第四章 神の災厄

この章は「ケロバル・パクサーミン」(Kerobal Pakthermin)の写本から来たものであり、彼は次のように書いた。「人類のすべての国の先祖は、かつて一つの民族であった。彼らは「神」に選ばれた人々であり、「神」は彼らの上に地上のものすべてを、すべての人々、野獣、荒野の生き物、そして芽生えるものを供給した。彼らは平和と豊饒の土地に長い年月を通じて居住した。」

「より一生懸命骨折り、より厳しくしつけられた者たちが一部いた。彼らの先祖は際立った暗黒の虚無を超えてきたので、彼らの望みは「神」の方を向き、彼らは「神の子ら」と呼ばれた。」

「彼らの国は起伏があり、森林で覆われていた。肥沃な土地であり、数多くの川や沼沢地があった。東側と西側には大きな山々があり、北側には広大な石だらけの平原があった。」

「間もなくすべてのものが静まり危惧の念を抱く日が来た。というのも、地上が苦しめられるということを人々が知るべきであるが故に、「神」は「天」にしるしを、奇妙な星を現わしたからである。」

「その星は次第に大きくなり、顕著な輝きにまで増大し、見るに恐ろしいものであった。今まで見たことのある如何なるものにも似ておらず、角を出して音をたてた。それを見て、人々は内輪で話した。「きっと、これは「神」が我々の上の天に現れられたに違いない。」その星は「神」の構想によって向けられたものではあったが、「神」そのものではなかった。しかし、人々は理解するに足る知恵を持ち合わせていなかった。」

「その時、「神」は自分自身を「天」に示した。「彼」の声は雷鳴の連打の如きであり、煙と炎を装っていた。「彼」は手に光を帯び、地上へ降り注ぐ「彼」の息は硫黄と燃えさしをもたらした。「彼」の目は真っ黒な虚無であり、「彼」の口は「破壊」の風を含む底知れぬ深みであった。「彼」は「天」全体を取り囲み、星で装飾された黒いローブを背に帯びていた。」

「当時の「神」の見せかけと現れは斯くの如きであった。「彼」のかんばせは畏怖させるものであり、「彼」の激怒の声は恐ろしく、太陽や月は恐怖のうちに雲隠れし、地上は深い暗黒に覆われた。」

「「神」は、強大なる轟音と声高なるラッパの布告と共に、上なる「天界」の空間を通り抜けた。その後、ぞっとするような死の静寂と赤黒く光る破滅の薄明りがやってきた。大きな炎と煙が地面から立ち上がり、人々は苦しそうにあえいだ。地面は離れ離れに裂け、おびただしい大洪水によって一掃され何もなくなった。地面の真ん中に穴が開き、水が流れ込み、陸地は海の下に沈んだ。」

「東側と西側の山々はばらばらに裂けて、暴れまわる流れの真ん中に立ち尽くした。北側の土地は傾いて寝返りを打った。」

「それから再び騒音と喧噪が止み、すべてがひっそりとした。静寂の沈黙の中で、人々の間で狂気が突発し、狂乱と怒声が場を満たした。彼らは人事不肖の理不尽な流血の惨事の中でお互いに倒れた。女子供を容赦することはなかった。というのも、彼らは自分たちが何をしているのかが分からなかったからだ。彼らは見もせず走り、自分たちを破壊へと投げつけた。彼らは洞穴へ逃れ、埋められ、木の上に避難し、あるいは吊るされた。レイプ、殺人、そしてあらゆる種類の暴力があった。」

「海水の氾濫はさっと引き、陸地は一掃されて穢れがなくなった。雨は絶え間なく降り注ぎ、強い風が吹いた。押し寄せた水は土地や人を圧倒し、羊の群れや庭園やすべての工作物は消滅した。」

「何人かの人は山腹や浮遊物の上で助かったが、彼らは地表の遠く離れた場所に散り散りとなった。彼らは、粗野な種族の土地で生き延びるために戦った。寒さの只中においては、彼らは洞穴や隠れ場で生き抜いた。」

「「小人族の土地」や「巨人族の土地」、「首なし族の土地」や「湿地と霧の土地」、「東の土地」や「西の土地」のすべてが水浸しとなった。「山の土地」と「南の土地」は、金と巨大な獣の土地であるが、水に覆われることはなかった。」

「人々は取り乱し絶望した。彼らは、自分たちが見た、そしてその発現により体験する何かの為にすべてのものの背後に存在する「不可視なる神」を受け付けなかった。当時の彼らは子供以下の存在であり、「神」が故意にではなく思慮をもって人間の為に、そしてその手法を修正する為に地上に苦難をもたらしたことを知ることができなかった。」

「地上は人間の楽しみの為にあるのではなく、彼の魂のための教示の場所としてあるのである。人間は贅沢に囲まれているよりも災害を面前とした方がその霊の鼓舞されるのを直ちに感じ取るものだ。魂への指導は教示と訓練のための長く骨の折れる道筋である。」

「「神」は善であり、善から悪はやってこない。「彼」は完全であり、完全から不完全は生じない。ただ人間の限られた理解力のみが、目的の為にどれが完全であるかという具合に不完全さを認めるのである。」

「この悲しむべき人間の災厄は、もう一つの彼の大いなる試練であった。彼はしくじったのであり、そうすることにより彼が作り出した異常な神々の道を辿ったのである。人間は名付けることにより神々を作り出したが、これのどこに彼の為のご利益があるのであろうか?」

「悪は、人間の恐怖や無知によって引き起こされて人間の真ん中へ入ってくる。悪人は悪の霊となり、地上にあるどのような悪であっても、霊の悪か人間の悪のいずれかよりやってくるのである。」

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