない所に、聞こえない所に退け。純粋なる正義の注視から退け。気味の悪い薄暗がりによってのみ照らし出される非常に恐ろしい暗黒の深淵の中で、慰められる事無き楽しみを見出す者への割り当ては何と惨めなのであろうか。歪められた日陰者たちとの付き合いの内に住むのは何と恐ろしいことであろうか。

かつて「地上」(Earth)でお前が纏っていた愛らしさはどうなったのか?お前がそれを持ち帰らなかったのは誰の落ち度なのか?お前は、例え一瞬であれ、お前の中の己の本性を表す鏡の前でポーズを取って覗き込み、お前が作り出している恐ろしい化け物を見たことがあったのか?お前の楽しみや贅沢さの内に、内部の自己の幸福を考えたことは無かったのか?お前は気にしなかったのか?

おお、私がお前を今助けることさえ出来れば良かったのだが、おぞましさは死の(訳出不能語, "furaacefire")注1の中で確固としていた。その時には包んでいる肉体は剥ぎ取られ、そしてその型の中の隠れた恐怖が現れる。蝶が蛹から姿を現すように、魂もその地上的な肉体から現れるであろう。このように異常な事は決して意図されていたものではないが、お前は自由意志でそれを選択した。一つの美観を損なう顔立ちは他者によって作られた訳では無い。

唇の無い、魚の形をした口からガラガラ声で言うのはどんな言葉なのか?おお、耳よ、お前は私を欺いているのだと言ってくれ!おお、心よ、この酷い打撃の叫びを停めてくれ!おお、恐怖の手よ、お前の恐ろしい握る手を放してくれ!私が気を失っている間に安堵が見いだせるように、私は卒倒してしまえば良いのだが、事実は「地上」(Earth)の時と同様にここでも直面しなければならない。私は震える恐怖で見入らなければならない。

そうだ。私は(お前を)地上で愛した。恋仲である我が妹以上に、私にとって掛替えのないものは無かった。私は彼女の我儘を許したし、彼女の言葉に優しさが無い時に興奮することも無かった。私は常に冷静な気質の男であり続けた。私は彼女を満足いくように衣服を身に着けさせたし、彼女は美味しい食事に事欠いた事は無かった。私の心は彼女の存在を礼賛し、私は彼女の愛らしさを喜び、彼女は私の人生であり、妻であった。にもかかわらず、彼女は不実であり、彼女は邪険であり、彼女は欺瞞と堕落の内に喜びを見出した。時が過ぎるにつれ、彼女の強情なやり方によって、そういった事は激しくなり、暗い影を落とし、そして激烈となった。

おお、激しい不快感、おお、非常なる恐怖、おお、すくむような恐怖、私に近づくな!おお、わが目よ、おお、我が心よ、これは真実なのだ。それは私が愛した者なのだ。おお、意識が私から吹っ飛ぶことが出来るように、私をもう一度死なせて欲しい!それは私が愛した彼女、我が青年時代の光を見出すことを望み、後期の悪事の塗り重ねが死によって捨て去られることを望み、私がかつて持っていた温かく、ドキドキするような激しさを見出すことを望み、私が喜ばしい期待の内に待っていた彼女なのだ。私は、彼女が成熟する過程において引き起こした苦悩を喜んで許そう。おお、手入れの行き届いた肉体は、温かい触れ合いはどうなったのか?顔の美しさや姿形の優美さはどこへ行ったのか?おお、恐ろしい鼻や緑色の縁をした赤い筋のある目を隠すために、そのワニのような肌をした腕を上げないでくれ!

おお、激しく鼓動を打つ心臓よ、私はにじみ出る開口部から発せられるシューという音やゴボゴボいう音の中で歪められた言葉を聞く。おお、お前が我らが共有した地上的なもの以外何も気に掛けなかったからといって、お前の愛情が偽善による見せかけの態度であり、お前の愛は嘘であったからといって、私がそれ程盲目であり、大いに騙されていたと言わないでくれ。私はいつでも許さなかったであろうか?私はいつでも忍耐強くなかったであろうか?お前は、お前をこのように形作った恐ろしい考えや望みを誰と共有していたのか?きっと、これはお前自身の性質だけの帰結ではあるまい。お前は気まぐれで、快楽を好み、利己的で邪険であり、そして欺瞞的であった。しかし、それら全てを、我が心の嘆願によって私は許した。それだけでは十分ではなかったのか?おお、私が待ち受けていた伴侶はどこにいるのか?それは失われ、しかも失うよりも一層状況は悪いのだ。

おお、憐みよ、おお、慈悲よ、私の助けに来てくれ!我が心は自分を失望させ、私はそれ程楽しそうに迎えるべきと考えた事に直面することが出来ない。おお、気遣いの力よ、私を強くしたまえ。(「神」の)「法」(Law)を和らげる為に私は何が出来るであろうか?希望はあるのか?方法はあるのか?

慰めの囁きがあり。おお、私はありがたくそれを聞く。「希望も方法もある。が、この自己形成した恐ろしいものと「神々しい者たち」(Glorious Ones)の間には、渡ることが出来ない深い裂け目がある。悲哀と苦悶のうちに、この恐ろしいものは道を求めなければならない。貴方が光の中で自分の道を行くように、それは自分自身の暗き道を行かなければならない。引き返しなさい。再び光へ向き直りなさい。貴方自身の心の憐みは、もう一人の心の中で共鳴の火花を打たない限り、その間の深い割れ目を橋渡すために何の役にも立たない。」

「その記憶を消してしまうが良い。これは貴方の旅路の伴侶ではない。その試練と悲しみはとても良く負わされて、不平を言わない利他性は貴方を光輝のうちに形作った。彼女が今現在明らかにされているようにあのようでなかったならば、貴方は現在の完璧さの程度に達することは無かったであろう。この恐ろしい運命は、その道を踏み外した者だけによって為されたのである。というのも、各人は自分の魂の単独の管理人であるからである。それぞれの魂は、地上的な肉体の中に滞在する間に魂に触れるあらゆる思考、願望と行為、そして感情によって形作られる。」

「各人が自分自身の未来の製作者であり、自分自身の存在を形作る者である。」


脚注

注1:原語"furaacefire"は全く意味を解せない。訳出不能語として降参した。

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