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大空(たいくう)訳注1 の諸天光主(しょてんこうしゅ) 訳注2 が軌(みち) 訳注3 の書

(第72章乃至第82章)

第72章 日天子(にってんし)訳注4

 第72章 1. 大空(たいくう)の諸天光主が軌(みち)の書、各々(おのおの)の係(かか)りを、其れ等が階位(かいゐ)と其れ等が統御(とうぎょ)と其れ等の諸(もろ)の時節(じせつ)訳注5 とに依(よ)りて、其れ等が称(しょう)訳注6 と其れ等が出現の所(ところ)とに依りて、且つ其れ等が期月(きげつ) 訳注7 に依りて顕(あら)はすなり。是、ウリエル、彼(か)の聖なる天使、我と倶に在りしに、猶其れ等の統導者(とうどうしゃ)たるに、我に顕はしたるものなり;加之(しかのみならず)、彼、我に顕はせり、悉くの其れ等の掟(おきて)訳注8 を其のままなる形にて、又、其の相(さう)訳注9 を、天地の年(ねん)の一切 訳注10 に就きて且つ永劫に至る迄を顕はせり 訳注11 、猶其の相を、新たなる天地創造の成就せらるる迄、其の持続の無窮(むきゅう)に至る迄なるを又顕はせり。訳注12 2. 茲(ここ)に於いて、是、諸天光主の第一の掟なり:天光主なる日天子、東方なる天の諸門(しょもん)自(よ)り出で、且つ其の没(もっ)するは西方なる天の諸門なり。 3. 猶、我見しは、六座の門(もん) 訳注13 にして、其処自り日天子出づる所、並びに六座の門にして、其処に至りて日天子没する所なり:又、月天后 訳注14 、此等が諸門にして出没(しゅつぼつ)し、猶、諸星が長(をさ)等 訳注15 並びに其れ等が導く諸星も又然り:其の諸門、東方に六座且つ西方に六座在り。而して、其れ等の悉く 訳注16 、正しく調(ととの)ひたる序に従ひて相連なるなり:多窗(たさう) 訳注17 も亦、此等が諸門の右手と左手に在るなり。 4. 斯くて、まず出(い)で行(ゆ)くは、至大(しだい)なる天光主にして、是、日天子と名付けらるるなり。而して、其の外郭(ぐわいくわく)訳注18 、天の外郭が如くして、猶、照熱(せうねつ)の炎(ほのほ)にて充ち満てり。 5. 其れの乗りて昇る戦車 訳注19 を、風(かぜ)駆るなり、而して日天子、天自(よ)り行(ゆ)き下(くだ)りて、猶北方を経て還(かへ)るなり、東方へ至らむが為に。其れ斯くの如く導かるるは、其の然るべき門 訳注20 へ還りて、猶天の面(おもて)にて輝かむが為なり。 6. 斯くして其れ出(い)づるなり、第一の月 訳注21 に彼(か)の大いなる門自(よ)り、是、第四の門にして東方に在る彼(か)の六座の門の一座なり。 7. 亦、其の第四の門にして、日天子第一の月に出(い)づる所に、十二の諸窗(しょさう)の口在り、猶其処より光焔(くわうえん)噴(ふ)き放(はな)たるるなり、其れ等の其の時節に開かるる時に。 8. 日天子、天に出(い)づる時、其の第四の門を経(へ)て出(い)で現(あらは)るるなり、朝三十度(あしたさんじふたび)連なりて、猶、正しく没するなり、天の西方なる第四の門へ。 9. 而して此の期(き)に、朝三十度(あしたさんじゅうたび)に至る迄、昼(ひる)、昼毎(ひごと)に長くなり行き、亦、夜(よる)、夜毎(よごと)に短くなり行くなり。 10. 其の日 訳注22 、昼、夜自(より)も一日九分の一(いちにちここのぶのいち)訳注23 長きなり、而して昼、十分(じふぶん)訳注24 を数(かぞ)へ、亦、夜、八分(はちぶん)を数ふるなり。 11. 加之(しかのみならず)、日天子、其の第四の門自り出(い)で、又第四の門へ没し、猶、朝(あした)三十度(たび)に亘(わた)りて東方の第五の門へ還(かへ)り、而して其処自り出(い)で、第五の門へ至りて没するなり。 12. 然る後(しかるのち)、昼長くなりて、即ち別なる一分(いちぶん)其れに加へられ、因(よ)りて十一分(じふいちぶん)を数(かぞ)へ 訳注25 、亦、夜短くなりて、七分(しちぶん)を数ふるなり。 13. 而して其れ、東方へ還(かへ)り、又第六の門へ入(い)りて、猶第六の門にて朝三十一度(あしたさんじふいちたび)出没(しゅつぼつ)するなり、其の徴(しるし)の故に。訳注26 14. 其の日 訳注27 、昼、夜自(よ)り長きなり、猶昼、夜の二倍となりぬるなり。而して昼、十二分(じふにぶん)となり、且つ夜、短くせられ、六分(ろくぶん)となりぬるなり。 15. 斯くて、日天子、始(はじ)め行(ゆ)く 訳注28 なり、昼を短くし且つ夜を長くする事を。而して、日天子、東方へ還(かへ)り、猶第六の門へ入(い)りて、又其処より出(い)で、又没(もっ)するなり、朝三十度(あしたさんじふたび)に亘りて。訳注29 16. 而して、朝三十度、成就(じやうじゅ)せらる時、昼、正確に一分(いちぶん)のみ減じ、因りて十一分(じふいちぶん)と成りて、猶夜、七分(しちぶん)と成るなり。 17. されば日天子、出(い)で行(ゆ)くなり、西方なる其の第六の門自(よ)り、又東方に向(むか)ひて進み行き、猶第五の門自り出づるなり、朝三十度(あしたさんじふたび)に亘りて、猶西方に重ねて没するなり、第五なる西方の門に。 18. 其の日 訳注30 、昼、別なる一分(いちぶん)のみ減じ、因(よ)りて十分(じふぶん)を数へ、猶夜、八分(はちぶん)を数ふるなり。訳注31 19. 斯くて日天子出(い)で行(ゆ)くなり、其の第五の門自り、又西方なる第五の門へ没するなり、 加之(しかのみならず)第四の門自り出づるなり、朝三十一度(あしたさんじふいちたび)に亘りて、其の徴(しるし)の故に、猶西方に没するなり。 20. 其の日 訳注32 、昼、夜と等しくせられ、即ち等しき長さとなり、拠(よ)りて夜、九分(くぶん)を数へ、亦昼、九分(くぶん)を数ふるなり。 21. 而して日天子出づるなり、其の門 訳注33 自り、猶西方へ没するなり、又東方へ還りて、 加之(しかのみならず)朝三十度(あしたさんじふたび)に亘りて出づるなり、第三の門自り、猶西方に没するなり、其の第三の門に。 22. 斯くて其の日 訳注34 、夜、昼自(より)も長くなりて、猶夜、夜毎(よごと)に長くなり行き、且(か)つ昼、昼毎(ひごと)に短くなり行くなり、朝三十度(あしたさんじふたび)に至る迄、斯くて夜、正しく十分(じふぶん)を数へ、亦昼、八分(はちぶん)を数ふるなり。 23. 依(よ)りて日天子、其の第三の門自り出(い)で、又西方なる其の第三の門に没(もっ)するなり、又東方へ還(かへ)るなり 訳注35 、猶、朝三十度(あしたさんじふたび)に亘(わた)りて、天なる、東方の第二の門自り出(い)で、又同じく西方の第二の門に没(もっ)するなり。訳注36 24. 而して其の日 訳注37 、夜、十一分(じふいちぶん)を数(かぞ)へ、亦昼、七分(しちぶん)を数ふるなり。 25. 依(よ)りて日天子、其の日 訳注38 、其の第二の門自り出(い)で、又西方なる其の第二の門に没(もっ)するなり、又東方なる第一の門へ還(かへ)るなり、猶朝三十一度(あしたさんじふいちたび)に亘りて、其処自り出(い)で、又天なる西方の第一の門に没(もっ)するなり。訳注39 26. 斯くてその日 訳注40 、夜、昼自り長きなり、猶昼の二倍となりぬるなり:而して夜、正しく十二分(じふにぶん)を数へ、亦昼、六分(ろくぶん)を数ふるなり。 27. 斯くして日天子、此処に於いて其の軌(みち)訳注41 が諸限(しょげん)訳注42 を横(よ)ぎりぬるなり、猶反(そ)りて向(むか)ふなり、重ねて其の軌(みち)が諸限を、而して朝三十度(あしたさんじふたび)に亘りて其の門に入(い)りて、猶没(もっ)するなり、其の逆の西方に。 28. 而して其の日 訳注43 、夜、九分一(くぶんいち) 訳注44 のみ其の長さを減じ、因(よ)りて夜、十一分(じふいちぶん)と成り、猶昼、七分(しちぶん)と成りぬるなり。 29. 斯くて日天子還(かへ)りたり、又東方なる第二の門に入(い)りたり、猶其の軌(みち)の彼(か)の諸限 訳注45 へ還(かへ)るなり、朝三十度(あしたさんじふたび)に亘りて、出づ没す事を重ねつつ。 30. 而して其の日、夜其の長さを減じ、因りて夜、十分(じふぶん)を数へ、亦昼八分(はちぶん)を数ふるなり。 31. 爰(ここ)に其の日 訳注46 、日天子、其の門 訳注47 自り出(い)づるなり、又西方に没(もっ)するなり、猶東方へ還(かへ)るなり。而して天なる、第三の門自り出(い)で行(ゆ)くなり、朝三十一度(あしたさんじふいちたび)に亘りて、猶西方に没(もっ)するなり。 32. 其の日、夜減じて九分(くぶん)を数へ、亦昼、九分(くぶん)を数ふるなり。斯くして夜、昼と等しくなりて、猶、一歳(ひととせ)訳注48 、日に就きて正しく三百六十四(さんびゃくろくじふし)と成りぬるなり。 33. 斯くして昼と夜との長なる事、亦昼と夜との短なる事、生(しょう)じ出(い)づるなりー日天子が軌(みち)に由りて、此等、別(わか)ち定(さだ)めらるるなり。 34. 而して其の軌(みち)、昼毎(ひごと)に長くなり行き、亦其の軌(みち)、夜毎(よごと)に短くなり行くなり。 35. 斯くして是、掟(おきて)にして日天子が軌(みち)なり、猶其の還来(かんらい)訳注49 、其の六十度(ろくじふたび) 還(かへ)り来(き)て出(い)づる毎(ごと)に生ずるなり。則(すなは)ち、至大(しだい)なる天光主、日天子(にってんし)と號(がう)さるるなり、永劫(えいごふ)常(とこ)しへに。 36. されば斯くの如く出(い)づるは、其の至大(しだい)なる天光主なり、猶然(か)く號(がう)さるるは、其の光容(くわうよう)訳注50 に依りて、亦、主が勅に随ひての事なり。 37. 其れの出(い)づるが如く、其れ没(もっ)するなり、猶減(げん)ぜず、又休(やす)らはず、されど昼と夜と巡(めぐ)り行(ゆ)き、猶、其の日影(ひかげ)訳注51 、月影(つきかげ)訳注52 自(より)も七重(しちへ)に明(あか)らけしなり;されど其の大度(だいど)に就きては、両者等しくして相違なし。


【注記】

訳注1 : 原語は'heaven'。「天」と訳出してしまうと、その修飾先の「天光主」とかぶってしまう。故に「大空(たいくう)」と訳出した。この語も「天空」のような「天の広がり」をうまく表現できる。

訳注2 : 原語は'luminaries'。第2章でも詳述したが、この書はエノク書の宇宙論の中心となるので再掲しよう。エノク書においてこれは'stars'(星々)とは明確に異なる集団となっている。'stars'は夜空の「星々」のことであるが、これはエノク書の宇宙論では「一兵卒」扱い。監視者の書でも罪を犯すと(定めの時に昇らないと)罰せられる存在として描かれている。しかし、'luminaries'の方は、天界の季節や時間を支配する「目立つ天体」であり、太陽と月がまずこれに属する。が、その他にも例えば天文書第82章では4つの'luminaries'が追加されており、また同第72章では5つの惑星(水星、金星、火星、木星、土星)が追加されている。これらはエノク書の宇宙論においては、天空にて支配権を有すると考えられており、文語体の訳語を「諸天光主(しょてんこうしゅ)」とする。口語体の訳語は「諸(もろ)の天つ光主(あめつひかりぬし)」としてあった。

訳語3 : 原語は'the course'。これは天体の軌道を表す。「軌道」と訳出すると現代の天文学的な響きとなり、エノク書にはそぐわない。「軌(みち)」と訳出する。

訳注4 : 原語は'The Sun'。比喩の書でも出てきた。素直に「太陽」と訳出したいところだが、この後直ぐに太陽を'his'と受ける文が登場する。チャールズは原典であるゲエズ語の性別をそのまま英語にも反映させている。文語で彼の/彼女のという言い方も(明治期以降の表現となるが)可能であるが、ここでは明示的な性別を使用しない訳出を行う。諸文化において太陽と後述する月はそれぞれ男性的・女性的または逆に女性的・男性的な表現としてその扱いが割れている。ユダヤ第二神殿期のオリエンタルな宇宙観では、太陽は男性的となっているので、仏教的な太陽の表現である「日天子(にってんし)」と訳出した。これにより太陽の性別が男性であると暗示されるので、'his'を「其の」と訳出しても「男性的」な性質をその文脈から理解可能となる。

訳注5 : 原語は'their seasons'。直訳すると「それらの季節」であるが、より古風に「時節」という語を用いて「其れ等の諸(もろ)の時節」と訳出した。

訳注6 : 原語は'their names'。直訳すれば「それらの名前」となる。しかし、「名前」はあまりにも世俗よりであるので、「名(な)」と訳出するケースが多いのであろうが、より本質的なものによる「諸天光主」の比較をするという意味で「称(しょう)」と訳出した。

訳注7 : 原語は'their months'。読み進めると分かるであろうが、これは「歴月」ではない。「其れ等が期月(きげつ)」と訳出した。

訳注8 : 原語は'their laws'。これは現代的な「法律」という意味ではない。神の定めにより守られるべき規律のことである。「其れ等の掟(おきて)」と訳出した。

訳注9 : 原語は'how it is with regard to'。'it'は天光主の状態や運行の様を表している。この句はチャールズの時代の英語の慣用句で、「物の〜なる有様」といった意味合いとなる。「其の相(さう)」と訳出してある。この部分はウリエルがエノクに「顕わした事共」であり、'he showed me'の目的語となっている。この辺りの訳出は見た目を整えるため、必要に応じて言葉を追加してある。

訳注10 : 原語は'all the years'。「全ての年月」といった意味合いであるが、これは天地創造より未来永劫に渡るまでのこの世界の時間の一切である。「年(ねん)の一切」と訳出した。

訳注11 : この文は、現に我々が存在する「天地(世界)」のすべての年月に渡って、かつ永遠なる未来までを表している。当たり前の事を言っているように思うかもしれないが、次の文ではこの我々の現世的な視点が崩れるのでご留意を。

訳注12 : この文では、我々の天地(世界)の後に到来する「新天地」に関する記述となる。そしてそれはやはり永遠に続くのであるが、前の文では「永劫に至る迄」と「時間的に」表現していた永遠性の表現は、この文では「無窮(むきゅう)に至る迄」へと、やや時間感覚がずれる表現へと切り替わっている事に注意せよ。新天地には我々の知っている「時間」が無いのである。

訳注13 : 原語は'six portals'。「門」を数える単位として「座」を採用し、「六座の門」と訳出する。「門」を単数形のままとするのは、 「六座」の語で既に複数形が分かるからであるのと、単数形の「門」によって抽象性と象徴性を確保する為である。エノク書の宇宙論における「門」(portal)とは、太陽などの天光主という「主役級」の天体が出没する天の開口部の事である。

訳注14 : 原語は'the moon'。「月天后(がってんごう)」と訳出する。比喩の書でも出てきた。代名詞'her'で受けることがあるのだが、其の時に「彼女の」としてしまうと近代的過ぎる。「其の身の」と受けて古代オリエントの月の性別、つまり女性を暗示する訳出とする。

訳注15 : 原語は'the leaders of the stars'。「諸星が長(をさ)等」と訳出した。

訳注16 : 原語は'all'。これは直前に言及されている天の「諸門」を指す。「其れ等の悉く」と訳出した。

訳注17 : 原語は'many windows'。「多窗(たさう)」と訳出した。エノク書宇宙論において「窗(さう)」とは、天光主が出没する「門(もん)」の間に連なっている小さな天の出入り口の事で、星々や霧や露などがそこを出入りする。「窗」は旧字体であり、新字体では「窓」である。

訳注18 : 原語は'circumference'。意味的には「天の円周」といった意味合いであるが、エノク書宇宙論においては「天」は巨大な外壁や仕切りを有する構造物として扱われており、「外郭(ぐわいくわく)」という訳語が具合良くあてはまる。

訳注19 : 原語は'chariot'。「戦車」と訳す。これは近代的ないし現代的な戦争で使用するキャタピラ式の砲塔が付いている、化石燃料で駆動する重量級の乗り物ではない。昔の「戦車」は一種の馬車であり、御者が馬を駆動力として制御し、その後ろの武装した兵士が乗る車台ーこれが「戦車」であるがーを率いて縦横無尽に戦場を駆け巡って戦うのである。

訳注20 : 原語は'the appropriate portal'。「然るべき門」と訳出した。これは東方にある日の出のための門であるが、前日とまったく同じとは限らない。季節ごとに地平における日の出の位置は移りゆくのであり、よって日の出の門もそれに応じて変わるのである。故に、「然るべき」となっている。

訳注21 : 原語は'in the first month'。「第一の月に」と訳出した。これは現代のグレゴリオ暦における1月とは限らない。古代ユダヤの暦では、春分の日を含む3〜4月頃が該当する。故に、字義通りに訳す。

訳注22 : 原語は'on that day'。「其の日」(副詞句)と訳出した。具体的には、第四の門から太陽が昇るようになってから30日間を経過した朝を指す。

訳注23 : 原語は'a ninth part'。これを訳出する前に、まずエノク書宇宙論における時間の数え方について言及せねばなるまい。エノク書では、一日を1/18に分割した1 part(1分(ぶん))という単位を使用している。一日は18 parts(18分(ぶん))である。「分(ぶん)」というのは古語に於ける任意の分割単位を表現していることに留意せよ。現代的な1分(ふん)=60秒という意味ではない。この原語は1/9=2/18を表しており、partで表現するならば2 parts(2分)となる。1/9となるのは一日にの長さに対してである。これはチャールズが底本としたゲエズ語の原語 ክፍል (kəfəl)が複数の異なった意味(division, part, portion)を持っているために生じている。この部分では(一日の)portionあるいはより正確に言えば(一日の)fractionと解釈すべきであった。実際に後の学者であるMichael A. Knibbは、"one-ninth of the day..."と訳出してこの混乱を解消している。本訳では、「一日九分の一(いちにちここのぶのいち)」と訳出した。

訳注24 : 訳注23でも述べたとおり、分(ぶん)は1日を1/18に分割した一単位である。

訳注25 : この句の原文は'the day becomes longer by two parts and amounts to eleven parts,'である。先の72:10にて太陽は第四の門を通り、昼は10分(ぶん)、夜は8分(ぶん)の比率となっていた。30日の後、太陽は第五の門へと移るのだが、チャールズの原文をそのまま読むと昼は2分(ぶん)長くなるので、10 + 2 = 12分(ぶん)となると見えるが、この72:12では昼11分(ぶん)となっている。原文のゲエズ語のテキストは昼の長さの絶対値が2分(ぶん)増えるという意味ではなく、昼と夜の差が2分(ぶん)「増加」するという意味合いである。チャールズはシンプルに英語に落とし込んでいるので、この2分(ぶん)の意味が不明瞭となっており、誤解を招いている。現代的なMichael A. Knibbの訳では以下のようにこの論理的な不備を是正しており、本訳においてもこのKnibbの解釈で訳出した。

"...the day becomes longer, and a second part is added to it, and it becomes eleven parts..."

訳注26 : 第四および第五の門では30日間であったが、第六の門では31日となっている。これはエノク書の364日を暦年とする特殊な太陽暦の方式を表している。普通の月は30日であるが、この端の1日は「閏日(うるうび)」と呼ばれ、3ヶ月ごとに年に4回挿入される。結果一年が364日となるのである。計算式は、(30日 x 2 + 31日) * 4 = 364 となる。

訳注27 : 原語は'on that day'。「其の日」と訳出した。第六の門では*まず*31日が存在し、その最後の31日目を指している。第六の門の特殊性についてはこの後の注釈を参照せよ。

訳注28 : 原語は'mount up'。直訳で「増える」などとやってしまうと、読者は途方にくれるであろう。チャールズはゲエズ語を正直に直訳してこの言葉となっているが、エノク書の天文書においてこの語は天体の動きを表す意味で用いられており、「次のステージへ進む」程度の意味合いとなっている。ここにおける意味は、「昼が長くなるステージ」から「昼が短くなるステージ」への遷移を意味しているのである。よって訳語としては「始(はじ)め行(ゆ)く」とした。

訳注29 : 昼が短くなる「ステージ」が開始している。しかし、門が移るのではなく、30日間太陽が「もう一度」第六の門を通過するのである。第六の門では合計31日+30日、太陽が出没し、前者(31日)、では「昼が長くなる」ステージであり、後者(30日)では「昼が短くなる」ステージとなっているのである。

訳注30 : 原語は'on that day'。「其の日」と訳出したが、これは第五の門の三十日目の事である。

訳注31 : 原文は'the day decreases by two parts, and amounts to ten parts'。この二分(にぶん)も昼と夜の差分を表しており、実際には昼は一分(いちぶん)のみ短くなっている。当然この直後で、夜が一分だけ長くなる記述がある。よって差分が「二分」となる。

訳注32 : 原語は'on that day'。「其の日」と訳出した。これは第四の門にて31日間にわたり太陽が昇った最終日の事である。

訳注33 : 原語は'that portal'。「其の門」と訳出したが、これは第四の門のことである。この部分は第四の門における最終日(31日目)の太陽の動きを表している。

訳注34 : 原語は'on that day'。「其の日」と訳出したが、これは第三の門で出没した30日目の事である。

訳注35 : この文は、第三の門の最終日(30日目)の動きを改めて記している。やや冗長な感じはするのだが。

訳注36 : この文における文末の'of the heaven'の扱いであるが、チャールズの文を見る限り、直前の'in the west'を直接修飾しているように見受けられる。が、黙示録的宇宙観としては、更にその前にある'in the east'も同様に修飾していると見るのが妥当であろう。故に、東にも西にも同時に掛かるように形容詞句として「天なる、」という句を両方の句の前に配置し、これが東西両方を修飾するように訳出してある。

訳注37 : 原語は'on that day'。「其の日」と訳出したが、これは第二の門で出没した30日目(最終日)の事である。

訳注38 : 原語は'on that day'。これは第二の門の最終日(30日目)を表す。

訳注39 : この文のチャールズの英語はトリッキーである。最初に第二の門の最終日の太陽の動きを叙述し、日没後に東方の門へ返る。チャールズの英訳ではこの「太陽の東方への帰還」が31日間継続するような記述となっており、そのまま訳出すると読者は混乱するであろう。'for one and thirty mornings'の直前をカンマで区切って「太陽の東方への帰還」と「第一の門における31日間」の部分を論理的に切断し、'for one and thirty mornings'の直後に「其処自り出(い)で、」の句を追加して第一の門からの日の出を明示する訳出としてある。

訳注40 : 原語は'on that day'。これは第一の門における31日目を指す。

訳注41 : 原語は'his orbit'。直訳すると「彼の(太陽の)軌道」という意味であるが、もちろん現代天文学的な天体の楕円軌道を意味してはおらぬ。チャールズが'orbit'と訳出したゲエズ語は、ፍኖት (fənot) や መውצאዕ (mawṣā‘) であり、字義通りには'way', 'path', 'road', 'course'などの意味となる。既にこの天文書の表題において、'course'を「軌(みち)」と訳出してあるので、'orbit'についても同様に「軌(みち)」と訳出する。よって、訳語は「其の軌(みち)」となる。「軌(みち)」の訳語は非常に適切であると考える。エノク書の宇宙論では天体は、穹窿において決まった「軌(みち)」を運行するからである。

訳注42 : 原語は'divisions'。これは門の中にある「区画」を表している。太陽の運行は日毎に昼と夜の長さが変化していくのだが、それらに応じた区画が門の中にあるとされる。太陽は門を通過する時、毎日これらの区画を「横切って」昇って行くのである。直前で冬至について記述があったが、太陽がこの第一の門を通過する時の一つの極限となる区画(=冬至)に達したので、再び踵を返して逆順で日毎にこれらの区画を通過していくのである。この区画の訳語としては複数形として「諸限(しょげん) 」をあてた。「限」は時期・期間の終わりを表すが、また同時に期間や範囲を表すことも出来る。

訳注43 : 原語は'and on that night'。これを「而して其の夜、」とやってしまうと、この直後の文の主語「夜」が連続して現れて表現がかぶってしまう。よって「而して其の日」と訳出した。原文では冬至の極限の夜が明けた事を"on that night"として強調したのであろう。

訳注44 : 原語は'a ninth part'。「九分一(くぶんいち)」と訳出したが、これは混乱を招く表現であり、素直に読み進めると論理が破綻する。前にも述べたとおり、天文書では一日を18分割してそれぞれを"one part"すなわち一分(いちぶん)と数える。「九分一(くぶんいち)」は「十八分二」という意味であり、これは72:18の"two parts"すなわち二分(にぶん)に相当する。冬至の夜十二分(じふにぶん)からこの二分を差し引くと十分(じふぶん)となり、この直後の記述である十一分(じふいちぶん)とは合致しない。実はこの二分は夜と昼の差分の一日の変化を指している。夜と昼は一日の十八分(じふはちぶん)をお互いにシーソーのように増減して割り当てていくので、一月(エノク歴月で)を経過するとその差分が必ず二分(今回の場合は夜マイナス一分、昼プラス一分)変化する。すなわち、冬至では夜十二分、昼六分でその差分は六分。翌月には夜十一分、昼七分でその差分は四分。この昼夜差分は前月は六分であったので、一月(エノク歴月で)経過する事による昼夜差が二分だけ小さくなっているのである。

訳注45 : 原語は'those his divisions'。「彼(か)の諸限」と訳出したが、文脈的には太陽は既に第二の門に入っているので、第二の門の中に刻まれている「諸限」を表していると考えるのが自然である。「彼(か)の」という遠称を使っているのは、「先述した第一の門の諸限と同様なもの」が第二の門にもあるという意味であろう。もちろん、その他の門にも「諸限」はある。

訳注46 : 原語は'on that day'。「其の日」と訳出したが、これは第二の門の30日目(最終日)の太陽の運行を改めて述べている。

訳注47 : これは第二の門の事である。

訳注48 : 原語は'the year'。暦年の一年の意味であるが、「一歳(ひととせ)」と訳出した。

訳注49 : 原語は'return'。「還来(かんらい)」と訳出した。造語である。この語だけだとどこへ戻ったのか不明であるが、第三の門における春分点(昼九分、夜九分)の直後であり、これは取りも直さず一番最初の72:8の第四の門からの推移である。この直後に具体的に60回とあるので、その後の第四の門における30日間、その後の第五の門における30日間を合算して表現しており、結局第六の門(夏至点)への帰還を意味している事になる。72章の節ごとに太陽の動きを以下にまとめておこう。

第72章のエノク歴(太陽の動き)のまとめ

72:8. 第四の門 30日間
72:10. 昼 : 10分(ぶん), 夜 : 8分(ぶん)
72:11. 第五の門 30日間
72:12. 昼 : 11分, 夜 : 7分
72:13. 第六の門 31日間
72:14. 昼 : 12分, 夜 : 6分
72:15. 第六の門 30日間
72:16. 昼 : 11分, 夜 : 7分
72:17. 第五の門 30日間
72:18. 昼 : 10分, 夜 : 8分
72:19. 第四の門 31日間
72:20. 昼 : 9分, 夜 : 9分
72:21. 第三の門 30日間
72:22. 昼 : 8分, 夜 : 10分
72:23. 第二の門 30日間
72:24. 昼 : 7分, 夜 : 11分
72:25. 第一の門 31日間
72:26. 昼 : 6分, 夜 : 12分
72:27. No1 30日間
72:28. 昼 : 7分, 夜 : 11分
72:29. 第二の門 30日間
72:30. 昼 : 8分, 夜 : 10分
72:31. 第三の門 31日間
72:32. 昼 : 9分, 夜 : 9分

訳注50 : 原語は'its appearance'。太陽の外観のことであるが、「其の光容(くわうよう)」と訳出した。

訳注51 : 原語は'his light'。直訳すると「彼(太陽)の光」となるが、以前星の光を「星影(ほしかげ)」と訳出した所があったので、ここでも「日影(ひかげ)」と訳出した。現代的な意味での「太陽の光が遮られている涼しい場所」という意味ではない。古語において「影」は、光、光が放つ照り返し、きらめきといったものを表している。

訳注52 : 原語は'that of the moon'。'that'は'light'を指す。「月影(つきかげ)」と訳出した。古語において「影」が光そのものを表す事は太陽の場合と同様である。

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