第八章 ハーマネターの冥府への旅

もしかすると、ヤドルの時代の誰も彼に適切に敬意を払うものはいなかったであろう。というのも、彼は人々の理解を超えた存在であったから。しかし、ハーマネターは彼を敬愛し、アンチェティは彼を決して忘れることがなかった。長い間、ハーマネターの考えは、彼の友、山の中での楽しい狩りにおける仲間であるヤドルにあった。彼は長らく考えた。「もし眠りであったとして、ヤドルに降りかかったこの眠りはどんな種類の眠りなのか?私の目が断言するように、彼はちりへと崩壊し、無に帰したのか?あるいは、彼は何か変わった方法で生きているのか?彼の体が横たわって休止する前に、彼が知らぬ間に、虫が彼の体を締め付けなかったのか?」長い時間、ハーマネターは賢者ニンタースの足元に座っていたが、ぽかんとした顔と彼の仲間の聞こえない耳で直面し、彼は死の確実性を恐れ始めた。彼の前の多くの人々と同じように彼は、そのベールに侵入しようと努めた。

それ故に、聴聞を要求されたので、ハーマネターは女王の前に赴きて彼の意図を申し立てた。デイディーは、戦勝者であるが、自身の目から見て得意になっていたので、戦争はハーマネターと他の者たちによって彼女の為に勝利を得させられたということにほとんど気を掛けることがなかった。今や危機は去り、彼女は新しいお気に入りと戯れ、報いの日が、それが確実にやってくるであろうことを知らなかった、というのも、彼女は鎖に縛られて捕らえられて連れていかれ、残酷な王のおもちゃとなるのである。

女王の前にやって来て、ハーマネターは次のように話した。「おお、偉大なる女王よ、他のすべての者たちの上にほめそやされる方よ、戦争の偉大なる貴婦人よ、貴女の偉大なる影の元にここに住むとはいえども、私は鳩の中の猫のようであり、従順な群れの間の野生の雄豚のようであります。それ故に、私は自分の羽を広げ、私の「神」(God) 注1と通じ合うために遠い場所へ行くつもりであります。私は「死者の場所」(Place of the Dead)への入り口を探し求めたい。私の心は、私の心を掴む半信半疑のために悲しみにやつれ、私の霊は落ち着きません。私は私の友にして仲間である者が「影の国」(Land of Shadow)でまだ生きているのかどうかを、また彼は風のおもちゃとなるただのちりに過ぎないのかを探し求めたいのです。」

女王デイディーは答えた。「なぜ故に貴方は貴方の「神」と通じるためにどこか遠い場所へ行かなければならないのか?「神」は一つの場所でしか見出すことができない何か小さな神であるのか?」ハーマネターは応じた。「おお、偉大なる女王よ、これは小さな神ではなく、「全てのうちで最も偉大なる神」(Greatest God of All)なのです。私が「神」を外へ求めるのは「神」の小ささが理由なのではなく、「神の偉大さ」(His Greatness)によるからなのです。侍女はドレスメーカーへと赴きますが、ドレスメーカーは女王の元へ参ります。」そこで、女王はこの「神」の性質についてハーマネターに尋ねた。というのも、彼女はせんさく好きであり、男はこれまでそのような事について彼女と議論したことがなかったのである。彼女はどの「神」のために彼が戦うのかを問うたが、ハーマネターはただ女王の為に戦ってきたと言った。

ハーマネターは言った。「我々貴女と私には神があり、貴女には一つの神が、私には一つの神があります。人々にはめいめいの神があり、貴女の門の中の訪問者たちには彼らの神があります。しかし、もう一つの「神」がこれらすべての背後に述べられているのです。これらのより劣った神々は「神」の一員に過ぎません。私が求めているのはこの「神」なのです。どのようにして私、ただの死すべき定めたる者が、「神」を説明することができましょうか?遠くの寺院で私が学んだ通り、私は次の事を知っているのみです。この「神」は他のすべてより前に存在するようになりました。「神」は常に存在し、誰も始まりにおいて「神」を知ることはできなかったし、いかなる者も「神」の神秘的な性質について知ることはできません。「神」よりも前には、いかなる神も存在する事はなかった。私はどのようにして、「彼」の名前をつけたであろうその母を持たぬ「者」(One)を実に名付けることができましょうか?「彼」には、「彼」を名付けて「こちらが私、あなたの父です。」と言う父がありません。如何なる者も「神」の似姿を書面で提示することは出来ず、ナイフを用いて木や石から切り出すこともできません。「神」は偉大過ぎるので、人間は「神」について尋ねることさえありましょう。どんな言葉をもって、人間たちの理解のために「神」を記述することができましょうか?他の如何なる神も「神」を名前でもって呼ぶ方法を知らず、「神」の前では、神々のうちで最も偉大なる者であっても、「神」の召使よりも劣った存在なのです。が、私は次のようにも述べて参りました。人間の霊はこの「偉大なる神」(Great God)を、更に「神」の性質についてさえ知ることができるので、それ故にあるいは人間の霊はいかなる神々よりも偉大である次第です。」

これに対して、女王デイディーの周囲に立っていた者たちはハーマネターに対してブツブツと囁いたが、女王は彼らを気にすることなく、ハーマネターを長い間見つめた。それから、女王は話した。「あるいは、この「偉大なる神」もまた存在しない。貴方以外の誰が「神」を知っているのか?もし「神」がそれほど偉大なのであるならば、人間たちによってではなく、たぶん神々によって崇拝されているであろう事がより適当なのではあるまいか?より劣った神々が「神」と人間の間を取り持つのがより適切なのではあるまいか?もし羊飼いや農夫が正義や優雅さを求めて宮殿へやって来るならば、彼は私に謁見するのか、あるいは私の下の官職と会うのか?貴方は「神」が誰によっても近づきやすいと申すが、それは彼の偉大さを増すことなのか?養豚業者の間の言い争いを裁き、彼らの不満に耳を傾ける支配者と、養豚業者を取り扱う有能な官職を指名する支配者と、どちらが偉大であろうか?もちろん、前者は大混乱のうちに支配し、それに対し後者は効率的に支配している。我々両者は、すべての人々が信じるように、全ての神々の上に「一つなる偉大なる神」(One Great God)があると信じているが、余りにも偉大であるので、この「存在」(Being)は単なる人間たちの手には届かないと我々は信じている。貴方と余は、ただこの点においてのみ異なっている。」

ハーマネターは女王に答えて言った。「私は「神」の有り様を知っているのではなく、私が知っている全ては「神」が存在するということです。貴女の周りを見回してください。貴女は非常に高い王位についているので、貴女の目は貴女を取り囲むもので眩惑されていて、より身分の低い者たちが自分で気付くところの「真実」(Truth)を見ることが出来ないのです。何故、貴女の宮殿の下を這うつまらない虫でさえ、全能なる「神」に劣る何者もそれを創造することができなかったと主張するのでしょうか!」

「賢かったのは、昔の我らの父祖であり、我らの父祖の父祖はより賢かった。どこから彼らの知恵はやって来たのでしょうか?それは、今や離れて存在する二つの王国が出会う場所への鍵を保持する「偉大なる神」(Great God)からやって来たのではないでしょうか?誰が天界(Heaven)の聳え立つ天蓋を持ち上げ、地上を広大な区域へと伸ばしたのでしょうか?」

デイディーは言った。「それがこの「神」であるのか、あの「神」であるか、「貴方の神」(Your God)であるのか私のであるのかが問題であろうか?それは何らかの神であり名前を有するかまたは名前を有しないかで十分であろう。こういったことは迷宮のような議論であり、時間が貴重である者たちにとっては不適当である。」

その後、女王の周囲に立っていた者たちは、ハーマネターに罠を仕掛け、彼が話したその「偉大なる存在」(Great Being)は「全ての母」(Mother of All)なのか、あるいは「全ての父」(Father of All)なのかとハーマネターに尋ねた。しかし、ハーマネターは答えた。「「偉大なる存在」を調べた者に答えさせると良い。というのも、私は単なる死すべき定めたる人間に過ぎず、賢いと主張することさえしない者であるから。貴方がたのうちの賢者に私の代わりに答えさせると良い。」

その後、ハーマネターは女王デイディーの面前から去った。数日のうちに、彼は女王の国土を発ち、光を追い求める真の探求者を特徴づける、「神」より与えられた不断さによって駆り立てられた。彼と共に、若者アンチェティが同行した。飼い馴らされたヤギが国土の境目まで彼らを案内し、そこからは彼らが休憩を取ったメカン(Mekan)の地へ到着するまで、「戦車の道」(Way of Chariot)を辿った。この場所には、強靭な四肢のフォルマナ(Formana)が住んでいて、彼らに住処を与えた。フォルマナはハーマネターにどちらへ行くのかと尋ね、ハーマネターは回答した。「私は、この大森林の真ん中の、ちょうど川の向こう側の山頂にあるハメリット(Hamerit)の住処を求めて進んでいます。その中に、私が鍵を持っていて、私が開けようとしている扉があります。」フォルマナは言った。「それは失敗を運命づけられた企てだ。というのも、その道を通って戻って来れた者は誰もいないからだ。この場所に何年もの長い間住んできた私はその真実を知っている。そしてまた、私はその鍵についての話しについては聞き及んでいない。その話は私の耳には新しいことだ。」そこで、ハーマネターは剣のような形をしているが他の如何なる剣とも似ていない「偉大なる鍵」(Great Key)を引き抜いた。というのも、見る人を盲とする事無しに、ほんの瞬間以上それを凝視することができないからだ。しかし、その奇妙なさやの中では、誰も害されることはなかった。

フォルマナは言った。「この多色相の武器は実に不思議なもので、私はその類似物や力を知らない。しかし、私は次の事を知っている。人間たちだけで、いかに武装していたとしても、恐怖の「恐ろしい者アカメン」(Akamen the Terrible One)に立ち向かわなければならない時には、穏やかでない戦闘となる。それが全てではない。というのも、最初に人間たちは関門で恐ろしい見張り番を通過しなければならず、彼は決して眠らない。」ハーマネターは言った。「私は私の友人の為にこの企てに心を決めたのです。また、森の中に悪いものが潜んでいるのであるならば、それは滅ぼさなければならない。私は自分の運命が既に書かれているところの者であり、人々が生きてもよいように私は死ななければならない。回避することが出来ない事案に対しては、男は男らしく立ち向かわねばならない。」

その後、ハーマネターはフォルマナの下を発ち、荒野の場へと離れて行き、そこで彼は祈った。「おお、「神々の父」(Father of the Gods)よ、私をお聞き届けください。私をお聞き届けください、おお、「神々の父」よ、というのも国土にあまねく悪があり、人々は絶望して死んでいます。人間のうちで最も背が高い者でさえ、「天の高み」(Heights of Heaven)に達することは出来ず、最も素早い者でさえ地上を取り囲むことはできません。それにも関わらず人間は自分の手の届かない物事に対して奮闘し、苦い水の範囲に取り囲まれる全域に影を落とす悪事に打ち勝たなければなりません。私の運命は定められ、私だけがアカメンの住処の門へ入るつもりです。おお、「神々の父」よ、私が戻って来た時には、貴方の前では何の地位もない小さな神々である他の神々の名前が今現在書かれている所に「神の名」(Your Name)を設けるつもりです。私は、もし私がともかくそれを知ることができるのであるならば、貴方の聖なる「名前」(Name)に対する大きく真っ直ぐな記念塔を建立しようと思います。」

「「神々の父」よ、何故「貴方」(You)は、完遂する運命にあった場合を除いて、私を動かしてこのような企てへと乗り出させなさったのか?何故それを実行する落ち着かない望みで私を満たされたのか?どのようにして私、ただの一人の人間が、助力無しに成功することができましょうか?私は私の友人の運命を知ることを求めているに過ぎないのですが、私にはより大きな重荷が割り当てられてきております。もし私が死ぬのであるならば、恐れることなしにそうなるでしょうが、もし私が生還するのであるならば、その生還は「真実」(Truth)の知識によって称賛されるでしょう。おお、「神々の父」よ、私の側に付いてください。私が潜在する危険に打ち勝つことをお助けくださり、「シスダ」(Sisuda)の息子の力をそれにお示しください。」

ハーマネターが戻った時、彼は力づけられたと感じていたが、フォルマナは彼の決意を覆そうとして言った。「この件は断念されよ。その計画は貴方の考えから追いやりなさい。貴方には勇気があり、それが貴方を遠くへと行かせるが、それはまた急な川の流れに捕らわれた者が破滅へと押し流されていく様に貴方をずっと押し流してしまうのではないか?貴方はこれが何を意味するのか知ることはできないだろうが、「門の守護者」(Guardian at the Gate)それだけでこの世の何物にも似ておらず、彼の武器は他の如何なる物とも異なっている。というのも、それらの武器は目に見えないのであり、遠くから襲ってくる。何故こういった事をするために奮闘するのか?それは耐えうる苦闘ではない。」ハーマネターは応えた。「私の心はこの事に向けられているのです。私は未知の道に沿って旅をしなければならないとしても、ことによると戻ることができない道かもしれないが、そして不思議な戦闘を戦わなければならないとしても、私は行くつもりです。私は「門の恐るべきもの」(Terror at the Gate)も、アカメンの住処内に住む如何なるものをも恐れることはない。」

フォルマナは言った。「もし貴方は行かなければならないのであるならば、この道を通る者を何度も見てきた私がその門まで貴方に同行しよう。森を通る間でさえ、貴方に同行しよう。と言うのも、私は「聖なる炎」(Sacred Flame)の前にて清められてきた者ではなかろうか?しかし、誰か他の者が我々と同行するのは賢い事であろうか?もちろん、この若い、貴方の従者であるこの年端のいかぬ若者は、我々が直面するような物事には不慣れなので、我々と同行すべきではない。彼はここに留まり、私の娘らを守るのがよりふさわしいのではあるまいか?彼の不慣れを私の経験と、彼の若い力を私の知恵と熟練と、彼の辛抱強さを私のしっかりさと交換するのがより良いのではあるまいか?」

アンチェティは意義を申し立てたとはいえ、彼はフォルマナの住処で後に残ることで合意した。

それで、段取りができたので、ハーマネターとフォルマナは朝日の中を出発し、アンチェティは若い女の子の守護者として後に残ったが、彼の心は悲しんだ。彼は天に向かって声を上げて言った。「ハーマネターが知るところの「神々の父」よ、なぜ「貴方」はこのような落ち着かない心を彼に与えなさったのか?何故貴方は彼にそれを与えなさったのか?「貴方」が彼の霊をそのように奮起させたので、今や彼は想像を絶する危険へと向かっています。おお、私が不案内な「神々の父」よ、私の欠点を大目に見、私の声をお聞きください。この日から「邪悪なもの」(Evil Thing)に打ち勝って戻るまで、彼に常に「貴方」のお考えに頼らさせてください。彼が「門番」(Watchman at the Gate)と対戦する時に、彼の横にお立ちください。彼が滅ぼそうと潜んでいるものをめがけて打つ時、彼の腕を強くしてください。こういった事がどのようなものであるのか、あるいはそれらの性質は私の想像を超えております。私は人々の話からそれらについて知っているだけで、人々はそれぞれが異なった立場でそれらを見ています。しかし、誰かが本当に見て、生還したのでしょうか?私はそれについては分からない。私は、私が仕える彼のために心から祈ります。」

ハーマネターとフォルマナが森の縁にまで来た時、彼らは複数のライオンに襲撃されたが、彼らはそれらを殺した。その後、彼らは森に入り、彼らが今まで見たこともなかったような大きな木を見た。彼らは油断なく行った。というのも、森の暗い光の中に非常に恐ろしいものが潜んでいたからである。彼らは通り過ぎていき、山の麓へと到達して、そこで野営して寝た。というのも、そこは開いた土地であったからである。

それから、翌日太陽が昇ると、「死者の入口」(Portal of the Dead)として知られる洞穴の前の開けた場所へと到着するまで、彼らは山を登った。ここで、ハーマネターは、開けた場所のちょうど後ろにある小屋の中に残るフォルマナに別れを告げた。

それから、ハーマネターは辺りを見回して、「守護者」(Guardian)を探し求めた。というのも、彼は洞穴へ入ることができる前に何をなさねばならないかを知っていたからである。その時、彼は、彼の右手洞穴の傍に、石造りの小屋を見、その前には非常に年老いた女が座っていた。その女の元まで行って、彼は彼女に挨拶して言った。「私は非常に恐ろしい場所、「死神の住処」(Abode of Death)、「あの世の境目」(Threshold of the Otherworld)、「靄のようなベールに取って代わる扉」(the Door Replacing the Misty Veil)へ入ろうとしている者です。私は聖別された者で、「より劣った神秘」(Lesser Mysteries)を知る者で、「正しい知識を持った者」(Enlightened One)です。

その女は、圏を跨ぐすべての者が答えなければならない三つの質問を尋ねることにより応答し、これが正しくなされると、彼女はハーマネターをその小屋の中へと招いた。中で、彼女は腰掛けを指し、ハーマネターがそれに座らせられると、彼女は彼の周りに円形にひもを広げた。その後、彼女は彼の前に火壺を置き、その中に彼女は小さな革袋の中身を注いだ。彼女はまた彼に緑色の水の瓶を渡し、彼はそれを飲んだ。

少しして、ハーマネターがしばらく眠った後、彼は洞穴まで案内され、「魔神の口」(Devil's Mouth)として知られる場所で置いて行かれた。というのも、そこでは邪悪な息が地面の開口部からやって来るからである。彼はそこでしばらく留まり、再び彼は眠った。目を覚まして、彼は暗い通路へと先へ進んだが、彼の動き 注2 は奇妙であり、彼は狭いトンネルを通じているように見、彼の体は軽くふわふわしたように見えた。

彼は門番(Watchman)が門のところで見張っている場所まで到着し、その門番の傍には「恐るべきもの」(Terror)がうずくまっていた。ハーマネターは剣を抜き、恐ろしい二人組と対峙し、彼らに向かって注意深く前進した。その時、彼らが対戦すると、空中は大音量の喧騒で満ち、シューシューという大きな音が耳に打ち付け、怒鳴るような声や金切り声が頭上を引き裂いた。どんな人間もその恐ろしい場所の外では聞いたことがないような遠吠えがあった。ハーマネターは一歩下がり、それから再び進んだ。すると、見よ、「門番」と「恐るべきもの」の両者が忽然と消滅して、ぞっとする喧騒は静まった。

ハーマネターはその入り口を通過し、水がせき止められた池がある、より広く、より開けた場所へとやって来た。その池は深く、暗く、静止していた。彼はその水を見つめた。本当に、いかなる人間も、そのような、彼が見たような、その静けさで描写された景色を見たことがある者はいなかった。彼はそれの傍を通り過ぎた。彼が狭まった通路へ入ると、まるで生きて踊っているかのように見える、何らかの命ぜられた赤らんだ光によって投げ出された、脅かす影が壁面に躍り上がって揺れ動いた。それから、彼は行く手に日の光を見た。

彼は日光の中へと現れた。一方は首をもたげた山腹で、もう一方は広大な深い割れ目があり、それらの間には狭い小道が延びており、彼はそれを進んだ。巨大な鳥たちが、奇妙な頭部をしたワシや鳥たちが彼を襲撃した。彼は戦ってそれらを撃退し、アカメンの住処が視野に入るところへやって来るまで上へ向かって進み続けた。彼は上へと向かう長い旅の後にそこへ到達し、七重に閂をかけられた巨大な真鍮製の扉の前に立った。

ハーマネターは扉の前に守護者がいないのを見た。が、彼はその声を聞き、七つの質問を尋ねられた。ニンタース(Nintursu)の足元に座っていた彼は、成すべき答えについてよく覚えていた。そして、それぞれの質問に答えると、閂が一つずつ外れていった。七つの質問が尋ねられ、七つの答えを正しく伝えた。その巨大な(観音)扉は回転して離れ、ハーマネターはそれを通ってアカメンの中庭へと入った。

中庭の中で、ハーマネターは戦って、人間の体をご馳走とする四匹の巨大な獣の「存在」(Being)に打ち勝ち、ハーマネターの剣はそれらを葬り去った。彼は、善と悪の霊たちが人間の魂のために永遠の戦いをしている「戦いの間」(Hall of Contest)を通り過ぎて、「死の部屋」(Chamber of Death)へと入った。今や疲れ果てたので、ハーマネターは、その時その場所にあったので、「マキラムの椅子」(Seat of Makilam)と呼ばれる石の上に腰掛けた。そして、彼は待った。

そこで「恐ろしいものアカメン」(Akamen the Terrible)がやって来て、ハーマネターは半日に渡って彼と戦い、そして打ち勝ったので、彼は「圏への扉」(Door of the Spheres)が位置していた場所へと入った。これを、ハーマネターは「偉大なる鍵」(Great Key)を使って開き、そこを通過して「死者の住処」(Abode of the Dead)へと入った。彼は「偉大なる鍵」を固く握っていた。というのも、それが無いと戻ることができなくなり、あるいは彼自身だけの力で保つことができず、彼の助けにやってくるかもしれない人たちの補助の力を通してのみ保つことが出来るからである。

彼の前に靄が集まり、次第に濃くなった。そして、靄が濃くなると、その靄は常に輝きを増していく光を放った。同時に、その輝きの燦然たる形が出来上がった。その形作りが完了すると、「存在」(Being)がそこに立っており、太陽の光のように燦然とし、月光のように美しかった。ハーマネターは「栄光なる存在」(Glorious Being)から流れ出す声を聞いた。その声は言った。「ここへやって来た貴方は何者か?青ざめた頬、そして品位の落ちた顔つきを持って、ふさぎこんでおり、霊的に落胆させられていて、妙な乱闘から疲れ果てている。貴方の心には悲嘆があり、よもや貴方のような者が以前ここへ入って来たことはない。腕力によって入ることを探求した者は、実に勇敢だ。」

ハーマネターは答えた。「おお、美しい幻よ、実際に私の心は光ではありません。というのも、私は残酷な戦闘を戦ってきたからです。私は、人間の夜の夢を悩まし、小声でのみ語られる、地上では知られていないおぞましいものによって襲撃されてきました。私は友人、狩猟仲間、私の放浪の誠実なる者を求めてやって来ました。彼の死は私の心に重くのしかかり、それ故に、私は恐れずにこの場所にさえやって来たのです。」

「美の形」(The Form of Beauty)は言った。「貴方が探し求めている彼は「死の流れ」(Waters of Death)の向こうに見いだされます。が、「守護者たち」(Guardians)を通過してきた貴方はそこへ行くことが許されます。しかしながら、一つ申し上げておきましょう。貴方はそこへ行ってはなりません。流れの真ん中に、永遠なる植物が生えています。それは貴方と全ての人間たちが食べてはならない禁じられた木であり、その果実は古代の蛇によって盗まれたものです。今それを食べてしまうと、貴方は果てしない不変さをこうむることになるでしょう。それは全ての運命のうちで最も恐ろしいものです。行きなさい。しばらく滞在し、この道を戻りなさい。」

ハーマネターは静止した陰鬱な流れを越えて行き、すべての霊が赤く輝く「待機の地」(Land of Waiting)へと達した。彼は「偉大なる門戸」(Great Doorway)を通過し、「栄光の場所」(Place of Glory)、「永遠なる暮らしの地」(Land of Eternal Living)へと到着した。彼は友人、狩猟の仲間、放浪中の誠実なる者を見た。見よ、彼の目の前に、ヤドルが居た。人間の理解力に対して説明することが出来るよりも、より栄光なる形で彼が先に立っているにも関わらず、ハーマネターには彼が分かった。ヤドルはここにおり、彼には生命があり、彼はここ明るく花がいっぱい咲いている、木々や流れのある、誰もそれを説明することが出来ないような場所にいた。

ヤドルはハーマネターと話をし、彼は人間たちによって長らく忘れられていた物事について語り、人間たちがその「父」(Father)と共に歩んだ日々から知られていない真実を示した。彼らは互いに語り合い、快適な場所で休み、抱擁し合い、そして分かれた。ハーマネターが去る前にヤドルは言った。「貴方は、死者が塵へと帰らないことの確証を得るための目的で、肉の支配からまだ呼ばれていないのに、「死の入り口」(Portal of Death)を通過してきたので、貴方の寿命は短くなるであろうことが、この場所のしきたりによって命じられる。(それでも)貴方には十分な時間があるであろう。それ故に、人々を導く光となるように、我々が話した物事を記録にとどめられよ。それらを二つの本に書き留め、一つは「神聖なる秘義」(Sacred Secrets)とし、人生そのものよりもより貴重で、選ばれし者だけのものとする。もう一つには、選ばれし者の足元に座る者たちのための「神聖なる秘密」(Sacred Mysteries)を記録されよ。一方は「明かされた真実の書」(Book of Truth Unveiled)となるであろうし、もう一方は、「覆い隠された真実の書」(Book of Veiled Truth)、「隠された物事の書」(Book of Hidden Things)となるであろう。」

ヤドルは続けた。「かつて、人間たちは簡単に一つの圏からもう一つの圏へと移ることができた。その後靄のベールがやって来た。今や人間たちは圏を渡るためにぞっとするような入り口を通らなければならず、世代が移っていくと、これもまた人間たちから閉ざされるであろう。秘密の物質は、一緒に混ぜ合わせると、人間たちをここへ運ぶ馬となるが、それは神秘を心得る者たちとともに残るであろうが、たどり着くのは一層困難となるであろう。時が過ぎ去るにつれて、たくさんの偽りの神秘が現れるだろうし、ことによるとその道は閉じられるか見失われるであろう。」これらの事をヤドルは言い、彼らは他の事についても話した。

ハーマネターは戻った。彼は「死の流れ」を越えて行き、彼は「形の守護者」(Guardians of Form)によって、「偉大なる鍵」の力を保護していた者たちによって支えられた。彼は「栄光なる存在」に挨拶をし、多様な部屋を通り過ぎ、中庭と多重に封印された扉を通過し、奇妙な松明で照らされる曲がりくねった小道を下って行き、洞窟を通り抜け、洞穴を通って出てきた。入り口では、まだフォルマナが待っていた。彼は見張りから起き上がり、ハーマネターを温かく迎えて言った。「私は貴方が一人の死者の如く見えた。一対の炎の間でこわばって横たわった状態で。だから、私は貴方のことを心配していた。今や、見よ、貴方は生命が新しくなった者の如く、輝くような顔で現れた。私の心は貴方ゆえに喜ぶが、我々は遅れてはなるまい。我々はこの非常に恐ろし場所から出発しよう。というのも、私は、恐怖に取り囲まれた警戒においてまるっきり長い寝ずの番を過ごしたから。」

彼らは山から立ち去った。彼らは森を通り抜けた。彼らは、背の高い覆いかぶさるような木々の下に薄暗がりの中で潜むものどもと戦った。彼らは「幾キュビトもの門」(Gate of Many Cubits)を通り抜け、フォルマナの気持ちの良い牧草地へと戻った。


脚注

注1:以前にも述べたが、大文字の"God"は創造主を表し、小文字の"god"は細々とした人間の崇拝対象である神を表している。前者を「神」と訳出して、後者と区別している。

注2:原文は、"bis movement"。明らかに誤植で、"his movement"として訳出した。

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