第六章 ダダムとルウィド

ミーヴァは一目散に逃げ、多くの親類が彼女と同行した。しかし、ダダムは病床に臥し、ついて行くことができなかった。これが彼の口を奔放なものとし、感情を抑えることができなくなり、子供のたわごとのように話し、その病気は彼の体を赤い腫物で覆い、そこから膿が出てきた。ルウィドも荒野の遠い所へ立ち去った。

ダダムと共にいた人たちは、ガーデンランドの場所の方角を振り返り、眩しい光の舌がその空をなめているのを見た。その全体が様々な色の明滅する炎で絡み合わさっているようであった。そこへ戻ろうとする者たちは、その体のヒリヒリする痛みによって撃退され、その痛みは近づくにつれて猛烈な痛みへと増大したので、彼らは追い払われた。

ダダムが立てる程に回復すると、彼と共に数名が残っただけであった。彼らは皆荒野を進んでいき、水と牧草地がある場所へ着いた。そこでダダムは、彼の息子であるハーシューとその母を博識のハバリス(Habaris)と共に残し、ルウィドを探しに出かけた。

何日もたった後、ダダムとその同行者はルウィドとその仲間のヨスリング達と出くわした。彼らは病気だらけであり、多くの者を殺していたのだが、ルウィドは致命傷であったが殺されず、彼は緑色の岩に横たわっていた。ダダムが近づくと、ルウィドは重たげに腕を上げて言った。「我々の悲惨さを終わらせるためによこされた勝者にして恩恵を施す者に万歳。」ダダムがルウィドの処分を案じながらいかめしく立っている間、ルウィドは言った。「今私を殺すのは貴方の大権だ。というのも、たとえ神人から遥かに隔たっている我々のような劣った者たちでさえ、純潔の法 注1 がある。私が行ったことはかつて行われたのであり、再び行われるであろう。が、私は識別することができない未知の境界線を渡ることによって過ちを犯したのだ。というのも、我々の間では、あなた方と同じようにお互いに伝染的ではない。もしそれで私が死ななければならないのであるならば、我々両方の種族を襲った病気の尺取虫 注2 を生み出すのを私の役目とさせてくれ。」

「遡って夢の時代に、「偉大なる神々」が天空の支配の為に互いに張り合い、地上の広大な区域がこの世のものとは思えぬ猛火によって引き裂かれていた時、「ベモサ」(Bemotha)はシェマス(Shemas)の輝く矢によってバラバラに切り刻まれた。そして、この国土は我々の種族にその支配対象として与えられ、他方あなた方の所領は遠く離れた別のこの世離れした場所であった。我々の支配地域は心地よい場所であり、これがために我々は有りのままでいるのだとあなたがたが教えたにもかかわらず、依然として我々は満足していた。我々は偉大なる設計について何も知らず、人間が熱望しなければならなく、そしてほとんど得ることが出来ない目的についても知らない。あなた方が知るようなそのような努力は、我々にとって、無意味な苛立たしさに過ぎない。」

「私には私の「神」があり、あなたにはあなたの「神」がある。そして、彼らはかつてお互いに対抗して戦ったので、常にそのようになるであろう。が、今や新たな族長と共に新たな戦場がある。私は私の約束の場所へ行き、あなたはあなたの場所へ行く。そしてそれ以降、この喧嘩騒ぎのリーダーとして、我々は決して止むことのない戦争を行うことになろう。そのように運命づけられているのであり、そうであらなければならない。が、誰が彼らの王の為に正当な栄誉を勝ち取るのであろうか?我々は棍棒や槍、投げ石や空を飛ぶ投げ矢をもってではなく、より微妙な兵器類をもって抗争するであろう。この事は我々の選択ではなく、我々は運命のおもちゃに過ぎない。あなたと私がこの喧嘩騒ぎを率いるのは、我々の本質によるものではなく、我々が我々がいた場所に、我々がいた時に存在したためである。ところで、我々は敵意ある荒野にて、二つの人生の不安定な地点にいるだけである。が、百世代のあいだに我々はどのようになるのであろうか?」

ダダムは言った。「これらの事は私も知っている。というのも、私の目は常に開いているからだ。私もまた地平線の見えない終わりなき平原を見晴らしている。が、私は、探求と努力を通して強くなった人々を率いるだろう。対して、あなたの階級の人々は、歓楽やこの世の楽しみとなる場所に耽溺することを通して弱っていくであろう。我々は勘当されたものたちであるが、縁が切れたわけではなく、我々は我々のうちに勝利の種を宿している。あなたとあなた方は、あなた方以上のものではない。安易な道を行く子らであり、下り坂の道を辿る者たちである。

その後、これらの事が話された時、ルウィドは死に、ダダムとその同行者たちは彼の死体を焼いた。ダダムとその同行者たちは何日もの間荒廃地を彷徨い、その後山へ向かい南方へ転回した。それから、ある日、ダダムが一人で岩の間に離れて顎を胸の上にのせて座り込んでいると、ユバライト(Ubalites)の狩人が後からやって来た。その狩人は、ダダムが振り向くと投石器でなめらかな石を投げつけ、その石はダダムの目を激しく打った。その後、そのユバライトは、石で彼の頭を強打して彼を殺した。

その狩人は、チャイサイト(Chaisites)の娘であるアーケラー(Urkelah)による、ユバライトの王であるエナナリ(Enanari)の息子アンカデュール(Ankadur)の息子であった。

この事が知れたのは、ダダムと共にあった者たちがその不毛な土地からやってきて、建築者たちの方法を学び、ユバライトの間の名工となり、川に沿って町を築いたからである。彼らのうちには二つの大河の間に位置するケリドール(Keridor)を構築したエンキルガル(Enkilgal)や、ヘラク(Herak)にある柱に文字を刻んで人々に文書を書く方法を教えたネタール(Netar)とバレッツェラマム(Baletsheramam)がいた。


脚注

注1:原語は"the law of husbandly pride"。直訳すると、「夫の誇りの法」となるが、要するに女性の純潔のことを言っているので、意訳して「純潔の法」と訳出した。

注2:前節でもでてきたが、"cankerworm"(尺取虫)という言葉が何らかの意味を持って使われているのであろうが、まったく想像することができない。なので、直訳した。ワタクシにもまったく意味が分かりません!( ー`дー´)キリッ

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