第一章 エモド(Emod)の巻物

遠い昔からの書き物は、初めに生きていた我々の父祖たちの時代の奇妙な事や大事件について語る。全ての人がその様な時代について知ることが出来る事は「時代の書」(Book of Ages)に示されているが、神々は原初にあった出来事や物事においてその生を得たのである。

「天」(Heaven)と「地」(Earth)が分離していなかった時代があったと、中庭にて語られている。「真実」(Truth)はそこにおいてさえ響いていた。というのも、「天地」(Heaven and Earth)は依然人間たちの中に結び付けられていたからだ。「神」(God)はかつて人間と共に地上を歩み、そして人間が労働する果樹園の上方にある洞穴の中に住まれていたと書かれている。「神」(God)は全ての存在を取り巻いており、そして洞穴に入れて置く事は出来なかった。「真実の為の聖なる書」(Sacred Writings for Truth)を見よ。女が「神」を怒らせて、「神」(He)はご自分(Himself)を天空へと連れ出し、彼の女に対する嫌悪感の為に「天」(Heaven)を人間から取り除いたと言われている。また、人間は「神を」(Him)模した事によって神を立腹させたとも言われている。こういったものは人間によって作り出された話である。これは知恵ではない。というのも、「聖なる書」(Sacred Writings)は「神の計画」(Plans of God)を明かしており、そしてそういった事は語られた通りではあり得ないからである。それは中庭での話なのだ。それは周辺的な知識なのである。

人々は、自分たちがそこからやって来た「オーベン」(Oben)の国について話す。オーベンからではなく、南方にある地より人々はやって来た。というのも、「ラマクイ」(Ramakui)の大いなる国が最初に彼の一歩に見舞われたからである。その国は取り囲む流れの傍の外側に、縁の向こうに位置していた。

その頃には力強い男たちがいて、彼らの国について「最初の本」(First Book)は次のように語る:彼らの居所はそこから何の山も立ち上がっていない沼沢地に、おびただしい量の水の緩慢なる流れが海へと注ぐ土地に定められていた。(そこは)泥の間の浅い湖水地方で、「葦の大平原」(Great Plain of Reeds)の向こう側にあった。多数の花が咲く場所では、植物や木を飾り立てていた。木々がひげを生やしロープのような枝を垂れる所で、その枝は自分たちを一緒に縛り上げていた。というのも、地面は木々を支えようとしなかったからである。鳥のような(大きさの)蝶が飛び、そして蜘蛛は人の広げた腕と同じくらいの大きさであった。空中の鳥や水中の魚は、目を眩ませるような色彩を帯びていて、彼らは人間たちをおびき寄せて破滅させていた。昆虫たちでさえ、人間たちの肉を餌としていた。おびただしい数の像たちがいて、強力で屈曲した牙を有していた。冥府の柱を我々は不安定にした。大破壊の夜、その国は深淵へと転落し、永久に失われた。翌日、地上の夜が明けた時、人は人が狂ってしまうのを見た。

全てが失われた。人々は獣の皮で自分自身に服を着せ、そして野生動物によって食べられた。ガシガシとなる歯の所業が人間たちを食べ物として扱った。おびただしいネズミの大群があらゆるものを貪り食い、人間は飢餓で死んだ。頭を食らう鳥(Braineater)が降下してきては人間狩りをし、人々は殺された。

子供らは野生の獣のように平地をさまよった。というのも、成人男女は病気に打たれたが、その病気はその子供たちを避けていったからである。流出した体液が膨張して破裂した死体を覆い、炎がその腹を焼き尽くした。子種を有していたあらゆる男と、血の通じのあったあらゆる女が死んだ。

その子供たちは教育なしに成長したが、何の知識もなかったので、奇妙なやり方や信仰へと変わった。彼らは自分たちの言葉に従って分離するようになった。これがそこから人がやってきた土地である。「偉大なる者」(Great One)は「ラマクイ」(Ramakui)からやって来て、知恵は「ザイドー」(Zaidor)からやって来た。

「ナディ」(Nadhi)と共にやって来た人々は季節の習慣や星の見識に通じていた。彼らは「天の書」(Book of Heaven)を読んで理解した。彼らは自分たちの死者を陶工の粘土で覆って固めた。というのも、彼らの死者を箱に配置するのは彼らの慣習ではなかったからである。

「偉大なる者」(Great One)と共にやって来た者たちは巧妙な石工であり、木や象牙の彫刻者であった。「いと高き神」(The High God)が際立った静寂の場で不思議な明かりを灯して崇拝された。彼らは深海中で眠っている巨大な獣に敬意を表していて、その獣がその背中で「地上」(Earth)を支えている事、またその身動きが国土を破壊へと至らしめる事を信じていた。ある者はその獣は人々の下に潜り込んだのだと言った。「ラマクイ」(Ramakui)には、道路と水路のある大都市があって、圃場は石壁や水路で仕切られていた。その国の中心には、頂上が平たんとなっている大きな「神の山」(Mountain of God)があった。

その街は石壁を有し、赤黒の石、白い貝殻と鳥の羽で装飾されていた。その国には重い緑色の石があって、石には緑色、黒色、褐色の模様があった。サカ(saka)の石があって、人々は装飾品の為にそれを切り出し、巧みな作業の為に溶かす事が出来る石があった。彼らは黒ガラスの壁を建築し、それを炎で他のガラスと接合した。彼らは、彼らからほんの少しだけ離れていた「冥府」(Netherworld)からの不思議な炎を使用し、地獄の亡者たちの息からなる悪臭のある空気が彼らの中に立ち上っていた。彼らはガラス石で出来た眼反射器(eye reflector)を作成し、それは人々の病気を治療した。彼らは人々を不思議な金属で清め、そして流れる炎で悪霊をそれから取り除いた。我々は3種類の種族からなる国に住むが、「ラマクイ」(Ramakui)と「ザイドー」(Zaidor)からやって来た者たちは少数であった。「神」(God)の目覚めの地に向かって面していて、常に警戒している「大守護者」(Great Guardian)を建設したのは、「ザイドー」(Zaidor)から来た者たちであった。「神」(He)がお見えにならない日には、その声を聞くであろう。

昔、人々が地中に住んでいた時、その名前が秘匿されている「偉大なる者」(Great One)がやって来た。「ヘムの子」(Son of Hem)、「太陽の子」(Son of the Sun)、「神秘の守護者の長」(Chief of the Guardians of Mysteries)、「儀式と話し言葉の長」(Master of Rites and Spoken Word)、「争議の裁き主」(Judge of Disputes)、「死者の代弁者」(Advocate of the Dead)、「神の解釈者にて漁師の父」(Interpreter of the Gods and Father of Fishermen)。西から、「マンディ」(Mandi)の向こうから、黒い亜麻布のローブで盛装して赤い頭飾りを身にまとった「偉大なる者」(Great One)がやって来た。

誰が人間たちに書写と数字、そして年の測定の秘密を教えたのか?誰が日と月の算定方法を教えたのか?誰が雲や星の配置の意味を読み取ったのか?

誰が死体の保存方法を教えたのか?その魂が生者と話を交わす事が出来、そしてそれが「地上」(Earth)への出入り口である事は?

誰が光が「生命」(Life)である事を教えたのか?

人間たちに話して彼らから事実を隠し、理解力のある者たちにとっては「真実」(Truth)の場にある「神」(God)の言葉を、誰が教えたのか?それぞれの啓蒙の程度に応じて僧侶、書記、そして人々に様々に話しかけられた言葉。

可視なるものの向こうに不可視なるものがあり、小さい物の向こうにより小さい物があり、大きな物の向こうにより大きな物があり、そして全ての物が皆一つに繋がっているという事を誰が教えたのか?

今や誰も知らぬ星の歌を、そして失われた海の言葉を誰が教えたのか?

穀物を育てたり糸を紡ぐ事や、巧妙な方法によってレンガやはやり石を作る事を誰が人々に教えたのか?

誰が人々に貝殻の儀式やその神秘の読み取り方やそれらの話し方を教えたのか?

誰が人々に「神」(God)の性質や知識を教え、彼らの残された日数では彼らをその理解へと至らしめる事が出来ないことを教えたのか?その上、誰が人々が記憶できる簡単な物語で、また彼らの子供の子供に至るまで失われる事がないしるしによって大いなる秘儀を隠したのか?

誰が遠い国から「聖なる目」(Sacred Eye)を、そしてそれによって人々が「神」(God)を見る事が出来る、水で出来た「光の石」(Stone of Light)を、更に「大聖堂」(Great Shrine)の前で太陽の光を集積する炎の石(firestone)をもたらしたのか?

彼(偉大なる者)は、その外観が神のようであったにも関わらず、人間たちの仕儀に従って死んだ。すると、人々は彼の体が圃場を肥沃にするであろうと考えて彼をバラバラに切断した。また彼の頭を保存してそれが知恵をもたらすであろうと考えた。彼の骨については、人々は赤く色を塗る事はなかった。というのも、その骨は他の人の骨のようではなかったからである。

これらの事は「聖なる書」(Sacred Writings)の言葉であり、古い慣習に従って記録されたものである。それらをありのままに、そのままにしておこう。というのも、記録されたものは貴方がたとともに残るからである。「光の石」(stone of Light)と炎の石は災害の時に盗難にあい、今や誰もそれが安置されている場所を知らず、それ故にその国は価値が無くなっているのである。

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