第七章 ハーシュー、最初の父の息子

「始まりの書」注1 は我々にヴァルケルファ(Varkelfa)で始まるすべてのことを述べており、その中ではアウェンケリファ(Awenkelifa)と呼ばれ、そこからグウィニン(gwinin)とアウェン(awen)が流出し、グウィニンはすべてのものが正しいかたちを維持するためにそれらを安定化させる活力源であり、アウェンは形作る欲求に応答するものである。これでかなり十分ではあるのだが、人間は自分たちの種族の起源について関心を持っていて、我々の場合は太陽の顔(かんばせ)ハーシュー(Herthew the Sunfaced)、最初の父(Firstfather)の息子を起源に持つ。

ハーシューがまだ若い頃、彼は自分が生まれた青々とした土地から追放され、賢者ハバリス(Habaris)の保護のもと、過酷な土地を仲間と一緒に横切って旅をした。何日も後に、彼らは我々の種族の発祥の地であり、アーディス(Ardis)の傍にある、山と川の土地であるクロウカシス(Krowkasis)へ到着し、彼らはそこで谷に野営した。

彼らと共に、召使や獣の群れがあった。

ハーシューはそこで成人し、常にハバリスが彼の傍にいて、彼が知るべきすべての物事について教育した。ハバリスはハーシューにイメイン(Imain)の9つの戒律について教え、3つの聖なる容器の秘密について教えた。ハーシューは、世界には陰鬱な場所があり、そこでは空気は濁り、悪臭のある微風が疫病や有毒な粒子を運んでいることを学んだ。これはすべての病気や不快さ、そして腐敗と衰弱を引き起こす物の源であった。その場所は地上から閉鎖されてきた。というのも、そこは人間の認知する範囲外の他の領域に存在するからである。が、そこは禁じられた行為がなされると、地上と同調するように持ち込まれてきた。

かくして、人間の体は破壊的な場所からの影響を受けやすくなったのである。

その場所と「他の世界」(Otherworld)の同様な部分へ、邪悪なる者は、死の厳格なる門を通り過ぎる時に決まって引き寄せられる。しかし、ハバリスは邪悪さの異なった概念を教えた。努力不足、怠惰、責務や義務への無関心、安逸なる道を取ること等は邪悪なる実際の行為とまったく同程度悪い事とされた。彼は、人間は情欲の愛を真実の愛へ変化させることによって、生命の真の目的へ到達することを教えた。その真実の勝利は、情念とより卑しい自己を克服した、打ち勝った肉体の上にのみ、得られるものである。

こういった事、そして他の多くの事がハバリスによって教示されたのだが、彼の教えの多くが、ハーシューの父祖が連れ出されたより前のその当時の有りのままであったクロウカシスの人々を不愉快にした。そこで、ハバリスは彼らから多くの事を隠し、単純な物語で、彼らの理解の範囲で教えた。彼は彼らに年月の回転に関する秘伝を教え、一年を夏季の半分、冬季の半分に分割し、52年の大きな年の循環があり、その104周目が「破壊者」(Destroyer) 注2 の周期であることを教えた。彼は彼らに、「幸福と苦悩の法」(Laws of Weal and Woe)を紹介し、収穫祭と種子取祭の祝祭日を定めた。彼は彼らにウリシドゥイ(Ulisidui)の儀式を教えた。

しかし、ハバリスは、「他の世界」のやり方でハーシューを教育した。彼は彼に、中心にある目に見えない太陽からの3つの光線について教えた。その光線はすべてのものを現し、それらを支えて形の安定を保つ。また、「魂の自己」(Soulself)が人間の体を満たしたように、創造においてすべてを満たした「大霊」(Oversoul)についても教えた。この「魂の自己」は、彼が断言するには、人間の感性と感覚が、人間の中のより卑しい本能の抑止を通じて、神の感性と感覚へ変質することから発達することになる。それは人間の男と女の間、そしてその血縁のある者の愛の感覚の発展によって、美の正しい認識と責務への献身によって、そして動物にではなく人間に属するすべての性質の発展によって、強められるとのことであった。

ハーシューは、「魂の自己」は「神の頭」から流出する魂の実体によって活気づけられることを聞いた。強い魂はその望むかたちへとかたどられて変容させられるが、弱い魂は自分の主ではなく、活気がなくて落ち着きがなく、自身の悪行によって歪んだ状態へと引き寄せられる。死後の世界において、気高い魂には無限の喜びがあり、壮麗に輝いて堂々と光彩を放つ。邪悪なる者の卑しい魂は鈍い色を放ち、歪んでいて生気がなく、それ自身と性質の合う状態の方へ引かれて、暗い場所へと縮み上がる。

ハーシューがかろうじて成人の境目を超えたとき、黒い顎鬚の槍兵たちがクロウカシスの境界を掠奪し始め、その国の王であるイダルヴァー(Idalvar)は彼の戦士たちを一斉に招集し、ハーシューに命令が来たとき彼は出発の準備をした。しかし、ハバリスは彼にしばらく留まるように命じた。というのも、ハーシューはまだ戦の用意ができていなかったからである。そこで、ハバリスは石で奇妙な炎を起こし、その炎はかつて見た如何なる炎とも似通ていなかったのだが、その炎が下火になった時、彼は「緑の炎の子」と呼ばれるその炎を引き抜いて打ち延ばしてその炎は刀身となった。これをハバリスは角状の柄へはめ込み、その刀身を鋭くして血を吸わせた後にハーシューへ与えて言った。「見よ、「激烈に噛みつく剣ディスラナ」(Dislana the Bitterbiter) を。激しく正確に打つ人の忠実なしもべだ。」それから、彼は牛皮で覆われたやなぎ細工の縦と、顔や首に達する獣皮の縁なし帽を作った。ハーシューはそのように装備してイダルヴァーの野営地へ赴き、彼とともに戦う8人の戦士を得た。

当時は、男は手投槍や棍棒、投石や炎で鋭くし重しを付けた棒で戦ったのだが、戦場の衝突においては距離を詰めることはなかった。それでイダルヴァーがハーシューの剣 注3 を見たとき、彼は訝り、彼の理解を超えていたのだが、ハーシューが戦線に接近し敵の戦士が彼の前に倒れるのを見たとき、彼は驚いた。

王の周りの如何なる者も、炎と石から生じたそのような武器の製造法を理解することが出来なかったのだが、ハバリスは他にも作成し、ハーシューは王の右腕となり、「高貴な種族」の最初のヒーローとなった。王はハーシューに彼の娘との結婚を申し出たが、ハーシューは丁重に断って言った。「私の成人の日数は、まだ十分満ちていないのです。」

戦いに満ちた日々が過ぎ去った時、ハーシューはハバリスが輝く剣を作った場所へ引き揚げ、早くも他の者たちにその作り方の秘密を教えて、彼らの口を魔法で封印した。が、ハーシューは生命と死によって取り囲まれる「霊」の戦いの秘密ほど戦争の武器類には興味がなかった。なので、彼の職人たちが雷石から輝く剣を引き出す間、ハバリスはハーシューとその戦友たちに教育を施した。彼らがハバリスの口から学んだことは、以下の通りであった。

「「神」の向こうには、いかなる者も理解するはずのない「絶対的なるもの」(Absolute)がある。というのも、それは存在するのであり人間の有限な理解力を超越した状態で存在し続けてきたからである。この「絶対的なるもの」から「神」、つまり「すべてを完備した究極なるもの」が生じたのだ。」

「創造するために、「神」は最初、思考の中で思い描き、次に「彼」は流れ出る波の力を生み出し、それがある意味では「建築用石材」と呼ぶことが出来るものを結晶化させた。流れ出る力は「天界の讃美歌」をも作りだし、「建築用石材」を調和した形へと引き合わせた。従ってすべての創造物は「神」のハープであり、「彼」の歌や取り扱いに呼応すると偽りなく言われている。それは絶え間なく続く進展である。「神」の声は、すべての生命と美をもって成長するものを与える「彼」の美しい娘の声の中でも聞くことができる。」

「創造には、少数の者たちしか知ることが出来ない神聖なる目的があり、その知識はすべての答えのない疑問に対する鍵である。それを得ることは、室内を暗い薄明りにし続けてきた重いカーテンを開けるようなもので、そのようにしてすべてのことが突然くっきりと明瞭になる。注4 この知識を得る者は、長年に渡る謎に対する回答である「偉大なる秘密」を知るのであり、疑念の影を超えて知ることになる。この神聖なる目的とそれに関する神聖なる秘密は、「グウェンケルヴァ」(Gwenkelva)と呼ばれている。」

「グウェンケルヴァはさておき、「神」が「彼」の創造物から得るものは、無限の愛と善を所有する存在として、愛の贈り物を受け取りそれに応えるための何かを「彼」が持たねばならないことを除いては、何もない。死すべき定めたる存在の間においてさえ、自己愛に申し分のない満足感を見出す者がいることがあるであろうか?また、「神」が「彼」自身と接するための何か、つまりそこにおいて「彼」が遂行することができるある媒体を必要としており、それが創造なのである。」

「創造はまた、人間にとっては、人生の学校、神性への稽古場である。実在の3つの圏、3つの領域、存在の3段階がある。それらは:「天界」(Heaven)、「地上」で視覚化されたものの完璧さが実現することができる場所であり、願望や理念が実体化する場所。一生懸命得ようと努力した熱望が達成される場所。そこは、すべての正しく発展した人間の潜在的な霊的可能性が完成と成就に達する場所である。次に、「地上」(Earth)。鍛錬の場所、成長と準備の場所、試験場、人生の難問に直面したときに自分の本当の性質に気付く戦場。抗争と闘争の場所。競争と論争がルールの場所。目標や目的が思い描かれ、後に正しい場所で実現するために考え抜くのはこの場所においてである。それは開始地点であり、旅の始まりである。正しい道を賢く選択しなければならないのはこの場所においてである。その次に、「霞んだ限界の領域」(Realm of the Misty Horizen)がある。それは中間的な場所、霊の場所であり、そこでは上の者が下の者と言葉を交わすことができ、自由な霊はその限界の範囲内で彷徨うことができる。」

ハバリスが遠い昔に教えたこれらの事は、我々の理解に合うかたちでメッセージとして書き直されてきたが、言葉がわなとなり不用心な者を陥れる厄介な今時分にそれらを声に上げることは賢い事ではない。

ところで、イダルヴァーは雷石を生み出す輝く剣の秘密を知りたがったのだが、ハバリスと共に来て彼の為に働く如何なる者もそのどんな些細なる部分をも打ち明けようとはせず、王は彼らに試練を果たすことを躊躇した。それで一計を案じ、王は娘たちを呼び寄せ、彼が彼女らに期待することを話した。というのも、彼は輝く剣の秘密を知るための計画を考案したからだ。それから、王はハーシューとハバリスへ招待状を送った。彼らが王の陣地に到着すると、彼らは、彼らの名誉の為におびただしい数の人が集まっているのを見、王の娘たちが好意をもって彼らにかしずき、一人がハーシューに、もう一人が白髪の年齢にあるハバリスに微笑みかけた。初めはハバリスは無関心であり彼女を飽きさせたが、その王の娘は彼に媚び、彼の愚行さえも促し、彼女の機知と美しさで彼を魅了しようと試みた。

彼女の女性的な策略がハバリスの心を陥れるのに非常に長い時間はかからなかった。彼は秘密の明け渡しのためにほとんど出来上がっていたにも関わらず、その王の未婚の娘の努力は彼女に重い負担をかけ、その戯れはうんざりとしたものになり、夕方になるとハバリス一行に対して持ちこたえることが出来なくなった。酒盛りの最中、酒杯がいくたびも満たされ、歌の音楽や語りが最高潮に達した時、彼女は王の付き添いである若い戦士と共にこっそりと席を外した。長椅子に座る多くの人たちがこれを見、互いにささやき合い、自分の酒量いっぱいまで飲んだように見えたのであるが知る由もないハバリスの方向に心得顔にうなずいた。

ハバリスはその若い女性を愛してしまったことを知り、彼の心は激しく打ちのめされた。が、彼は心の中で、冬の愛の木には冬の果実しか実らないことを知っていた。けれども、彼は彼女のための自分自身への言い訳をこさえ、それは恐らく浮き立つ鳥の羽以上の重みのない単なるある種の少女らしさであり、重大な意味がないものであろうと考えた。というのも、酒盛りというものは女性の性質よりも男性の性質により合うというのは真実であったから。たぶん、彼は思ったのだが、それはただの罪のない軽率さであろう。

それで、日数が満ちて、先の酒宴を陽気に騒いだ者たちが大いに自分たちの仕事に従事しているとき、ハバリスは王に近づき、彼の娘との結婚を求めた。彼は言った、「貴方の娘クララ(Klara)は彼女の愛嬌のあるやり方で私を楽しませ、彼女はその快活さと美しさで私を魅了しました。彼女は私の一行に多くの楽しみに満ちた振る舞いを見せ、もちろん、私はそのしるしを読み違えることはありません。」王はむやみに喜ぶことはなかった。というのも、彼は輝く剣の秘密を非常に知りたいと願っていたにも関わらず、彼の娘をハバリスと結婚させるつもりではなかったのだが、ハバリスを怒らせるようないずれのことをも望まなかった。それ故に、王は用心深く答えて言った、「高貴な生まれの女性の手を望むいかなる求婚者にとっても、彼自身が高貴な生まれであり、立派な戦士の家系であることが風習となっている。が、私はこの結婚に対しそのような風習さえ障害とはさせたいとは思わないのは、貴方に対する好意の証であり、また貴方は貴方の種族の間では戦士の家系に生まれた男であるかもしれない。しかし、我々はこの事を軽く扱わないことにしよう。というのも、その少女は未だ若く、あなた自身の彼女への好意を確立したのであるならば、それは良い事であろう。彼女は実際に立派な妻となるであろう。というのも、彼女は常にいつでも学ぶことができ、知りたがる精神を持つ女性だからだ。知識を得るよりも大きな喜びを彼女に与えるものは何もない。」そのようにして、この問題は保留されたのである。

さて、何日か経った後、イダルヴァーと彼の従者たちは、ハーシューとハバリスを伴って、人民の祝祭の為に、約5日間の旅程で集会所へ行った。人々は(太陰暦の)13か月ごとにそこに集い、豊かな実りの季節を祝うしきたりになっており、多数の人々が非常に長い距離をやって来た。集会所の傍には、グウィドン(Gwidon)と呼ばれる広く知れ渡った 注5 予言者かつ魔法使いの敷地があり、彼は満月の夜の後3夜目に、来るべき年の出来事を予言したものだった。

イダルヴァーと彼と共に来た人々は、彼らの贈り物を差し出し、敷地の前の定位置についた。ほどなくして、グウィドンが野犬の皮の外套、角のついた冠、そして頭が頭蓋骨の杖を纏って出てきた。彼は処方物を投げ入れる小さな炎の前に着席し、彼を完全に覆う煙の雲を作った。この煙が流れ出ていくと、彼は眠っているようであったが、しばらくして彼は頭を持ち上げて立ち上がり、予言を始めた。

彼はしばらくの間、小さな物事について話し、それから「ノースランド」(Northlands)から迫り来る敵を通じて人々に対して危機が訪れることを話した。彼はおびただしい流血を予言し、人々は偉大なる戦争指導者、すなわち輝く剣の秘密を知り、彼自身兵器を振り回す王によって救われることもあり得るだろうと彼らに予言した。彼は人々に自ら奮い立ち準備を進め、早急に彼らの指導者を見出すことを勧告した。

人々の内でハバリス以外の如何なる者も輝く剣の秘密を知らなかったが、彼は戦士ではなく、ハーシューは人々のうちで高貴な生まれの者ではなかった。それで彼らは長く混乱して話し合ったにも関わらず、その問題を解決することができなかった。それで、各自が各自の道を行くべきであると決定され、グウィドンが彼らの意思決定を手助けできるであろう次の満月において、再び同じ場所に集まらねばならないこととされた。

イダルヴァーは陣地に戻った時、彼は彼の娘の結婚についてもはやためらうことはなく、直ちに実行せよと命じた。ただし、彼は、ハバリスが彼と彼の息子らを輝く剣の秘儀へ直ぐに参加させなければならないことを条件として要求した。この件は承諾され、結婚の準備が進められた。

ハバリスとクララは結婚し、イダルヴァーと彼の息子らは輝く剣の秘儀に部分的に参加した。というのも、王は、秘儀への参加が完了するにはしばらくの時間がかかることがあると言われたからである。それで、彼らが次に集会所へ行ったときに、イダルヴァーが戦争指導者であると宣言され、もし王が戦争で倒れた場合には、彼らの息子らはその年齢に応じて彼に次ぐこととなった。しかし、ハバリスは、もしイダルヴァーの息子らがすべて倒れたならば、ハーシューが戦争の長となる心積りであることをグウィドンに秘密裏に話してお膳立てをした。

王とその従者たちは、戦闘員を集めることになっている自宅敷地へ戻ったが、ハーシューは集会所へ戻り、そこで戦闘員たちに対し、最前線でぶつかり合う戦術に関する訓練を行った。

さて、ハバリスとクララの結婚式の夜、彼らが閨房へひきこもると、クララはドッと泣き出し、涙を流しながら彼女の頭をハバリスの膝に垂れて、自分が処女でなく、彼を欺いていたことを白状し、彼の許しを懇願した。ハバリスは彼女を立ち上がらせながら言った、「もっとも賢い男でさえ、その心が彼の思慮分別を見えなくするときには、馬鹿になる。齢を取るほど、馬鹿さ加減も大きくなる。」彼は問題となる情事に関して彼女を問い質すことはしなかった。というのも、彼は、彼女が彼を愛することはできないことや、彼を欺くこと、そして彼女が彼女の心と処女を他の誰かに与えてしまったことを知っていたからである。にもかかわらず、彼は、彼女は故意に彼を欺いたのではなく、彼女の父に対する義理からそのように演じていたのだと考え、彼女の為に彼に対する言い訳をしてみた。また、真に誰かを愛し、その愛を表現することを望んで、彼女はやむ得ずその幸せと満足、そして彼女の夫となるであろう人の自尊心を犠牲にしなければならなかったのであり、その選択は彼女によってなされたのであった。そういう事は常にそうなるものだ。ハバリスは、彼女の父は事の事情がどのようであったかを知っているのかと訊ねると、彼女は言った。「彼は疑っていました。というのも、私は彼の娘ではありませんか?」かくして、ハバリスは愛情が無い妻に結び付けられることを見出した。というのも、彼は人々の慣習を等閑視することを選んだからである。彼女もまた不従順で不実な者となるのであろうか?彼はけげんに思った。

女性は彼女の夫のために彼女自身を確保しておくものだが、そうでない場合には、彼女の結婚の基準に従うことになる。結婚に値する女性というのは、不実なことをしそうもない者のことであり、結婚前に簡単に手に入ってしまう女性というものは、結婚後もやはりそのようになるのである。というのも、もし彼女が愛が基準であると言うならば、彼女は標準からはずれた何かによって判断しているのであり、それは比喩的に1インチから1マイルまで変わり得るものであるからである。その愛を言明する男性は、心の誘惑か、または終生に渡る献身的保護を持っているかもしれないが、結婚の申し込みがその違いを決定し、男性の意図を確立する。

ハバリスとクララの結婚の後、王はハバリスへほとんど関心を示さなくなった。というのも、王は急派をどこかへ使わさねばならないときに、クララの若い戦士を彼の従者たちに留めたからである。クララについても、外部への体裁としての態度を除いては、妻らしい尊厳となる慎みや礼儀正しさを保つことはなく、そのような態度は、堕落した隠れた愛を隠ぺいするために人を欺く上っ面以上のものではなかった。かくして、ハバリスは人々にみくびられる恥を負ったのである。というのも、クララは密かに不実を働いていたからである。

ハバリスはハーシューを訪ねた。ハバリスは戻るとすぐに王とその息子はこれから最後の秘儀を授かるであろうと王へ告げた。それで、準備が整うと、彼らはクララを伴い雷石の場所へ出発した。その場所は深く裂けた山にあり、そこには川が流れ出ている大きな洞穴があった。洞穴に入ると、ハバリスは彼と共に来た者たちにその場所にとどまるように告げた。というのも、イダルヴァー、その息子、そしてクララのみが秘儀の場所の中へ彼と同行することになっていたからである。その秘儀の場所は小さな洞窟で、重い扉に閉ざされた長く狭い通路を通じて入り、準備済みの炎によって照らされおり、その炎は青い光彩を放ち鈍く燃えていた。

長い時間が経ったので、待っていた人々は心配になったが、彼らが扉に近づくまではしばらく時間がかかった。扉に近づいてみると、彼らの喉が掴まれたので、彼らは恐れおののき逃げ出し、そのうちの一人は死んだ。その後、雷石の秘儀を知っていた人々が現れて道をあけたのだが、洞窟の中の全員が死んでいた。ハバリスはやらねばならないことを遂行した。というのも、人間が人間の法に従うのは望ましにも関わらず、人間たる人間が従って生きるべき「神」の法というものがあり、それは時に人間に死を強制することがあるのである。

ハーシューはイダルヴァーの娘と結婚して、7歳で亡くなった息子をもうけた。イダルヴァーの娘は出産の折に亡くなった。侵略者がやって来たが、彼らは大虐殺をもって打ち負かされ、そしてハーシューはクロウカシスのすべての人々を支配する最初の王となったのである。


脚注

注1:原語は"The Book of Beginnings"。"awen"については第五章 始まりにてにも出てきたが、それ以上の記述があるので、おそらく失われた別の文書なのではあるまいか。

注2:「破壊者」(Destroyer)と訳出したが、これは人間ではない。コルブリンのここに最初に出てくるが、読み進めていくとそれが地球に大破壊をもたらすものであることが分かる。その様子から察するに、「破壊者」は、数千年周期で太陽系中心部へやってくる、太陽の周りを彗星のような細長い楕円軌道を描いて周回している褐色矮星であろうと思われる。コルブリン中から「破壊者」(Destroyer)に関する記述をまとめた私のブログ記事があるので、興味がある人は読んでみると良い。

注3:原語は"battleblade"直訳すれば「戦闘用刀身」であるが、要するに「剣」である。

注4:原語は"became"と過去形であるのだが、それでは主節の現在形と整合が取れない。よって現在形で訳出した。

注5:原語は"far-framed"とあるが、それでは意味が通じない。"far-famed"(広く知れ渡った)のスペルミスであろう。

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