第十一章 聖なる記録 第十一部

我が心、我が霊、我がコハール(Kohar)、我が記憶の守護者よ、私に不利なように秤の上にそなたの言葉を投げ出してくれるな。我が過失や欠点は少ないわけではない。というのも、死すべき定めたる如何なる人間も完璧ではないが、それらは私の性質や善行に対して軽めに注1のしかかるからである。私が故意にあるいは悪意を持って誰にでも悪を働いてきたと言ってくれるな。私が邪悪な人間であると言ってくれるな。私をして暗黒や闇の中で悲嘆に暮れて自責を忍ばせるのではなく、「光の領域」(Region of Light)の内にとこしえに生きさせよ。

私は善行を行ってきて、立派な人生を過ごしてきた。私は邪悪なるたぶらかしに打ち勝ってきたし、誘惑の罠を回避してきた。私は隣人と共に平和に生きてきた。私は彼らに対し正しく公平に対応してきたし、悪意の言葉を吐いて争いを扇動することもなかった。私は近隣の者たちの悪口を言わず、彼らの事に関する無駄話に加わることもなかった。こういった事は簡単なことではなく、そしてどんな人も完璧ではないので、私は時々挑発を受けて機嫌が悪くなることもあった。それ故に、私の欠点に反するように秤で重さを測ることが出来る言葉を話されよ。

私は如何なる人も中傷したことはないし、故意に痛みや苦しみを与えたこともない。私は未亡人に涙を流させた事は無いし、子供を理由もなく泣かせたこともない。私は私や他の人の使用人たちを正しく処遇したし、私は我が主に対して忠実であった。私は不法に人を殺した事はないし、如何なる者も故意に傷つけたことはない。しかし、どのような人も完璧ではなく、私の重責が私に重くのしかかっていた時は、私は荒々しい言葉を言った。それ故に、私の欠点に反するように秤で重さを測ることが出来る言葉を話されよ。

私は決して貧しい者を虐げた事はないし、自分の地位の力で彼の物を取り上げた事もない。私は決して弱い者や金属の中身で騙された者を虐げたことはない。私は空腹の女に、「私と寝なさい。そうすれば、貴方は食物を得ることが出来るでしょう。」と言ったことは決してない。というのも、これは下劣なことであるからである。私は他の人の妻と共に寝た事はないし、子供を唆したこともない。というのも、これらは忌まわしい事であるからである。しかし、如何なる人も完璧ではなく、ある日には正しい事が、他の日には間違った事となる。それ故に、秤においてこれらの事を軽くすることが出来る言葉を話されよ。

私は決して他者がその正確な量目を奪われてしまうように彼の水を腐らせなかった。私は所与の流路にある水の流れを止めなかった。私は家畜に飼料をやらなかったり、牧草地がほったらかしとなることを許さなかった。私は理由もなく子供たちに恐怖を抱かせることもなく、機嫌が悪い時に子供を叩いたりすることはなかった。私は王の定めた法を犯すことはなかった。しかし、如何なる人間も完璧ではなく、時にはその日には正しかった事が他の日には悪となることがある。それ故に、私の違反行為に反するように秤で重さを計ることが出来る言葉を話されよ。

私は盗みを働いたことはないし、誰の所有物も詐欺によってだまし取ったことはない。私は誰の家庭もその仲を裂いたことはないし、あるいはその世帯主をその妻や子供から引き離したとこもない。私は無知のために誰とも争ったことはない。私は自分の責務から離れたり、自分の義務を遂行し損ねたことはない。私は自分の間違いを隠したり、失敗を覆い隠したりしたことはない。しかし、如何なる人間も完璧ではない。それ故に、私の為に秤で重さを計ることが出来る言葉を話されよ。

私は神聖なる場所で騒がしく振舞ったことはないし、そこを汚したこともない。私の手は、自分の官職故に何か物品などを要求したことはないし、嘆願のために私に会いに来る者たちに対し横柄に対応したことはない。私は偽りの言葉や著作によって自分の地位を高めていった訳ではない。しかし、私の重責は人間たちの強情さやわがままの為に増大してきたし、そして如何なる人間も完璧ではない。それ故に、私の弱点に反するように秤で重さを計ることが出来る言葉を話されよ。

私は自分の心を蝕む妬みも心を汚す悪意も認めてこなかった。私は声が大きかった訳ではないし、また自慢話をして来た訳ではなかった。私は他者の悪口を言ったことはないし、虚偽の言葉を口にした事もなかった。私の口は我が心の統制から決して逃れることはなかった。私は、自分の理解を越えているからといって、他者の言葉を嘲笑うことはなかったし、また啓蒙の言葉に対し耳をふさぐ事もなかった。私は、悪意を持ったものであろうと思われる場合以外は、身を隠して他の人を観察したり、他の人の秘密の計画や行為を暴露する事など決してなかった。しかし、如何なる人間も完璧ではない。それ故に、私の為に秤で重さを計ることが出来る言葉を話されよ。私は間違った事をした時、自分に対して甚だしく目盛りを下の方へと調整した。私は自分の弱点や欠点を闇に隠すことはせず、白日の下で誠実なる補償にてそれらを洗い流した。

私は猥褻な事物の誘惑に屈服しなかったし、私の口がプライベートなものとしておくべき密かな事を話す事はなかった。私は裸を盗み見することはなかったし、他者のプライバシーについて詮索することもなかった。私は女性のしとやかさや子供らしい無垢な優美さに対し敬意を払っていた。しかし、人間というものはあるがままであって不完全であり、同時にその思考は故意に道を逸れて抑止するのは簡単なことではない。それ故に、私の為に秤で重さを計ることが出来る言葉を話されよ。

おお、「偉大なる者」(Great One)よ、私を護り給え。おお、コハールよ、私を救い給え。我が心の言葉を聞き給え。私は、何が正しくて何が悪かったのかを常に留意して来た者でした。私は自分が正しいと考えた事を行って、自分が悪いと考えた事を避けてきた。私は自分よりも賢い人たちに耳を傾け、私よりも低い権利を持つ人たちを助けてきた。人はこれ以上のことが出来ましょうか?


脚注

注1:原語は"hghtly"。そのような英語は存在せず、恐らく誤記であろう。前後の文脈から、"lightly"(軽めに)と訳出した。

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