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第58章乃至第69章 第三の比喩譚

第58章 聖徒 訳注1 の福(さいはひ)

 第58章 1. 夫(そ)れ、我、義の徒と撰徒とに係る第三の比喩譚を語り出でむ。
 2. 祝福さるは爾等なり、爾等義にして選ばれし者等よ、
  蓋し、燦然たるは、爾等が運命(さだめ)なれば。
 3. 猶、義の徒、天つ日 訳注2 が光の中(うち)に在らむ、
  猶、撰徒、永遠(えいゑん)なる生命(いのち)の光の中に在らむ、
  彼等が日数(ひかず)、涯(はて)無からむ、
  猶、聖徒が日数、算(かぞ)ふるに能わじ、
 4. 猶、彼等、其の光を求め且つ義を見出でむ、万霊の主と倶(とも)に:
  義の徒に安寧あらむ、永遠の主 訳注3 の御名の下(もと)に。
 5. 而して此の後、宣(のたま)はれむ、天の聖徒に、
  彼等追ふべし、義の秘義と信義の嗣業(しぎょう)とを:
  蓋し、其れ 訳注4 、光り出でたり、天つ日の地の上に照らし出づるが如く、
  されば、彼(か)の幽暗(いうあん)過ぎ去りぬ。
 6. 斯くて、一光(いつくわう) 訳注5 在らむ、永劫に終ふる事無く、
  猶、日数の限りに、彼等 訳注6 達せじ、
  蓋し、彼の幽暗先(ま)づ滅(めつ)されたり、
  猶、彼の光、万霊の主が御前に樹(た)たむ、
  斯くて其の直(なお)の光、常(とこ)しへに樹(た)たむ、万霊の主が御前に。

  

第59章 星影 訳注7 と雷霆と

 第59章 1. 其の期(とき)我が目の見しは、雷光(らいくわう)と星影(ほしかげ)との秘義、且つ其等が行ふ審判なりけり:猶、其等、或ひは祝福、或ひは呪詛が為に耀(かがや)くに、是、万霊の主の志すが如くなり。 2. 而して其処にて我見しは、雷声(らいせい)の秘義なるに、猶、其れが上つ天(かみつあめ)にて轟く時、如何にして其れより生ずる其の鳴り渡る響きが聞こゆるかをも見き。又、彼 訳注8 の我に見させたるは、地の上にて行はれたる審判にして、是、その審判の福徳と祝福とが為と雖(いへど)も、呪詛が為と雖も、万霊の主が御言(みこと)に依りてなり。 3. 猶其の後、星影と雷霆(らいてい)との万般(ばんぱん)の秘義、我に顕されたり。されば其等、祝福と厭足(えんそく)との為に耀けり。

第60章 ノアの書ーひとつの断章

天の震駭:毘比牟須(ビヒモス) 訳注9 と麗比耶丹(レビヤタン) 訳注10 と:物象元 訳注11

 第60章 1. 五百歳(いほとせ)の年、第七の月、其の十四日に、エノク 訳注12 の畢生(ひっせい)に於いて。彼の比喩譚 訳注13 にて、我見き、如何にして一つの強大なる震天動地、諸天の天 訳注14 を震(ふる)はしたるかを。猶、至高なる者 訳注15 の軍勢と、億兆(おくてう) 訳注16 の天使等と、大いなる不安の内に動じたり。 2. 而して、万古の首、主の栄光の御座(みくら)に坐(いま)し、猶、天使等と義の徒、主のほとりに立ち畏まれり。
 3. 而して、大いなる震撼(しんかん)、我を捉へたり、
  猶、戦慄、我を攫(つか)みたり、
  猶、我が腰砕け、仆(たお)れ落ちぬ、
  猶、融け失したるは、我が腎 訳注17 なり、
  猶、我伏せぬるは、我が顔なり。
 4. さればミカエル、聖なる者等の中より別の天使を遣はしつ。猶、彼、我を起こしたるに、彼の我を起こしつる時、我が心返(かへ)りたり;蓋し、我の堪へ難かりぬるは、此の軍勢の威容と、彼(か)の天の騒擾と震天動地となり。 5. 而して、ミカエル我に曰く:「何のゆゑに爾、斯くの如き幻視に動じたるや?此の日に至る迄、主の慈悲の日こそ続きたれ;猶、主、地の上に住まふ者等に向かひて慈しみ深く、また耐へ忍び給へり。 6. されば、其の日と、其の御力(みちから)と、其の懲罰と、其の審判と来たる時、是皆、万霊の主、備へ設け給ひつるに、是、義の法を敬(うやま)ひ仰(あふ)がざる者等と、義の審判を拒む者等と、主の御名をみだりに唱ふる者等との為なりー其の日、整へられり;蓋し、撰者にとりては聖約 訳注18 なれども、罪の徒にとりては糾問(きうもん)なれば。
 25. 万霊の主が劫罰(ごうばつ)、彼等 訳注19 が上に灌(そそ)がむ時、其れ 訳注20 、相連なりて降り注がむ、即ち、万霊の主が劫罰、徒(いたづら)に来たらじ、又、其れ 訳注21 、戮(りく)さむ、子等を其の母等と共に、猶、子等を其の父等と共に。然る後(のち)、彼の審判起こり出でむ、主の慈悲と主の寛容とに依りて。
 7. 加之(しかのみならず)其の期(とき)、両(ふた)つの巨獣分かたれたり。陰 訳注22 なる巨獣、深淵の霊蛇麗比耶丹(レビヤタン) 訳注23 と名付けらるに、其の身の潜(ひそ)みたるは、滄海(さうかい)の諸(もろ)の深淵に、衆水(しゅうすい)の諸(もろ)の源を覆ひてなり。 8. されど、陽 訳注24 なるは大地の霊獣毘比牟須(ビヒモス) 訳注25 にして、其の胸前(むなさき)にて荒漠(こうばく)たる無辺(むへん)を領したるに、此の無辺、土伊太印(ドイダイン) 訳注26 と名付けられたり。是、彼(か)の園(その)の東手にありて、其の園には撰徒と義の徒が住まひ、猶其処にて、我が祖父召し挙げられたりて、彼アダムより七代(ななよ)の裔(すゑ)なるに、其のアダム、是、万霊の主の造り成(な)し給ひし初めの人なり。 9. さすれば我、別なる天使 訳注27 に乞ひ求めたるは、我に彼(か)の巨獣等の大能(たいのう)を説(と)かむ事と、又、如何に其れ等の一(ひとつ)の日に分かたれ、猶一方は大海(おほうみ)の諸の深淵へ投げ入れられ、他方は彼の無辺の乾きたる地へ放たれぬるかを説(と)かむ事となりけり。 10. されば彼、我に曰く:「爾、人の裔 訳注28 よ、此処に爾、隠れたる事共を知り求めむとするなり。」
 11. 而して別なる天使 訳注29 、彼、我と共に往き、且つ我に隠されし事共を顕はしたるに、我に教へたり、始原にして終極なる物 訳注30 を。即ち、高き処なる天に在り 訳注31 、且つ地の下なる奥底(あうてい)に在り、且つ天の諸の果てに在り、且つ天の基(もとゐ)の上に在る物を。 12. 蓋し其の物自(よ)り生じたるは、諸風の諸蔵にして、如何に其れ等の諸風が分かたれ、又如何に其れ等の量(はか)られ、又如何に諸風の諸門(しょもん) 訳注32 の計(はか)らるるかにして、是、各(おのおの)が門(と)に就きて、其の風の勢威(せいゐ) 訳注33 に依りて為さるるなり。又、如何に月天后(がってんごう) 訳注34 が盈虚(えいきょ)の諸光輝(しょくわうき) 訳注35 の威の計(はか)らるるかにして、是、星辰に適(かな)へる威 訳注36 に依りて為さるるなり:又、如何に星辰の配分の計(はか)らるるかにして、是、其の称(しょう)に依りて、且つ如何に其の悉くの諸の分界の分かたるるかに依りて為さるるなり。 13. 猶其の物 訳注37 自り生じたるは、諸雷声(しょらいせい)なり。即ち、其れ等が撃ち下る処に依りて、又悉くの分界に依りて、是、其れ 訳注38 の光を放つを得(う)る諸雷光(しょらいくわう)の間に為さるるなり。又其れ等が群(ぐん)に依りて、是、其れ等の一時(いちじ)に呼応せむが為(ため)に為(な)さるるなり。 14. 蓋し、雷声に宿(やど)る処あり。是、其れ 訳注39 に賦(ふ)さるるは、其の轟(とどろ)きの出(い)づべきを待ち居(ゐ)る期(とき)なり;亦(また)、雷声と雷光と、分離すべからずにして、一つに非ず且つ分割せられざると雖(いへど)も、其れ等両(ふた)つの倶(とも)に奔(はし)るは、精霊 訳注40 に由りてなれば、猶分離せられざるなり。 15. 蓋し、雷光放つ時、雷霆(らいてい) 訳注41 其の声を発し、猶其の精霊、轟く間休止を強制し、且つ其れ等の間に配分 訳注42 を公正に分かつなり;蓋し、其れ等が轟きの蔵、海際(うみぎは)の砂の数が如くに量り難く 訳注43 、亦、其れ等が各(おのおの)の轟く時、手綱を以て制され且つ還(かへ)り返(かへ)らるるは、其の精霊の威権(ゐけん)に由りてなり。猶、地の諸方に随(したが)ひて遣(や)り出(い)でらるるなり。 16. 加之(しかのみならず)大海(おほうみ)の精霊、丈夫(ますらを)なりて且つ壮んなり。即ち其の威力の大能(たいのう)に依りて、手綱を以て大海を引き返さしめ、猶同じ道に随ひて其れ 訳注44 の駆り遣られ且つ散らさるるは、地の一切の諸山の間になり。 17. 亦、白霜(しらじも)の精霊、意のままの天使なり。猶、雹(ひょう) 訳注45 の精霊、能(よ)き天使なり。 18. 亦、雪の精霊の其の蔵をやむなく棄てたるは、其の手勢に由りてなりー其の内に在るは格別の精霊にして、其れ自り昇り立つは煙の如きなり。斯くて其の名、霜(しも)と称す。 19. 亦、霧(きり)の精霊の其れ等 訳注46 と結び合はされざるは、其れ等 訳注46 の蔵の中に於いてなり。されど、其れ 訳注47 、格別の座(くら) 訳注48 を有す;蓋し、其の幽路(いうろ)の壮麗なるは、光の中と暗闇の中との両(ふた)つに於いて、又冬の候と夏の候との両つに於いてなり。猶其の座に一柱の天使在り。 20. 亦、露(つゆ)の精霊、其の住処(すみか)を天の諸涯(しょがい)に有し、且つ雨の蔵と関はり、猶其の 訳注49 幽路、冬の候と夏の候との両(ふた)つに於いて有り:加之、其の 訳注50 雲と霧の雲と互ひに結び合ひ、猶一方より他方へ施す。 21. 雨の精霊の其の蔵自(よ)り出で立つ時、天使等来たりて、猶其の蔵を開きて、斯くて其れ 訳注51 を導き出づ。又、其れ 訳注52 の全地に及びて散り布かるる時、其れ 訳注52 、地の面(おもて)の水と合一(がふいつ)す。又、其れ 訳注52 の地の面の水と合一する時.... 訳注53 22. 蓋し諸水、地の面に住まふ者等が為にこそ有れ;蓋し其れ等 訳注54 、地が為の滋養物(じやうぶつ)にして、天に坐(ま)します至高なる者自(よ)り来たる賜物なり:されば雨が為の称(はかり)有り、猶天使等其れを取りて掌(つかさど)るなり。 23. 斯くて此れ等の物を我見しは、義の徒の園に向かひてなり。 24. 而して、安寧の天使、我と倶に在るに、我に曰く:「此れ等の両(ふた)つの巨獣、神の大能に適(かな)ひて備はるに、養はむ....訳注55

第61章 天使等出で立ちて楽園を称(はか)る:撰者による義の徒の審判:撰者と神とに対する讃美

 第61章 1. 加之(しかのみならず)、我其の期(とき)見しは、如何に長き縄(なわ)訳注56 の其の天使等に与へられ、如何に彼等の己等が翼を調(ととの)へて飛び出で、如何に彼等の北方へ向かひて往くかなりき。
 2. 而して我、その天使に問ひて、彼に曰(い)ふには:「何故彼(か)の天使等、此れ等の縄を取りて出で立ちたるや?」されば彼我に曰く:「彼等の往きたるは、称(はか)る為なり。」
 3. 猶、我と倶に往きたる天使、我に曰く:「此の徒(ともがら)、諸の義の徒の称(はかり)と義の徒を義の徒へ結ひ合はす諸の綱とを携へ行かむ、彼等 訳注57 の懸(かか)り得(う)るは、万霊の主の御名に、永劫(えいごふ)常(とこ)しへになれば。
 4. 撰徒、撰徒と倶に住み出でむ、
  猶、其れ等 訳注58 、諸の度量(どりやう)にして、是等、信義に与へられむ、
  且つ是等、義を剛(つよ)くせむ。
 5. 而して、此れ等の諸の度量、地の深淵 訳注59 の悉くの秘事 訳注60 を顕さむ、
  即ち、沙漠に由りて滅ぼされたる者等、
  即ち、猛獣に由りて貪り食はれたる者等、
  即ち、大海(おほうみ)が巨魚(きょぎょ) 訳注61 に由りて喰ひ荒らされたる者等、
  彼等の還(かへ)り来(く)るを得(え)、猶、懸(かか)り得(う)るは、
  彼(か)の撰者が日なれば;
  蓋し、如何なる者も滅ぼさるる事無からむ、万霊の主の御前に在りて、
  猶、如何なる者も滅ぼさるるを得じ。
 6. 斯くて、上つ天(かみつあめ)に住まふ一切の者等の拝受せしは、一つの命令と権能と一つの声と炎が如き一つの光となりき。
 7. 而して、彼(か)の一(ひと)つなる絶対者 訳注62 を、初めの言(ことば)を以て、彼等賛美せり、
  猶、崇(あが)めて讃(ほ)むるは、智慧を以てなり、
  猶、彼等に智あるは、其の言(げん)と生命(いのち)の霊 訳注63 とに於いてなり。
 8. 而して、万霊の主の、彼(か)の撰者を布置(ふち)し給ひしは、栄光の御座(みくら)の上なり、
  猶、彼の、悉くの聖徒の諸業(しょごう)を審判せられむは、上つ天に於いてなり、
  猶、彼(か)の称(はかり)に由りて、彼等が業(わざ)、量(はか)られむ。
 9. 又、彼、其の御顔(おかんばせ)を挙げられむ時、
  遂(つひ)に彼等の密(ひそ)かなる道を審判せられむ、万霊の主が御名の言(ことば)に依りて、
  猶、遂に彼等が行路(かうろ)を審判せられむ、万霊の主の義の審判の道に依りて、
  而して、彼等の悉く 訳注64 、声を一つにして語り且つ祝福せむ、
  猶、栄光を称(たた)へ且つ崇(あが)め且つ聖(きよ)め奉(たてまつ)らむ、万霊の主の御名をぞ。
 10. 加之、主、諸天の一切の軍勢をぞ招集し給はむ、即ち、悉くの聖なる上(かみ)つ者等 訳注65 と、神の軍勢と、智天使等(ちてんしら) 訳注66 と、熾天使等(してんしら) 訳注67 と、輪天使等(りんてんしら) 訳注68 と、力天使等(りきてんしら) 訳注69 と、権天使等(けんてんしら) 訳注70 と、彼の撰者と、或ひは大地(だいち) 訳注71 に属し、或ひは大水(おほみづ) 訳注72 の上なる他の諸霊威 訳注73 とをば。 11. 其の期(とき)、彼ら、声を一(ひとつ)にして呼ばはらむ、猶賛美し且つ栄光を称(たた)へ且つ高め奉(たてまつ)らむ、信義の霊の内に在りて、亦智慧の霊の内に在りて、亦堪忍(かんにん)の霊の内に在りて、亦慈悲の霊の内に在りて、亦審判と安寧との霊の内に在りて、亦至善 訳注74 の霊の内に在りて。加之、彼ら総(すべ)て 訳注75 、声を同じうして曰(い)はむ:『聖なるかな主、猶万霊の主が御名の崇(あが)められむ事を、永劫(えいごふ)常(とこ)しへに。』
 12. 諸の者、上つ天に在りて眠らぬ者等、主を崇めむ:
  悉くの聖なる者等、天に在りて、主を称えむ、
  猶、悉くの撰徒、生命(いのち)の園に住まひて、主を称揚せむ:
  猶、諸の光の霊 訳注76 、即ち、爾が聖なる御名を賛美し、且つ其の栄光を称へ、且つ其れを高め奉り、且つ其れを尊(たふと)む事を得る者等もまた寿(ことほ)がむ。
  加之、悉くの肉身ある者等 訳注77 、限り無く爾が御名の栄光を称へ且つ崇めむ、永劫常しへに。
 13. 蓋し、偉大なるは万霊の主が慈悲なりて、猶主、堅忍にて給へり、
  又、一切の主が御業(みわざ)と主が創造し給ひし万物とを、
  主、顕(あらは)し給へれ、義の徒と撰徒とに、
  万霊の主が御名に拠(よ)りてこそ。」

第62章 諸王と権者等 訳注78 の審判:義の徒の福(さいはひ)

 第62章 1. 斯くて主勅せり、諸王と権者等と貴人等とに、且つ地の面に住まふ者等とに、猶宣へり:「爾等が目を啓(ひら)け、猶爾等が権能を示して見よ 訳注79 、もし爾等が彼(か)の撰者を認識し得るなれば。」
 2. 而して、万霊の主、彼 訳注80 を己が座に就(つ)かしめ給へり、御許(みもと)が 訳注81 栄光の玉座に、
  猶、義の霊、彼が上に湧(わ)き出(い)でられり、
  猶、彼が御口(みくち)の御言葉(みことば)、罪の徒が悉くを戮(りく)し、
  猶、不義の徒が悉く、無に帰せしめらる、彼が御前(みまへ)自(よ)り。
 3. 而して、其の日立ち竦(すく)まむ 訳注82 、悉くの諸王と権者等とぞ、
  且つ、貴人等と地を領(りやう)する者等とぞ、
  猶、彼等、目撃し且つ認めむ、
  如何に彼、己が栄光の御座(みくら)が上に坐(いま)すかを、
  猶、義、彼が御前(みまへ)にて審判せらるを、
  猶、如何なる虚証(きょしょう)も彼が御前にて発されざるを。
 4. 斯くて、彼等が上に苦悶(くもん)来たらむ、恰も婦(をみな)の、産苦(さんく)に在るが如く、
  且つ、恰も其の身 訳注83 の、産みの苦患(くげん)に在るが如し、
  是、其の身が胎子(たいし)の、胎内の口自(よ)り出づる時にして、
  且つ其の身の、産悶(さんもん)に在る時なり。
 5. 彼等の内なる一部、其の余の者を見つまむ、
  猶、彼等、慄(をのの)かむ、
  猶、彼等、面(おもて)を伏さむ、
  猶、苦悶、彼等を捉へむ、
  是、彼等の目睹する時なり、彼(か)の人つ裔を、
  彼、其の栄光の御座(みくら)の上に坐(いま)せば。
 6. 斯くて、諸王と権者等と悉くの地を有する者等との、賛美し且つ栄光を称へ且つ高め奉らむは、彼なり。是、彼の一切を統御し、隠されて在りし故なり。訳注84
 7. 蓋し、始原自(よ)り、人つ裔、隠されて在りたり。
  猶、至高なる者、彼を秘し置きたるは、主の大能(たいのう)が御前(みまへ)になり。
  猶、彼を顕(あらは)したるは、撰徒になり。
 8. 而して、撰徒と聖徒との会衆、地に蒔かれむ、
  猶、悉くの撰徒、彼が御前(みまへ)に立ち畏まらむ、其の期(とき)にこそ。
 9. されば、悉くの諸王と権者等と貴人等と地を掌(つかさど)る者等と、
  頽(くづほ)れむ、彼が御前(みまへ)に、彼等が面(おもて)を地に伏せて、
  猶、拝み伏し、斯くて彼等が望みを懸かむは、彼(か)の人つ裔なり、
  猶、彼に請ひ願ひ、又、願ひ求めむは、彼が御手(みて)に自(よ)る慈悲なり。
 10. 然(しか)れども、彼(か)の万霊の主、彼等をいと強(し)ひ給ふ故に、
  彼等、狼狽(うろた)へて出で去らむ、主の御前自り、
  猶、彼等が顔(かんばせ)、辱(はづかし)めに満たされ、
  猶、幽暗(いうあん)、彼等が顔(かほ)の上に愈々(いよいよ)深まり行(ゆ)かむ、
 11. 而して、主、彼等を付し渡させ給はむ、懲罰の天使等に、
  彼等が上に復讐を施行(しこう)せむが為、是、彼等の虐(しひた)ぐるは、主の子等と主の撰徒とに有ればなり。
 12. 斯くて彼等、笑止(せうし)の景とならむ、義の徒と主の撰徒とに取りて:
  彼等 訳注85 の悦(よろこ)ばむは、彼等に 訳注86 就きてなり、
  是、万霊の主が忿怒(ふんぬ)の降り注ぐ故なり、彼等が上へ、
  斯くて、主の剣(つるぎ)飲まれり、彼等が血海(けっかい) 訳注87 の中(うち)へ。
 13. 而して、義の徒と撰徒と救済されむ、其の期(とき)に、
  猶、彼等、其の時以来つゆ見じ、罪の徒と不義の徒とをば。
 14. 而して、万霊の主、彼等を覆ひて留まり給はむ、
  猶、彼(か)の人つ裔と倶に、彼等食さむ、
  猶、憩ひ且つ奮ひ立たむ、永劫(えいごふ)常(とこ)しへに。
 15. 而して、義の徒と撰徒と地より起(た)ち上(のぼ)らむ、
  猶、止(や)めむ、彼等が面(おもて)を伏(ふ)するを。
 16. 斯くて、彼等纏(まと)はめ、栄光の衣(ころも)をこそ、
  猶、其の体(てい) 訳注88 、生命(いのち)の衣ならむ、是、万霊の主自り賜(たまは)れるなり:
  猶、爾等が 訳注89 衣こそ、古(ふ)るじ、
  況んや爾等が栄光、滅する事あらじ、万霊の主が御前にてこそ。

第63章 諸王と権者等との虚しき悔恨

 第63章 1. 其の期(とき)、地を掌る権者等と諸王との主に願ひ求めむは、主の懲罰の天使等に由(よ)る暫しの猶予を彼等に認むる事にして、是、彼等の其の天使等に引き渡されればなり。猶、彼等の願ひ求めむは、万霊の主が御前にて彼等の伏(ふ)し拝(をが)むを得(う)る事、且つ主が御前にて彼等が咎(とが)を告白するを得る事なり。 2. 而して、彼等、万霊の主を賛美し且つ主の栄光を称(たた)へ、猶曰く:
  聖なるは万霊の主にして、諸王の主、
  猶、権者の主と富める者の主と、
  猶、栄光の主と智慧の主となり;
 3. 加之(しかのみならず)、諸の密かなる事にて天晴(あっぱれ)なるは、世々を経て爾が御力(みちから)なり、
  猶、爾が栄光、 世々(よよ)常(とこ)しへなり:
  深きは爾が諸の秘密の事 訳注90 にして、且つ数へ難(がた)し、
  猶、爾が義、勘定の域を越ゆ。
 4. 我等、今や知れり、栄光を称(たた)へ且つ賛美すべけれ、諸王の主と諸王の上に坐(いま)す王なる主とをこそ。」
 5. 又、彼等曰(い)はむ:
  「我等、安息を得(え)まほし、賛美し且つ感謝を陳(の)べ、
  且つ我等が信義を告白せむが為に、主の栄光が御前にて!
 6. されど、今や我等、暫(しば)しの安息を切に願へども、其れを見出さず:
  我等、其れに専(もっぱ)ら向かへども、其れを得ず:
  猶、光、姿を隠しぬ、我等が面前自り、
  猶、冥(くら)き闇こそ我等が住処(すみか)なれ、永劫(えいごふ)常(とこ)しへに:
 7. 蓋し、我等、信義に与(あづか)らざりけり 訳注91 、主の御前にて、
  猶、賛美せざりけれ、万霊の主が御名をこそ、
  猶、称揚せざりけれ、我等が主をこそ、
  然(しか)れども、我等が望み、我等が王国の笏と我等が誉れとに在りき。
 8. 而して、我等の苦悩と艱苦(かんく)との日に、主、我等を救ひ給はず、
  猶、我等、告白を許されたる猶予をつゆ見出さず、
   実(げ)に 訳注92 、我等が主の真(まこと)なれ、悉くの主の御業と、主の裁きと、主の正義とに於いてこそ;
   猶、主の審判、人を慮(おもんぱか)り給ふに非ず。
 9. 斯くて、我等、主が御前自り去(さ)り失(う)せり、我等が所業に依りて、
  猶、一切の我等が罪、数へ上げられり、義に依りて。」
 10. 茲(ここ)に因りて、彼等、己等が身に曰(い)はむ:「我等が魂、数多(あまた)の不義の利得(りとく)に盈(み)つるも、是、我等下り往くを阻(はば)まず 、其れ等に塗(まみ)れたる中(うち)自り、負ふ荷の陰府(よみ)に至るまで。」
 11. 而して、其の後(のち)、彼等が貌(かほ)、沈鬱(ちんうつ)に盈たされむ、
  猶も辱(はづかし)めにもこそ盈たされむ、彼(か)の人つ裔の御前にて、
  猶、彼等、彼が臨在の座自り逐ひやられむ、
  猶、剣(つるぎ)の待ち受けむ、彼等が面前に、亦彼等が只中に。
 12. 万霊の主、斯く宣ひたり:「是、布告にして審判なり。即ち権者等と、諸王と、貴人等と、地を治むる者等とに及べり、万霊の主が御前にて。」

第64章 懲罰の境(さかひ) 訳注93 に在る堕落せし天使等の幻視

 第64章 1. 加之(しかのみならず)、異なる像(かたち)を我見き、是、彼(か)の境に隠されて在りしなり。 2. 我聞きたり、其の天使 訳注94 の声の曰はく:「此等、地へ下りたる天使等なり。猶、隠されし事共を人の子等へ表し、猶、人の子等を唆(そそのか)し愆(あやまち)を犯さしめたり。」

第65章 エノク、ノアへ大洪水と彼自(みづか)らの防護とを予言す

 第65章 1. 又其の期(とき)、ノア見たり、地の傾(かたぶ)き沈み往(ゆ)き 訳注95 、猶其の滅亡の近づけるを。 2. 而して彼、其処自(よ)り起(た)ち、猶地の果てまで往(ゆ)き、又彼が祖翁(そおう)エノクへ向かひて声を放ちて叫びたり:猶ノア、三度(みたび)告げたり、苦患(くげん)の声にて:「我が言(こと)を聞き入れ給へ、我が言を聞き入れ給へ、我が言を聞き入れ給へ。」 3. 加之、我 訳注96 、彼に 訳注97 呼ばはれり:「我に告げ給へ。何なるぞ、地の面(おもて)に降り及びたるは。地上の斯くも悪しき相(さう)に陥(おちい)り入(い)り、猶震へり。もしや我の其れと倶に滅びざらむが為に。」 4. 茲(ここ)に、地上に大いなる震盪(しんたう)顕(あら)はれ、猶一つの声、天自(よ)り聞こえしかば、我、 倒れ伏しぬ。 5. 斯くて、エノク、我が祖翁の来たりて、我が側(かたはら)に立ちて、猶我に曰く:「何故に爾、我に痛み嘆く、甚(いた)しき叫びと泣きを以て?  6. 遂(つひ)に、一つの勅(ちょく)、主が臨在の座自り布告され給へり。是、地の面(おもて)に住まふ者等に関はる事にして、猶彼等が滅亡の遂げられるは、彼等の、天使等に係る万般(ばんぱん)の秘義を知れりし故に、又魔王共(まおうども) 訳注98 の悉くの冒涜を、又彼等が 訳注99 悉くの権能をー即ち至りて秘なる諸の権能をー、又魔術(まじゅつ) 訳注100 を用ゐる者等の悉くの魔力 訳注101 を、又呪術 訳注100 の妖力(えうりょく) 訳注102 を、又全地に向(むか)ひて鋳たる偶像 訳注103 を造れる者等の力を: 7. 又、如何に地の塵自(よ)り銀を作り出だす事を、又如何に軟金属の地に由来する事を知れりし故になり。 8. 蓋し、鉛と錫(すず)と、先の物の如く 訳注104 地自り作り出さるるに非ず:其れ等を齎(もたら)すは一つの源泉 訳注105 なり。一柱の天使、其の傍(かたはら)に立ち、猶其の天使、卓(すぐ)れたり。」 9. 而してその後、我が祖翁エノク、我が手を取りて我を捉(とら)へ、猶我が身を起こして我に曰く:「往くが善し。蓋し、我、万霊の主に此の地上の震盪(しんたう)に就(つ)きて願ひ奉(たてまつ)れり。 10. 猶、主の我に宣ひて曰はく:『彼等が 訳注106 不義の故、彼等が 訳注106 審判、其の上に定められり。是、予に由りて翻(ひるがへ)されじ、永劫に。又、彼等の見出(みい)だして習ひたる魔術の故、地上と其の上に住まふ者等と、滅されむ。』 11. 而して、此等 訳注107 に就きては、永劫に悔悟(くわいご)の場与へられじ、彼等の 訳注108 彼等に 訳注109 隠されし事共を顕はし、由りて彼等の 訳注110 呪われたる故に:されど、爾に就きては、我が裔(すゑ)よ、万霊の主、爾の清(きよ)く且つ潔白(けっぱく)なるを知り給へり、此の秘義の咎(とが)に就きて。
 12. 斯くして、主、爾が名の聖徒の間に在る由(よし)を定め給へり、
  猶、爾を庇護し給はむ、地の面(おもて)に住まふ者等の中(うち)に、
  猶、爾が義の胤(たね)をも定め給へり、王位と大いなる誉れとの両(ふた)つに於いて、
  猶、爾が胤自(よ)り由(よ)り出(い)づるは、義の徒と聖徒との源泉にして、是、算(かぞ)ふるに能わざるは常(とこ)しへになり。」

第66章 勅せられし衆水の天使等、是 訳注111 を抑(おさ)へ止(と)め置く

 第66章 1. 然る後、彼 訳注112 の我 訳注113 に顕したるは、懲罰の天使等なり。彼等の来たらむと備へ、猶地の底に在る衆水の悉くの威力を解き放たむとするは、審判と絶滅とを齎さむが為なり、悉くの地の面に留まり且つ住まふ者等に向かひて。 2. されど万霊の主、出で立たむとする其の天使等に勅を与へ給へり。即ち、彼等をして衆水を溢れ出(い)ださ遣(し)むるべからずして、猶是を抑(おさ)へ止(と)め置くべしと;蓋し、彼(か)の天使等、衆水の威力を掌(つかさど)れる故に。 3. 斯くて、我、エノクの御前を辞し去りぬ。

第67章 神のノアに賜ひし契り:天使等と諸王との懲罰の境々(さかひざかひ)

 第67章 1. 加之、其の期(とき)、神の御言(みことば)我に至れり、猶主、我に宣ひて曰はく:「ノアよ、爾が運命(さだめ)、予が前に上(のぼ)り寄(よ)れり。是、咎むる所無く、亦(また)愛(いつくしみ) 訳注114 と直(なほ) 訳注115 との運命(さだめ)なり。 2. 而して今は、天使等、巨なる木の櫃(ひつ) 訳注116 を作りつつ在り。猶、彼等、己等が務めを遂げぬる時、予、予の手を其の上に按(あん)じ、且つ是を庇護せむ、さらば、是自り生命(いのち)の胤(たね)出(い)で現(あらは)れむ、猶変じ来(きた)らむ、地の居むる者無くして遺(のこ)されざらむが為に。 3. 又、予、爾が胤を世々(よよ)常(とこ)しへに予が前にて固く結ばむ、猶、予、爾と倶に住まふ者等を布(し)かむ:其れ 訳注117 、地の面にて実り無き 訳注118 に非ず、是、却(かへつ)て恵み給はれむ、猶地の面に殖(ふ)えむ、主の御名に拠(よ)りて。」
 4. 加之、主、不義を触れ弘(ひろ)めたる彼(か)の天使等 訳注119 を幽閉(いうへい)し給はむ、是、彼(か)の燃ゆる谿(たに)に於いて為されむ。其の谿、我が祖翁エノクの先に我に顕したる処にして、西方の、金(こがね)の山と銀(しろがね)の山と鉄(くろがね)の山と軟金属(なんきんぞく)の山と錫(すず)の山との間に在りき。 5. 又、我、彼(か)の谿(たに)を見しに、其の所にて一度(ひとたび)の力おほき震拗(しんよう) 訳注120 と一度の衆水の震拗と在りき。 6. 斯くて、是(こ)の一切生じぬる時、即ち、灼熱にして融(と)け散りし彼(か)の諸金属自(よ)り、又其の所に顕現せる震拗因(よ)り硫黄の臭気の生じて、且つ是の彼(か)の衆水と相結べぬる時、彼(か)の天使等の谿、彼等、人類を導き堕落せしむに、彼(か)の地 訳注121 の下(した)なる奥底にて 訳注122 燃えり。 7. 斯くて、其の 訳注123 谿々(たにだに)を経て、火焔の濁流(だくりゅう)進み往けり、猶彼(か)の谿 訳注124 に於いて、此等の天使等誅せられり。是、彼等の導き堕落せしむ故なる、地の面に住まふ者等をぞ。
 8. 然れども其の期(とき)、彼(か)の鉱泉(くわうせん) 訳注125 、諸王と権者等と貴人等と地の面に住まふ者等との為に備へ設けられたり。是、彼等が肉身(にくしん)を癒(いや)さむが為と雖(いへど)も、実(げ)に其の霊の誅罰(ちゆうばつ) 訳注126 が為なり;茲(ここ)に今は、彼等が霊、数多の欲望に盈(み)てり、故に彼等の身、誅せらるるに及べり。蓋し、彼等、万霊の主を拒みて、猶日毎(ひごと)の其の誅罰を目の当たりに見ゆるも、未だ主の御名の信義に与(あづか)るに至らずして止(とど)まれり。 9. 斯くて、彼等が身の火熱(くわねつ)に灼(や)かるる烈(はげ)しさの増すに随ひて、係りて起こる変異(へんい)、悠久(いうきう)に其の霊に生ぜり;蓋し、万霊の主の御前にて、如何なる者も徒(いたづら)なる言(こと)を口に出づること能はざるなり。 10. 蓋し審判、彼等が上に降り懸からむ、是、彼等、其の身が貪欲(たんよく)に恃(たの)み、猶万霊の主を拒(こば)める故なり。 11. 猶其の同じき鉱泉 訳注127 、其の期(とき)に変(へん)を蒙(かうむ)らむ;蓋し、件(くだん)の天使等 訳注128 、此等の鉱泉の諸水に由りて且つ纏(まと)はれて 訳注129 誅せらるる時、此等の源泉、其の熱の度を変ぜむ、猶、彼(か)の天使等の昇る折(をり)には、其の諸の源泉の水の変じ、冷え行(ゆ)かむ。 訳注130 12. 斯くて我聞けり、ミカエルの応じて曰ふ事をば:「此の審判、其れに由りて彼(か)の天使等の裁(さい)せらるるに、証(あかし)となるものなり、地を領(りやう)する諸王と権者等とに向かひて。」 13. 此等の審判の鉱泉、諸王が肉身(にくしん)と其の貪欲(たんよく)を癒(いや)すに益(えき)する故に;然るが故に彼等解(げ)せじ、又信ぜじ、其の鉱泉の変じ、猶、常(とこ)しへに燃ゆる火焔とならむ事をこそ。

第68章 ミカエルとラファエルと愕然(がくぜん)たり、彼(か)の審判の絶烈(ぜつれつ)の状に 訳注131

 第68章 1. 是(ここ)に於いて、其の後(のち)、我が祖翁(そおう)エノク、万般(ばんぱん)の秘義の教義を我に施したり。是、彼(か)の書に記され且つ比喩譚なる 訳注132 、彼に賜はれる事なり;猶彼、我が為に其れ等を一(ひとつ)にせり、比喩譚の書の辞(じ)に拠(よ)りて。 2. 加之(しかのみならず)其の期(とき)、ミカエル、ラファエルに応じて曰く:「御霊(みたま)の威権(ゐけん)、我を茫然(ばうぜん)たらしめ、猶我を慄然(りつぜん)たらしめぬ。是、秘義の審判と天使等の審判との絶烈(ぜつれつ)なる故なれば:誰(たれ)ぞ彼(か)の惨烈(さんれつ)なる審判の行はれたるを堪(た)へ得(う)るや?猶、其れに相対(あひたい)し 訳注133 、彼ら融(と)け失(う)せり。」 3. 而してミカエル、重ねて応じて、猶ラファエルに曰く:「誰ぞ此れ 訳注134 に就きて其の心を挫かれず、猶其の腎 訳注135 を患(わづら)はぬ者在らむや?斯くの如く彼ら 訳注136 を導き出でたる者等故に、彼等 訳注137 が身に勅せられたる此の審判の辞(じ)に由りて。」 4. 斯くて、彼(かれ)の万霊の主が御前に立ち畏まれる時、ミカエル、次の如くラファエルに曰へり:「我、主の御目(みめ)の下(もと)にて彼等 訳注138 に与(あづか)らじ;蓋し万霊の主の彼等に震怒し給へるは、恰も彼等の主たりしが如く振る舞へるが故なり。 5. 夫れが為に、秘められし一切 訳注139、彼等が上に降り懸からむ、永劫(えいごふ)常(とこ)しへに;蓋し天使も亦(また)、人間にも亦、其の中(うち)に己(おのれ)が分(ぶん)を有さじ、唯(ただ)彼等のみぞ其の審判を受けたる、永劫常しへに。」

第69章 堕天使等と魔王共 訳注140 との其の名(な)と務(つとめ):密なる秘誓(ひせい) 訳注141

 第69章 1. 加之、此の審判の後(のち)、彼等 訳注142 、彼等を 訳注143 怖(おそ)れしめ、猶慄(をのの)かしめむ、彼等 訳注142 の此れ 訳注144 を地の上に住まふ者等へ示したる故に。  2. 又、見よ、彼(か)の天使等の名を。猶、次に挙ぐるは彼等の名なり:第一なるはサムジャザ 訳注145、第二なるはアルタキファ 訳注146 、猶第三なるはアルメン 訳注147 、第四なるはコカベル 訳注148、第五なるはトゥラエル 訳注149 、第六なるはルムジャル 訳注150 、第七なるはダンジャル 訳注151 、第八なるはネカエル 訳注152 、第九なるはバラケル 訳注153 、第十なるはアザゼル 訳注154 、第十一なるはアルマロス 訳注155 、第十二なるはバタルジャル 訳注156 、第十三なるはブサセジャル 訳注157 、第十四なるはハナネル 訳注158 、第十五なるはトゥレル 訳注159 、第十六なるはシマペシエル 訳注160 、第十七なるはジェトレル 訳注161 、第十八なるはトゥマエル 訳注162 、第十九なるはトゥレル 訳注163 、第二十なるはルマエル 訳注164 、第二十一なるはアザゼル 訳注165 。 3. 又、次に挙ぐるは天使等の長(ちょう)及び其の名なり。即ち百柱を掌(つかさど)る長(をさ)と、五十柱を掌る長と、十柱を掌る長となり。
 4. 第一の名ジェコン 訳注166 なる者、其の務(つとめ)は悉くの神の徒(ともがら) 訳注167 を導きて堕落せしむる事なり。即ち、彼等を地へと率ゐて下り往(ゆ)き、猶彼等をして其の道を踏み外さしめたり、人の娘等に由りて。 5. 又、第二の名アスベエル 訳注168 なる者:彼、聖なる神の徒(ともがら)に悪しき密謀(みつぼう) 訳注169 を授(さづ)けたり。即ち、彼等をして其の道を踏み外さしめ、而して彼等其の身を穢(けが)せり、人の娘等と倶に。 6. 又、第三なるはガドレエル 訳注170 と名付けられたり:其れは彼なり。人の子等に一切の死の打撃(だげき) 訳注171 を訓(をし)へ、猶エバ 訳注172 を迷はしめ、猶人の子等に、楯(たて)、鎖帷子(くさりかたびら)、戦(いくさ)の剣(つるぎ)などの死の兵(つはもの) 訳注173 を訓(をし)へたり。茲(ここ)に人の子等に悉くの死の兵(つはもの)を訓(をし)へたる者は彼なり。 7. 而して彼が手自(よ)り、其れ等 訳注174 の出(い)で向かひたれ、地の上に住まふ者等へこそ、其の日自(よ)り常(とこ)しへに。 8. 又、第四なるはペネムエ 訳注175 と名付けられたり:彼、人の子等に苦味(にがみ)と甘味(あまみ)とを伝(つた)へ、猶彼等に教へたれ、人の及び得る限りの智慧の深秘 訳注176 の一切をこそ。 9. 猶、彼、人類に墨(すみ) 訳注177 と紙とを用ゐた書記(しょき)の術(わざ) 訳注178 を授けたり。其れが為に数多(あまた)の者等の罪を累(かさ)ぬるは、久遠(くおん)自り久遠に至る迄 訳注179 且つ今日(けふ)に至る迄なり。 10. 蓋し、人 訳注180 、斯くの如き意図が為に創られたるに非ず、即ち筆(ふで)と墨(すみ)とを以て其の信義の証を立つ為に。 11. 蓋し、 人、毫釐(がうり)も違(たが)はず天使が如く創られたり、即ち其れの高潔且つ義にして変はらずべく、亦、死、是一切を無に帰せしむるに、其れを捉(とら)ふるを得ずべき意(こころ)を以て;されど此れ 訳注181 に由りて、人、其の智識(ちしき)を朽(く)たらしみ行(ゆ)き、猶其の妖力(えうりょく)に由りて、我 訳注182 を焼き滅(ほろぼ)し行(ゆ)きなむ。 12. 又、第五なるはカスデヤ 訳注183 と名付けられたり:此れは彼なり。人の子等に精霊等と悪霊等との悉くの邪(よこしま)なる撃ち据(す)ゑの相(さう)を顕(あらは)したり。即ち、母胎の胎子(たいし)を撃ち据ゑ、其れの堕(お)つるを得むとし、猶、人の魂 訳注184 を撃ち据ゑつつ、また蛇(くちなは)の咬(か)み懸(か)きて、猶、撃ち据ゑの降(ふ)り懸(か)かれり、真昼の炎熱(えんねつ)に由りて。其の蛇(くちなは)、彼(か)の蛇(くちなは)が申し子(まうしご)なり。此の禍(まが)の根(ね)たる彼(か)の蛇(くちなは)が名 、タバエトなり。 訳注185 13. 又、是、彼(か)の秘誓(ひせい)の長(をさ)たるカズベエル 訳注186 が所業なり。彼、其の秘誓を聖なる者等に顕(あらは)せり、彼(かれ)の天高(あめたか)く栄光の中(うち)に宿(やど)り居(ゐ)たる時に。実(げ)に、其の秘誓が名こそ、闢開咒(びゃくかいじゅ、ビカ) 訳注187 なれ。 14. 其の天使、ミカエルに請(こ)ひ求(もと)めたり、彼(かれ)に彼(か)の隠されし御名(みな)を顕さむ事を。即ち、彼(かれ)、其の御名を其の秘誓が中(うち)にて唱(とな)へ発するを得(え)、其の者等 訳注188 をして其の御名と秘誓の御前に震(ふる)へ慄(おのの)かしめむが為に、其の者等 訳注189 、万般の秘せられし事共を人の子等に顕したるが故に。訳注190 15. 実(げ)に、是、其の秘誓が威能(ゐのう)なり。蓋し其れ、効験(こうげん)を顕はし且つ激烈なり。是(ここ)を以て、主 訳注191 、此の秘誓、契縛咒(けいばくじゅ、アカエ) 訳注192 をミカエルが手に配し給へり。 16. 而して此等、此の秘誓が奥義にして... 訳注193
  猶、天地万物(てんちばんぶつ) 訳注194 、堅固なるは主が秘誓に由りてなり:
  猶、天、掲(かか)げられり、万有(ばんいう) 訳注195 の創造せられし時に先立ちて、
  且つ、窮(きは)まり無き時に亘(わた)りて。
 17. 猶、其れ 訳注196 に由りて、大地、水界(すいかい) 訳注197 が上に据(す)ゑられり、
  猶、諸山の密なる奥淵(おうゑん) 訳注198 自(よ)り、清き諸水、出(い)で来(く)るなり、
  天地創造の時自り永久(とこしえ)に至るまで。
 18. 猶、其の秘誓に由りて、大海(おほうみ)創造せられたり、
  猶、礎(いしずゑ)と為して、主、其の 訳注199 為に沙浜(さひん)を配し給へり、其の怒りの時に備へて、
  猶、其れ 訳注200 、敢へて其れ 訳注201 を越えず、天地創造の時自り永久(とこしえ)に至る迄。
 19. 猶、其の秘誓に由りて、諸の深淵、堅く結ばれたり、
  猶、持続し且つ其れ等が境(さかひ)自(よ)り微動だにせず、 久遠(くおん)自り久遠に至る迄。
 20. 猶、其の秘誓に由りて、日天子(にってんし)と月天后(がってんごう)と、其の軌(みち)を遂ぐるなり、
  猶、其の定めの軌(みち)自(よ)り逸(そ)る事非ず、 久遠自り久遠に至る迄。
 21. 猶、其の秘誓に由りて、星々 訳注202 、其の軌(みち)を遂ぐるなり、
  猶、主、其れ等を其の称(しょう)に由りて喚(よ)び給ふなり、
  猶、其れ等、主に応ずるなり、久遠自り久遠に至る迄。訳注203
 22. 同じ道に随ひて、大水(おほみず)と、諸の烈風 訳注204 と、悉(ことごと)くの諸微風(しょびふう)との諸(もろ)の精霊も又、是を為すなり。而して其れ等 訳注205 が行路(かうろ)、諸風の四方(よも)悉く自(よ)り来(き)向ふなり。訳注206 23. 加之(しかのみならず)保たるる、雷霆(らいてい)の声と諸の閃電(せんでん)の光とぞ:猶保たるる、雹(ひょう)の諸蔵(しょぞう)と、白霜(しらじも)の諸蔵と、霧(きり)の諸座(しょざ) 訳注207 と、雨と露(つゆ)との諸蔵 訳注208 とぞ。 24. 斯くて此等の一切 訳注209 、信に立ち 訳注210 且つ謝(しゃ)し奉(たてまつ)るなり、万霊の主が御前(みまへ)にて。猶、主たる栄光を称ふるは、其れ等 訳注211 が全能(ぜんのう) 訳注212 を以てなり、猶、其れ等 訳注211 が糧(かて)、諸の謝奉(しゃほう) 訳注213 の儀の中(うち)に在り:其れ等、感謝を奉り且つ栄光を称(たた)へ且つ崇(あが)むるなれ、万霊の主が御名をこそ、永劫(えいごふ)常(とこ)しへに。
 25. 斯くして此の秘誓、大能(たいのう)を顕(あらは)すなり、其れ等を掌りて、
  猶、其れに由りて、其れ等保たれり、又其れ等が行路(かうろ)保たれり、
  猶、其れ等が軌(みち)、毀(こぼ)たるる事非ず。

第三の比喩譚の結語

 26. 而して彼等 訳注214 の間に著(いちじる)しき歓喜在り、
  猶、彼等、賛美し且つ栄光を称へ且つ高め奉れり、
  彼(か)の人つ裔が御名(みな)、彼等に顕されたるが故に。
 27. 猶、彼、其の栄光の御座(みくら)の上に坐(いま)したり、
  猶、審判の全(まった)き権能の与へられたるは、人つ裔にあり、
  猶、彼、罪の徒をして失(う)せ往(ゆ)かしめ、且つ滅さしめられたり、地の面(おもて)自(よ)り、
  猶、宇内(うだい)を導きて堕落せしめたる者等をも、又滅さしめられたり。
 28. 鎖を以て彼等、縛(しば)らしめられむ、
  猶、其の滅びの集処(しふしょ)に、彼等幽閉せしめられむ、
  猶、彼等が所業 訳注215 の悉く、霧散せり、地の面(おもて)自(よ)り、
 29. 斯くして此れより後(のち)、一切の万有(ばんいう) 訳注216 、朽(く)ち易(やす)く非(あら)じ、
  蓋し、彼(か)の人つ裔、顕れり、
  猶、座を占め給へり、彼が栄光の御座(みくら)の上に、
  猶、悉くの悪、去(さ)り失(う)せむ、彼が御前(みまえ)自(よ)り、
  猶、彼(か)の人つ裔が御言(みこと)、布告されむ、
  猶、 壮(さか)んなれ、万霊の主が御前にてこそ。
 是、エノクの第三の比喩譚なり。


【注記】

訳注1 : 原語は'Saints'。チャールズが意図した神学的な意味合いを込めて「聖徒」と訳出する。これは以前の'the holy'の訳出とも重複する語であるが、意味上の矛盾は生じないので問題は無い。

訳注2 : 原語は'the sun'。天体としての太陽は象徴的に「日天子」と訳出したが、ここでは詩的に「天つ日(あまつひ)」と訳出した。

訳注3 : 原語は'Eternal Lord'。「永遠の主」と訳出した。

訳注4 : 原語は'it'。これは58:3や58:4の'light'(光)を指す。くどく訳出すれば「其の光」となろう。

訳注5 : 原語は'a light'。あえて単数形の'a'が付いている。「一つの光」としてしまうと矮小となってしまうので、「一光(いつくわう)」と訳出した。このような凝縮した表現を用いることができるのが文語の良いところである。仏教における「一毫の光」や、万物の根源としての「一なる光」とも響き合う。

訳注6 : 原語は'they'。これは「義の徒と撰徒」を指す。終わりの日が決して彼等にやって来ることはない、という意味である。

訳注7 : 原語は'the lights'。直訳すると「光」であるが、エノク書の天体の秘義の記述の文脈においては、これは只の光ではなく「星の光」を指す。本訳では「星影(ほしかげ)」と訳出した。

訳注8 : 原語は'he'。エノクを案内している者なので、これは前出の「安寧の天使」を指すと考えられる。

訳注9 : 原語は'Behemoth'。聖書風に「ビヒモス」としたいのだが、当て字で「毘比牟須(ビヒモス) 」と訳出した。

訳注10 : 原語は'Leviathan'。聖書風に「レビヤタン」としたいのだが、当て字で「麗比耶丹(レビヤタン)」と訳出した。

訳注11 : 原語は'the Elements'。もとは原始の自然力を表し、現代的には「エレメント」と片仮名にしてしまう事が多い。が、訳者はこれに漢字を当てはめた。生み出した訳語は「物象元(ぶっしょうげん)」。意味合いとしては、「この世界に顕現する物や現象の元となる力や存在」。この章が進むにつれ、何が「エレメント」であるかが詳らかになっていく。この訳語はそれらに相応しかろう。

訳注12 : 原語は'Enoch'。字義通りに訳した。が、チャールズも言及している通り、これはノアの書の断片であり、ノアが見た幻視の記述であると言われている。ノアの書から転写する時に書紀によってノアからエノクへと書き換えられたか、または誤ってエノクと書かれたのか。エノクは365歳で昇天しているといわれているので、500歳までは生きていない。

訳注13 : 原語は'that Parable'。これは第二の比喩譚を指すといわれている。このノアの断片の章は第三の比喩譚に挿入されたテキストであり、本来ならばそれを指すべきであるが、内容に矛盾があり、学者らは第二の比喩譚を指していると考えている。

訳注14 : 原語は'heaven of heavens'。これはヘブライ式の「最高の天」を表す。「見守る者らの書」の冒頭のヘブライ詩の中では「第七天」と訳出したが、今回は騒いでいる天使らの目線で「諸天の天」と字義通りに訳出する。

訳注15 : 原語は'the Most High'。前と同じく「至高なる者」と訳出した。

訳注16 : 原語は'a thousand thousands and ten thousand times ten thousand'。これは字義通りに101,000,000柱の天使を言い表したい訳ではなく、ヘブライ式の「数え切れない数」の言い回しである。当時は1万が最も大きな数の単位であったので、その語を平方することにより数え切れない程の数を表現しようとした。まず、より小さな千の千倍から始めて'and'の後に万の万倍とつなげるのは詩的な強調表現である。本訳では数量を提示しつつ「数え切れない数」を表現する言葉として「億兆(おくてう)」と意訳した。

訳注17 : 原語は'reins'。これは腎臓を表す。訳語として「腎」を当てた。古代ヘブライや近東の心理学では、「腎」は本能的な感情などが宿ると考えられていた。

訳注18 : 原語は'covenant'。聖書的には「契約」と訳出されるのだが、本訳では「聖約」と訳出した。

訳注19 : 原語は'them'。 これは直前に言及された罪の徒を表す。

訳注20 : 原語は'it'。「万霊の主が劫罰」を指すとも読めるが、直後にその言葉が直に繰り返されているので、このitは別の物を指すと考えられる。明確な言葉として出てこないが、その直前の60:6で言及されていた事、つまり「主の審判の日」(the Day of Judgement)と解釈できる。

訳注21 : 原語は'it'。これはthat節の並列句なので、直前の「万霊の主が劫罰」が反復されていると解釈できる。

訳注22 : 原語は'female'。直訳すれば「雌」となるが、物理的実体のある生物ではないので、「陰」と訳出した。

訳注23 : 原語は'Leviathan'。当て字の「麗比耶丹(レビヤタン)」だけだと意味を取りにくいので、深淵の霊蛇麗比耶丹」と訳出してある。

訳注24 : 原語は'male'。直訳すれば「雄」となるが、これも物理的実体のある生物ではないので、「陽」と訳出した。

訳注25 : 原語は'Behemoth'。当て字の「毘比牟須(ビヒモス)」だけだと意味を取りにくいので、「大地の霊獣毘比牟須」と訳出してある。

訳注26 : 原語は'Duidain'。ビヒモスがその胸を載せている荒野のことであるが、適当な訳語がない。音訳して「土伊太印(ドイダイン) 」とした。

訳注27 : 原語は'the other angel'。これは、今までエノクを案内していた「安寧の天使」とは別の天使である。

訳注28 : 原語は'son of man'。これは称号としての「人つ裔」(the Son of Man)とは異なった意味合いとなっており、人間の末裔といった意味合いが強い。区別するために、訳語として「人の裔(ひとのすゑ)」を選んだ。

訳注29 : 原語は'the other angel'。これはまた別の天使が登場してきていて、彼の担当は、「宇宙論的構造」の説明となっている。この11節から21節までずっと彼の長広舌が続く。

訳注30 : 原語は'what is first and last'。直訳すれば「最初にして最後の物」となる。「最初」と「最後」が同じ一つの「物」を同時に叙述している事に注意せよ。ヨハネの黙示録21:6にも同様な表現「私はアルファにしてオメガなる者であり、初めにして終わりなる者である。」がある。このような表現はエノク書の宇宙論的装置(仕組み)を表現しており、「初め」の方は原始の青写真を、「終わり」の方は達成されるべき究極の目的を表している。これらは、時間に束縛される事の無い神の視座からは「同時に達成されるもの」であり、故にそれらが同時にひとつの実体ー恐らくそれは天地創造の「種」のようなものーを指すのである。本訳では「始原にして終極なる物」とした。

訳注31 : この先60:11から60:21まで訳注30の「始原にして終極なる物」についての叙述の列挙が続く。最初はその空間的な全域性について、その後すぐに「始原にして終極なる物」より生じた訳注11の「物象元」(the Elements)について述べられていく。

訳注32 : 原語は'the portals of the winds'。「諸風の諸門(しょもん) 」と訳出してある。エノク書の宇宙論においては、風は、星々の運行を遂行するための動力源となっていて、風が星を「押す」事により星が天を移動していくと考えられている。「門(と)」は星の天文学的な「出」と「没」の天界における出入り口(portal)の事を指す。星の運行に風が必要なので、風もまた星と一緒に門を吹き抜けていくのである。

訳注33 : 原語は'the power of the wind'。風は星を追い立てて動かしていく存在なので、単なる「風の力」ではなく「風の勢威(せいゐ) 」と訳出した。

訳注34 : 原語は'the moon'。比喩譚における以前の天文的な訳出の時と同様に、「月天后(がってんごう) 」と訳出してある。

訳注35 : 原語は'the lights of the moon'。なぜ月の光が複数形なのか?月はその月齢に応じて光が一日ごとに少しずつ「増して」あるいは「減じて」いく。エノク書の宇宙論では、それらの異なる月齢の光14種類が「月の光」として存在していると考える。(月齢は約28日で一回転する事を考えよ)よって光が複数形となっている。訳出は「月天后が盈虚(えいきょ)の諸光輝(しょくわうき) 」とした

訳注36 : 原語は''the power that is fitting'。'fitting'が何に対してなのかが、このフレーズだけだと不明であるが、この直前で風と月について述べており、またこの直後に星が出てくるので、星を指すと考えるのが妥当である。これはチャールズがゲエズ語の所有格の扱いを無理やり英語に持ち込んでこのような形となったと言われている。「星辰に適(かな)へる威」と訳出した。

訳注37 : 原語は存在しない。文の構造としてこれは、60:12の'and the chambers of the winds'と並列していると考えられる。よって、60:12の「其の物」、つまり、60:11の「始原にして終極なる物」訳注30 を指すものと考えられる。

訳注38 : 原語は'it'。現代英語としてはおかしいが、これは直前の'lightnings'(諸雷光)の中の一つを取り出して指していると考えられる。ゲエズ語からの翻訳として苦肉の策なのであろう。

訳注39 : 原語は'it'。これは直前の雷声を指す。

訳注40 : 原語は'the spirit'。単なる「霊」とすると色々な霊を想像されてしまい具合が悪い。よって自然現象に紐つく「精霊」と訳出した。

訳注41 : 原語は'the thunder'。「雷声」と訳語をまとめてきたが、この部分は「雷声が声を発す」と冗長になってしまうので、「雷霆」と訳出した。

訳注42 : この「配分」には対応する原語(devideの目的語)が存在しないが、意味上挿入してある。「精霊が配分を分かつ」だけだと何を分けるのかが判然としない。エノク書の世界では、「雷霆の精霊」は轟きの間に雷声と雷光の分け前(時間、空間、威力など)を調停して割り当てているのである。

訳注43 : 原語は'be like the sand'。直訳すると「砂のようである」となり意味が破綻する。砂を用いた喩えは聖書などでも定番であり、「砂のようにザラザラしている」という意味ではなく、「砂の数のように無数である」という意味合いを有する。本訳では「海際(うみぎは)の砂の数が如くに量り難し」と訳出した。

訳注44 : 原語は'it'。これは'the sea'(大海)を指す。

訳注45 : 原語は'hail'。単純な疑問として、これは「霰(あられ)」なのか「雹(ひょう)」なのか?現代的には5mm未満を霰、5mm以上を雹として区別するが、このエノク書の時代、聖書やエノク書の時代における'hail'というものは、「天から降る、万物を打ち砕く神の審判の武器」を意味している。故に、粒の大きい「雹(ひょう)」と訳出する。

訳注46 : 原語は'them'。具体的には直前の雪や雹の精霊とその他の精霊たちを表している。彼等には天の(固定された専用の)気象の蔵があるのだが、霧の精霊にはそのようなものが無い。

訳注47 : 原語は'it'。もちろん直前の「霧の精霊」を指す。

訳注48 : 原語は'chamber'。霧の「宿り場」は他の精霊たちの「天の蔵」とは別の所にある。聖書的あるいは黙示文学的には霧や露は天の蔵から一方的に降りてくる物ではなく、地から湧き上がり、また地へと戻ってくるものと考えられている。つまり、霧の「蔵」は天界には存在せず、「地の(あるいは地の果ての)くら」なのである。霧に対する'chamber'の訳語については、天の「蔵(くら)」に対抗して「座(くら)」を割り当てた。

訳注49 : 原語は'its'。これは文の先頭にある霧の精霊を指す。

訳注50 : 原語は'its'。これは明示されていないが、雨の精霊を指す。言葉としては直前の文中の「雨の蔵」において暗示されているものである。

訳注51 : 原語は'it'。この雨の蔵より導かれて出ていく物は「雨そのもの」と解釈される。というのも、「雨の精霊」はその前のwhen節において既に自ら出立しているからである。

訳注52 : 原語は'it'。訳注43と同様、雨を指す。

訳注53 : この部分は底本においても「欠落部分」として記載されている。

訳注54 : 原語は'they'。もちろん、直前の文の主語と呼応しており、「諸水」を表している。

訳注55 : この部分も底本において「欠落部分」として記載されている。

訳注56 : 原語は'long cords'。「長い紐」とすると全く黙示録的迫力が出ない。「細綱」や「太ひも」という意味もあるので、「長き縄」と訳出した。

訳注57 : 原語は'they'。これは「義の徒」を指す。

訳注58 : 原語は'those'。ここでいきなり登場するのだが、これは61:1-3までに実施された「楽園における義の測量」の成果物(測量結果)を指している。

訳注59 : 原語は'the depths of the earth'。「地の深淵」と訳出した。これは陰府(よみ)を示唆する詩的表現である。

訳注60 : 原語は'secrets'。「秘事」と訳出した。一般的な霊的・神秘的な意味というよりもむしろ、ここでは古代ヘブライ的な思想で捉えねばなるまい。つまり非業の死を遂げた義の徒の魂は神によって秘密の倉庫へ「隠されている」と考えられていたのである。黙示録的な終末の審判の日に、そういった人たちが復活する、そしてそれまでは「隠されている」、そのような意味合いが近い。

訳注61 : 原語は'the fish of the sea'。単なる「魚(うを)」としてしまうとやはり黙示録的迫力が萎えてしまう。サンマやイワシが人を食う筈がない。本訳では「大海(おほうみ)が巨魚(きょぎょ)」と訳出した。人を食うのであるからして、当然巨大で獰猛な魚であろう。

訳注62 : 原語は'One'。神というものは本来、その御名を呼ぶことすら憚られる存在なので、このような婉曲表現が出てくる。特にここは神聖な場面なので、神の神聖さを極限まで高める意図があるものと推察される。訳語としては、哲学用語を取り込んで「一(ひと)つなる絶対者」とした。

訳注63 : 原語は'the spirit of life'。聖書などと同様に「生命(いのち)の霊」と訳出した。

訳注64 : 原語は'they all'。彼等全員という事であるが、この彼等には今まで'they'が指してきた撰徒以外の天上の天使ら一切を含んでいる。

訳注65 : 原語は'all the holy ones above'。直訳すると「上(天)にいる聖なる者らのすべて」となるが、言葉の座りが悪いので語順を変更し、「悉くの聖なる上(かみ)つ者等」と訳出した。

訳注66 : 原語は'Cherubin'。これは古い英語聖書(Wycliffe訳やTyndale訳)に現れるスペルで、'Cherubim'(智天使等)の事である。もとのヘブライ語では語尾の'-im'が複数形を表していたが、これが古代ギリシャ語(セプトゥアギンタ訳)やラテン語(ウルガータ訳)に翻訳する過程で語尾が'-in'と変化してヨーロッパに定着した名残である。チャールズはその古々しい語法を採用している。もちろん訳語は「智天使等(ちてんしら)」としてある。

訳注67 : 原語は'Seraphin'。これも智天使と同様で、'Seraphim'の事を表す。もちろん「熾天使等(してんしら)」と訳出してある。

訳注68 : 原語は'Ophannin'。これも智天使と同様で、'Ophanim'を表す。対応する日本語訳は「輪天使等(りんてんしら) 」である。

訳注69 : 原語は'the angels of power'。対応する訳語は「力天使等(りきてんしら) 」となる。

訳注70 : 原語は'the angels of principalities'。対応する訳語は「権天使等(けんてんしら) 」である。

訳注71 : 原語は'the earth'。この時神はあらゆる霊的存在に「招集」をかけたのであり、単に「地」と訳すと意味が軽くなってしまう。より荘重に「大地(だいち)」と訳出した。

訳注72 : 原語は'the water'。これも単に「水」と訳出してしまっては、この場面の訳語として軽々しくなる。より荘重に「大水(おほみず)」と訳出した。

訳注73 : 原語は'the other powers'。エノク書に映し出されている古代ユダヤ思想では、これは単なる「力」ではなく、地と水の現世的な自然力を司る霊的存在、即ち物象元(the Elements)を表している。訳語として「他の諸霊威」を割り当てた。このような末端に至るまでの天地のすべての霊を、神は招集したのである。

訳注74 : 原語は'goodness'。単純に訳せば「善」となるが、この列挙は人間的な性質から始まり、終わりの方では慈悲などのより重みのある神の性質へとシフトしていることを考慮すれば、単なる「善」ではなく、より神学的な重みを持つ「至善」と訳出する方が妥当である。

訳注75 : 原語は'all'。単に「全員」としても意味は通じるのであろうが、敢えて明示的に「彼ら総(すべ)て 」と訳出した。

訳注76 : 原語は'every spirit of light'。直前の61:11で信義の霊、智慧の霊などと列挙されているので、こちらも「諸の光の霊 」と訳出した。

訳注77 : 原語は'all flesh'。「全ての肉体を持つ者たち」という意味であるが、より荘重に「悉くの肉身ある者等」と訳出した。

訳注78 : 原語は'the mighty'。これまでの比喩譚と同様に「権者等(けんじゃら)」と訳出している。

訳注79 : 原語は'lift up your horns'。直訳すると、「お前たちの角を挙げてみよ」となる。聖書においても似たような表現がある(詩篇 75篇4-5節)。この時代における角は王権や権力の隠喩であり、それを「挙げる」という表現には、「権力を誇示する」事を意味する。本訳では、「爾等が権能を示して見よ 」と意訳した。その方が我々には理解しやすいからである。

訳注80 : 原語は'him'。もちろん、直前の「彼(か)の撰者」、つまり「人つ裔」(the Son of Man)を表す。

訳注81 : 原語は'His'。直訳すると「主の」となるが、「主」が重なってしまうのを避ける為に「御許(みもと)が 」と訳出した。

訳注82 : 原語は'stand up'。これはただ「起立する」という意味ではない。チャールズの底本であるゲエズ語や更にそのヘブライ的ニュアンスでは、この審判における諸王や権者等の立ち上がる動作は「恐怖のあまり身の毛もよだち、ガタガタと震えながら、なす術もなくその場に直立不動になる」というニュアンスを強く内包している。訳語として「立ち竦(すく)む」を割り当てた。

訳注83 : 原語は'she'。これはもちろん直前の'a woman'(婦(をみな))を指す。文語で「彼女」という代名詞はあまりにも近代的過ぎるので使いづらい。よって古風に「其の身」と訳出した。

訳注84 : この62:6は、62:5にて人つ裔(彼(か)の撰者)がいきなり登場して、諸王や権者等がその圧倒的な権威に驚いてうろたえた後、手のひらを返して人つ裔に媚びている状態を表している。決して本心から賛美しているわけではない。

訳注85 : 原語は'they'。これは今までのtheyが指してきた諸王や権者等などを指すのではなく、義の徒や主の撰徒を指す。

訳注86 : 原語は'them'。ここで再びこの代名詞は諸王や権者等などを指している。頻繁に代名詞の内容が入れ替わる事に注意せよ。

訳注87 : 原語は'His sword is drunk with their blood'。現代語的に直訳すると「主の剣が彼等(不義なる者ら)の血に酔う」という意味になる。しかし聖書文学においては、「剣が血を飲む/血に酔う」という文言は「大量の殺戮(断罪)」を意味する特別なレトリックであり、「主の裁きの凄惨さ」を表している。よって「主の剣(つるぎ)飲まれり、彼等が血海(けっかい)の中(うち)へ」と訳出した。

訳注88 : 原語は'they'。 このtheyは義の徒や聖徒を指すのではなく、直前の「栄光の衣」を指す。チャールズの英訳では「栄光の衣」が複数形となっているので、ここでtheyにて受けている。しかし、日本語訳では「衣」という語単独でその一切の意味や様相を含意させる訳出としているので、単純に「其れ等」としてしまうと具合が悪い。故に、「其の体(てい)」と訳出している。

訳注89 : 原語は'your'。これは義の徒や聖徒を指している。人称がthey(their)からye(your)へと変化した事に注意せよ。この文から節の末尾まで、神の視点で語られているのである。訳出は素直に「爾等が」とした。

訳注90 : 原語は'secrets'。単に「秘密」としてしまうと様々な「奥義」や「秘義」をも含んでしまう語感となる。諸王などの不義の徒は、そこまで聖なる事に対して頭がまわる事はなかろう。より個別具体的な「彼らが想像できるような事柄」を含む「諸の秘密の事」と訳出した。

訳注91 : 原語は'believe'。キリスト教的には「信仰する」とできるのだが、ユダヤ第二神殿期としてはその訳語は無い。「信義に与(あづか)る」と訳出した。

訳注92 : この部分は底本には存在しない。が、文脈から補填してある。

訳注93 : 原語は'place'。漠然と場所を指す語であるが、本作における黙示的・霊的な境界、あるいは堕落天使の拘禁所としての文脈を考慮し、深い味わいのある「境(さかひ)」と訳出した。

訳注94 : 原語は'the angel'。具体的な記述は無いが、堕天使等や宇宙論的な秘密に関する案内を第19章にてウリエルが担当しているので、この天使はウリエルであろうと推察される。第20章の七大天使の紹介にもあったが、ウリエルは「天地万象と地獄の底(タルタロス)とを掌(つかさど)る」。

訳注95 : 原語は'sink down'。素直に訳すと「沈む」であるが、原語のゲエズ語の語感は「傾く」に近いニュアンスを帯びている。よって「傾(かたぶ)き沈み往(ゆ)く」と訳出した。

訳注96 : 原語は'I'。これはノアを指す。エノクへの具体的な口上が続いている。人称が「彼」から「我」に変化している。

訳注97 : 原語は'him'。もちろんエノクを指す。

訳注98 : 原語は'Satans'。既出であるが、同様に「魔王共(まおうども)」と訳出する。

訳注99 : 原語は'their'。これは文脈的には直線の「魔王共」を指す。エノク書において、堕天使等は「天の秘密」を、魔王らは「権能」を有していると描き分けられている。

訳注100 : 'sorcery'と'witchcrat'について

これらは対となる概念であり、ヘブライ・黙示文学的なニュアンスでは以下の通り解釈される。

Sorcery(妖術 / 魔術):
薬草や鉱物、あるいは記号や「呪物」を物理的に調合・加工して、超自然的な効果を引き出す技術。チャールズが第65章で「鋳像(金属鋳造)」や「銀・地金の精錬」といった物質的な技術(冶金術)を並べている流れを考えると、非常にメカニカルで「道具や物質を操る禁忌の技」というニュアンスが強い。

Witchcraft(呪術 / 呪法):
言葉の響き、呪文、詠唱(incantations)によって、直接的に霊魂や他者を縛る、より精神的・霊的な呪いの技術。

「妖術」は平安期に既に登場しているが、「魔術」は中世以降の登場とやや新しい。語感的な違いとしては、前者は怪異・自然霊的な力を表しているのに対し、後者は仏教系漢語として邪悪さ・異界・禁忌といったニュアンスを含んでいるので、黙示文学的に堕天使等に教わった技術の表現として適しているであろう。しかし、後者は近代以降では'magic'の訳語として一般化してしまっており、安直に誤解される恐れもある。

また、「呪術」と「呪法」の違いであるが、「呪術」の方は実践的な技法や技術を意味するのに対し、「呪法」の方は体系化された儀礼としての呪いに近い語感がある。

これらを総合的に勘案し、'sorcery'を「魔術(まじゅつ)」と訳出し、また'witchcraft'を「呪術」と訳出することとした。

訳注101 : 原語は'the power'。「魔術」の力なので、「魔力」と訳出した。当然「魔術」の背後にある霊的エネルギーをも表している。

訳注102 : 原語は'the power'。「呪術」の力なので、「妖力」と訳出した。「魔力」と似たような力なのであろうが、「魔力」とすると語感的にややずれるのではないかと感じた次第。

訳注103 : 原語は'molten images'。直訳すると、「溶かした像」となる。何を意味するかというと、これは金属を溶かして型に流し込み、金属製の像を、特に神々の「偶像」を造るという事である。「鋳たる偶像」と意訳した。

訳注104 : 原語は'like the first'。直訳すると「第一の物の如く」となるが、これは背景知識が無いと全く意味不明となる。エノク書では金属は「第一のグループ」と「第二のグループ」に分かれていて、前者は地中から「湧き出して」くるので比較的容易に入手できるものとなっている。銀や軟金属がこれに該当する。他方、後者は地中から自然に出てくるものではなく、天の「特別な源泉」とそれを管理する天使の力によって生み出される事となっている。鉛や錫はこれに該当する。ここでは既に直前の文にて銀や軟金属について述べられているので、「先の物の如く」と意訳した。

訳注105 : 原語は'a fountain'。これは単なる水が湧き出る「泉」ではなく、鉛や錫を齎す天の「源泉」を意味している。よって「一つの源泉」と訳出した。

訳注106 : 原語は'their'。「その不義により」という内容から察する事が出来るであろうが、この「彼等」は「地上の不義なる者たち」を指す。

訳注107 : 原語は'these'。「これら」という事であるが、具体的にはこの直前に神が宣告された事態や不義なる者たちを指している。

訳注108 : 原語は'they'。いきなりではあるが、これは堕落せし「見守る者等(the Watchers)」を指す。

訳注109 : 原語は'them'。こちらは「不義なる者等」を指している。代名詞の指し示す内容が頻繁に入れ替わっている。

訳注110 : 原語は'they'。これが堕天使等を指すのか不義なる者たちを指すのか紛らわしいが、65:11文頭の'these'が不義なる者たちあるいはその行為の結果を指しており、それがテーマとして継続していると考えられるので、この'they'は「不義なる者たち」を指していると考えるのが自然である。

訳注111 : 原語は'them'。直前の「衆水」を指す。

訳注112 : 原語は'he'。これはエノクを指している。

訳注113 : 原語は'me'。これはノアを指している。

訳注114 : 原語は'love'。直訳して「愛(あい)」としてしまうと、キリスト教的な含意が強くなってしまうので、「愛(いつくしみ)」と訳出した。

訳注115 : 原語は'uprightness'。以前と同様「直(なほ)」と訳出した。

訳注116 : 原語は'wooden building'。直訳して「木製の建物」としてしまっては非常にまずい。これはノアの大洪水の主要構築物たる「ノアの方舟」を意味している。「巨なる木の櫃(ひつ)」と訳出した。

訳注117 : 原語は'it'。これはこの前に出てきている「生命の胤」(the seed of life)を指す。

訳注118 : 原語は'unfruitful'。苦しい立場にあった義の徒の地上的な繁栄に焦点を合わせた神の約束であるとの視点で、「実り無し」と訳出した。もっと抽象的な語を割り当てることも出来るが、「繁栄」の焦点がずれてしまうであろう。

訳注119 : 原語は'those angels'。もちろん堕落せし見守る者等(fallen Watchers)の事である。

訳注120 : 原語は'convulsion'。チャールズ版における"convulsion"は、単に地面が揺れる(地震)だけでなく、火と水がぶつかり合い、世界のシステムそのものが「痙攣(けいれん)を起こして激変する」ような、黙示録的な大激動を意味している。訳語として「震拗(しんよう)」を割り当てた。辞書にあらざる造語である。

訳注121 : 原語は'that land'。直訳すると「かの地」であるが、これは先程出てきた西方にある金属の山々の存在する地表を意味する。

訳注122 : 原語は'beneath that land'。直訳すると「かの地の下に」となる。しかし文脈からしてこれは堕天使等の懲罰の場所、つまり地獄の底(タルタロス)である事は明らかなので、「彼(か)の地の下(した)なる奥底にて」と訳出した。

訳注123 : 原語は'its'。この「其の」は堕天使らの居る(一つの)谷、つまり「彼(か)の天使等の谿」を指す。そこを中心として、地底より支流となる「谿々」が枝分かれして地上へと接続されている。

訳注124 : 原語は'where'。関係副詞であるが、これが指す内容はこの67:7には存在せず、67:6の「彼(か)の天使等の谿」を指している。よりシンプルに「彼の谿」と先行詞を訳出した。

訳注125 : 原語は'those waters'。直訳すると「彼(か)の衆水」との事であるが、これは特に、直前の堕天使等の懲罰の谷に発し谷々を流れ行く「火焔の濁流」によって熱せられた衆水(の一部)を表している。このすぐ後の文を読むと、「肉体の癒やしの為」と出てくるので、これは「衆水」の中でも特に温泉の類であると解釈できる。より一般的に「鉱泉(くわうせん)」と訳出した。現代的には摂氏25度以上のものを温泉、未満のものを冷泉という。

訳注126 : 原語は'punishment'。「誅罰」と訳出した。この「誅罰」は、実は王たちが浸かっている温泉の事である。最初は「良い塩梅」なのであろうが、この温泉の温度がずっとそのままであるという訳ではない。それは現に誅罰となるのである。

訳注127 : 原語は'those same waters'。これは67:8冒頭の鉱泉を指す。「其の同じき鉱泉」と訳出した。

訳注128 : 原語は'those angels'。もちろん堕天使等(fallen Watchers)を指す。「件(くだん)の天使等 」と訳出した。

訳注129 : 原語は'in these waters'。もちろんこの'waters'は先程の鉱泉を表すが、堕天使等の深き境にあるのでまず、「此等の鉱泉の諸水」とした。問題の'in'であるが、堕天使等は只水の中にいるのではなくその中に封印されている。('within the bounds of')という意味合いがある。故に「〜に纏(まと)はれて」が一つの候補。今ひとつの意味としては、もとのゲエズ語などのセム語族の'in'相当する語は手段や方法を表している。この意味を汲み取ると「〜に由りて」となる。このテキストではこれらの二重の意味合いが重なっていると解釈できるので、「此等の鉱泉の諸水に由りて且つ纏(まと)はれて」と訳出した。

訳注130 : この部分は議論の的である。なぜタルタロス(地獄の底)に封印されている堕天使等が「昇る」のか?幾つかの解釈があるらしいが、一つの解釈としては、束縛されている空間領域の範囲で上昇下降しているというものがある。しかし、「冷えゆく」部分ではどのような熱力学的作用が生じているのかを明確に説明するのが困難であるのだが。もちろん、物理学の方式で考えてはまずいのであろうけれども。

訳注131 : 原語は'severity of the judgement'。大天使らが「引いてしまう」程の苛烈な審判であるからして、そうとう激しいのであろう。「酷烈」や「惨烈」とも言えるのだが、より黙示録的な激しさを言い表すために「絶烈(ぜつれつ)」という造語を訳に充てた。よって訳語は「彼の審判の絶烈の状」となる。

訳注132 : 原語は'in the book and in the Parables'。'in'の句が二つあるが、これはそれぞれ別の事を言い表している訳ではなく、ヘブライ的並行法(同義的並行句)の一種である。「彼(か)の書に記され且つ比喩譚なる」と訳出した。

訳注133 : 原語は'before which '。「其れに相対(あひたい)し」と訳出した。この'which'(其れ)は「惨烈(さんれつ)なる審判」あるいはその元となる「御霊(みたま)の威権(ゐけん)」を指す。

訳注134 : 原語は'it'。堕天使等に下されている「絶烈なる審判」を指す。

訳注135> : 原語は'reins'。以前にも出てきているが「腎」と訳出してある。これは聖書では「感情や愛情などの座」と考えられる体の部位のことであり、辞書的な語彙では「腎臓」と訳される事が多いであろう。しかし、東洋医学的に「腎」という言葉を割り当てる方がより適切である。「腎臓」は西洋医学的な泌尿器系の内蔵器官であるが、「腎」は東洋医学的に「全身の生命力を司る根本的なエネルギー」を指す。

訳注136 : 原語は'them'。これは堕天使等にそそのかされた人間たちを表す。

訳注137 : 原語は'them'。これは堕天使等(the fallen angels, the Watchers)を表す。

訳注138 : 原語は'their'。これは堕天使等を指す。

訳注139 : 原語は'all that is hidden'。「隠された全て」という事だが、これは黙示録的に多義的な意味を持つ。一つは、堕天使たちの「隠されたる不義・陰謀」。二つ目は、人間の目から「隠されていた天界の秘義」。三つ目は、神が備えられていた「隠されたる(絶烈なる)審判」。これらを総括して、訳語としては「秘められし一切」とした。

訳注140 : 原語は'Satans'。「魔王共」と訳出している。訳注98と同様である。また、第38章から第44章「第一の比喩譚」の訳注19を参照せよ。

訳注141 : 原語は'the secret Oath'。直訳すると「秘密の誓い」となるが、それでは余りにも日常的に過ぎる。この「誓い」は「神聖なる神の誓い」であり、諸宇宙(もし我々のこの物質世界以外にも、他の、例えばエベレットの他世界などのような別の「世界」が存在するならば、このような複数形となろう)の全元素を縛り、強制駆動させるための、絶対的な「根源呪言」であり「神聖不可侵の法則」である。古代セム語の世界(および魔術思想)では、「誓い(ゲエズ語で መሐላሁ (Mehalahu)またはበመሐላሁ (Bamehalahu) )」とは、「神の本質(あるいは真の御名)を組み込んだ、口にすることすら禁忌の絶対的な呪文」を意味する。それを踏まえ、「誓い」という意味合いと語感を最大限に活かし、'the oath'の訳語として「秘誓(ひせい)」を、'the secret oath'の訳語として「密なる秘誓(ひせい)」を採用した。この「神の誓」とは人間の口約束の如き軽いものでは決してない。それは必ず実現する、無より世界を顕現せしめ、なおそれを固定し続ける「久遠の法」である。

訳注142 : 原語は'they'。これも堕天使等(堕落せし見守る者ら)を指す。

訳注143 : 原語は'them'。これは地上に住む人々を指す。

訳注144 : 原語は'this'。「これ」という事であるが、これは今までも出てきた堕天使らの「絶烈なる審判」を表している。

訳注145 : 原語は'Samjaza'。「サムジャザ」と訳出した。これは恐らく「監視者の書」でも出てきたセムジャザ(Semjaza)やセミアザズ(Semiazaz)と同一人物であろう。グーテンベルク以前の古文書は輪転機で刷っていた訳ではなく、すべて人の手で「写本」を作成していた。写本ごとに当然誤記や書紀による意図的な改竄などもあろう。表記ゆれなどの写本ごとの異同が生じる所以である。

訳注146 : 原語は'Artaqifa'。「アルタキファ」と訳出した。

訳注147 : 原語は'Armen'。「アルメン」と訳出した。

訳注148 : 原語は'Kokabel'。「コカベル」と訳出した。

訳注149 : 原語は'Turael'。「トゥラエル」と訳出した。

訳注150 : 原語は'Rumjal'。「ルムジャル」と訳出した。英語読みすると「ラムジャル」の方が近いのであろうが。

訳注151 : 原語は'Danjal'。「ダンジャル」と訳出した。

訳注152 : 原語は'Neqael'。「ネカエル」と訳出した。

訳注153 : 原語は'Baraqel'。「バラケル」と訳出した。

訳注154 : 原語は'Azazel'。「アザゼル」と訳出した。

訳注155 : 原語は'Armaros'。「アルマロス」と訳出した。

訳注156 : 原語は'Batarjal'。「バタルジャル」と訳出した。

訳注157 : 原語は'Busasejal'。「ブサセジャル」と訳出した。

訳注158 : 原語は'Hananel'。「ハナネル」と訳出した。

訳注159 : 原語は'Turel'。「トゥレル」と訳出した。

訳注160 : 原語は'Simapesiel'。「シマペシエル」と訳出した。

訳注161 : 原語は'Jetrel'。「ジェトレル」と訳出した。

訳注162 : 原語は'Tumael'。「トゥマエル」と訳出した。

訳注163 : 原語は'Turel'。「トゥレル」と訳出した。全く同じ名前が訳注157でも出てきている。人間でも同じ名前の人はいるから、重複を避ける事は出来ないであろう。人や天使の名はUUIDなどのように(ほぼ)一意ではない。

訳注164 : 原語は'Rumael'。「ルマエル」と訳出した。

訳注165 : 原語は'Azazel'。訳注152にも出てきた。「アザゼル」と訳出した。

訳注166 : 原語は'Jeqon'。「ジェコン」と訳出した。

訳注167 : 原語は'sons of God'。難しい言葉である。直訳すると「神の子ら」となってしまうが、「神の子」はキリスト教的にイエスを指す予約語なので直訳は憚れる。'sons'には子弟、党人、従事者などの意味があるので、神の側に属する天使らを意味するよう「神の徒(ともがら)」と訳出した。

訳注168 : 原語は'Asbeel'。「アスベエル」と訳出した。このスペルのまま英語読みすると'ee'は「イー」と伸ばす事になるが、実は原文では2つ目の'e'にはキャレット('^')が付いており、その語尾にて天使を表している。故に、別音節とせねばならず、「エエ」と音が重複してつなげる訳語とした。

訳注169 : 原語は'evil counsel'。この'counsel'は決して現代的な意味(相談・助言など)ではなく、もっと古典的かつ聖書的な意味における「隠された計略」('evil plot', 'secret plan')を指している。訳語として「悪しき密謀(みつぼう)」を選んだ。

訳注170 : 原語は'Gadreel'。「ガドレエル」と訳出した。これも語尾は天使を表す'el'('e'のキャレット付き)となっている。

訳注171 : 原語は'all the blows of death'。この'blow'はたった一撃という意味ではなく、攻撃によって生じる損害や痛みや不幸などをも含む幅広い意味合いがある。対応する日本語は「打撃」となろう。「一切の死の打撃(だげき) 」と訳出した。「一切の」があるので複数形とする必要もあるまい。

訳注172 : 原語は'Eve'。創世記に出てくる有名な「イブ」のことである。文語訳聖書にならい「エバ」と訳出した。いきなり'Eve'が出てきて不審に感じるかもしれないが、'Eve'というのはもはや実在した人というよりはむしろ「神話的な記号」である。ちなみに神話ではないが、英語の'daughter of Eve'は「女というもの」という意味である。

訳注173 : 原語は'weapons of death'。「死の兵器」という事であるが、「兵器」というのは近代の言葉なので古語には存在しない。該当するのは、戦争に使う道具としての意味の「兵(つはもの)」となる。よって「死の兵(つはもの)」と訳出した。

訳注174 : 原語は'they'。これは直前に出てきた「死の兵(つはもの)」(死の兵器)を指す。

訳注175 : 原語は'Penemue'。「ペネムエ」と訳出した。

訳注176 : 原語は'all the secrets of their wisdom'。通説的な解釈として、この'their'は人間たちを指しているとされる。その意味でこの句を解釈すると、人間は智慧を有するが、普通はそれの全てを認知していないという事であろう。そうすると、その「到達しうる限りの人間智の極限までのすべて」を人間が明確に意識できるように、ペネムエが技法なり知識なりを人間に開示してしまった、という意味になる。よって訳語としては「人の及び得る限りの智慧の深秘」を採用した。

訳注177 : 原語は'ink'。訳語は「墨(すみ)」とした。ユダヤ第二神殿期あるいはエノク書の事象が発生していた時代には、基本的にインクは黒一色であった。黒いインクは極めて安定した化合物となり、クムラン洞窟の死海文書などのように極めて長い年月に渡り書物を保存する事ができた。

訳注178 : 原語は'writing'。これは単に「書くこと」を意味しているのではなく、「文字の発明と運用」全般を意味している。テキストを読み書きする技術やそれによって知識を記録・蓄積する技術により、技術的な進歩がもたらされた。訳語として「書記(しょき)の術(わざ)」を採用した。

訳注179 : 原語は'from eternity to eternity'。これはセム語特有の最上級表現の英訳(直訳)であり、その意味するところは「時間の全域に渡って」、つまり、「遠い過去から遠い未来まで」のすべての時間を表す。よって訳語は「久遠(くおん)自り久遠に至る迄」と訳出した。最初の「久遠」は遠い昔を、2つ目の「久遠」は遠い未来を表している。

訳注180 : 原語は'men'。複数形であるが、直訳してしまうと「実際の複数の人たち」程度の軽い意味合いとなってしまう。ここでは一般論としての人間を指しており、「人」の一語で抽象化・一般化して訳出する方が望ましい。よって訳語は「人」となる。

訳注181 : 原語は'this'。これはペネムエのもたらした「書記(しょき)の術(わざ)」を指す。

訳注182 : 原語は'me'。これはエノクを指していると考えられる。いつのまにかエノクに戻っているのだが。

訳注183 : 原語は'Kasdeja'。「カスデヤ」と訳出した。この読み方が一般的らしい。

訳注184 : 原語は'the soul'。直訳すると「魂」のみとなるが、一般的にこれは「人の魂」と解釈されている。訳語は「人の魂」を割り当てた。

訳注185 : 原語は'the serpent named Tabaet'。ここでは蛇が二匹出てくる。タバエトはその親玉であり、この69:12で示されたあらゆる災いをもたらす存在である。それを明確にするために、「此の禍(まが)の根(ね)たる彼(か)の蛇(くちなは)が名、タバエトなり。」と冗長に訳出した。

タバエトは単なる「一匹の蛇」という固有のモンスターではなく、カスデヤが人間にリークした「あらゆる霊的・肉体的破滅(smitings)」の根源にある「究極の毒」そのもの、あるいはその執行権力者として君臨している。

訳注186 : 原語は'Kasbeel'。「カズベエル」と訳出した。このカズベエル(Kasbeel)という名は、ヘブライ語で「神の欺瞞(The Deceiver of God)」、あるいは「神の不信」という不名誉な意味を持っており、それがこの後の彼の行動を暗示している。

訳注187 : 原語は'Biqa'。これは訳注141の「密なる秘誓」の名であり、「混沌を切り裂き、宇宙の基盤と調和を創成・開示する、神の根源呪言」である。「闢開咒(びゃくかいじゅ、ビカ)」と訳出した。「ビカ」の方は説明用の原語の音写である。

実は、この闢開咒は、神の「秘誓」の一つの側面であり、天地創造そのものを表している。この後、'Akae'(アカエ)なる神の秘誓のもう一つの側面が出てくる。両者とも「神の秘誓」であり、それぞれの側面を担っている。

「ビカ(Biqa)」 と 「アカエ(Akae)」
ビカ(Biqa): 語源的に「割れ目」「開くこと」に関わる言葉であり、混沌(カオス)を切り裂いて宇宙の調和を創成した「創造の呪言」としての側面を指す。

アカエ(Akae): 語源的に「呪文」「誓約の言葉」そのものを意味する言葉であり、全元素(天・地・海・星)を絶対に裏切らないように縛りつける「契約・セキュリティ・コード」としての側面を指す。

「アカエ」は後ほど出てくるが、この意味を汲み取り、「契縛咒(けいばくじゅ、アカエ)」と訳出する。

訳注188 : 原語は'those'。これは地上に降りた堕天使等を指す。しかし、カズベエルが手中に収めようとしている咒言は一切の被造物に作用しうる力を有するので、全被造物を指すと解釈することも出来るが、この後この'those'を先行詞とする関係代名詞'who'にてその範囲が地上に降りた堕天使等に限定されているので、直接的には堕天使等を指し、一般論に広げると全被造物を指すと言える。

訳注189 : 原語は'who'。これは訳注188の'those'を先行詞とするので、堕天使等を指す。

訳注190 : この文について補足を。カズベエルはヘルモン山に降り立った200人の堕天使等(見守る者等)に含まれていない。が、彼には自身の野望があり、自身が管理している「秘誓」つまり「神の咒言」、具体的に言うと「闢開咒(びゃくかいじゅ、ビカ)」や「契縛咒(けいばくじゅ、アカエ)」を操り、地上に降りた堕天使等や更には全被造物を支配しようと目論んでいるのである。そして、神の咒言を成就させる為には「神の御名」という一種の「セキュリティ・キー」が必要となる。「神の御名」はおそらく一つだけではあるまい。神の咒言は少なくとも二つあるのが分かるが、合計幾つあるのかは不明である。

訳注191 : 原語は'he'。小文字の'he'であるが、ミカエルに契縛咒を預けるのはもちろん神であろう。「主」と訳出した。

訳注192 : 原語は'Akae'。「契縛咒(けいばくじゅ、アカエ) 」と訳出した。「アカエ」の方は説明用の原語の音写である。訳注187も参照せよ。

訳注193 : チャールズのテキストでも、ここは文字欠損部分の'...'となっている。写本が時々大切な部分で欠落しているのが非常に口惜しい。

訳注194 : 原語は'they'。この語はこの後に続く諸々の被造物を指している。「天地万物(てんちばんぶつ) 」と訳出した。

訳注195 : 原語は'the world'。「世界」と訳出してしまうと、読者は一気に現実の矮小な「世界」へと引き戻されてしまう。天地を含め世界にある一切の物という意味で「万有(ばんいう)」と訳出した。

訳注196 : 原語は'it'。もちろん直前の「主が秘誓」を指す。

訳注197 : 原語は'the water'。直訳して「その水」はあるまい。この「水」は、創世記や古代オリエント神話、そしてエノク書が描く「原初の宇宙論」において、天地創造前の「混沌たる始原の海(大水)」を指す。陸地はその上に「据え付けられて」ある。その大水の量によっては「浮いている」ような状態とも考えられる。聖書訳では人知を越えたこのような水を「大水」や「巨水」などと表現するが、私の訳出では既に陸地を「大地」と訳出してしまっているので、「大」を使うと収まりが悪い。よって別の訳語「水界(すいかい)」を割り当てた。

訳注198 : 原語は'the secret recesses'。「密なる奥淵(おうゑん) 」と訳出した。奥淵(おうゑん)は造語である。訳注197にて、地底に原初の大水(カオス)があると説明したが、その水が最大限に開放されてしまうと、地上が水に飲まれきってしまう。故に、それらから供給される水は山々の地底深くに存在するこの「密なる奥淵」という、一種のバルブによって絞られた状態で湧き出てくると考えられていた。このバルブを開放されてしまうと地上は大洪水となってしまう。誰でも簡単にアクセスできてはならない。故に「密なる」とされているのである。

訳注199 : '原語はit'。これは直前の「大海(おほうみ)」を指す。

訳注200 : 原語は'it'。この'it'もまだ「大海」を指している。

訳注201 : 原語は'it'。この'it'は「大海の礎」、つまり「沙浜(さひん)」を指している。

訳注202 : 原語は’the stars'。「星々」と訳出した。ほぼ同義語として'luminaries'も出てくるが、そちらは「星辰」と訳出する。

訳注203 : 若干の補足を。「星々」または「星辰」は天体であるのみならず、天使等を暗示している。神が「その称」によって呼び、そして応える彼等は、天界の壮麗なる機構の一部なのである。

訳注204 : 原語は'the winds'。直訳すると「諸風」となるが、この後すぐに「微風」が出てきており、この語は本来、それと対比させられるべき語句である。よって「諸の烈風 」と訳出した。

訳注205 : 原語は'their'。これは直前の大水、烈風、微風の精霊を指す。

訳注206 : 原語は'from all the quarters of the winds'. ここの'quartes'は単に方角や方位を意味するのではない。エノク書の時代の古代オリエントの宇宙観では、世界は四つの隅によって支えられていると考えられてきた。風が吹き付けてくる方向も同様で、「全方位より」というよりは「四方(よも)悉く自(よ)り」とする方がその世界観にマッチする。実際の訳出ではこの句を文として座りを良くするために、文末に「来(き)向ふなり」と付け足している。

訳注207 : 原語は'the chambers of the mist'。「霧」の場合は他の気象現象を表す物象元(the Elements)と異なり、天に「蔵」を有さず、その拠点は天の諸涯にある(訳注48を見よ)。よって訳語として「蔵(くら)」ではなく「座(くら)」を採用して、「霧の諸座(しょざ)」とした。

訳注208 : 露(つゆ)は霧と同様に天の諸涯にある「座(くら)」を有するが、同時に雨の蔵(くら)とも関係している。ここでは露は雨の蔵にて「同居」した状態として記述されている。60:20を参照せよ。

訳注209 : 原語は'all these'。「此等の一切」と訳出したが、これが指す内容は69:16よりここまで述べてきた一切の被造物を指す。

訳注210 : 原語は'believe'。直訳して「信じる」としてしまうと、黙示録的緊張が台無しとなる。信義を基盤にして立つ、つまり信の秩序の中に身を置くという意味合いで「信に立つ」と訳出した。

訳注211 : 原語は'their'。これは訳注209の指す内容と同じであり、69:16よりここまで述べてきた一切の被造物を指す。

訳注212 : 原語は'power'。「全能」と訳出したが、これは「被造物それぞれに与えられている権限の限りのすべての力」という意味であり、神の「全知全能」という意味ではない。文語訳聖書などでは被造物が持つすべての力・能力の限りを尽くす様を「全能を尽くして」と表現することがある。

訳注213 : 原語は'thanksgiving'。直前の'give thanks'を「謝(しゃ)し奉(たてまつ)る」と訳出しているので、その名詞形として「謝奉(しゃほう)」とした。造語である。

訳注214 : 原語は'them'。「彼等」がいきなり登場しているが、この「彼等」は比喩の書の主要な登場人物である「義の徒」あるいは「撰徒」を指す。比喩の書のエンディングへ向けて、頭を切り替えるべし。

訳注215 : 原語は'all their works'。「彼等が所業」と訳出した。「彼等が罪業」でも良いくらいではあるが。

訳注216 : 原語は'nothing'。「一切のもの」という事であるが、これは人間を含む一切の被造物を表している。故に「一切の万有(ばんいう)」と訳出した。文末の否定の助動詞「じ」と組み合わさっている。

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