第一章 聖なる記録 第一部

ここに、決して書き下すべきではない聖なる事物が記録されているが、人間の記憶は藁で出来た倉庫あるいは砂に掘った貯蔵室の如きである。より一層持ちこたえられないのは人間の肉体である。というのも、それは朝の露の如く消えゆく束の間の物質のはかないものだからである。そして、知識にて世代を繋ぐこの世的なる鎖についてはどうなのか?見よ、それは歪曲されがちなものであり、伝統と「真実」(Truth)を変質させるものである。

それ故に、「知恵によって栄光を与えられたる偉大なる者」(Great One Illuminated With Wisdom)から命令が発令され、貴方のしもべの元へとやって来た時、彼は不安により発生した不信を鎮め、かつて行われたことがなかったことを引き受け、彼は「高貴なる居所」(Royal Residence)から発する言葉によって広げられる保護する翼に完全にその信頼を置くのが適当であると考えた。

次の事は「偉大なる解釈者」(Great Interpreter)によって話された言葉であり、その者は、天から彼によって、そして今現在彼が持つところの力によって継承された力を通じて、身分の低い者たちの感謝に満ちた心によって、全てが意のままに彼に与えられたのであるが、我々を「永久不変なる光輝の場」(Fields Of Everlasting Glory)へと導くであろう。

おお、「高められし者」(Exalted One)よ、神々と人間たちの間をとりなす者よ、貴方は、我らが貴方のために今行うことを我々に行う。貴方の行いや貴方の言葉が我々の言葉となるように。かくして、死すべき定めたる存在がこの悲哀の谷を通じて巡礼の旅を行う間、それは常に存在してきたし、常に存在し続けるであろう。

貴方の時代に、次のように語りなさい。「高貴なる生まれの者」(High Born One)は「神聖なる力」(Divine Power)を冒涜してこなかったし、地上的な望みに対して不相応な敬意を払っても来なかった。彼は「聖なる場所」(Sacred Places)において口数が多かったわけではないし、厳粛であるべき時に笑うこともなかった。彼の言葉は純粋であった。というのも、人間たちの言葉が与えられると、彼は「真実」(Truth)を吸い上げて、偽りを排出したからである。彼の口は決して悪意や妬みの言葉を吐き出すことはなかったし、弾圧する言葉や不正な言葉は決して彼の唇を通過することがなかった。

今、深淵なる暗き水鏡を観察し、時間の回廊に沿って渦巻く霧からそこに何が反映されているかを見よ。自分の場所を見て、「暗黒なる者」(Dark One)からの召喚が来る時に、準備も出来ていないで捉えられることがないように、準備を整えよ。

次の事は「暗黒の入り口」(Dark Portal)の向こうから凝視する者たちに対して話される言葉である。彼の 注1 腕は、他者に対して善行を行った者たちを助けるために常に準備出来ていたし、そして彼は良い事を命ずる者たちに対してその力を与えた。彼はもはや立つことが出来ない者たちに味方し、もはや命令することが出来ない者たちのために命令した。彼は疲れ果てた者を支え、無力な者を救った。彼は決して弱者を虐げたことはなかったし、不正が罰せられず、そして矯正されずにあることを決して許すこともなかった。

彼は「偉大なる陶工」(Great Potter)の横に立ち、そして彼の嘆願によって、クレーはより愛想のある形に形成された。彼は価値を傷つける欠点を消し去り、ざらざらした表面を滑らかにした。彼はその混合物に硬さを付け加えた。

彼は全く悪事を為して来ず、彼の言葉は常に真実であった。彼は双子の社の前に、恥じることなく、そして恐れることなく立った。「大河の地」(the Land of the Great River)にあった如きであるので、ここにおいてもそのようにあれ。彼が隔たりによって妨げられることがないようにせよ。彼の力が妨げられることがないようにせよ。彼の力を、流水が生き物にするように流れ出て、「燦然たる者ら」(Radiant Ones)へ向かう輝く光線の如くせよ。というのも、ここでは、我々はその力がぼんやりとしか分からないが、一方地平線の向こうでは、その力は明るく輝くのである。

彼は永久不変に心の中で誠実である。というのも、彼の名声を傷つけようとした他の如何なる者をも許したからである。彼は聖なる言葉に忠実であり続け、熱心に偉大なる著作を追い求めた。彼は蛇行する流れの浅瀬の進路を進んできた。今、彼は近づいている。

彼はその試練の王国を去った。彼は人生の挑戦を乗り越え、彼は「真実」(Truth)の銘板上に記された全ての事を為してきたし、「深淵なる静寂の間」(Chamber of Profound Silence)に一時逗留してきた。彼は全ての正しい事を為し、彼が正しい道を辿ったことが保証されてきた。彼は裁きを恐れることはない。

彼が生命の流れから分離されるであろうことがないように、彼を送り出した者たる「至高なる者」(The Supreme One)と彼を再結合させよ。彼が「寒気の場所」(Place of Coldness)を通過するときに、「聖なる熱」(Holy Heat)に彼を包みこませよ。彼が生き、そして我々が彼の存在に預かることが出来るように、彼の鼻腔に滋養の息を吸い込ませよ。

彼を拒絶してはならず、彼を歓迎せよ。貴方は、自分が力を与えた者を認めないのか?彼はあまりにも輝く存在となってしまったのか?彼の形態は神々し過ぎるのか?彼の心の書に書かれていることを読むがよい。貴方は彼を暗闇に置き、そして彼は見た。貴方は彼を静寂に置き、そして彼は聞いた。貴方は彼を空虚に置き、そして彼は感じた。貴方は彼を虚無に定住させ、そして彼は実質を集めた。それ故に、彼は多くの力を身に着けて戻って来た。彼は「至高なる者」(The Supreme One)の前に立つ者たちに差し出されるのに十分適している。

上なる日中の空にまばゆく明るい太陽が輝く時、柔らかな朝の星はしとやかにその顔を隠し、そして見えなくなる。光を放つ常夜灯たちの卓越したすべての一団は、より際立った光の威厳の前に引き下がる。にもかかわらず暗闇がその輝く円盤を飲み込む時には、我々は永遠なる星々の慰みとなる存在を再び知る。なので、それを貴方のしもべとせよ。

自分たちに親和性のある闇に住む「暗黒なる者ら」(The Dark Ones)は、彼を自分たちの仲間の一人であると要求することは出来ず、彼が彼らの恐ろしい仲間の内に数えられることは出来ない。彼の心は純粋であり、彼の行いは善良であり、暗黒の内に生じた如何なる者も彼の思考を支配したことはない。彼の願望が暗黒の居住者によってもたらされてきたことはない。

ここで苦しめられていた彼は永遠に苦しめられるのではなく、彼は完全なものとなされ、彼は苦悩から解放され、彼の病気は立ち去った。彼は光の内で歓喜し、それ故に貴方がいるより偉大なる光へ向かって彼を引きよせよ。彼に暗黒の場所を見せず、邪悪さによって形作られた「醜悪なる者ら」(Hideous Ones)、光の前で委縮する「暗黒の奥底の中の居住者」(Dwellers in the Dark Recesses)、あるいは淫らな願望によってかたどられる「身もだえする者ら」(Twisted Ones)を彼に見せてはならない。

彼は彼と共に「真実」(Truth)の炎から灯されるランプを伴っていて、彼は艱苦に打ち勝った者たちに報いる正義の杖を携えている。おお、彼が分離の炎の正しい側を通らせ給え!彼は我々のもとを去り、彼は貴方のところへと向かっており、彼は近づき、彼は地上的なおおいを振り払い、彼は自由な立場となり、彼は神々しくあります。彼は光輝と共に燃え立っていませんか?貴方の価値ある輝かしい仲間である彼を見よ。彼は貴方の仲間の者たちと完全に相性が良いのではありませんか?見よ、彼は「輝く者」(Shining One)、「地平圏の勇士」(Hero of the Horizon)である。彼は永遠に留まることを運命付けられた者ではないのか?彼を連れて、彼を「栄光の王国」(Realm of Glory)へと導き、彼に「光輝なる圏」(Spheres of Splendour)の中の彼の場所を見せられよ。

地上では欺かれていた目は今やはっきりと見える。おお、何という光輝が示されたことであろう!地上的な耳では聞こえなかった音楽が今や甘美で旋律的な音楽を響かせている。おお、何という喜ばしい恍惚をそれはもたらすことか!鼻腔は地上的な鼻には繊細過ぎる香を吸い込む。おお、どのように心が歌うことか!全ての生気のなさ、全ての鈍さ、そして全てのみすぼらしさ、そういったものは地上のものであるが、それらは置き去りとなっている。これらのものが彼の周りに再び集まりうる場所から彼を離れさせよ。

動くことなき空っぽの死体は我々の目の前でここに残り、それは何物でもなく、何も見ることなく、聞くこともなく、話すこともなく、匂いを感じることもなく、その息は止まり、バラバラに分解され始めている。そこには生命は無く、その監督者は立ち去った。我々と共に、この無応答な物質を除いて、ここには何も残らない。偉大さ、感覚、感性はその死体から立ち去り、今や我々の目の届かない所に存在する。こういったものは、真に生き残っている存在と共にある。おお、彼を光輝なる生命へと受け入れたまえ!ここに居る我々は、肉のベールの背後に盲な状態で立っていて、我々は我々自身を超越したものを見ることは出来ず、我々は願い、信じ、そして信頼する。かくして、このようなことが常に人間たちと共に存在してきた。というのも、彼らは自分たちの生命を限界の壁の向こう側へと通過させ、そこには彼らが入ってくるのを締め出す障壁があるからだ。彼らは死すべき定めたる肉体の中に閉じ込められている。おお、我々に達成感を与え給え。我々に究極の望み、そして人間たちの大志であるものを与え給え!

我々はその男について物語る。彼は遠方から我々と共にやって来た者である。彼は長い疲労を伴う道を旅してきた者である。如何なる卑しさの汚名も彼の霊の純粋さを汚さず、如何なる欺瞞の腐敗も彼の魂自身の外被を変色させることはなかった。彼は燦然たる光輝にて輝きつつ遠くへ発って行ったので、その暗黒の中で破滅させられた者どもさえ、彼らが彼の遠く離れている照り輝きを目にすると、希望を持つことができるのである。それが彼らのぞっとする冷気の中にいくらかの小さな温かみを与えますように!

おお、偉大なる歓迎者よ、新参者を迎える者よ、我々の立ち去った者を助けられよ。彼はこの試練と艱苦の場において適切に尽力しており、彼が報いられないことがないように。彼は希望の息子である。我々のように、そして我々の前をやって来た者たちのように、彼は人間たちが絶えず望んできたように望んだ。というのも、ここは確信の場ではないからである。もしそうであったならば、我々の栄光なる遺産は不当に得られたことであろう。

彼は生きることを定められている故に、彼は生きる。というのも、全ての人間たちは永遠に生きるからである。彼らは死なず、彼らは消え去ることなく、彼らは時代を通じて耐え抜く。彼の「コハール」(Kohar) 注2 が彼を待ち受けており、そして必要性によって崇高なる外観が恥じ入って隠されることはない。彼の顔を挨拶で輝かせよ。さすらい人よ、よくぞ戻られた。

この墓標たる構造物は最終的なる場所ではない。土壌が種子の目的地ではない以上に、墓場はこの世的なる生命の目的地ではない。種子は地面の中で死ぬであろうか?種子は土と混ざって失われることを意図して植えられるであろうか?

おお、「偉大なる歓迎者」(Great Welcomer)よ、貴方が帰郷するさすらい人を迎え入れる時に、貴方の顔を喜びで輝かされよ。彼がその中に入り、その抱擁を楽しむことができるように、彼の承継物であるそのコハールへと彼を導かれよ。彼のコハールへの吸収によって、彼に完成と達成を見出させられよ。

我々の地上を去りし者は、完全なるものより出てくる完全なる一部分であり、彼はその完全なるものへと還る。何も失われることは無く、何も消え去ることはない。彼は向こう側で生き、彼がずっと生きてきた以上に完全に生きるのである。彼は光輝に包まれて生き、彼は美のうちに生き、彼は知識を持って生き、そして彼は生命の水の中で生きる。彼は永久不滅である。

おお、栄光へと昇った地上を去りたる者よ、貴方は今や、貴方の霊全体、気さくなるコハール、永遠なるものと結合した自由なる霊である。よみがえって「地平線の向こうの地」(Land Beyond the Horizon)にて生き、「夜明けの地」(Land of Dawning)へと旅せよ。貴方と共に行く星々は喜びの歌を歌い、一方、天上的なるしるしは、賞賛と喜びの賛歌を発する。貴方は我々よりも遠くに転居した訳では無い。まるで我々はカーテンによって仕切られた一つの部屋にいるようなものであり、それ故に我々は悲嘆に暮れることは無い。もし我々が嘆くとすれば、それは我々が喜びを共有出来ず、また我々は最早貴方との肌の接触を知ることが出来ない為である。

おお、永久不滅なるコハールよ、この善良なる男をそなたの永遠なる抱擁の中へと取り入れ給え。そなたの生命が彼の生命となり、そなたの息が彼の息とならしめよ。彼はそなた自身であり、彼は満ち溢れた水差しへと戻る水滴であり、木へと戻る葉であり、そなたは彼の肉体人生の貯蔵所である。そなたがそこで生育したように、彼もまたここで生育したのであり、そなたは永久不変に完全であり、そして彼はそなたの内に生きる。もし彼の顔つきがまさにそなたの様で無いとしても、彼の落ち度に目をつぶられよ。というのも、それらはそれほど多くはないのだから。このためにそなたは形作られ、このためにそなたは存在に至ったのであり、そなたは戻ってくる霊を待つ肉体を超越したもの注3であり、そしてその霊がいまやってきたのである。そなたは新たに到着した霊に天上的なる肉体を着せるであろうところのものである。そなたは我々の地上を去りしものが彼自身を表現するところのものである。

おお、コハールよ、我々の言葉を聞かれよ。ここにそなたに生気を与える存在がある。以前はそなたは不完全であったが、今やそなたは完全である。そなた自身を、そなたと融和するものをそなたへと引き寄せ、そして多くの類似点を認めよ。そなたの周囲に立ち広がるように、我々は香気を送ろう。さあ、そなたの顔を完成させるであろう目を取られよ。それは完成させる目であり、物事をありのままに見る目である。その揺れ動く生霊を見られよ、それは美しくはあるまいか?それは香り立つ霊気を、空気を満たす甘美さを伴ってこないであろうか?そこからはすべての不純なるものが取り除かれ、その周囲はすべて香り立っている。それ故に、それをそなたの実体として認め、均質で確固たるものとなることが出来る様にせよ。

おお、コハールよ、そなたは長い間、成就の日を、そなたの運命の日を待って来た。その日はここにあり、今がその日である。それ故に、そなた自身である霊を取り、そなたの翼で包み込まれよ。各々が彼自身のものへ、そして彼自身のものへ各々が来る。そなたと彼は切断することが出来ない結合によって共に結ばれ、各々がそのもう一方無しでは無価値である。さあ、彼を支えよ、というのも、その環境においてのみ、そなたは生成させるものとして、彼よりも偉大なのである。彼がその子宮で休んでいる間に、そのたは活動的であり、彼が成長すると、そなたも彼の前で成長した。もし彼が悪いことを為したならば、そもそも人間たちの間で誰が罪なき者であろうか、そなたの中でその過ちを調停させられよ。そなたは彼の希望であり、そなたは彼の盾であり、そなたは彼の隠れ処である。

次の事を我々は「光り輝きたる者」(Brilliant One)、「善良の守護者」(Guardian of Goodness)に対して申し上げる。この地上を去りたる者は、無知と共に歩んできた訳ではなく、彼は自分の責任たる重い荷物を運ぶのに怠惰であった訳ではない。彼は肉体の情欲によって支配されてきた訳では無く、彼は他者の家を荒らしてきた訳では無く、彼は過度の悲しみを引き起こしてきた訳でもなく、彼は楽しみの為に子供を虐待して来た訳でもない。

彼は貧しく弱い者たちを救い、彼は良い事をすべて行ってきた。それ故に、彼が「暗黒に潜む者たち」(Those Who Lurk in Darkness)の誰にも捕らわれることがありませんように。彼の放つ光は強く、彼を捕らえようとする者たちはその光によって撃退され、こそこそと逃げていく。彼は生き、彼は永遠に生きる。

彼は立派に生きて来て、彼は地上生活の炎によって清められて来た。彼は苦しい試練の炉の中で精製されてきて、彼は全ての地上的なる誘惑に打ち勝って来た。彼は善良を強める人生を生きて来て、彼は光の生命の為に自分自身を調えて来た。彼を受け入れられよ、おお、「光り輝きたる者」(Brilliant One)よ!

おお、コハールよ、この生命の躍動をそなた自身へと吸収されよ。それはそなた用であり、そなたのものである。それは二つの世界に渡る活気を添える霊である。彼、この世を去りし者は、そなたであったし、そなたが彼であったのであるならば、より一層そうなのである。「うっとりする程美しいもの」(Beauteous One)が「ベルシス」(Belusis)、偉大なる王のもとへとやって来て、思いやりと愛で王を引き寄せた様に、彼のもとへやって来られよ。来たれ、彼がそなたの腕の中で新しい生命へと覚醒することが出来るように。

この男、地上を去りたる者は、そなたと一つとなることにより「壮麗なる者」(Glorious One)となるが、神の家に生まれ、より偉大なる人間たちの性質に従った二人の神々の子である。今やそなたはそなたの為に地上の試練によって調えられた、活力のある彼の霊を抱え込んでいる。見よ、結合の元、そなたの分身は今や生命の鼓動を打ち、そなたの輝きがその目を眩惑させている。そなたは今や「生命の星」(Star of Life)、「生きたる星」(Living Star)であり、そなたは星まで立ち昇ってその生命を従えるであろう。

この地上を去りたる者は、今や自由であり、彼は幻影の束縛から解き放たれ、彼は非現実の陰鬱なる流れから救い出され、「永遠なる光」(Eternal Light)と共にある者である。次の事を我々は断言し、そうならしめよ。我々の思考は現在の実在の向こうに新しい実在を形作り、そしてそれが明日の現実となるのである。

おお注4、偉大なる実在するコハールよ、信仰深い心が遠くからの我々の先祖たちのはかりの前で常に打ち勝っている事を念頭に置き、この地上を去りたる者、そなた自身のものを、見せかけの存在の非難から保護されよ。彼の口の中に扉を開く言葉を与えよ。彼の中の善良さが打ち勝ち、そなたが、そなた自身が立ち上がって彼の為に証言されよ。彼は人間の脆さに苦しんできた。彼は挑発された時は激怒し、大きな重荷に耐える時は不機嫌となった。彼の言葉を受け入れなかった時や、彼のやり方に従わなかった時は、彼の癇癪は直ちに突発し、彼は時には思慮に欠ける事があった。しかしながら、こういった事は、死すべき定めたる人間の弱さとは不可分の小さな事であり、全てのより大切な事においては、彼は善良であった。彼の兄弟に扮した見せかけの者が彼を捕らえる事が無きよう、暗黒のこちら側で影の中に潜む存在から彼を保護し給え。

兄弟たちよ、私は次の事を知っている。見よ、地上を去りたる者は、彼自身の姿に会いに行く。それは、彼の姿の中に反映している彼自身の自己である。それは彼を歓迎するようになる彼自身の自己である。それは、彼を包み込む彼のコハールである。それは、彼が捕らわれの身から解放された者であるかのように、彼を歓迎する。彼らが混じり合い、そして彼がそのコハールの奥深いところで新しい種となるのを、私は知っている。

私はコハールが話すのを聞き、それはそれ自身を「ネバコハール」(Nevakohar)という名で呼んだ。「おお、やさしい言葉の、物静かな話しぶりの、善良を行う、純粋なる思考の人よ、私の元へ来なさい。私は貴方の本質であるが、私は貴方そのものではない。貴方が私を愛し、大切に育てたように、今私は貴方を愛し、大切に育てよう。私は、貴方の苦悩であり続けたであろうが如く、貴方の報酬である。」彼らは今や結合し、そしてこれが、そこから「完成したる存在」(Completed Beings)が旅立つところの、最初の入口の場所である。

地上を去りたる者は今や、彼自身の形と外観で立っている。彼は「巨大な船で運ばれる航海者」(Great Ship-Borne Voyager)となり、海を通り過ぎて「葦の地」(Place of Reeds)へと赴くが、彼の弱さは彼を引きずり下ろすことはなく、彼は通り抜けていく。

「偉大なる者たち」(Great Ones)が彼を引き上げ、彼が悪臭を放つ腐敗の海へと落ちないようにする。彼は立派な「ルース」(Lewth)の一人の子である。そして、そのより劣りたる者は、そのより偉大なる者たちによって運ばれ、一方「暗黒なる者たち」(Dark Ones)は彼らの惨めな様から上を見上げて凝視し、彼が上へと運ばれていくかを見て静かに待っている。その「壮麗なる者」(Glorious One)は安らかに通り過ぎていく。というのも、彼は「暗黒なる者たち」の仲間とは似つかわしくないからだ。彼は煩わされることがない。というのも、炎が悪臭を放つ者どもの手を混乱させるからである。

解き放たれた「暗黒なる者」がやって来て、この男を捕まえていくつもりだと言ったが、光明によってはねつけられた。それは損なわれた卑しいものである。というのも、それは、美しい形に入っているとしても、地上では欲望にどっぷりと浸かった肉体を纏っているからである。この男の心は軟弱ではない。今の彼を見よ、彼は「光輝なる存在たち」(Beings of Glory)の間で彼が歓迎されることを確信しているのではないか?彼は野性の雄牛、獣群の王の如きであり、彼は「永久不変なる霊たち」(Everlasting Spirits)の間で「偉大なる者」(Great One)の一人なのである。

彼は、「輝ける存在」(Bright Being)が彼を迎える堅固な地面へと到着し、彼は「新参者」(The Newcomer)と名付けられる。彼は岸へと着地し、そして「光輝の階段」(Steps of Splendour)を昇った。彼は「輝ける霊たち」(Shining Spirits)の一行のうちに在り、彼の地上生活の仲間たちが彼を迎えて歓迎して言う。「この美と光輝の全ては、貴方が楽しむべきものです。」彼らは美の外套、光輝のまばゆい衣装を持ってきた。

彼は「審判の間」(Hall of Judgement)を通り過ぎた。「双子の真実ら」(The Twin Truths)は彼の答弁を聞き、そして証言した者たちは立ち去った。彼は川の流れを横切り、階段を昇り、次に彼は不死の境を得、恍惚のうちにあった。彼は暗黒と陰影の領域の傍を通り過ぎ、そして至福と共に在った。彼は光輝の真の形にて永久不滅なる生命注5へと到達し、彼のコハールの中で生きた霊としてとこしえに住む。コハールと結合し一つとなることは、なんと素晴らしいことであろうか!

その新参者は海の向こう側にある「決断の場」(Place of Decision)へと見返し、そして彼は前を向き不死の境へと階段を昇る。彼はその真の姿に在るが、彼はコハールの中の霊である。彼は話しをするが、それは人間の言葉ではなく、全てが彼の言うことを理解する。彼の聴力は包括的である。彼は「光」(Light)の力と「暗黒」(Darkness)の力の両方を見るが、「暗黒の力」はもはや彼に影響を及ぼすことはない。

この新参者は、彼と相性の良い住処へと到達した。彼は死すべき定めたる人生という戦いを一戦交え、至高へと上昇して勝利を得た。彼は、肉体的な情念である「荒れ狂うものたち」(Raging Ones)によって負かされる事はなかった。前へと進む一歩一歩において、彼は生命なき形を断ち、各歩みにおいて彼は影と戦い、各歩みにおいて彼は剣戟の響きに勝ったのである。

この新参者は「二つの背後に隠された一つ」(One Hidden Behind the Two)と、それらの前に存在する「三つ」(Three)を追及して発見した。彼は、人間たちの目から他のものを隠す「九つ」(Nine)の秘密を知っている。まだ地上に生きている正しい知識を持つ者たちがやらなければならないにも関わらず、彼は生命の秘密の混乱を解き明かした。

その新参者には、何の苦しみや傷も無く、彼は苦痛を感じる筈もなく、また悲嘆にくれる筈もない。もし、彼の地上の旅における仲間の一人が「暗黒なる者たち」(Dark Ones)に列せられるならば、彼の心は忘却と共に和らげられる。しかし後に、彼は思い起こし、そして彼の奮闘によって、その「暗黒なる者」(Dark One)は厳しい試練へと追い戻されるであろう。


脚注

注1:この「彼の」(his)は文脈から判断して、「高められし者」(Exalted One)を、そしておそらく同義な「高貴なる生まれの者」(High Born One)を指しているのであろう。

注2:読み進めていくと、「コハール」(Kohar)は人間の過去の地上における人生の全てを記録した一種の媒体のようなものらしい。人間の霊は死後に自分専用のコハールへ取り込まれるようだ。

注3:原語は"overbody"。ここではコハールを指しているのであり、「肉体を超越したもの」と訳出しておいた。

注4:原語は"0"、つまり数字のゼロである。しかし、文脈からして、これは"O"(おお)と訳出すべきであろう。

注5:原語は"hfe"。もちろんこれは"life"の誤植であろう。

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