第一章 マヤとリラ

これは以前は「概念作用の書」(The Book of Conception)と呼ばれており、「ブロンズブック」(Bronzebook)の「最初の書」(The First Book)と言われていた。これは、光へと戻る奮闘の間の古の人間の「真の神」(The True God)に対する概念に関するものである。

かつてすべての男性は黒ずんでいて毛むくじゃらであり、そのような時代では、女性は森に住む野獣たちの力と荒々しさに魅了されており、人間の男は再び冒涜されていた。

それ故に、「神の霊」(Spirit of God)は女性に対して激怒した。というのも、女性の役割はその中と外の獣を退けることであり、光の中で歩む光の子を産むかもしれないことであるからであった。人の中には獣と神が存在し、神は光の中を歩み、獣は闇の中を歩むのである。

さて、成された邪悪さを理由として、男らの中に「獣の子」(Children of Beast)である者たちが出てきて、彼らは異なった種族となった。注1 人間の種族のみが罰せられた。というのも、獣はその性質に従って振る舞っているからである。

人間の中では、獣と神がせめぎ合っており、生きる神かまたは死の獣の間の場所を取ろうとすることを人間は決める。そして女はその弱さ故に、男を獣に陥れたのであった。

男たちは日々獣と苦闘し、住居を土から骨を折って得る。その日常は競争と労苦に取り囲まれている。同じように女たちは苦痛のうちに子供を出産する。そして彼女らはか弱いので、夫たちが女たちを指図する。

男は女の子宮のなかで受胎し、彼女は彼を産み生命をもたらす。それ故に、「神」が獣たちの間より男を引き揚げたとき、彼を「神」の継承者として選び彼に不滅の霊を与え、生命の入り口の上にベールを配置した。女はこういった種々のことを忘れるべきではなく、彼女は他のすべての生き物のようではなく、神聖なる使命の受託者なのである。というのも、女は死すべき定めたる存在に生命を与えるだけでなく、この世界に対して神性の火花をも帯びているのであり、それ以上大きな責任は存在しえないからである。

地上的な物事を見る目はあてにならないが、霊的物事を見る目は真実である。あの時、発生した所業により、「真実」(Truth)を見る「偉大なる目」(the Great Eye)は閉ざされ、それ以降人間は偽りの中を歩んだ。「真実」を知覚する事が出来ないので、人は人を欺く物事のみを見、彼が覚醒するまでの間はずっとそうなのである。

「神」を知らないので、人間は彼を産み、必要なものを提供した「大地」(Earth)を崇拝した。「神」は立腹したわけではなかった。というのも、子供の性質とはそのようなものであるからである。しかし、もはや子供ではないのであるならば、人々は子供じみたことを脇へ除けなければならない。あるいは人々を盲としたので、彼らが見えない事を「神」が激怒したわけでもなかった。というのも、「神」というのは、人間が理解可能なものすべてを超えたものであるからである。良い父の表情はいかめしく、彼のやり方はきつい。というのも、父としての責務は軽い負担ではないからである。が、彼の心は思いやりに満ちている。父の子らは「真実」を歩み、まっすぐであり、彼らの足取りが迷うことはなく、わがままでもなく強情でもない。

人間は泥、太陽、そして「霊」から生まれた。概念作用の時代には、「神の霊」(Spirit of God)が受容的な地球を懐妊させ、地球はその子供を生み出した。その後、小さな子供のように歩む人間がやってきたのだが、「神」は彼の手を取り、「神」のまっすぐさの中を歩む様に彼に教えた。

人間の種族は冷たい北方の土地からやって来た。彼らは一人の賢い父の元にあり、彼らの上には「偉大なる一団」(The Grand Company)がいたが、彼らは後にうんざりして引き揚げた。この種族は「神の子ら」(Children of God)であった。彼らは「真実」(Truth)を知っており、平和と豊かさのうちに生活していた。彼らの周囲の「人の子ら」(Children of Men)は未開で野蛮であった。獣の皮をまとい、獣のように生きていた。さらに野蛮なのは、彼らの向こうに住んでいた「ズマットの人々」(Men of Zumat)であった。「神の子ら」の間では、女性は男性と平等であった。というのも、女性の助言は賢明であることが知られていたからである。女性は理解力をもって聞き、その話しぶりは熟考されていた。あの時代では、女性の言葉には重みがあった。というのも、当時は、女性の口は乾燥した豆果の種のようにガタガタいわなかったからである。

女性は男性がその力で女性を圧倒するとはいえ、男性は女性への望みに弱いということを知っていた。男性の弱さに女性の力が存在し、その当時はこれを賢く利用し、人々の基礎となるものであった。その種族は優良であったが、その優良さ故に、打ちのめされる運命であった。というのも、良い容器のみが炎の役に立つからである。良い容器は焼かれ、形を整えることができ、そのデザインが持ちこたえるのである。このような平和の道は、進歩の道ではないのだが。

人々は王子や法令によって統治されている訳ではなかったが、賢人らが評議会に参加した。彼らは均斉の取れた生活の入り組みの中で各人が他者に対し義務を負う行動規範と道徳的しきたりのみを有していた。規範としきたりを犯した者たちは、人々の間で生活する価値が無いとみなされ、追放処分となった。

「人の子ら」の間では女は所有物であった。女は男に支配され、男の欲望を充足するためのモノであり、男の必要なものを提供する召使であった。男は女を抑圧して奴隷状態に置いた。と言うのも、女の男に対する裏切りは彼らのうちにおいてさえ知れ渡り、忘れられることはなく、許されることもなかった。

「神の子ら」は女性を高く評価し、粗雑さや残虐な行為から女性を守った。女性はもっとも価値ある男性にのみ与えられるというのが女性の地位であった。人々は尊敬の念をもって女性を支えた。というのも、人々にとって女性は、自分たちの種族のうちで生命の源泉であり、その未来の筋書を作る者たちであったからである。けれども、たとえそうであっても、人々は女性を制限しなければならなかった。というのも、女性はわがままに、あるいはその責任に注意を払わなくなりがちであるからである。

人々は繁栄し、世代から世代へと身長が伸びて端正な顔立ちとなった。彼らはその運命へと押し寄せている人類の増水する潮水であった。男性の結婚する権利は、彼の思考基準、まっすぐさ、規範としきたりを是認する方法、そして他の男性や女性たちに対する接し方に従って決定された。もっとも資格のある男性たちは、すべての女性たちのうちから相手を選ぶことができたが、より劣った男性たちは、周知の基準に基づき、魅力のより少ない女性たちの間からのみ相手を求めることができた。男性の外面的な姿しか有さないある者たちには、相手となる女性があてがわれず、しかしその一方、もっともりっぱな男性はより劣った順位の女性たちの間から追加の相手を取ることができた。このようにして、その種族は、その意図に従って、常に進歩する傾向があった。

人々の評議会は男性の女性に対する願望の強さをよく知っていた。その駆り立てる力は無駄にされることはなかった。というのも、彼らの先祖は、彼らの種族を他種族を超える優越へと導く手段に対してそれを利用してきたからである。自身の中に含まれる力を正しく導くことができた種族は、自身を超える力をいつでも正しく制御することができた。人間が自分の為に利用できるもっとも偉大な力は自分自身の中に存在している力であるが、人々の根源的な力は女性道徳のなかに存在していた。というのも、これは何か価値あるものの為の安全装置であったため、これが統治するところの力となったからだ。人間は黄金を求めて競争し、それは簡単に得られるものではないので、それを価値あるものと考える。もし黄金が一掴みで集めることができたのであるならば、人はそれを嘲笑うであろう。黄金の力はその希少性にあるのだ。

さて、一人の男が彼の男性的な強さと高慢さ故に尊大になり、彼の考えは人々の幸福よりもむしろ彼自身へと傾倒した。彼は古いやり方を嘲笑し、規範やしきたりは人間の背に背負わされた不必要な重荷であると言い放った。彼は言った、「なぜ我々は、我らの父祖から我々にまで伝わってきた重荷である物事を携えなければならないのか?我々はどうやって父祖らが知恵と共に歩んできたと知るのか?我々はどのようにして父祖らにとって良いものであったことが我々にとっても良いものであるという事が言えるのか?」彼の荒々しい話しぶりとわがままなやり方のために、評議会は当分の間彼を追放した。彼が離れた所に滞在していれば、彼の心も知恵のうちに控えめとなったであろう。しかし、「神の子ら」の間に一人の女がいて、最も魅力的で美しかったのであるが、彼が戻って人々の間で住めるように彼の為に仲裁をした。わがままな者はいつも再びその場所を回復することができるというのが、彼らの規範であったのである。

その女は荒野の中その男を探し求め、彼とふと出会って言った。「私の心ゆえ、貴方は私にとって一番すばらしい男性に見えるのだけれども、長老方の目には貴方が私を求めることはふさわしくないと映っています。それ故に、私は貴方のために話をつけてきました。さぁ、来て。貴方自身で彼らの前に行き、荒野が貴方のやり方を変えたと言ってください。そうすることによって、貴方は評議会からの好意を得ることができ、あるいは私が貴方の妻となることができるかもしれません。私が称賛する貴方の力と勇気は、男性的な点において貴方を高い者とし、長老たちもそれを気に入っています。しかし、貴方のわがままで思慮分別のない霊は貴方の肉体に相応しくありません。貴方が貴方の肉体の外見だけを見る若くて愚かな女性たちに引き立てられるとしても、それによって彼女らは更に愚かになるのですが、賢い女性たちの目は貴方の素の霊を見、欺かれることはありません。ですから、愚かな乙女たちの眼差しを顧みずに、良い振る舞いをしてください。貴方が賢い女性の視点で引き立てを受けるような物腰で振る舞うのです。」また、彼女は言った。「私は、すべての男性が求める最も魅力的な女性であるマヤ(Maya)ではありませんか?それにも関わらず、私は貴方のためにだけ留保され続けようとしているのです。ですから、私に相応しくないようにならないでください。」

その男は荒野や原野から出てきた。彼は賢い女性たちの評議会へ出頭して言った。「私がこちらの女性を伴侶として得ることができる為に、私は何をしなければならないでしょうか?というのも、私は、私自身の命以上になお一層、何にも増して彼女を望んでいます。彼女のために、私は人々の間で最も価値ある男となる所存です。彼女の基準は高く、他のやり方では私は彼女を手に入れることは出来ないでしょう。」賢い女性たちは彼に答えて言った。「貴方は長年に渡ってこの様に振る舞うものとする。」そして、彼女らは彼に時間と課題を用意した。その事に関しては立派なはずであるが、課題は行いと同様に心から行うことが期待されていた。が、その男はその件を喜んで受け入れ、彼の心は課題の日ではなく、やがてやってくるであろう日々にあった。評議会と長老らは言った。「賢い女性が行った事はみごとである。申し分ないし、人々の利益になるであろう。」

その男は男らしくその課題へと立ち上がり、彼の男らしさは立派であり、彼の新しいやり方はすべての乙女たちを喜ばせ、多くの乙女たちは不思議な動揺によって彼女らの胸の中をかき乱された。乙女たちの中には顔立ちがあまり整っておらずあまり魅力的ではない者もあった。彼女の心は彼の為に熱く燃えたち、彼女の思考は常に彼の事でいっぱいとなったが、彼女は、彼の眼中には彼女はいないことを知っていた。彼女の名前はリラ(Lila)であった。注2

ある日朝早く眠りから覚めると、リラはその男が湿地そばにある森の中へ立ち去って課題に取り掛かっているのを目撃するという事があった。彼女は自問して彼の後を追った。彼女は彼が一人でいる場所で休憩しているのに出くわし、優しく話しながら近づいて言った。「貴方のしもべ、リサです。ご主人様、貴方は日々の負担となっている仕事で疲れ果ててはいませんか?また、仕事を明るいものとする、友にすると良い喜びに欠いていませんか?貴方の強い背に重荷を置いた彼女はどこにいるのでしょうか?疑いもなく、私よりもより美しくまたより一層魅力的であり、それ故に貴方の重い労働に対するたいそうふさわしい褒美である、私の同族の女性はどこにいるのでしょうか?彼女は日蔭で休んでいたり、裏庭でフルーツを集めているのでしょうか?疑う余地もなく、彼女の考えは貴方と共にあります。しかし、彼女は、貴方を励ます役に立たないという意味において、冷酷過ぎなのではありませんか?というのも、女性は男性のところにやってきて彼女の優しさで彼の重荷を軽くするというのが女性の性質というものではありませんか?男性がその力を喜ぶことができるように、従順で素直であることが女性の性質なのではありませんか?ことによると、彼女の愛らしさにも関わらず、貴方が望む女性の心は女性の心を持ち合わせてはいないのではありませんか?それは、見ると甘いが噛むと苦い、見せかけのオレンジなのではありませんか?」

「あるいは、彼女が若者のやり方よりも年長者のやり方を好むので、彼女の心が年長者たちの保護を受けているのでしょうか?彼女が貴方に何をして差し上げましたか?貴方の男らしさを牡牛の様に人々の慣習へと抑え込むことによって屈辱を与えたのではありませんか?ずっと前に死んだ古い人々の命令が生きている男と女の間に来なければならないなんて正しい事でありましょうか?人々の慣習は我々にその性質を与えた「彼女」注3の法則に従うというのがよりふさわしいのではありませんか?貴方に骨折りと待つことを提供するあの魅力的な女性は貴方のものです。彼女は貴方のものです。しかし、条件なしというわけではありません。彼女は女性がそうあるべきであるように留保なしで手に入るわけではありませんが、ロバの頭部馬具を手にやってくる男のようにやってきます。ああ、貴方の上にくびきを据える愛らしさを私が欠いているとはいえ、すぐ下では私は何も欠けることがなく、他の女性と同様に女性らしいのです。私の心は貴方のために危うく私の体を焼き尽くさんとする炎で燃え立ちます。私を選んでください。私の慎ましい提案を受け入れてください。私はすべてを無償で差し上げます。私は何の条件もなく貴方のものになりましょう。おお、ご主人様、我々女性たちのうちで、どの女性が本当にありったけのものを申し出ておりましょうか?何も譲らないあの女性でしょうか、それとも貴方の為に神や男性たちから常に忌み嫌われようとしている私でしょうか?貴方の目に何でもない私は、私の為に貴方から何の犠牲をも必要としません。私は何もねだることなく、女性が提供できるすべてのものを提供いたします。」そのあとリラはその男の足下にひざまずき彼女の頭を彼の膝の上に乗せた。

その男は激しく肉体的に支障をきたし、それと格闘したのだが、彼の霊が彼の目前により魅力的な乙女の幻をもたらしたので、彼は力づけられた。彼は立ち上がって言った。「立ち去れ!私をこれ以上誘惑するな!」

それでリラはその場を立ち去り、自分の道を行った。しかし、心の中で彼女はじっと考え込み、数日のうちに彼女は卑劣な仕組みを考えついた。彼女は薬草から禁じられている霊薬を調合し、それを蜂蜜入りの水差しの中へ入れて、それを、日暮れの暑さのなかで骨を折って働いているその男のところへ持参した。彼女を見てその男は言った。「なぜ故にまたここへ来たのか?」そこで彼女は彼に答えて言った。「ご主人様、貴方のしもべはより一層控えめなご提供物を持参しました。貴方がより大きな事を行うことで恐れる必要のないものです。慎ましい元気を回復させる飲物の進物です。」その日は熱く、骨の折れる仕事もきびしく、その進物が歓迎されない事はなかった。その男はその水差しから大量に水を飲み、霊薬のために、獣が力を付けて彼の体に入ってきた間、彼の霊は眠り込んでしまった。

彼の情熱の炎が情欲の水によって冷めると、彼の霊が戻って来て、彼はその女をののしって言った。「貴女は何をしでかしたのだ?貴女はこの様にして私を滅ぼそうとするつもりなのか?」その女は答えた。「この行いは貴方のものです、ご主人様。というのも、貴方は男であり、私は女ですから。」それから、その男は心配になった。というのも、彼は規約やしきたりを知っていたからである。彼はおびえた男のやりかたのように憤慨して叫んだ。「お前のような毒蛇は私のもとから立ち去れ!私がお前を潰してしまわないようにな!」リラは落ち着いて答えた。「ご主人様、なぜ理由もなく恐れて激怒なさるの?というのも、この事は我々の間の秘密として、誰もこの事について知ることがある者はいないでしょう。御覧なさい、ご主人様、貴方は再び自由になっており、貴方の首のくびきは取り除かれているのではありませんか?今や貴方は、課業に従うことなしに女性が与えることのできる喜びを知っても良いですし。それ故に、ごゆっくりなさいませ。というのも、人生は貴方にとって良いものであるのですから。」

その女の言葉はその男の耳には甘く聞こえなかった。というのも、彼は為されてしまったことに対する自責の念で満たされていたからである。彼は言った。「貴女は、私の心の楽しみとし、また私が喜んで課業を引き受けた相手である、私の優しい願望の対象となる乙女ではない。その美貌は太陽の光輝と肩を並べ、その優しさは陽光の如く暖かくもてなし、その輝きの傍では貴女は憂鬱な影に過ぎない、そんな彼女をいったいどうしてくれよう?」リラは返答した。「彼女は実際に太陽のようです。貴方が焼かれて損なわれてしまうといけませんから、貴方は遠くから拝んで、決して触ってはいけません。」

「私は貴方の肉体が選んだ貴方の体の女性なのです。あの他の女性が貴方の為に何をしましたか?貴方自身を切断する剣を研いだのではないですか?もし、一人の男性がそこで眠っているのを知りながら、誰かが葦の中で火をつけるならば、彼の焼死に対して誰が責められるべきなのでしょうか?炎、火を点けた人、それとも葦?このように私に向き合うことは貴方の男らしさに悖ることでしょう。貴方の為に私は恥ずかしい思いをしたのではないでしょうか?そして、女性たちのうち誰が、私が行ったように神々や人々の怒りを招こうとしたことがあったでしょうか?貴方の欲望がやらかした過ちだけで満足なさいませ。この件は貴方が犯した悪行ですが、我々は今や肉体的に結合しているので、どのような害悪も私を通じて貴方に降りかかることはないでしょう。」

その時以来、人々の間では、彼らは別の道を行ったのだが、肉体が肉体を呼び合い、彼らを秘密の場所でこっそりと引き合わせた。それぞれが彼らの霊のとがむべき囁きと共に住み、それぞれが、規約としきたり故に不安の影の中を歩んだ。

さて、長老たちは鋭敏さを持たない訳ではなく、彼らはその男がもはや課業に対して勤勉ではなく、以前のやり方に戻ったのを見た。また、彼はマヤの目を避けるようになり、もはや女性たちが取っておかれることはなかった。彼は禁じられた果実を試食しては今や他の品種を求めるようになった。彼は、意図の中の目的へ向かって格闘する男ではなくなり、彼の振る舞いは自由な人のものではなかった。その男とその女の間の一瞥や不安は、察する事が難しいわけではなかった。

長老や賢者の女性たちは内輪で言った。「そのようなやり方は心の中に心配を抱える者たちのやりかたであり、その暗い愛は暗闇や隠れた場所で恥じ入りつつ花開く、弱々しいこそこそとした秘め事である。」それ故に、彼らはその2人に対して見張りをつけた。見張りは、彼らが一緒に裸で肌と肌を合わせ横たわっているところに出くわし、野卑なジョークで彼らを嘲った。というのも、彼らの熱情は不敬なものであり、嘲りの対象となるものであったからである。それは愛の木に生える一つのキノコであった。

彼らは長老と賢者の女性たちの評議会である高位評議会の前へ連れていかれて尋問されて言われた。「なぜ故に我々に対して罪悪を働いたのか?」その男は答えた。「この女が邪悪な霊薬をもって私の霊を眠らせ、私の肉体は私の男性らしさ故に弱くなったのです。」彼らは答えた。「まったく今の貴方にはほとんど男らしさがなく、この女故により劣った男となっている。」

その女は高位評議会の前に起立し、大胆に彼らに答えた。「それでは、私が二人のうちでより強いほうなのですね?私は最も大きな石を持ち上げたり、最も速いレースを走ることができますか?強い者はいつも弱い者に打ち勝ち、この男は人々の間で最も強いのではありませんか?この件は実にあなた方の心配の種なのでしょうか?というのも、どのような方法で我々は我々以外の誰かを害しましたか?我々は、我々二人だけに関わり、誰にも悪いことをしていない事案に対して罰を受けるのでしょうか?」

高位評議会は答えた。「他者の生活に影響を与える如何なる人物の行いも、他者の心配となるのです。あなた方の間でのみ秘密裏に行われたとはいえ、貴女の目に表れた当該行為の影響は皆が見出すのではないでしょうか?この事の為に、その男は人々により良く奉仕していますか?あるいは、より不満足に奉仕しているでしょうか?何かが人々に加えられ、あるいは何かが取り去られたのでしょうか?人々は失ったのではないでしょうか?」

「それ故に、貴女が行ったことは人々の懸念であり、あなた方だけのものではないのではなかろうか?行為そのものは、その達成方法を除いては、悪ではなかった。自分自身に何の価値も置かない女性は、すべての女性たちから何かを盗むのです。というのも、彼女らはその結果、男性たちの目により低い価値であると映るからです。道端で集めたとしたら、男性たちは黄金を価値あるものとするでしょうか?これら全てにも増して、「神」が授けた愛はどうなのか?貴女は男らや女らの間でその表現の意味を評価したりその品位を貶めたりしたのか?黄金を他のすべてのものよりも高く評価する人々の間で、その価値を切り下げたり、品質を落としたりする者は、人々に対して悪を働くのである。ここでは、愛が他のすべてよりも価値あるものとされ、女性はその管理人としての名誉を与えられており、その品位を貶めるものたちは同様に悪いものであるとみなされている。」

「我々は快適な場所に住んでいる。平和と豊富さ、我々の父祖らから受け継いだものだ。「人の子ら」は荒れ地を受け継いだ。我々の父祖らは、我々の父祖らの慣習が一蹴されるべきであるほど、彼らの父祖らよりも賢さで劣っているであろうか?あなた方が行った事はあなた方二人自身に関係することであり、あなた方二人自身によって、あなた方の懲罰が実行されるであろう。これは、我々に対して行われたいかなる悪行に対する懲罰というわけではない。というのも、我々は年齢を重ねており、我々にはほとんど影響を及ぼさないからだ。我々が罰するのは、我々は若い世代や我々の種族の未だ生まれざる者たちに対して責務を負っているからである。我々は、人類を鼓舞したり、人間を動物の上に位置付ける神聖な物事に対してより一層大きな責務を負っている。」

「あなた方の悪行はいかなる一人の男や女にも影響を及ぼさない。けれども、すべての男らや女らに対して影響を及ぼす。そして、顧みられずに放置されるかどうかは、いまだ生まれてきていない子供らに対して影響がないということはない。規約としきたりは我々の種族の柱であり、その柱は不純行為をもって打ち付けてよいわけではない。その柱が強靭であり、一撃がダメージを与えないとしても、多数の打撃はもっとも頑丈な柱でさえ打ち倒すであろう。顧みられることなく放置された打撃は他の者たちを助長する。無視された行為は奨励された行為となるのである。」

「種族は、それが罰したり容認した物事によって判断することができる。豚は塵芥のなかで満足を覚える。それ故に、その畜舎に入ってくる誰に対しても攻撃する。我々が完全にこの世のものであるならば、我々は地上的な物事をのみ保護する必要がある。」

「かくして、我々はあなた方を永久に我々の間から追放する。あなた方が老齢となって、憐れみをもって、戻ることを許されることがない限り。」

この様にして、その男と女は耕作地から追放され、かなたにある荒野をさまよった。彼らは、耕作地の境目の外と接する荒野の洞窟に住み、雑草や野生の生き物を食べた。そこでは、彼らは敵対する人々から守られた場所にあり、奇襲からは安全であった。彼らの懲罰の最初の頃は、その男はその女に対して激怒し、彼女に意地悪く話しかけて言った。「何の光ももたらさないランプのように、お前は女性的美徳のない女であり、我々の種族の女性に与えられる栄誉ある処遇を受けるにはもはや値しない。貴女が私は強く貴女は弱いと言った時、貴女は本当のことを話した。それならばそうあるといい。これからは、貴女の弱さは私の強さとなるであろう。もはや男性の弱さが女性の強さとなったり、内容のないものに固執する人々の中心的な支えとなることもない。今後、私は誰からも義務を負わされることはなく、私以外の誰に対しても責務を負うことはない。男は女に対する願望によってのみ弱いのであるが、女の弱さは今後、男の願望を満足させることを請け合うこととなるであろう。」

それで、その男は「人の子ら」の仕方でその女を服従させた。彼女は彼の世話をする妻となり言った。「ご主人様、私はただの女であり、貴方のお手伝いをする者です。」

荒れ地の獣はその女に対する看守となり、彼女はその不毛な土地に捕らわれの身となった。というのも、その荒野には川の水が届く範囲外にあり、雑草やとげのある低木のみが生い茂る荒れた場所であったからである。その男は野外で野生の生き物を狩り、その女は雑草の間にある食物を求めて根を引っ掻き回した。

かくして、ある日、空腹に耐えかねて、その女は耕作地の縁に茂っている葦の茂みの中へ出向いた。というのも、そこには花を咲かせる草木が生えており、その根は食用となるからである。その根を収集することに取り掛かっていると、農地を耕している農夫の目に留まった。その農夫は彼女の元へこっそりとやって来て言った。「女よ、私は貴女を見た。貴女は追い払われた人じゃないのか?もしそうであるならば、しきたりによれば貴女は死ななければならない。というのも、追放された者は、再び肥沃な土地へ入ることは禁じられているからだ。」

そこで、その女は、まだ水の中にいたのだが、彼女の腰帯を緩めて髪を下ろして言った。「私はもはや礼遇されることはないでしょうし、おそらく私は死なねばならないでしょう。けれども、私は生きている間は、まだ女性ではありませんか?もし貴方が女性のやりかたで男性を喜ばすことができる女性として以外に私を認めるならば、私は貴方は男性ではありえないと言います。ええ、私は貴方の同胞を、彼の欲望のもろい犠牲者をそそのかした女です。多分、荒野で次第に餓死するよりも、貴方の手で素早く殺される方が良い事でしょう。死は、私が人々に対する悪であると暴露した生活よりも私を傷つけるものではありません。貴方の同胞に対する悪行のために、私を今死なせてください。」そのように言いながら、彼女は水の中から出てきた。

その農夫は彼女を殺さず、代わりに彼は夕刻まで彼女と戯れた。その女は、彼が離れて行く前に言った。「この件は我々だけの秘密としましょう。というのも、ここで近くに我々を見る者は他に誰もいないからです。私に食物をください。私の肉が引き締まり、私の心が喜ばされるように。私がたびたびこの場所へくることが出来るように。」

かくして、続く日々の間、その女はその水場や他の男がいる他の場所へ足しげく通った。その結果、彼女はもはや根を掘り起こしたり、荒野で骨を折って働く必要がなくなった。

それから、「神の子ら」は、その女のために、他の男らを荒廃地へ追放した。そして、一番最初に追放された男は、事が起こった次第を見て言った。「貴女ゆえの私の苦悩は、終わることがないのであろうか?」その女は答えた。「ご主人様、この事は貴方の為に行ったのです。こちらの者たちを御覧なさい。彼らは荒野に追放され、彼らを統治する支配者もなく、導きの手もない者たちではありませんか?彼らを一つに集めて、貴方の為に狩りをして仕えさせ、彼らを支配して強くおなりなさい。私が行ったことは、貴方のためだけに行ったことなのです。彼らの力は貴方の力に加えられるでしょうし、肥沃な土地の人々の欠損はかくして貴方の利益となるでしょう。力で得ることができないものはいったい何があるでしょう?もし貴方の願望が他の女性たちであるならば、力でそれを得ることができるのではありませんか?それ故に、私を悪しざまに言うのはおやめなさい。なぜならば、私は今や貴方の手の上に貴方が望むものに対する手段を置いたからです。」

「さて、貴方に言いましょう。そして、女性たちだけが知ることができる本当の事をお話しましょう。貴方は耕作地に縛られて暮らす男性たちよりも、優れた男性なのです。そこの女性たちは規約やしきたりに屈従する男性たちを密かに見下しているのです。」

その男はこれらの言葉によりかきたてられて外出して他の追放者たちのところへ行って近づいて言った。「見よ、我々は男の性質に従った男のやり方に従ったがために追放された。我々の男らしさは我々の間では良きものなのだ。それ故にその男らしさを是認して、我々の力をより強いものとしよう。」

それで、追放された男らは、夜間にこっそりと肥沃な耕作地へ侵入して家々を焼き、給水塔をひっくり返して言った。「この土地も荒野に加わるのだ。」

彼らは男の住民たちを殺し、女子供らを運び去った。彼らは羊、ヤギ、畜牛を盗んだ。その後、彼らは荒れ地の要塞まで撤退した。そこで彼らは陣地を築き、壁や水路でその周りの防備を固め、「人の子ら」に対して戦争を仕掛けて彼らに打ち勝った。彼らは女たちを厳格に支配して奴隷とし、牛のように女らを売買した。男が「来い」と言えば、女はやって来て、男が「行け」と言えば、女は行った。女の従順な背中やすなおな頭に、男は怒りをまき散らし、女の奴隷の体で男は欲望を満たした。

リラは、最初の人間の種族を裏切った女 注4 の本当の娘であった。彼女の息子らが成人した時、その息子らに 注5 父を殺して食べさせて、息子らが生涯に渡る力と知恵を得ることができるようにした、と彼女については書かれている。

男は女を奴隷とした。というのも、男は女のやり方に関する彼自身の知識から、女は信用できないと知っていたからである。これより後、女は男らの間を自由に歩くことができなかった。というのも、女は弱く男は強いとはいえ、女性的な狡猾さによって、女は男の弱さを利用することができるということを人々は知っていたからである。追放された人々と「人の子ら」の間では、女は男に服従し、男はその意思を女に果し、女を威圧した。

このようにして、女性は自分自身の転落を働き、女性に高く敬意を表する人々の滅亡を招いたのである。女性は、その魅力をその足下へ踏みつける者たちの足元へと投げ出してしまった。女性は、生命の入り口の自由な守護者としてまだ適任ではなかった。女性は種族の父を選ぶために十分賢いわけではなかった。というのも、女性は女性的なわがままによって支配されており、知恵によってではなかったからである。


脚注

注1:なぜかこの一文だけ原文は現在形となっている。明らかにおかしいので過去形に訳出してある。

注2:原文は、"Here name was Lila."であるが、"Here"は明らかに"Her"の誤植であろう。

注3:「彼女」の部分の原文は"Her"。これが具体的に何を指すのか明確ではないためそのまま訳出したが、地球あるいはこの地上、この世界のことを表しているのではあるまいか。

注4:最初の人間の種族を裏切った女はおそらく、創造の書 始まりにてに出てきたミーヴァのことではあるまいか。ただし、ミーヴァの直接の娘というよりも、その子孫という意味であろうが。

注5:原文は、"she caused then to kill and eat their father."とある。ここの"then"はおそらく"them"の誤植であろう。その意味で訳出した。

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