第四章 大洪水

「炎の鷹の偉大なる書」(The Great Book of the Firehalks)には、地上は二度破壊されたと書かれており、一度目は炎にてまるっきり、そして二度目は水にて部分的に破壊されたそうだ。水による破壊はより規模の小さい破壊で、次のようにやってきた。

その頃の人々は、あらゆる霊的な事を踏みつけ、人間はただ楽しみのためにだけ生きており、人間の美徳や人々の未来にたいしてほとんど関心を持たなかった。わいせつさと虚言がすべての人間の口から発せられ、仲間は他の仲間と公平に付き合うはずがなかった。王族や統治者たちは腐敗しており、正しい租税は支払われず、法律はないがしろにされて嘲笑されていた。人間たちの人生は彼らの欲望によって支配され、彼らは日々暴飲暴食、大量飲酒、姦淫、そして音楽の楽器に合せて歌や踊りに明け暮れた。

耕地は世話されることはなかった。というのも、人間たちは彼らの体力を不毛な欲望や楽しみで晴らしていたからである。女たちは恥じらいを欠いていた。というのも、多くの女たちは下心をもって一人の男へ目配せをしようとしたからである。男たちは仲間内で戦い、貞節な女たちは求められることがない一方、無価値な女たちに対する彼らの欲望のためにお互いに殺し合いさえもした。彼らは排斥さえされた。というのも、人間たちは彼らの先祖の目に価値ある者となる努力を拒絶したからである。妻たちは尊敬されておらず、楽しみの女たちだけが男たちの関心を巧みに操った。女たちは純潔ではなくみだらであり、男たちはお互いの存在のもとで恥もなく女たちと共に寝た。年を取った女たちは若い女たちよりもより好色であり、処女はそそのかされて子供の内に穢れさせられた。父たちはその息子たちの眼前で姦淫を行い、そのあっぱれな腕前は感嘆された。彼らは自分の息子と他の男、自分の妻と他の女を何ら区別することがなかった。欺瞞と暴力が四方八方に見られた。

東と北には高い山があり、そこには「ネジラの子ら」(Sons of Nezirah)、「山の男ら」(The Men of the Mountains)とよばれる種族が住んでいた。彼らは屈強な男らであり、力強い狩人であり、狩りに熟練し、戦闘では勇敢であった。その人々は高潔であり、彼らの妻たちは忠実であり、彼らの息子らは気高かった。彼らの心には無価値な考えはなく、ねたみや憎しみもなく、悪意や欺瞞もなかった。彼らは面と向かって滑らかな言葉を発する男の前で笑うことがなく、その男が後戻りする時に手を伸ばして彼を突き刺すこともなかった。彼らの妻や娘らのうちには、不純な熱望はなく、呪ったりうそをついたりといった話しも彼らの内に聞かれることはなかった。女たちは男らを尊敬しており、品位と礼儀正しさを保っていた。

それでも、彼らは男のやりかたをする男らであり、あらゆる形の男らしくなさや退廃を忌み嫌っていた。それ故に、平地の街にある宝物や、それら宝を有していた人々の弱点は、「ネジラの子ら」によって気付かれないことはなかった。それで彼らは内輪の中で言った。「我々は降りて行き、それらの人々の間で良い行いをしよう。我々は彼らに強い男のやり方を見せ、彼らを奴隷とし、彼らのものを我々のものとしよう。」彼らが実行へと掻き立てられるまでの間、この話しは市場や集会において男らの間で続けられた。そして、彼らは共に集まって戦士たちの戦隊を組んだ。「山の男ら」は彼らの習慣に従って彼らの間からリーダーを選び、平野の軟弱に生きている人々へ向かっていって、彼らの主となる準備をした。

「山の男ら」の長たちが何が起こっているかを見たとき、彼らは激怒し、彼らの戦士たちへ彼らの群れと牧草地へ戻るように命じた。長たちの長が集まった戦隊のまえに立って言った。「この事は為されてはならないというのが我々の決まりである。貴方がたは剣を持って、これらの人々の元へこの山から下りて行ってはならない。腐った果実が木の上でしおれて滅びるように、彼らを放っておくのだ。もう少し長く彼らを自分らの方法に従わせておけば、時が満ちれば、彼らは自滅するであろう。貴方がたの種族のなかで寡婦を作ってはならない。もし貴方がたが炎と剣を携えてあそこへ下りて行けば、貴方がたは贅沢な暮らしの内に貴方に仕掛けられた罠を見出すであろう。彼らの楽しみの魅力と彼らの享楽の誘惑は、貴方がたのような強い男たちには、炎が蛾に対して有するおとりのようなものだ。例えその達成方法が楽しいからといって、破滅に至るようなことをしてはならない。もし貴方がたがこの人々を滅ぼそうとしなければならないのであるならば、何も残らないように完全に滅ぼすことだ。我々は少数である一方、彼らは大勢である。激烈な強打の剣によって我々が戦闘に勝つとしても、柔らかい鳥の羽の洪水の元に我々が堕落するかもしれないのではないか?貴方がたはミルクや蜂蜜におぼれることなくそれらを摂るのに十分賢いであろうか?」

当面は、戦士たちは彼らの長たちの言葉を留意していた。というのも、彼らはわがままでもないし、向こう見ずでもなかったからだ。しかし、彼らの内の何人かは平和な平野部へ降りて行った。彼らはお宝の話しや下で待ち受けている楽しみに関する話しとともに戻り、低地人によって雇われた戦闘員たちが離れたので、襲撃の時は熟したと報告した。というのも、その頃には、「シャラピック」(Sharapik)の神々は「エリシュドゥール」(Elishdur)や「ラデック」(Ladek)の神々に対して争っていたからである。そこで、それらの戦士たちは彼らの長たちの命令を軽んじて、彼ら自身の内で司令官を選出し、山を下りて行き平野の人々へ向かって行った。

平野の人々は山の男らの強さの前に跪いた。彼らは戦わなかった。というもの、彼らの所有物のなかのすべてにおいて、彼らは彼らの命が最も価値あるものであり、他の如何なるものよりも貴重であるとみなしていたからである。彼らは言った。「我々が持つものはどのようなものでも、我々の豪華な物や収穫物、我々の居所にある秘蔵の品物、貴方がたの楽しみの為に我々の娘らさえもお持ちください。しかし、我々が貴方がたの影の元に生きることができるよう、十分なものを我々にお残しください。」屈強の山の男らは、3世代もの間戦う事なしに生きてきたこういった半人前の男らによってうんざりさせられ、山の男らは平野の男らを見下した。

山岳地方から降りてきた百戦錬磨の男たちは、彼らの望むものを何でも手にした。平野の男たちは意義を唱えたが、彼らの征服者たちの男らしさの前では、彼らは心配になった 注1 ので、彼らの異議申し立ては風の言葉のごときであった。勝利者たちは掠奪した美装で自分たちを装い、食卓のワインやご馳走に耽った。彼らは贅沢で蕩尽の限りを尽くしたベッドで眠り、すべての欲求は征服された者たちによって世話された。彼らは軟弱な生活を送る者たちと同調する肉欲に耽るやりかたを学び、自然の楽しみに満足すると、ある者たちは珍しい色彩の光で彼らの寝室を照らした。「山の男ら」は街の女たちが美しいのを見たが、彼女たちは慎み深くはなく、彼女らの魅力を主へと投げかけては恥じらいを持つこともなかった。それ故、彼女たちは要求された時に手に入れられ、動産のように取り扱われた。女たちは不平を言うこともなく、今まで彼女らは男らと同じように等しい立場であったが、女が半人前の男らと平等であるということは何の価値もあるものではない。

女たちがこのような状態であると、男たちはその欲望に何の制限も果たさなくなり、あらゆる過剰な行いへと走る。女たちは、男たちの力と活力を喜んで自分たちの間で言った。「ここにいる男たちは実に私たちが今まで知ることがなかったような者たちです。」そういうわけで、女たちのやり方として、彼女らは自分の男や自分の夫や父の家庭からそっぽを向いた。というのも、女らは今や彼らを忌み嫌ったからである。彼女らはあらゆる女性的な慎みを投げ打ち、むさぼり食らう獣のように勝利者を掴み取り、強い者は弱点によって負かされた。女たちの男が戦いに敗れると、いつも女たちはこのように振る舞い、このために男たちは戦った。

征服者たちに戦いを挑むものは誰もいなかった。というのも、神々のために戦った者たちは自分たちを破滅させ、そして時が満ちると征服者たちも、姦淫や過剰な飲酒、安逸さや享楽といった贅沢な暮らしによって破滅させられた。彼らの戦う力と勇気は過行く年月のうちに離れ去っていき、彼らは太り、怠惰になった。戦いと勝利のために男らしい隊列で山から降りてきた、そして平野の劣った男たちによって戦いを挑まれることは有り得なかった彼らは、酒場、音楽、ワインや素晴らしい亜麻布などのうちに、快楽の館の内で使い果たされた。

山の上、山の家々では、女たちは涙を流して悲しんだ。耕作地は耕されることなく、畜牛ははぐれて行き、羊の毛は刈り取られずに放置された。最も腕の立つ職人は去ってしまい、その技術を学ぼうとするものはほとんど残っておらず、学識のある先生はもはや教えることがなかった。剣を振るう節くれだった、敵を威嚇する手は今や、プサルテリウムやリラの弦をかき鳴らしていた。ざらざらしたジャーキンや胴鎧は脱ぎ捨てられ、そして今や衣服は紫色や深紅色にに染められた美しい亜麻布となっていた。男たちはその軟弱になった体をけばけばしい装いで飾り立て、香水の水を浴びた。彼らは、手と足を鮮やかな色で着色した、そしてその顔を青く化粧した街の女たちのために、彼ら自身の妻たちを退けた。

ある日、遠方より、山の噴火によって自分の国が打たれたアルディス(Ardis)の三人の男たちがやって来た。彼らはその光が人間の中で照らしている「一つなる神」(The One God)の崇拝者であり、彼らが二つの街に長い期間に渡って住んだ時、彼らが見た物事のために、彼らは心の中をかき乱された。それで、彼らは彼らの「神」にこれらの悪事を見るよう呼びかけた。彼らの「神」は街々の人々の上に呪いを送り下し、人間の喉につかみかかる不思議な光と煙のようなもやが出てきた。すべてのものが静かにそして心配になり、空には不思議な雲がかかり、夜は重苦しさで飾られた。北風が吹いて空が晴れるまでたくさんの日数が経過した。が、その後、女たちが子を孕むと、彼女たちは悪鬼をもうけた。彼女たちの子宮から奇形児がやって来て、その顔は恐ろしく、その四肢は不釣り合いであった。

その時代には、人々は粘土を加工する技術や鮮やかな色の亜麻布を作る方法を知っており、また目の染料の使い方を知っていた。彼らは薬草や呪術、魔法の知識を持ち、「天上の書」(Book of Heaven)の知識、すなわちしるしや予兆、季節の秘密、月と洪水の到来に関する知識もあった。

「ネジラの子ら」(Sons of Nezirah)の残りの人たちは、ラマック(Lamak)の野営地の周りの土地にあるアルディス(Ardis)に面した山の上へ残った。アルディスでは、秘密の知恵で満たされた賢者たちが居て、彼らは「天上の書」を理解をもって読み、しるしを知っていた。賢者たちは山の周りのすべての地域における人間たちの行いが彼らの定めの時をもたらしたのを見た。その後、「夜の淑女」(Lady of the Night)が彼女の衣服を異なった色のものに変える日がやって来て、彼女の姿は空を横切ってより素早く運び去られていった。彼女の髪のひとふさは、金色や銅色に彼女の後ろになびき、彼女は炎の戦車に乗っていた。その時代の人々の数は多数の群衆となっていて、大きな叫び声が天まで昇った。

さて、その賢者たちは、今は「サラペシュ」(Sarapesh)と呼ばれる「シャレピック」(Sharepik)へと赴き、王「シスダ」(Sisuda)へ言った。「見よ、年月は短くなり、試練の時はだんだんと近づいている。破滅の影は、その邪悪さ故にこの地域へ近づく。が、貴方は邪悪な者どもと付き合ってきていないので、貴方は離されたところにおり、非業の死を遂げることはない。このようにして、貴方の種は保存されるであろう。」その後、王は「ホガレチュア」(Hogaretur)の息子「ハノック」(Hanok)を呼びにやり、彼はアルディスからやって来た。というのも、そこで彼は葦たちの間の声が次のように言うのを聞いたからである。「貴方の住処を所有物を棄てよ。というのも、滅びの時が目前にあるからである。黄金や宝のいずれも猶予を買うことはできない。」

その後、ハノックは街々へと赴き、統治者たちへ言った。「見よ、私は海へと行き、その結果、私の人々をその上に乗せられるように巨大な船を建造しようと思う。貴方に厄介をかけた人々が私と共に行き、彼らは貴方を心配させた物事を持って行くであろう。それ故に、貴方は貴方自身の楽しみの為に平和にここへ留まるであろう。」 支配者たちは言った。「海へと行き、そこで貴方の船を作りなさい。それはうまくいくであろう。というのも、貴方は我々の賛同を得て行くからだ。」

しかし、ハノックは答えた。「船は山にもたれて作るべきであると、夢の中で私は言われた。そして、海は私のところまで上昇してくるであろう。」彼が去った時、彼らは彼が正気ではないと言い放った。人々は「海の司令官」(Commander of the Sea)と呼んで彼を馬鹿にした。が、彼らは彼を邪魔することはなく、彼の事業の進捗を見守った。その結果、巨大な船がホガレチュアの息子ハノックの指揮の元に、サラペシュの王シスダの為に建造され、王の宝庫から船の建造費用の支払いが為された。

その船は、それが分離した黄金の川のほとりの「ナモス湖」(Lake of Namos)沿いに建設された。ハノックのすべての世帯と作業に従事している人々を指揮した彼の兄弟の世帯はそこにいた。船のキャプテンでありアルディスの向こうの土地からやって来たドゥイヴァン(Dwyvan)は、職人たちの監督者であった。女たちや子供たちが運搬し、男たちが組み立てた。その巨大な船の長さは300キュビトあり、その幅は50キュビトあり、あと1キュビトの高さで完成するところであった。その船は3階建てで、休みなく建設された。

一番低い階は獣や家畜とその飼料のためのものであり、その飼料は川から採取した砂の上に敷かれた。中間の階は野鳥や家禽、人間や獣たちの役に立つあらゆる種類の植物のためのものであり、一番高い階は人々を乗せるためのものであった。各階層はそれぞれ二つに区切られており、船体中には6つの、そして甲板上に1つのフロアを構成し、それぞれが7つの区画で分離されていた。そこには水の為の貯水槽、食物のための倉庫があり、水を腐らせることもなく虫が侵入することもないアスカラ(askara)材で建築された。船体の中と外には松脂を塗布し、貯水槽が並べられた。厚板はかどをつけられ、接合部は動物の毛と油でかたく締められた。巨石が編み下げた皮のロープから吊り下げられ、その船にはマストもオールもなかった。そこからすべてのものを搬入する軒下のハッチを除いて、柱や開口部もなかった。そのハッチは大きな梁で固められた。その巨大な船の中へ、彼らはすべての生き物の種を運び入れた。穀物はバスケットにしまい込まれ、多くの畜牛や羊が肉として屠殺されて火で燻された。彼らはまた、すべての種類の野原の獣と野獣、野鳥と家禽、そしてすべての這い回る生き物を取り込んだ。また、金や銀、金属や石も取り込んだ。

平野の人々はこの不思議な事物を見るためにやって来て周りで野営した。「ネジラの子ら」さえその中にいた。そして、彼らは巨大な船の建設者たちを日々茶化した。しかし、これらの作業者たちはうろたえさせられることもなく、仕事に集中してより一生懸命骨を折って作業した。彼らは茶化す連中に言った。「自分の時を過ごすが良い。というのも、我々の時は確実にやってくるからである。」

定めの日に、巨大な船と共に行くことになっている人々は彼らの家や野営地を出発した。彼らは石に口づけをし、木を抱きしめ、手一杯の土を集めた。というのも、これらすべての物を、彼らはもはや見ることはないであろうからである。彼らは巨大な船に彼らの所有物を積み込んで、彼らのすべての飼料が彼らと共に積み込まれた。

彼らは雄羊の頭をハッチの上に据え付けて、血、ミルク、蜂蜜、そしてビールを注ぎ出した。胸を打ったり、泣いたり、そして悲しんだりしながら、人々は巨大な船に乗り込み、ハッチを閉じて、中から頑丈に固定した。

王および彼と共に彼の血族、総勢14名が乗船した。というのも、彼の世帯が立ち入るのは禁じられたからである。王とともに乗船したすべての人のうちで、二人が太陽と月の道、そして年月や季節の方式を理解していた。一人は石を切り出す者。一人はパンを作る者。一人は陶器を作る者。一人は庭の手入れをする者。一人は木や石を彫刻するもの。一人は屋根を葺く者。一人は木材を加工するもの。一人はチーズやバターを作る者。一人は木や植物を育てる者。一人は鋤を作る者。一人は布を織り、染料を作る者。一人はビールを醸造するもの。一人は木を倒して切る者。一人は戦車を作る者。一人は踊る者。一人は神秘の書記。一人は家を建て、皮を加工する者。

ヒマラヤスギと柳の木の加工に熟練した者がおり、なおかつ彼は狩人であった。一人は遊戯と曲芸に精通していて、彼は見張り人であった。川と土手を調べる者がいて、執政官であり、人々の頭領であった。「神」のしもべは三人いた。ハノックと彼の兄弟、そして彼らの世帯がおり、ドゥイヴァンと異邦人の6人がいた。

さて、夜明けと共に、人間たちは恐ろしい光景を見た。見よ、多量の黒くうねる雲に乗って、天の貯蔵庫の封印から新たに放たれた「破壊者」(Destroyer) 注2 がやって来て、彼女 注3 は「天界」(Heavens)を暴れまわった。というのも、この日は彼女の審判の日であったからである。彼女と共にある獣はその口を開き、火や熱い石や穢れた煙を噴き出した。それは上なる全天空を覆い、地上と天の出会う場所はもはや見通すことができなかった。夕方になると、星々の位置が変化して、空を横切って流れて新しい場所へと移った。その後、洪水の水がやってきた。

天上の水門は開かれて、大地の土台はバラバラになった。取り囲む水が陸地の上に注ぎ込み、山に押し寄せた。風の倉庫はそのかんぬきをバラバラにしたので、嵐や旋風が解き放たれ、それ自身を地上へ投げつけた。渦巻く水と吠える疾風の中で、すべての建物は破壊され、木々は根こそぎにされ、山々はなぎ倒された。高熱にさらされた時間があり、そして刺すような寒さが訪れた。流れの上の波は上下するのではなく渦巻いていて、上の方では恐ろしい音がしていた。

天の柱は破壊され、地上へ落ちてきた。天蓋は引き裂かれて破壊され、すべての創造物が混沌となった。天空の星々はその場所から解き放たれたので、混乱して激しくぶつかりまわった。高みでは反乱があり、新しい支配者がそこに現れ、威風をもって空を激しく吹き荒れた。

巨大な船の建造に精を出さなかった者たちや、建造者たちを茶化した者たちは、船が横たわっている場所へ急いでやって来た。彼らは船によじ登ったり、手で叩いたりした。彼らは罵り、嘆願したが、中へ入ったり、木材を破壊することは出来なかった。その巨大な船が水によって持ちこたえられると、流れに乗って運ばれて、(船にのることができなかった)彼らは一掃された。というのも、彼らの足場はなくなってしまったからである。その船は力強い洪水の怒涛によって持ち上げられ、残骸の間に放り出されたが、それが建造された場所のために、山腹へぶつかることはなかった。船の中で救われることがなかったすべての人々は、激烈な混乱の中で飲み込み尽くされ、そして彼らの邪悪さと腐敗は地上の表面から一掃された。

膨れ上がる海水は山の頂上まで洗い流し、谷間を満たした。それは椀へと注ぐ水のように増水したのではなく、巨大な押し寄せる奔流としてやって来た。が、喧騒が静まり、海水が静止すると、海水は地表の上3キュビト以上を超えることはなかった。「破壊者」は天上の要塞へと過ぎ去り、この大洪水は七日間に渡って残り、海水がその定めの場所へ排水されていくにつれて日ごとに減っていった。その後、海水は穏やかに広がっていき、その巨大な船はあらゆる種類の茶色い屑や残骸の間を漂流した。

何日もたった後、その巨大な船は、「アシュター」(Ashtar)の山々の中にあり、「神の地」(The Land of God)の中の「ニシム」(Nishim)に面する「カルド」(Kardo)へとやって来て停止した。


脚注

注1:原文は"their stomach turned to water"。What does ' My stomach turned to water mean '?によれば、何か心配している時の表現らしいので、「彼らは心配になった」と訳した。

注2:コルブリンで「破壊者」(Destroyer)の具体的な様子を記述するのはここが初めてである。まさにこの時初めて、太陽の重力圏に捕捉された「破壊者」なる褐色矮星が太陽系の中心部へ近づいてきて、地上へ炎の雨と大洪水をもたらすとともに、地軸の傾きを変化させた(星の位置が移動した)のである。そして、「破壊者」はいずれ再び地球へ接近するであろうと思われる。コルブリンの「破壊者」に関する部分を抽出して訳出したものについては、Destroyerの再来 を参照せよ。

注3:「破壊者」(Destroyer)を指す。女性形で表すのは受動的であることを意味し、「破壊者」が自分の意思で地球へやって来たわけではなく、人間たちから発ち込める「邪悪な臭い」に引き付けられてやって来たからである。

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