第六章 ヤドルとの交友

我々の父祖ハーマネターに関しては、その事は、「炎の鷹」(Firehawks)の書記、パクハミン(Pakhamin)の巻物の中に書かれている。世代から世代が増していき、「光と生命の君」(Lord of Light and Life)は自らの身を隠した。というのも、「彼」は人間の性質を承知しており、誰も「彼」を見出すことができなかったからである。時が過ぎ去り、人間たちはもはや「彼」を探し求めることはなくなった。

そこで、高みを進む者、ロバに運ばれし者、人々に光を示す者がやって来た。光をもたらす者ハーマネターとして、「光と生命の君」への称賛をもたらす者!彼は、その羊の群れを注意深く世話していた羊飼いたちの間で丘陵の斜面を歩き回り、彼は羊飼いたちのやり方を学んだ。この者は人間たちのうちで一番賢い者であり、彼の体は男性的な力で溢れんばかりに満たされており、歩幅も広く、彼は山の広々とした牧草地を歩き回った。怒ると、彼の顔は真昼の太陽のように燃え立ち、善行の折には夜の静寂における穏やかな月明りを発する。勇気と技量においては、誰も彼に匹敵する者はいなかった。彼は他の誰とも似ていない子供であり、他の者たちがこそこそと取り入ろうとする前では、彼は真っ直ぐに節操を曲げなかった。彼は文字を3歳の時に覚え、5歳の時には読み書きができ、彼が7歳の時には寺院に参列する者たちに教えていた。彼の養父がその先祖たちに列せられた時には彼は10歳であり、その財産はその女たちを通じて分割された。

12歳で、彼は、山から降りてくる川の進路を、新しい牧場を通して導くように変え、かくして彼の母は金持ちになった。13歳で、彼は「町の保護者」(Shepherd of the City)へと送られ、槍と盾をまとい訓練を受けた。17歳で、彼は王の右腕の男を殺害し、アキマ(Akimah)の山へと逃れた。

猛獣のように、彼は意のままに彷徨い、彼は山の住人となり、四肢は堅固で俊足であり、気まぐれの赴くままに、彼の行く手を通過するものたちから物を掠奪した。彼のアンシャンの木の弓は強力で、筋力で引き伸ばされて、彼の真っ直ぐにうった矢を速やかに放った。

山の高い所を、もう一人が彷徨っていた。彼の名はヤドル(Yadol)といい、ハーブと野生の蜂蜜を糧として生きていて、背が高く、今までナイフが髪に触れたことがないので髪が長かった。彼の手は野生のオオカミの幼獣を飼い馴らし、それが彼の仲間であり、彼がどこへ行こうとそのオオカミは一緒についてきた。野生の獣たちは彼を悩ますことはなく、彼は獣たちにまじって自由に歩いた。

ハーマネターは野生の獣の猟師であり、彼は獣たちが水を飲みに来る場所に穴を掘ってもう一つの罠を仕掛けた。ヤドルはその道を通って穴を埋め、罠を破壊し、罠にかかった鹿を逃した。ハーマネターが戻って、穴が埋められ罠が破壊されているのを見つけると、彼の心は感情の嵐に捕らえられ、空に対して激怒し、木々に対して誓った。彼は探し求め、数日に渡り探し求めたが、ヤドル、捕捉しがたい者、抜け目のない者と出くわすことができなかった。ハーマネターの罠は役に立たず、彼の穴は骨折り損であった。彼は飢え、飢えゆえに注意力が散漫になた。彼が茂みの間で横たわり通過する人を待ち伏せしていた時、その人数を考えて襲撃を引き下がるべきことに考えが至らず、彼の矢を放ち、彼らの間に躍り出た。

ハーマネターは荒々しい心で襲撃した。旋風のごとく彼は襲撃した。しかし、彼らはハーマネターが一人だけであることが分かると、踏ん張った。ハーマネターは茂みへ後戻りしたが、彼をめがけて放たれた矢は、その的を射た。

三日に渡って、彼は山の上の自分の場所で床に臥し、彼の脚は腫れ上がって、喉が渇いた。というのも、彼は水を得ることができなかったからだ。彼は苦痛の体で横たわり、彼の霊は彼から離れようとしていた。オオカミがやって来て、彼の手は石を求めたが、衰弱が彼の腕を抑えて、石が投げられることはなかった。その時、見よ、そのオオカミは彼の手を舐めて離れて行った。その後、ヤドルがやって来て、その手には新鮮な水が満ちた革袋があり、彼はハーマネターの傍に膝をついて、彼に一杯の水を与えた。ヤドルは傷の手当てをし、食用のハーブを持ってきたので、ハーマネターは再び力を取り戻した。

それ以来、ハーマネターとヤドルは山の間の洞穴の中に一緒に住んだが、ヤドルは肉の為に動物を殺したり肉を食べようとはしなかった。それでも、彼らは広大な山々を楽しい仲間づきあいのうちに共に歩き回り、彼らの日々は速やかに疾走していった。しかし、ハーマネターは他の事を望んでおり、それ故に通り過ぎる人間たちを襲撃したい誘惑にかられた。というのも、彼は自分の体のために上質な肉、衣服、装飾品を望んだからである。

こういった事は王の耳にまでもたらされ、王の周りの者たちは言った。「我々に人を連れさせて山へ上っていき、この山を彷徨う野蛮人、この人殺しの盗賊を殺させてください。」しかし、王は彼らに命じて控えるように言った。というのも、王は自分の為にその男と会う事を望み、彼を生きた状態で連れてくることを望んでいった。「誰かがその男を殺すとするならば、それは私である。」王は、それ故に、賢者たちの助言を請うて言った。「どのようにして我々は、この男が人間であって山の精霊ではないとして、その男を連れてこようか?私は自分自身の目で彼を見物したい。というのも、私は彼のような人間をだれも知らないからだ。かつてそのような者が一人存在したが、彼はもういない。」その時、賢者のうちの一人が言った。「この山の男は、もし彼が人間であるならば、人間のやりかたに従うでしょう。それ故に、我々は寺院より遊女を、楽しみの女を調達し、彼女を行かせて彼を連れてこさせるのです。そのハンターを良い餌をつけた罠にかけるのです。」王は言った。「これはまったく新しいことではなく、もしかするとシルクの鎖につなげて山の野蛮人を私のところへ、街中にさえ連れてくることができるかもしれない。それ故に、行って貴方の言葉を実行に移しなさい。」それから一人の男が寺院まで遣わされて、彼はヘサータ(Hesurta)、楽しみの女を、黄金と引き換えに連れて戻って来た。彼女は、山の道を知っているハンターたちに連れていかれた。

彼らは出発し、ハンターと遊女とその随行者たちは幾日かの旅の後、エラムキ(Elamki)の道のそばにある小さな池のある場所までやって来た。彼らは池の向こう側の上方の泉まで通って行き、周囲の森へ男たちを送り出した。そのうちの一人が戻ってくる日がやってきて言った。「野蛮人が来る。」そこで、ハンターのかしらが女に言った。「おお、女よ、あなたの胸をむき出しにし、水辺に座りなさい。あなたの仕事の手管を使い、恥じることなく、彼を奔放に歓待しなさい。彼が近くにやって来たら、あなたの秘部をあらわし、彼をあなたに引き寄せなさい。彼に男たちを陥れる遊女のわざを教えてやりなさい。」

その女は彼を受け入れるのが嫌というわけではなく、その仕事によく対応し、歌いながら水辺に座った。しかし、ハーマネターは用心してその場所の周りを周回した。が、何も見つからず、彼に対する危害もなかった。彼はじりじりと詰め寄り、うまく近づくと、その遊女は彼女の秘部の性的魅力を見せ、彼が示した熱意にずいぶんと喜んだ。彼女は遊女の技で彼に手ほどきをし、彼らはそこで数日間に渡って戯れた。しかし、ハンターたちは彼を連れて行くためにやってこなかった。というのも、彼らはこそこそと彼に接近する方法を見出せなかったからである。その後、7日経った後、ハーマネターはその場を離れて、振り返らずに山腹の斜面を超えていった。ハンターたちが彼女に対してこぼしたので、遊女は心配になったが、これは彼女の責任ではなく、ハンターのかしらは言った。「待って見ていよう。今しばらく留まろう。」

ハーマネターは野生の鹿が放牧されてる場所へ戻ったが、ヤドルはそこにおらず、彼が騒いでいる鹿とすれ違うと、鹿たちは逃げて行った。彼はヤドルと共に休んでいた洞穴へ行ったが、ヤドルはいなかった。オオカミだけがそばに横たわっていて、ハーマネターはそれを呼びつけたが、ハーマネターは遊女との交わりから清められていないので、オオカミは遠くに留まっていて、近づいてくることはなかった。

昼夜の間、ハーマネターは山腹の広い歩幅をその経路にそって歩き回ったが、彼はヤドルを見つけることが出来なかった。それ故に、彼は遊女から離れた場所へ戻った。彼女は暖かく彼を歓迎し、肉料理で彼を歓待し、心ひそかに喜んだ。彼らはそこに3日間留まり、彼女は彼を女の欲求へと飼い馴らした。その後、その日がやってきて彼女は言った。「貴方は賢くて、牡牛のように強いのに、なぜ自分勝手に貴方を見捨てる人と一緒に山腹で暴れているの?私と一緒に王の元へ来て。というのも、王は貴方の力の話しを聞いていて、貴方の行いに目をつぶろうとしています。王は貴方に家と黄金を与え、そして私、ヘサータは貴方のしもべになります。愛の寺院は貴方のために開かれ、私は貴方にその中の大きな喜びをお見せしましょう。来て、王の影の元に住みましょう。というのも、王は強大であり、人々の上に吠える野生の牡牛だからです。」

ハーマネターは黙考して言った。「いや、私は王の前へ行かない。というのも、私の目には彼は何も良い事を行っていないからだ。人々は彼に対して囁いていないかい?次のように言いながら、「最近の災いだ。王の手は重く我々にのしかかっており、彼のプライドは際限を知らず、どの乙女もその夫のために処女として残されることもない。人殺しの娘も王子の妻のいずれも町を自由に歩くことができない。街の扉はすべて監獄の扉のように閉まっていないであろうか?」

その女は暫く考え、そして言った。「誰が王に関するこれらのことを言ったのですか?それらの言葉は確かなのですか?彼は偉大なる王であり、一万の舌でなめられる山であり、その囁きは裁判所を満たし、その声は千リーグ(leagues)離れてこだまします。彼はみごとな王であり、力と程度において完璧な人であり、彼の体はどんな女性の目をも楽しませます。他のだれも彼の知恵や知識を持ち合わせてはおりません。それ故に、人々は彼を悪く言うのです。というのも、自分よりもそんなに優れた人たちをねたむのは、人間の性質であるからです。」

「我々を行かせてください。王が向かい合って貴方と会い、王を喜ばせてください。というのも、貴方は王と似ているからです。おお、私と一緒に、日々新しい満足をもたらし、華やかに装う若い女性たちや、見るにすばらしい若い男性たちの場所へ来てください。そよ風が甘い香りで満たされ、ベッドは柔らかく部屋は香をたかれた所へ来てください。生活を楽しむ場所へ来てください。来て、王に仕えてください。今の貴方と同じように、王の若い頃はそのようであった。しかし、若さは、ゆっくりとであっても、去っていきます。王は決して休止している者ではなく、「戦いの淑女」(The Lady of Battles)の息子なのです。来て恐れないでください。すべてが貴方の為に用意されています。今でさえ、賢者たちは貴方の到着について話しをしているのです。そして、人々が平和的に貴方を護送するために待っています。」

ハーマネターは彼女の言葉にゆすぶられて言った。「それではそうしよう。貴女の行くところへ、私も行こう。」そこで、ヘサータは持参したネックレスを彼に与え、彼をハンターの天幕へと導いた。しかし、ハンターたちがハーマネターと向かい合って会うと、彼らは狼狽した。勇敢な者、広い歩幅の者の目に宿る光とはそのようなものであった。が、彼らは彼が彼らと同様な一人の男であると認め、恐れは過ぎ去った。それで、ハーマネターはハンターや遊女と共に行き、街へと入り、王の前へ行き、そして王は好意をもって彼を見つめた。王はハーマネターにワインを与え、彼は酔った。また、ハーマネターの体にオイルを注ぎ、彼は聖別された。彼は三つのローブで盛装し、身分の高い人となった。彼は家と召使を与えられ、見張り人を与えられた。彼は近衛隊の頭領となり、彼のような者は誰もいなかった。

楽しみの女、遊女には、王は金のブレスレットを与え、彼女を追い払って言った。「貴女に相応しい場所へ行くが良い。というのも、貴女は貴女に要求された事を完了したからだ。そこでは、貴女は女たちの間で大いなる者となるであろうが、一方、ここでは貴女は女たちの間で卑しい者となるであろう。」ヘサータは悲しみのうちに立ち去った。というのも、例え遊女とはいえ彼女の卑しい霊を包むしばしば汚れて巻上げた衣服を通して、親愛の情のかすかな動揺を感じることができるからである。

ハーマネターは宮殿のやり方を学び、自由に歩き回った。が、間もなく彼は落ち着かなくなった。というのも、彼の心配事はヘサータへと向いていたからである。彼は彼女のやり方がないので寂しがった。とはいえ、多くの女性たちがその視線を彼に投げかけたのだが、その背後には剣の脅威があった。彼は口先のうまく、頭の切れるやり方をする男ではなく、王の影の元で広く行われている欺瞞において未熟であった。王に気に入られ、王の衣の元で安全であるとはいえ、彼は宮殿や中庭では孤独な男であった。彼はヘサータを探しに出かけ、彼女が遊女として仕えていた寺院の門の中の楽しみの寺院で彼女を探し求めたが、僧侶は言った。「その女はもはやここにはいない。というのも、遊女という者は、黄金を与えられると、自分が女王となったと思うので、ここの女たちは彼女を追い出してしまった。」ハーマネターは町中、彼女を探し求めたが、彼女はどこにもおらず見つからなかった。しつこく探し続け、彼はついに川沿いの置屋で、大酒飲みや川の男たちに混じって彼女を見つけた。彼女と共に座る者が一人いて、彼は人殺しであり、故に武装していた。それで、ハーマネターがその女との話しを求めて彼らに近づいて来た時、彼は剣を抜いた。その人殺しはハーマネターがそれによってひるまず、事を構える算段であることを知ると、ハーマネターを茶化して言った。「女がたんまりいて、半計りの穀物がある時に、なぜ男たちは戦わなければならないのか?」

ハーマネターは、女たちの穢れた体によって金持ちとなった者たちからその女を買い取り、彼女を彼の家に定住させた。王の周りの人々は彼に対して囁いて、王の耳に毒々しい言葉を話した。宮殿の女たちも同様に彼から離れて行った。道でヘサータに会うと、彼らは彼女を捕まえてそのベールを彼女の顔から引きはがし、一方、王に仕える陰険な人々は、口に手を当てて嘲笑った。王に仕える人殺したちは、ハーマネターから顔を背け、街では、ハーマネターが通り過ぎると、人々は言った。「汚い水で風呂を浴びる偉大なるお方がお通りだぞ!」それ故に、ハーマネターは街を離れ、城壁のない土を耕す者たちの間へ行って住んだ。

ハーマネターが意気消沈したのを女が見るまで長い時間はかからなかった。それで彼女は彼に言った。「おお、力ある人よ、私の視線が貴方に注がれる時、私はすべての女たちの上へ持ち上げられました。そして今、私の心は、それを毒していたすべてのものを洗い流され、私の体は自由にあって喜び、私の人生は喜びの歌となりました。それにもかかわらず、貴方が悲嘆に暮れていて、貴方の中でゆとりがなく、貴方の心の半分が山に残っていることを私の心が私に告げるために、私は悲しみに沈んでいます。そのために、私のいう事を聞いてください。私がここに留まって貴方が帰るのを待つ間、山へもう一度出向いてください。おそらく今度はヤドルを見つけることが出来るでしょう。」彼女の言葉はハーマネターを悲しませ、そして彼は言った。「どうやって私はここを発って、貴女をここに残したままにできよか?誰が貴女を守るのか?私は、貴女と通じることのないどんな男を、貴女を抑制して配置することが出来るであろうか?けれども、私は山へ行かねばならない。それ故に、貴女も私と一緒に来てほしい。」

彼らは出発し、ハムラマ(Hamrama)を経由して横断し、高く聳え立つ山へ到着した。彼らは何日も探したが、ヤドルを見つけることができず、どんな鳥や獣も彼らに近づこうとはしなかった。彼らは山を歩き回り、谷を探し回り、ヤドルの捜索に疲れ果てた。彼らは、羊飼いが住む下にある山の麓へと戻り、街がある耕作地へと戻った。その時は「アキトア」(Akitoa)と「シャラ」(Sharah)、街の住人たちのかしらが結婚する時期であった。ゲストとして街へ留まるように招待されたので、彼らはそこに滞在した。祝宴の日が始まった時、人々は山や耕地からやって来て、大いに踊って歌った。ハーマネターとヘサータは歓迎され、ゲストやはなし家の間に彼らの席を獲得し、たらふく飲み食いした。穀物から醸造した強い酒やヤシから作ったワインがあり、ハーマネターはこれらで腹いっぱいになり、酔っぱらって、眠りに落ちた。彼が眠っている間、一人の男がヘサータのところへやってきて彼女を掴んでいった。「来なよ、我々と一緒に過ごそう。それで、我々男性は楽しみを得て、貴女は銀を手に入れることが出来る。俺はあんたがたくさんの男を楽しませた女であることを知っている。男たちの売春のしもべであることをな。」彼女がその男の要求を拒むと、その男は力づくで彼女を得ようとしたが、彼女はナイフを抜き出してその男を殺した。というのも、女というものは、男の要求に対して彼女自身を明け渡さない限り、男の意になることはないからである。

喧騒を聞きつけて男たちがやって来て、何が起こったかを見ると、彼らはその女を拘束した。他の者たちがハーマネターを捕らえ、両者は首長のところへ連れていかれて、彼らは留置場へ引き渡された。祝宴が終わると、彼らはピトシ(Pitosi)、判決を下す者の元へ連れていかれた。ピトシはハーマネターに言った。「貴方は我々の元へ合法な身分のゲストとしてやって来た。それ故に我々は貴方が悪事を受けて来たのか、またはこの町の人が不法に殺されたのかを知らない。もし貴方が悪事を受けてきたのであるならば、同様にこの女の身分を証明せよ。この女は身分のない売春婦であると言われている。そうであるならば、貴方は殺された者の親族に彼の対価を支払うこととし、それ以上は要求されないであろう。」

ハーマネターはピトシに次のように答えた。「貴方は知恵のエッセンスで満たされた方です。判決の椅子を正当に占める方です。私は十分な謙虚さをもって、貴方が明白に主張することができないこの女性に対する私の請願に耳を傾けて頂けます事をお願い致します。私は彼女を糾弾することはできません。代わりに、私は、フダシュム(Hudashum)の法の下で 注1、彼女が我妻であることを主張します。というのも、彼女は20か月の間私と共に居住しており、その間他の男とねんごろになったことはなかったですし、不満となる根拠もなかったからです。」

これを聞くと、そしてハーマネターがフダシュムの法について主張したので、ピトシは「偉大なる寺院」(the Great Temple)の僧侶であるエニレリッチ(Enilerich)を呼びにやり、彼がハーマネターの妻としてヘサータが彼の前に立っているのかを述べるべきであるとした。その僧侶が到着すると、彼はハーマネターが彼女を娶った時、彼女は処女であったかを尋ねた。もし彼女が「はい」と言ったならば、3か月の経過で彼女は妻の立場を得たであろう。が、彼女は答えた。「いいえ。」その僧侶は彼女に、ハーマネターが娶った時に、彼女が未亡人であったかを尋ねた。もし彼女が「はい」と答えたならば、20か月の経過で彼女は妻の立場を得たであろう。が、彼女は答えた。「いいえ。」そこで、その僧侶は彼女に、ハーマネターが彼女を娶った時に彼女は売春婦であったかと尋ねると、彼女は「はい」と答えた。それ故に、ハーマネターが最初に彼女を娶ってからまだ7年が経過していないので、彼女は妻の立場を得ることができないし、寺院の売春婦であるということも言えなかった。というのも、彼女はその庇護下を離れていたからである。

さて、彼女に売春婦の烙印が押され、ハーマネターは裁きの場での立場を喪失した。それで、ピトシは彼らに判決を言い渡し、ガイラ(Gaila)が到着したら、彼らを死の囲いへと導いて、そこで背中合わせに緊縛するよう命じた。

売春婦に対するやり方に従って、その女は紐で絞殺され、一方、ハーマネターは七日の間その囲いの中で彼女を重荷として携えるよう取り残されることとなった。その後、もし神々が命ずるならば、彼が所持できるもののすべては両手3杯の穀物と水のヒョウタンのみとなるであろう。判決は成就し、ハーマネターは生き延びた。彼は出発して自分の道を行き、殺された男の親族は彼を捕まえることができなかった。

ハーマネターはその地域を通過して、ついに「七人の栄光に浴した者たち」(Seven Illuminated Ones)の寺院へたどり着き、そしてそこには彼の母がいた。彼女は一人の老女の召使だけと共に一人で住んでいた。というのも、今やその寺院は荒れ果てており、壁がないからである。

二年間、ハーマネターは彼の母と共に住んだが、その後再び、彼の心は山腹で別れた仲間へと向かった。彼は彼の母へ言った。「私は出発しなければならない。というのも、私の心は私の命を救ってくれた者、そしてそのやり方が私のものである者を強く求めているから。男の女に対する愛は偉大であるが、男の男に対する敬愛はより大きい。」

そこでハーマネターは山へ再びやって来て、そして見よ、彼が森へ入ってたった半日でヤドルを出くわした。どれほど温かい挨拶をかわし、どれほど強く抱擁し合ったであろうか!ハーマネターは言った。「私は長い間君を探し求めたが、君を見つけ出すことはなかった。が、私が再びきたら、君がここにいた。」ヤドルは答えた。「それは例の遊女のためであろう。私はここにいたが、君は私と会うことはなかったし、私自身を君に知らせることも出来なかった。」

ハーマネターはヤドルと共に彼の母が住んでいた場所へと戻り、誰も彼らの素性を知らずに、彼らはそこへ滞在した。というのも、彼らは僧侶に扮していたからである。彼らはその場所の周囲の土地を耕し、その実りを楽しみ、二人共にハーマネターの母の知恵によって滋養された。

ニンタース(Nintursu)はシスダ(Sisuda)の系統の最後の街であった。始まりの時から一万世代が移り行き、再創造の時からは千世代が移り過ぎた。「神の子ら」(Children of God)や「人の子ら」(Children of Men)は塵へと帰り、ただ人間のみが生き残った。圧倒的な大洪水から百世代が移り行き、最後に「破壊者」(Destroyer)が現れてから百世代が移り過ぎた。かつて、人間は40歳以下までしか生きられなかったが、今やその寿命は60歳と10か月となっていた。かつて、「神」は人々と共に歩み、人々は「神」のみを知っていた。今や「神」は多数のベールの背後に隠ぺいされ、殆どの人間は、「神」を見ることがなく、ただぼんやりと、そして大きな歪みをもって見るのみであった。かつて一つなる「神」があった所には、今や星の数程の神々が存在した。にもかかわらず、「偉大なる鍵」(Great Key)は人々の間に残存し、それはここ、七人の栄光に浴した者たちの寺院(Temple of the Seven Illuminated Ones)にあり、それは「生命の鍵」(Key of Life)、我らの父祖ハーマネターの管理に預けられる鍵なのであった。それは秘密のものであり、何か並みならぬ偉大なものである。それは失われておらず、我々にまで伝わって来ており、我々の時代に知られていることなのである。

さて、ある日、ハーマネターが木の下に座って、昼の盛りに木陰を楽しんでいると、彼は見知らぬ人が近づいてくるのを見た。その男は疲れ果ててよろめいていたので、ハーマネターは召使をやってその男を木陰へと連れてこさせた。召使は急いで飛び出し、彼を連れてきた。彼は軽食を与えられ、足を洗ってもらい、それが済むと、ハーマネターは彼にどこを目指しているのかを尋ね、その見知らぬ男は答えた。「私はテイジェル(Tagel)へ行きます。というのも、その場所では、一人の強大な男がいて、私の嘆願に耳を貸すただ一人の者なのです。というのも、大都市では、そうあるべきではない厄介な事が起こっており、人々は集会の場所で声高く叫ぶのですが、ただ風に対して叫んでいるようなものなのです。ギルナムナー(Gilnamnur)が王の心を掴み、今や支配してます。12日の内に、私は結婚することを誓っておりますが、私の心には新郎の明るさはありません。というのも、王はその新婦の最初の男となることを決めているからです。これは古い神々から伝来する我々の慣習なのでありますが、私の心はブドウのようにねじ折れそうです。私の中では花嫁を初夜に王のなすがままとして与えてしまうようなことは考えられません。それ故に、私は、その慣習が許すように、結婚式場の扉で王に挑戦することが出来る人を探しに行っているのです。というのも、その女性は決して身分の低い者ではないからです。しかし、これは我々の時代の前に実行されたと、誰も聞いたことがない事であります。と言うのも、人々は神々を恐れるからです。一人の神々にささげられた者として王の前に立つことが出来る、他の如何なる者も私は知らないのです。」

ハーマネターは彼の話しを聞き、答えた。「悲観しないで。そしてこれ以上先へ行かないでも良い。と言うのも、私がその男だからです。」その見知らぬ男はこれを聞くと、感謝の念に満たされて、ハーマネターの前に跪いて言った。「どのようにお礼を言ったらよいのか、どのように貴方に報いればよいのであろうか、私は何を差し上げることができるでしょうか?」しかし、ハーマネターは答えた。「男がやらねばならないことをやる時に、支払や報酬はその行いを汚すものだ。」その後彼はヤドルを呼んで言った。「準備して。というのも、我々は王の街へ行って、ハーマネターは、エラカー(Erakir)が正当化されたので、彼の保護を主張したのだ。」それから、彼らは「天と地」(Heaven and Earth)の間にある小室の中で祈りを捧げた。

結婚式の祝宴の日がやってくるまで、彼らは新郎の兄弟と共に住んだ。というのも、新郎はこの街の者ではなかったからである。祝宴が終わった時、来客が立ち去る前に、結婚式場は新婦を中に控えさせて準備が出来ていた。そして、寺院の若い使者が呼ばわりながらあちこちへと触れ回った。すると、王が小室までやって来て、外で待つ夫のそばを通り過ぎた。が、そこには、扉の前に立っていたのは、右手を柱に置いたハーマネターであった。というのも、他の如何なる者も王へ挑戦するであろう者はいないのである。彼の左手には葦笛が握られていた。

その場に集まった者たちは、男も女も、後ずさりし、王の護衛の男らが前へ進み出て、その各々が王に替わって参戦する権利を主張した。というのも、ただ一人の男のみが王の前に戦うことが出来るからである。そのような慣習であった。進み出た者たちのうちから誰と戦うかの選択をする権限は、ハーマネターにあった。そして、彼が戦闘に通じた護衛長を選んだので、人々はびっくりした。が、ハーマネターはその男の弱点を把握していた。ハーマネターがその護衛長の左側へ躍り込み、彼の腋の下に一撃をたたき込み、彼が地面に倒れ込んで死ぬまでに、たった5発しか撃ち込まなかった。

そして、ハーマネターと王はそれぞれ身構えて、中庭の高みで戦ったが、その戦いは人々がこれまで見たことがなかったようなものであった。若いのと齢をとった者。敏捷さに対する経験豊かさ。スタミナと狡猾さ、彼らは共に戦いにおいて同等であった。彼らは、彼らの武器が壊れ、盾が割れるまで、お互いをめがけて切り込み合った。彼らは取っ組み合い、踏みつけ合い、塵の中を転げまわり、お互いに激しく殴り合い、格闘は水が底をつくまで続いたが、それでもまだ彼らは両者とも立っていた。それから、彼らは武器を持って戦うことが出来ず、非武装で立ち、そして今度はいずれも他者に死をもたらすことはできないようになった。彼らは用心深くお互いに円を描き、手すりからは距離を保った。その時、ハーマネターは素早い動きで脇へ跳躍し、王を捕らえて彼へと引き付け、彼をよじって、両者共にグランドの下の中庭へと落ち、そして王は肩越しに倒れたので、彼の胸骨は折れ、地面に倒れたままとなった。そこで、王の護衛が周囲に集まり、医術に優れた者が進み出た。ひどく傷ついたとはいえ、王が死ぬことはないであろう。ハーマネターは自分の紋章と正当な権利をその夫に与え、ヤドルと共に静寂の中で立ちすくんでいたその男と別れた。というのも、人々は彼らに害を与える事はできなかったからである。それで、ハーマネターとヤドルはその土地から離れた。というのも、そこは彼らには閉じられた場所であるから。そして、山ロバに乗って、アンフ(Anhu)への道へと出発した。

ハーマネターは広大な平原をヤドルと共に超えて行き、ママナタム(Mamanatum)によって導かれて、苦い水の小川まで安全にやって来た。そして、杉の森に隣接したマチャー(Machur)へとやって来て、そこに住んだ。ここは、「守護者ハンバンワラ」(Humbanwara the Guardian)に対する寺院があった所であった。


脚注

注1:原文は"under the of Hudashum"。法廷でヘサータを妻であると主張している場面であり、何らかの法律に基づくであろうから、"the"と"of"の間に"law"が抜け落ちていると考えるのが自然である。そして、数行後に、"the law of Hudashum"というフレーズが出てくるので、その推測は的を得ているであろう。

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