第八章 グウィネヴァ(Gwineva)

ミーヴァは、一時はダダムの妻であったが、アルディス(Ardis)の人々の間に隠れ家を見出し、「カッコウの子」(Cuckoochild)グウィネヴァ 注1 を出産したのだが、その子が成長すると、その髪は赤くなった。誰もが金髪や黒髪の人々がいることを知っていたが、赤い髪の人を見たことがある者はいなかった。また、そのためによそ者が咎められた奇妙な疾病がアルディスに現れた。それ故に、これらの事により、ミーヴァとその子供は追放された。

彼らはクロウカシスとの境にある池までやってきて、アシの住居を建て、そこに何年もの間住んだ。しかしながら、ミーヴァは野獣によって殺され、グウィネヴァは一人取り残されたのだが、彼女は、彼女のところへやってくる顔見知りからたくさんのことを学び、それで彼女は魔法使いとなった。

時が過ぎて、ヨスリング(Yoslings) 注2 と呼ばれる半人たちが彼女の住居の周りに集まり始め、彼らは彼女が女神であると考えて崇拝した。彼女の名声が広まると、奇妙な女性に関する話が(クロウカシスの王となった)ハーシューの元へもたらされ、彼は彼女を見つけ出して報告させるために使いを出した。グウィネヴァはハーシューを知っていたのだが、ハーシューはグウィネヴァが誰であるかを知らず、また誰かミーヴァの子供が生きていることを知らなかった。ハーシューが報告を受けたとき、彼は好奇心をそそられ、使いを出して彼女を彼の元へ護送させ、グウィネヴァはハーシューの要請によりやって来た。使いの者たちは、鳥の羽の外套と雌鹿の衣服をまとい、他の女性のように髪をおろし、外套をほぼ膝のあたりまで垂らしたグウィネヴァを、ハーシューのいる場所へ連れてきた。ハーシューはほとばしる赤い髪に驚き、グウィネヴァの美貌に彼の心はかき乱された。

ハーシューはグウィネヴァに私室と付き人を与えたが、彼女は、ハーシューの周りの者たちが見下すヨスリング達に付き添ってもらうことを好んだ。彼らは奇妙な婦人について噂話をした。というのも、ヨスリングの男たちが自由に彼女の私室に出入りするのが見られたのだが、彼女の振る舞いは慎み深くおとめのようであり、ヨスリング達は彼女にあらゆる形で尊敬を示した。

実りの季節となり、ハーシューが集会の場所へ行くときに、彼はグウィネヴァを連れて行ったが、ヨスリング達は随行を許されなかった。それでヨスリング達は後に残ったのだが、人々は彼らを追い出した。一行が集会所へ到着してグウィドンがグウィネヴァと会うと、彼はぎょっとした。というのも、彼は暗い水の中にそのような女性の姿を見ていたからである。が、グウィドンはグウィネヴァを歓迎し、彼女の知恵と魔法の技量に驚いた。グウィドンが予言を行う時間が訪れ、彼を聞きにやって来たすべての人々が周りに集まった時、彼らは危惧の念を抱いた。というのも、グウィドンの予言が遅延し、月が欠け始めて、夜の暗闇に食されはじめていたからである。それから、人々が押し合いその場を離れ始めた時、大きな叫び声が起こり、グウィドンが現れた。彼が現れると、巨大な炎が彼の両側に沸き起こった。各々がもと居た場所に根を下ろしたので、人々はとどまった。

グウィドンは長々と話をし、聴衆に対し次のように告げた。夜空のしるしが新しい時代を布告している。また、月が再び満ちるように、彼らの種族は強く精力的に増大し、地表に渡り広大に覆い尽くして、彼らの前の劣った種族を追放するはずだ。ハーシューの一人の息子がクロウカシスの息子らを率い、彼らは共に西方へ、「霊の地」(Land of Spirits)を意味するへスぺリス(Hesperis)へと進み続けるであろう。そこで彼らは最後の運命と出会うであろう。また、グウィドンは彼らに次のようにも言った。兄弟同士が戦い、父が息子と戦う時、大きな流血沙汰があるであろう。が、これは彼らの種族の組織のための体制がその周りに編み込まれる中心軸を植え付けることになる。グウィドンはまた言った、「私は霊的先導者の前に行こうと思う。」

後ほど、ハーシューは、グウィネヴァに関する物事を知りたかったので、グウィドンに予言棒(omensticks)を投げて灰を読んでくれるよう頼んだ。グウィドンはこれを行い、彼女は彼の運命の相手、彼の妻となるべき女性であり、彼女は実際に真の処女であり、誰か他の男に先を越されることはないだろうと告げた。グウィドンは言った。「彼女は純真を通じて事を行い、軽率さによってではない。」が、グウィドンがハーシューへ言ったことは、彼が見て知ったすべての事のうちで、穀物袋に入った一粒の穀物に過ぎなかった。

ハーシューは自宅敷地へ戻ると、グウィネヴァへ言い寄り、彼と結婚してくれるよう頼んだのだが、彼女はこれを承諾するのに一年を要した。事の次第を聞いた人々は不愉快になり、この結婚に対してブツブツとつぶやいて、王が魔女と結婚するのは不相応であり、あらゆる可能性の中でも予想外なことだと言った。

また、当時は混血を禁ずる習慣があったが、グウィネヴァが何者であるかに関しての疑いはなく、或る者たちは彼女は受け入れられる者の一人であると考えた。

グウィネヴァはハーシューの血族ではなかった。それで、この結婚は近親相姦とはならないであろうから、グウィネヴァは彼らの事実関係については何も言うまいと決心した。というのも、彼女は彼との恋におちいっており、恋というものは常にいつでも言い訳を作りだすからである。

更に、彼女の知識や知恵にも関わらず、彼女の心は彼女の素性のために心配に満ちていたが、彼女はその不安を表に表すことはしなかった。彼女は人々の間にあってくつろぎを感じることはなかったが、ヨスリング達が戻ってくることを頼むことは決してなかった。彼女は、薬草や治療を用いて病人の世話をすることによって受け入れてもらえるよう試みたが、彼女がより多くの病人を治したり癒したりすると、より多くの人々が彼女を恐れるようになり、人々は、緊急に彼女の助力を必要とする場合以外は、恐れながら彼女を避けるようになった。

しかしながら、多くの者がグウィネヴァを妻以下の単なる妾か何かとしてとるならば、より受け入れられるであろうと勧告したにも関わらず、ハーシューの結婚の決意は固かった。人々は言った、「グウィネバが何の地位もない女性、つまり結婚外の相手として取り扱われるならば、誰も反対することはなかろう。というのも、結婚は彼女に過度の身分を認めてしまうであろうからだ。それに、結婚がそんなに必要であろうか?賢い男はいつでも自由に食べることができるパイを、お金を出して買うであろうか?」

そのような言い分はハーシューを立腹させた。というのも、彼はグウィネバは結婚に値する女性であると知っており、彼は人々にそれを伝えようとしたのだが、彼らは笑って言った。「彼女は貴方に魔法をかけたのだ。彼女をテストしてみればよい。」しかし彼は答えた、「それはふさわしくない。というのも、そのようなことは疑念と不信を表すからである。角や杖によってそのように名づけられたかどうかに関わらず、処女は処女であり、より劣った評判の女性の勝手をより知っている肉体的思考の男の推測がどのようなものであれ、そうなのである。」けれども、傾けられた結婚の障害がまだ多くの人々の心の中の疑念の考えであったかどうか。というのも、誰もグウィネヴァの血筋や、彼女が誰かを教化したかどうかについて知る者はなかった。これらの事を陳述するのは、習慣的に婚約時においてであったのだが。しかし、ハーシューとグウィネヴァは、来る結婚については知られるようになったが、婚約をしなかった。

ところで、イダルヴァーの親族で甥が人々の間に軋轢の種を仕込んだのだが、平和な時代であったので、戦争指導者の技量は不要な時代であり、多くの者がその言葉に耳を傾けた。それでハーシューを支持する一派とハーシューと対峙する一派が発現した。それでハーシューは人々に言った、「この事案を人々をバラバラにするものにするのではなく、次の実りの祝祭の折に決定されるものとしようではないか。」

種まきの時期が過ぎ去ったが、まだ収穫の盛りではなく、若い男たちは槍投げの競技を催し、お互いにたくさんの男らしい技量を試し合った。そのような折には、柵に接する壇上に座り、ハーシューは判定を下したり好成績のものに褒美をとらせていた。柵の内側には歩道と大きな石を投擲する場所があり、そのような場所の一つから殺人用武器がやって来て、ハーシューの頭を貫通して切込み、左肩を刺し通し、彼は地面に打ち付けられた。直ぐに大騒動や大混乱となり、戦闘が勃発して男らが死んだが、ハーシューはグウィネヴァの私室のなかの安全な場所へ運ばれた。そこで、彼は従者らに守られたのだが、柵の中は、ハーシューに敵対する者どもに占拠された。

卑劣な打撃の前には、ハーシューにつく者の方がより多数であり力があったが、彼がこれほどまでに激しく傷ついた後は、その数はより少なくなり、これらの多くが気持ちが傾き動揺した。というのも、人の性質とはそういうものであるからである。しかしながら、動揺した弱い葦と対比して、忠実さを維持する者たちは決意が固かった。というのも、これもまた人間の性質であるからである。

さて、グウィネバと賢者らがハーシューの手当てをした時、左腕が傷ついていた一方、その腕には感覚がなかったわけではなかった。というのも、左手でグウィネバの手を握ったからだ。しかし、右腕では、傷を負っている訳でもないのに、同じことができなかった。それ故に、殺人者が向けた武器には魔法がかけられ、いかなる女性や賢者であってもその魔法を解くことができなかった。というのも、彼らには経験がなかったからだ。その後の日々に、その魔法は悪霊どもが傷口から侵入して住み付くことを引き起こしたので、ハーシューは苦しみ、死の直前である静寂へと沈み込むかの状態に直面して意識を失った。その悪霊どもはグウィネヴァを口汚く罵り、彼女を穢れた名前で呼び、人々に向かって彼らの王を見捨てるよう大声で叫んだ。

ハーシューが横たわっていた場所は湖畔近くに位置し、その湖には「死者の島」(Isle of Dead)と呼ばれるインスクリス(Inskris)と呼ばれる島があった。そこには、水葬に委ねられる前に、死者と同様に死にかけている者たちを連れて行った。というのも、人々は、土中に埋葬された者は「他の世界」への到着を半分しか認識せず、何年もの間半分目覚めていて半分眠っている状態となるのに対し、湖に葬られた者たちは「他の世界」(Otherworld)を一直線に認識すると信じていたからである。それで、ハーシューに忠実な者たちは、彼をボートへ運び下ろし、彼やグウィネバと共にその島まで随行した。死を悼む者たちに干渉する者はいなかったので、彼らは妨害されることはなかった。

その島には僧侶と9人の聖なる乙女たちがおり、他の女性たちが新しく死んだ者を世話している間に儀式を執り行っていた。ハーシューは死んでいた。この世と「他の世界」の間を半分跨いでいた状態で。

ハーシューが到着した時、彼は収容所に置かれ、グウィネバが彼の世話をしていた。グウィドンはハーシューの裂けていた頭蓋を開き、そこを住居として占拠している悪霊を追い出し、魔王を取り除いた強力な霊薬を調合した。何日もの後で、グウィドンが発ったとき、赤子のように様々な点で弱いとはいえ、ハーシューはもはや死の扉の傍にいたわけではなかった。

ハーシューがひどい一撃を受けて横たわっている間、イダルヴァーの親類たちは互いに言い争っていて、それが戦闘と闘争をもたらした。しかし、誰もハーシューを害するために島へ近づいてきた者はいなかった。なぜならば、そこは聖なる場所であり、彼を庇護したからだ。実りの祝祭の時が訪れたとき、集会所では激しい戦闘があり、グウィドンは殺された。まだ完全に回復してはいないが、ハーシューが動き回ることができる日がやって来て、彼とグウィネヴァは彼らと共に残っていた者たちと一緒に出発した。彼らは彼らを庇護した島を離れる前に結婚した。

彼らははるか遠方の場所へ逃れていき、そこで年月が経つにつれ、ハーシューは再び体力を回復し、グウィネバは息子と娘を産んだ。そこは良い場所で、肥沃であり井戸水が出て、彼らは繁栄した。しかし、水が干上がったので干ばつの時期がやって来て、彼らの家畜は死んだ。そこでハーシューはクロウカシスへ使いの者たちを遣ったのだが、彼らは戻って来て、そこでもやはり国土が干ばつに襲われ、人々は困窮していると言った。彼はまた他の者たちを「西方」(West)へ送ったが、彼らは戻って来て、そこの土地は干ばつではないが、そこの人々は槍で戦う以外はハーシューたちを受け付けないであろうと言った。

そこでハーシューは使いの者たちをクロウカシスへ送り、そこの人々に「西方」に存在する豊饒な土地について告げたので、使いの者たちはイティリス(Itilis)によって率いられた戦闘団と共に戻って来て、多くの者たちがこれに従った。ハーシューはもはや武器を帯びて戦うことはできず、彼の息子らも今のところは若くて戦闘経験がなかった。それ故に、ハーシューは十分な年齢となっていた彼の二人の息子を、彼らが戦争の技術を学ぶことが出来るようイティリスの保護に委ねたのだが、息子らは忠実にイティリスの後に従い、後で起こる戦闘において豪勇なる者となった。多くの者たちがクロウカシスを去って「西方」に広がる土地へ引っ越して定住した。そして、ハーシューとグウィネヴァもそこに落ち着いた。

時が過ぎ去り、ハーシューは彼の知恵によって名声を博し、アラニア(Arania)の王であるイティリスは彼に栄誉を与えて領地と召使をとらせた。ハーシューの2人の息子は、双子であり王に従ってきたのだが、やはり双子である王の2人の年長の娘と結婚した。この件は問題を引き起こした。というのも、王には、3人の妻があったが、息子がいなかった。それ故に、ハーシューの双子の息子が王の世継ぎとなった。王は当惑した。というのも、二人の男が共に統治することは出来ないのだが、王の目には両者ともに平等な水準にあると映ったからである。けれども、王の死後に分裂が生じないように王の継承者を指名して人々に公布するのは王の義務であった。そのために、イティリスは、どのように判断がなされるべきかをハーシューに相談し、ハーシューは答えた。「誰が王となるであろうかは運命に決定させよう。」

アラニアでは、人々は年間に4回饗宴の集会を開いた。そのような時において、新しい法が公布されたり、審判が下されたり、すべての係争中の争点が調停されることが習慣となっていた。そこで、次の饗宴の前に、ハーシューは、砂、粘土、そしてその他の物質から作った石を準備し、それがまだ柔らかいうちに彼の大剣「激烈に噛みつく剣ディスラナ」(Dislana the Bitterbiter)を柄まで刺し込んだ。その石が固くなると、その剣を埋め込まれた石は王が判断を下す場所の近くに据え置かれた。その周りには大きな円を描いて円を横切る直線で二分した。

人々が王の言葉を聞くために最初に集まった時、イティリスはハーシューの双子の息子と王の二人の娘に関する問題を巡る彼の困惑について人々に告げた。彼は言った。「人々が分裂したり、王国が争いで引き裂かれることがないように、この問題が今裁定されるのがよろしい。それ故に、私は、私が等しく大切にしているこれらの男子以外のだれもが関与しない公平なテストを用意している。彼らのうちどちらでも、彼らの父の偉大なる武器をこの石から引き抜いて、その剣を自由として柄を握ったものが、私の法的な後継者となり、もう一人の者はその後継者に対する弟となるであろう。2人はそれぞれ、鳥の羽が落ちるまでの間に交互に挑戦するものとする。最初の挑戦者はそのブレスレットを剣に投げ嵌めたものとする。そういうわけで、ハーシューの息子たちはそれぞれ円を二分する直線が円と交わる地点に配置され、向かい合って立ち、それぞれが3つのブレスレットを持たされた。彼らは一つのブレスレットが剣を補足するまで投げ続けた。

それから、この一人が手で武器を引き抜くことに挑戦したが、剣の鋭さのために果たせなかった。もう一方は、彼の二つの手のひらを剣のそれぞれの側面に置いて、持ち上げる間に圧力をかけたが、彼も剣を動かすことができなかった。最初の者が再び挑戦し、たった今成されたやり方をより強い力でまねたが、石がほとんど地面から持ち上がったにも関わらず、剣は石から離れることはなかった。それからもう一人が石に近づき、今度は手を石の端の下に潜り込ませて腕で持ち上げられるようにし、近くにあった岩へ叩き付けて石の塊をバラバラに破壊した。彼はその後柄を掴んでディスラナを取り出し、彼の頭上に振りかざした。人々は彼を喝采し、彼の兄弟は祝意の為に彼の両腕を掴んだ。かくして、知恵によって、この問題は克服されたのである。


脚注

注1:日本語にしてしまうと判然としなくなるが、グウィネヴァは女の子である。また、カッコウは他の鳥の巣に「托卵」するが、そこからミーヴァとルウィドの不倫の子を「カッコウの子」と言っているものと思われる。

注2始まりにて に記述があるように、グウィネヴァはミーヴァとルウィドの子であり、ルウィドはヨスリングの一族である。だから、グウィネヴァは人間とヨスリング(半人)のハーフということになる。

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