第五章 「破壊者」(The Destroyer) 第三部 アデファ(Adepha)の巻物より

「破滅の姿」(the Doomshape)は、エジプトでは「破壊者」(the Destroyer)と呼ばれるが、全ての国の居場所で見出された。その色合いは明るい火炎であり、その様子は変幻自在で定まることが無かった。それは螺旋の様にそれ自身がねじれており、水底から供給される池の泡のようであり、そして全ての人たちが同意するのは、それは最も恐ろしい光景であったという事である。それは大彗星でも流星でもなく、より輝く火炎の塊のようなものであった。

天におけるその動きは非常に遅く、その下では煙の様に渦を巻き、そしてそれは、それがその顔を隠している太陽に近接して滞留した。その周囲には血のような赤みがあり、その道に沿って通過していくにつれてその色が変化した。それは、その「出」と「没」において死と破滅を引き起こした。それは「地上」(Earth)を灰色の灰の雨で洗い流し、そして多くの疫病、飢餓、そしてその他の害悪を引き起こした。それはただれで斑になるまで人間たちや獣たちの皮膚に噛み付いた。

「地上」(Earth)は乱され震えた。丘や山は揺り動かされた。煙が充満した漆黒の「天上」(Heavens)は「地上」(Earth)へとのしかかり、そして大きな風のうなり音が人々の耳へやって来て、風の翼の上に乗って人々の元へと運ばれた。それは「暗黒卿」(Dark Lord)、「恐怖の主」(Master of Dread)の叫びであった。火炎の煙の厚い雲が彼の前を通過し、そして熱い石と炎に包まれた石炭の恐ろしい雨が降ってきた。「破滅の姿」(the Doomshape)は「天上」(Heavens)を鋭く轟かせ、そして眩い電を打ち放った。水路は地面が傾いた時自分自身へと押し戻され、そして大木は放り投げられて小枝の様にポキッと折れた。それから、一万のラッパの如き声が荒野に響き渡り、そしてその燃える息の前で火炎が裂けた。陸地全体が鳴動し、山は次第に消散した。大空そのものは苦悶の内に一万の獅子の如く咆哮し、そして空一面に渡り輝く血の矢が行ったり来たりと放たれた。「地上」(Earth)は暖炉の上のパンの如く膨張した。

斯くの如きが、昔遠く過ぎ去った日々に現れた時の「破壊者」(the Destroyer)と呼ばれる「破滅の姿」(the Doomshape)の様相であった。古い記録の中にその様に描写されているが、それらはほとんど残存していない。それが「天上」(Heavens)に現れる時、「地上」(Earth)は、クルミが炎の前で焼かれるように、その熱故に裂けて開口すると言われている。そして火炎が地表に渡って噴出して、黒い血の上の炎の魔神の如く跳ね回る。地面の中の湿気は完全に干上がって、牧草地や耕作地は火炎に焼き尽くされ、そしてそれらとすべての木々が灰塵に帰する。「破滅の姿」(the Doomshape)は円を描く炎の玉の様であり、その後に続いて小さな火炎の派生物をまき散らす。それは空のおよそ五分の一の部分を覆い、そして身悶えする蛇のような指が「地上」(Earth)へと放たれる。それを前にして、大空はぎょっとした様に見え、そして空は砕けて四散する。真昼は夜よりも明るい事はない。「破壊者」(It)は多くの恐ろしい事を引き起こす。こういった事は古い記録の中で「破壊者」(the Destroyer)について言われている事である。「破壊者」(the Destroyer)にはその定められた時があり、そして戻って来るであろう事を承知しながら、厳粛な心持でそれらを読まれよ。そういった事どもを顧みないままとする事は愚かな事であろう。今や人々は言う、「そのような事は我々の時代に運命づけられた事ではない。」上なる「偉大なる神」(Great God)が、これがそうである事をお認めになりますように。しかし、その日は確実に到来するであろう。そして、人間の性質に従って、人間は準備を怠っているであろう。

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