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第73章 月天后(がってんごう)訳注1 と其の身が 訳注2 諸相(しょさう) 訳注3

 第73章 1. 爰(ここ)に、此の掟(おきて)の後(のち)に我見しは、別なる掟にして、其れの処(しょ)するは更に小(しょう)なる天光主にして、是、月天后と號(がう)さるるなり。 2. 猶、其の身が外郭(ぐわいくわく)、天の外郭が如くして、又、其の身が騎(の)る戦車、風に由(よ)りて駆らるるなり、猶、其の身が月影(つきかげ)、其の身に施(ほどこ)さるるなり、定められし度量(どりやう)にて。 3. 而して其の身が出没(しゅつぼつ)、毎月(まいつき)に変ずるなり:猶、其の身が日数(ひかず)、日天子の日数が如くして、亦其の身が月影(つきかげ)、月輪(げつりん)に亘(わた)りて斉一(せいいつ)なる時 訳注4 、其の身が光量(くわうりやう)、日天子の日影七分一(ひかげしちぶんいち)と成るなり。 4. 而して、斯(か)くの如(ごと)くして、其の身出づるなり。即ち東方に於ける其の身が第一の相、朝三十度(あしたさんじふたび)に出(い)で顕(あら)はるるなり:猶其の日、其の身の見え来たるなり、且つ爾等にとりて月天后が第一相を成すなり、其の日三十度(ひさんじふたび)に、日天子と相伴(あひともなひ)て、日天子が出づる門に於いて。 5. 而して其の身が二分一(にぶんいち)訳注5 、其の七分一(しちぶんいち)のみ 訳注6 出(い)で行(ゆ)くなり、猶其の身が内円一円(ないゑんいちゑん)虚(むな)しくして月影(つきかげ)有らぬは、其の七分一(しちぶんいち)、即ち其の身の賦光(ふくわう)訳注7 十四分一(じふしぶんいち)を除きてなり。 6. 亦其の身、其の賦光が半(なかば)の七分一(しちぶんいち)を受くる時、月影(つきかげ)、七分一(しちぶんいち)と其の半(なかば)を数(かぞ)ふるなり 訳注8 。 7. 而して其の身、日天子と倶に没(もっ)するなり、猶日天子 出(い)づる時、月天后其れと倶に出(い)づるなり、亦其の身が賦光(ふくわう)の一分(いちぶん) 訳注9 の半(なかば)を受くるなり。又其の夜(よる)、其の身が曙(あけぼの)の始(はじめ)に、即ち太陰日(たいいんじつ)訳注10 の肇(はじめ)に、月天后、日天子に由(よ)りて光没(こうぼつ)し、斯くして其の夜見えざるなり 訳注11 、十四部半(じふしぶはん)訳注12 の全量(ぜんりょう)を有すると謂へども。 8. 而して其の身、其の日に 訳注13 出(い)づるなり、正しく七分一(しちぶんいち)を持ちて、猶出で顕(あら)はるるも、日昇(にっしょう)自(よ)り卻(しりぞ)くなり。斯くして其の身が余日(よじつ)に在りて輝くに至るなり、望(ばう)へ至る十三(じふさん)の階(きざはし)に於いて。訳注14


【注記】

訳注1 : 原語は'the moon'。もちろん月のことである。ユダヤ第二神殿期のオリエンタルな宇宙観では天体が人格を帯びており、また月は女性として扱われる。今までも「月天后(がってんごう)」と訳出してきたが、それを踏襲する。

訳注2 : 原語は'its'。直訳すれば「其の」となるが、第73章本文においては、月を'her'といった女性形で指している。この部分はチャールズが付与した表題なので'its'となってしまっているが、本文に合わせて'her'と訳出する。古文における女性を暗示する表現である「其の身が」と訳出した。

訳注3 : 原語は'phases'。これは月相の事である。月相とするとくどくなるので、「諸相」と訳出した。

訳注4 : 原語は'uniform'。直訳すれば「均一」ということであるが、これは月の光がその全面から出ていて、欠けている部分が無いという意味で、つまり満月を意味している。単に「均一な」とやってしまうと意味不明となるので、「月輪に亘りて斉一なり」と訳出した。

訳注5 : ここでいきなり月の「二分の一」が登場している。これはエノク書の宇宙論における月の扱い方による。現代に生きる我々は、月が常に「同じ半球」を地球に対して向けている事を知っている。エノク書の天文書の著者もどういうわけかそれを知っていた様で、我々が見ることができる月という天体は、常にその半分(半球)でしかない事を承知していた。故に天文書で月の光量や満ち欠けについて議論する時は、常に我々が見ることが出来る「月の半分」について議論するのである。一つ疑問なのは、「残りの月半分」、即ち月の裏側に関する議論が全く無いのであるが。我々の表側と同様に満ち欠けするという事であろうか。現代的には、月の裏側は影となっていて、真っ暗なのであるのだが。

訳注6 : 原語は'by a seventh part'。これは我々が見ることが出来る「月の半分」に対して七分の一という事である。すなわち、月全体に割り当てられた「光量」からすると1/2 * 1/7 = 1/14(十四分の一)ということになる。訳語は「其の七分一(しちぶんいち)のみ」とした。「其の」は直前の「月の半分」を指す。'part'を無理やり訳出すると論理的な混乱を来すので省略した。

訳注7 : 原語は'her light'。この「光」は単なる光ではなく、月に対して割り当てられた光という意味である。「其の身の賦光(ふくわう)」と訳出した。「賦光」は造語である。

訳注8 : ここの文章では時の経過(日数の経過)が全く明記されておらず、また計算が明示されていない日もあり、混乱の元である。が、74:5に「法則」が書かれていて一日に1/14ずつ月の光量が増えていく。74:4から74:6までを読み取ると以下のようにまとめる事ができる。

1日目(=30日目の朝)
節:73:4および73:5
相:第一相
光量(分): 1/2 x 1/7 = 1/14

2日目(翌日)
節:該当なし(73:5の法則にて1/14を加算)
相:未定義
光量(分):1/14 + 1/14 = 2/14 = 1/7

3日目(翌々日)
節:73:6(73:5の法則にて更に1/14を加算)
相:未定義
光量(分):1/7 + 1/14 = 3/14

訳注9 : 原語は'one part'。「一分(いちぶん) 」と訳出する。月に関する章ではこの'one part'が数字として1/7を指す場合と1/14を指す場合がある。ここでは'the half of one part'とあり、これが1/14を指す事から、'one part'そのものは1/7を意味している。

訳注10 : 原語は'the lunar day'。「太陰日(たいいんじつ)」と訳出した。「月の一日」程度の意味である。現代的には、この「月の一日の長さ」は平均約24時間50分28秒とされている。

訳注11 : 新月より上弦の月となるしばらくの間、月は太陽にほぼ随伴して出没するので、ほぼ昼間のみ天空に存在する。その状態では月は太陽の強烈な光に「埋没」する事になるので、「日天子に由(よ)りて光没(こうぼつ)し、斯くして其の夜見えざるなり」と表現しているのである。本文中5日目についてのみの記載となっているが、新月からこの時点までずっとそのようになっていると考えるのが自然である。エノク書の天文書では5日目までは月がそのような挙動をしているとして扱っているのである。

訳注12 : 原語は'the fourteen parts and the half of one of them'。「十四部半(じふしぶはん)」と訳出した。つまり、'part'を「分(ぶん)」ではなく「部(ぶ)」と訳出してある。エノク書宇宙論における月の光量に関する記述は、人から見た(即ち地球から見える半球のみの)満ち欠けの光量で記述する場合と、月の天体としての(その裏側半球も含めた)全体の構造的な記述の場合が混在している。それぞれの場合で'part'の指す意味が変化するので、ここでまとめておく。

1. 地上からの見かけによる'part'の分け方

地上から見える月の輝きを七分割している。単純にこの意味を為す場合は月の(地球から見える半球の)総光量の1/7を一分(いちぶん)として計量する。更に、地上から見える月はその半分のみなので、この単純計算による光量1/7は、裏側も勘定すると1/7 x 1/2 = 1/14となる。これが「見た目による月の(裏表併せた)光量」の一単位、すなわち一分(いちぶん)となる。よって、一分(いちぶん)という場合、文脈によって総光量の1/7を指す場合と1/14を指す場合とがある。「分(ぶん)」という語は文語では一般的に区画や割合を表す。この単位を「形容単位」と呼ぶことにする。

2. 月のエノク宇宙論的天体としての構造的な分割方式による'part'の分け方

73:7の末尾の表現'the fourteen parts and the half of one of them'にて唐突に出現する概念である。これはエノク書宇宙論における神学的・幾何学的視点を表しており、月という天体全体(表裏併せて)を14.5単位に分割したその一単位を指す。この時に使用する'part'の訳語は「部」とする。すなわち、一単位は「一部(いちぶ)」となり、月全体の総光量は14.5部となる。「部(ぶ)」という語は文語では構造的な単位を表す。この単位を「構造単位」と呼ぶことにする。

3. 二種類の'part'の変換について

前項二種類の'part'、すなわち形容単位の「分(ぶん)」と構造単位の「部(ぶ)」は、以下の計算式によって互いに変換して解釈する事が出来る。

一部(いちぶ) = 二分(にぶん)
形容単位の数 = 構造単位の数 x 2

73:7に達したので、ついでに訳注8の続きを記載しておこう。

4日目
節:該当なし(73:5の法則にて1/14を加算)
相:未定義
光量(分):3/14 + 1/14 = 4/14

5日目
節:73:7
相:未定義
光量(分): 4/14 + 1/14 = 5/14

訳注13 : 原語は'on that day'。これは5日目の夜が明けた後の6日目を指す。

訳注14 : 原語は'in the (remaining) thirteen parts'。5日目で既に5/14の明るさとなっているのに、なぜ13も残っているのか?これはこの6日目から満月へ至る残りの勘定ではなく、初日の新月から満月へ至る残り日数を「全行程」として改めてここに記載していると解釈するのが自然である。つまり、'parts'は「分(ふん)」ではなくステップを表している。原典のギリシア語(meros)やゲエズ語(ekfāl)には、部分や割合といった意味の他にも等級、段階、順序といった幅広い意味がある。故に「望(ばう)へ至る十三(じふさん)の階(きざはし)に於いて」と訳出してある。

ちなみに、この時点で6日目となっている。訳注8および12の続きは以下の通り。

6日目
節:73:8
相:未定義
光量(分):5/14 + 1/14 = 6/14

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