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第45章乃至第57章 第二の比喩譚

背義の徒 訳注1 の運命(さだめ):新しき天と新しき地と

 第45章 1. 夫(そ)れ、是なるは第二の比喩譚にして、聖なる者等の住まいの御名(みな)と万霊の主とを拒める者等に係るものなり。
 2. 然らば、天の中(うち)へと、彼等の昇る事非じ、
  猶、地の面(おもて)に、彼等の来たる事非じ、
  斯くの如き、罪の徒 訳注2 の運命(さだめ)ならむ、
  彼等、万霊の主が御名を拒みたりて、
  苦悩と艱苦(かんく)との期(とき)へ、斯くの如く定められし故なれば。
 3. 其の期(とき)、予(余) 訳注3 の撰者 訳注4 、栄光(えいくわう)の玉座に座さむ、
  且(か)つ又、彼等 訳注5 が罪業を裁かむ、
  然るに、彼等が留まる処、数ふる事能わず、
  而して、彼等が魂、予の撰者等を目睹せし期(とき)、彼等が間(あひだ)に頑なにして解けじ、 訳注6
  是、予の栄光(えいくわう)の御名を呼ばひたる者等を目睹せし期にして然り:
 4. 而して予、予の撰者を其の民の中(うち)に 訳注7 住まはさむ、
  且つ予、天を変容せしめ、猶是を永遠の祝福と光と成さむ、
 5. 且つ予、地を変容せしめ、猶是を祝福と成さむ:
  且つ予、予の撰者等を其の上に住まはさむ:
  されど、罪の徒と悪を為す者等と、其の上に踏み入る事能わじ。
 6. 蓋し予、安寧と倶(とも)に予の義者等 訳注8に与へ且つ彼等を充たしたるに、
  猶、彼等を予の面前に住まわせたり:
  されど、罪の徒に於(おい)ては審判あり、是、予と共に在りて逼(せま)るなり、
  予の彼等を地の面より滅(めっ)さむが為に。

第46章 万古の首 訳注9 と人つ裔 訳注10

 第46章 1. さて、其処にて我、一(いつ)なる者 訳注11 を見しに、是、元始の寿 訳注12 を備(そな)へき。
  猶、彼御方(かのおんかた)の頭(こうべ)、羊毛が如く皎々(かうかう)たる白さなりき。
  加之(しかのみならず)、彼御方と共に他の一柱の身 訳注13 の在りて、 其の御身(おんみ) 訳注14 が容貌(ようばう)人の状(さま)なりしに、
  猶、 其の御身が御顔の慈悲深く、恰も聖なる天使等の一柱の如きなりき。
 2. 我、我と共に往く一柱の天使に問ひしに、彼、我に其れに就きて悉(ことごと)くの奥義 訳注15 を示せしが、彼(か)の人つ裔(ひとつすゑ) 訳注10 、彼(かれ)の何者にして、何処より来たるか、何故(なにゆゑ)彼(か)の万古の首(ばんこのしゅ) 訳注16 に相伴(あひともな)ひしか? 3. 仍(よ)って、彼応(こた)へて我に曰ひけるは:
  是、人つ裔にして義を有し、
  是と共に義、住まひ、
  猶、秘匿さる事共の秘宝の一切を示現す。
  蓋し、万霊の主、彼を撰(えら)び給ひ、
  猶、彼が運命(さだめ)の卓越するは、万霊の主の御前に於いて、常(とこ)しへに直(なほ)き 訳注17 を以てなり。
 4. 加之、此の人つ裔、爾の見たるに、諸王と権者(けんじゃ)等を其の位(くらゐ)より逐(お)い立たしめ、
  猶、権門(けんもん)の徒をその高座(こうざ)より起たしむらむ、
  而して彼等が手綱を緩め、
  猶、罪の徒が歯を毀(こぼ)たむ;
 5. 加之、彼 訳注18 、諸王を其の玉座と王土(わうど)とより引き下(くだ)さむ、
  蓋し、彼等の主を称賛し褒讃(ほうさん)せざるが故に、
  更には、謙(へりくだ)りて肯(がへん)ぜぬが故に、何処より其の王土の彼等に与えられたるかを。
 6. 加之、彼、其の権門の徒が面目を毀ち、
  猶、彼等を恥辱で充たさむ、
  猶、幽暗(ゆうあん)、彼等が住処とならむ、
  猶、蛆(うじ)の群(むら)、彼等が臥床(がしょう)とならむ、
  而して彼等、其の臥床より起(た)ち出(い)づる願ひ叶ふべくもあらじ、
  蓋し、彼等、万霊の主を称賛せざる故なり。
 7. 斯くて此等、天の星辰を裁きし者等にして、
  猶、其の手を至高なる者 訳注19 に向かひて挙げ、
  猶、地の面(おもて)を陵轢(りょうれき)し、且つ其処に住み、
  猶、彼等が所業の不義を顕(あら)はし、
  猶、彼等が威権(ゐけん)、其の富饒(ふじょう)に依(よ)り、
  猶、彼等が崇拝、諸神の中(うち)に在りて、是等、彼等の手に由りて造作(ぞうさ)せられたる物にして、
  猶、彼等、万霊の主の御名を拒みて、
 8. 猶、彼等、主の会衆(かいしゅう)の諸堂(しょだう)を陵虐(りょうぎゃく)し、
  且つ、万霊の主の御名に懸る信義の徒をも陵虐す。

第47章 義の徒の酬報への祈祷と彼等の来たるべ期(とき)の歓喜

 第47章 1. 爰(ここ)に、其の期、義の徒の祈祷(いのり)の上(のぼ)りて、
  且つ、義の徒の血の地より上りて、万霊の主の御前に至りたり。
 2. 其の期、聖なる者等、高き諸天の中(うち)に住まふに、
  一つの声に連(つら)ね合はすべくし、
  猶、嘆願し祈祷(きとう)し褒讃(ほうさん)すべくし、
  猶、万霊の主の御名を称謝(しょうしゃ)し褒め奉るべき事止まずは、
  是、地に毀たるる義の徒の血の代(かは)りなればなり。
  而して、義の徒の祈祷、万霊の主の御前にて徒爾(とじ)に帰(き)せざらむ事を、
  猶、審判の彼等 訳注20 が上に齎(もた)らされむ事を、
  而して、彼等 訳注21 、常(とこ)しへに耐えざるべからざらむ事を。
 3. 其の期、我見しは万古の主なれば、彼御方、其の御身が栄光(えいくわう)の御座(みくら)に坐(いま)し給ひて、
  猶、生命(いのち)の諸書 訳注22 の其の御身が御前にて啓(ひら)かれたれば:
  上(かみ)つ天なる其の御身が一切の天軍も、彼御方が参与等 訳注23 も、其の御身が御前に侍(はべ)り並びたり。
 4. 而して、聖徒 訳注24 の心、歓喜に充たされたり;
  蓋し、義の徒の数の奏上(そうじょう)せられたりて、
  猶、義の徒の祈祷(いのり)の聞き入られしに、
  されば、義の徒の血の報ひ、徴(め)し立てられたり 訳注25 、万霊の主の御前にて。

第48章 義の泉源 訳注26:人つ裔ー義の徒の依憑(いひょう) 訳注27 :諸王と権者等との審判

 第48章 1. 加之(しかのみならず)、其処にて我、義の泉 訳注28 を見しに、
  其れ、無尽なりき:
  猶、其の四方(しはう)、諸の智慧の泉在りき、
  猶、一切の渇(かわ)ける者等、此等を酌(く)み 訳注29 き、
  而して、智慧に充たされき、
  斯くて、彼等が 訳注30 住処、義の徒と聖徒と撰徒と共に在りき。
 2. 其の刻(とき)、彼(か)の人つ裔の指(さ)されしに、
  是、万霊の主の臨場せる処なりき、
  猶、彼が名、万古の首の御前にて名付けられたり。
 3. 然り、日天子(にってんし)と諸兆(しょちょう)との造られし先に、
  天の諸星の成せられし先に、
  彼(か)の御身が名 訳注31 の名付けられたり、万霊の主の御前にて。
 4. 彼 訳注32 、義の徒の杖(つゑ)とならむ、是、彼等の堪(た)ひて堕(お)つる事無からむが為なり、
  猶彼、異邦人 訳注33 の光とならむ、
  猶、心に憂(うれ)ひ有る者等の望(のぞみ)とならむ。
 5. 地の面(おもて)に住まふ者等一切の、彼(か)の御身が御前に伏(ふ)し拝(をが)まむ、
  猶、褒讃(ほうさん)し祝福し頌(ほ)め歌(うた)はむ、万霊の主をこそ。
 6. 蓋しこの故に、彼の撰(えら)ばれ、主の御前にて匿(かく)されたり、
  天地創造の先に且つ永劫に至るまで。
 7. 而して、万霊の主が智慧、彼を聖徒と義の徒とに顕はしたり;
  蓋し、彼の、義の徒の運命(さだめ)を護(まも)り来たれる故に;
  是、彼等の此の不義の世を厭(いと)ひ、 卑(いや)しめ、
  且つ、其が 訳注34 造りしものと道との一切を、万霊の主の御名に於いて厭ひたるに依りてなればなり:
  蓋し、主の御名に於いて、彼等の救ひ出(い)だるに、
  且つ是、主の御意(みこころ)に依りて成せられたるものなり、彼等が生命(いのち)の上に。
 8. 其の期(とき)、地の諸王すら面伏(おもてぶ)せになりぬべし、
  況んや其の領を持つ権門の徒に於いてをや、是、彼等が手に依る諸(もろ)の悪業に依りてなり;
  蓋し、彼等が苦悶と悲嘆の期(とき)、彼等の己が身を救ふ事能わじ、
 9. 加之(しかのみならず)、予、予が撰徒の手に彼等を委ねむ:
  恰も炎が中(うち)の麦の藁(わら)の如く彼等の焼かるるべきは、聖徒の面前に在りてなり:
  恰も水底(みなそこ)の鉛の沈(しづ)みたるべきは、義の徒の面前にありてなり、
  斯くて如何なる彼等の影をも、最早(もはや)見出(いだ)さるる事あらじ。
 10. 而して、彼等が悲嘆の期、地上に安寧の有らむ、
  猶、彼等が 訳注35 面前にて、彼等 訳注36 の倒(たふ)れむ、且つ再び起き上がるべくもあらじ:
  猶、彼等が手を取りて身を起こさしむる者つゆあらじ:
  蓋し、彼等の万霊の主と主の聖別せられし者 訳注37 とを拒みたれば。
  万霊の主が御名の頌(たた)ふべきかな。

第49章 撰者の威権(ゐけん)と智慧

 第49章 1. 蓋し、智慧、水の如く湧(わ)き出(い)で、
  猶、栄光(えいくわう)、撰者 訳注38 の御前にて窮(きは)まる事無きは、世々限り無ければ。
 2. 蓋し、其の御身 訳注39 、義の万般(ばんぱん)の秘義に於いて権能ありて、
  猶、不義、影の如く消え失(う)さむ、
  且つ、其れの持続するを得じ、
  蓋し、其の撰者の立ちて畏まるは、万霊の主の御前なり、
  猶、其の御身が 訳注40 栄光有るは、永劫(えいごふ)常(とこ)しへに、
  猶、彼が威権(ゐけん)有るは、世々に及びてなれば。
 3. 加之、其の御身が中(うち)に住めるは智慧の精霊 訳注41 なり、
  且つ其の精霊、洞察を授(さづ)くるものにして、
  且つ其の精霊、理(ことわり)を解(と)く力と大能(だいのう) 訳注42 とのものにして、
  且つ其の精霊、義の中(うち)に眠りに沈みたる者等のものなり。
 4. 而して彼、隠されし事共を裁かむ、
  猶、如何なる者も虚偽の言を吐く事能わじ、其の御身が御前なるに、
  蓋し彼、万霊の主の御前の撰者なるは、主の御旨に依りてなれば。

第50章 義の徒の顕栄(けんえい)と勝利と:異邦人の悔悟(かいご)

 第50章 1. 而して、其の期(とき)、聖徒と撰徒とに変化の起こらむ、
  猶、光明(くわうみやう)に充(み)てる諸日(しょじつ)、彼等が上に留(とど)まらむ、
  猶、栄光と誉(ほまれ)と、聖徒が方(かた)へ向かはむ、
 2. 其の悲嘆が日に、悪の宝として蔵(ぞう)さるるは罪の徒に対(むか)ひてならむ。
  猶、義の徒の勝利を得む、万霊の主が御名に依りて:
  猶、彼御方(かのおんかた)、他の者等に此れを親(ま)のあたりに見せむ、
  彼等 訳注43 の悔悟(かいご)せむが為に、
  猶、彼等が手に因る諸(もろ)の悪業を慎(つつし)ませむが為に。
 3. 彼等に誉(ほまれ)無きは、万霊の主が御名に由りてなればならむ、
  然(しか)と雖(いへど)も、主の御名に由りて、彼等の救はれむ、
  猶、万霊の主、彼等に慈悲を垂れ給はむ、
  蓋し、主の慈悲の偉大(ゐだい)なる故に。
 4. 猶、主の義におはしませば、主の裁きに於いても亦(また)、且つ主の栄光の臨在の中(うち)に、不義も亦、其れ自らを保たじ:
  主の裁きに在りて、頑迷(がんめい)の徒 訳注44 、主の御前にて滅(ほろ)ばむ、
 5. 斯くてこの後(のち)、予 訳注45 、彼等が上に慈悲を垂れじ、万霊の主仰(おほ)せ給ふ。

第51章 死徒 訳注46 の復活(ふくくわつ) 訳注47 、並びに義の徒と邪悪の徒との裁き主に拠る隔絶

 第51章 1. 而して其の期(とき)、地も亦、之れに対して預け入れられ来たれる物(もの) 訳注48 を旧(きう)に復さむ、
  猶、陰府(よみ) 訳注49 も亦、其れが受けたりし物を旧に復さむ、
  猶、地獄(ぢごく) 訳注50 、其れが負へる物を旧に復さむ。
 5a. 蓋し、其の期撰者の起(た)たむ、
 2. 猶、其の御身の、彼等 訳注51 が中(うち)より義の徒と聖徒とを選(え)り分(わ)かむ、
  蓋し、其の日の近づき来たりたるは、彼等 訳注52 の済度(さいど)せらるべきが為なり。
 3. 而して撰者、其の期予が玉座に座し、
  猶、彼が口の紡ぎ出(い)でむ、智慧と訓(をしえ)との万般(ばんぱん)の秘義を:
  蓋し、万霊の主の其等 訳注53 を彼に委(ゆだ)ねたりて、且つ彼に栄誉を与へたり。
 4. 而して其の期、山々の、雄羊(おひつじ)が如く飛び躍らむ、
  猶、 群丘(ぐんきゅう)も亦、乳(ちち)に満たさるる子羊が如く跳び回(まは)らむ、
  猶、天の御使い等 訳注54 が顔(かんばせ)の悉く、歓喜(くわんき)に明るまむ。
 5b. 猶、全地の祝賀せむ、
  c. 猶、義の徒、其の面(おもて)に住まはむ、
  d. 斯くて、撰者、其の上に歩まむ。

第52章 七座の金属山 訳注55 と撰者と

 第52章 1. 加之、其の期(とき)より後、其の処に在りて。是我の秘匿されし物の幻視の一切を見たる処なりー蓋し我、旋風一陣が中(うち)に攫(さら)い去られたりて、彼等 訳注56 、我を西方へ運び行(ゆ)きたりー 2. 其処にて我が目に見しは、悉(ことごと)くの天の秘匿されし諸物にして、此等の将(まさ)に有らむとするは、鉄(くろがね)の山と、銅(あかがね)の山と、銀(しろがね)の山と、金(こがね)の山と、軟金属(なんきんぞく)の山と、鉛(なまり)の山となり。
 3. されば我、我と共に往く天使に問ひて曰く、「何物なるや此等、我の秘中に見たるは?」 4. 而して彼、我に曰く:「爾が見たる此等一切の物、主の聖別せられし者の治(ち)に用ゐらるべし。是、彼の地にありて其の響き 訳注57 と大能 訳注58 とを顕(あらは)し得るが故に。」
 5. 亦(また)、其の安寧(あんねい)の天使応じて、我に曰く:「「暫(しば)し待て。猶、爾に悉くの秘匿されし諸物の顕(あら)はされむ、此等、万霊の主を囲繞(いじょう)するものなり。
 6. 即(すなは)ち、此等の爾が目の見たる山々、鉄の山と、銅の山と、銀の山と、
  亦、金の山と、軟金属(なんきんぞく)の山と、鉛(なまり)の山と、
  此等悉く、撰者が臨在の下(もと)に在らむ、
  恰も炎の面(おもて)に在る蝋(らう)の如く、
  猶、水の如く、是、其れ等山々の嶺(みね)より流れ下るなり、
  而して、其れ等 訳注59 力尽かむ、彼が足許(あしもと)に在りて。
 7. 加之(しかのみならず)起(お)かむ、其の期(とき)に、一人として救わるる者あらざる由(よし)、
  黄金に由りても、白銀に由りても、
  猶、一人として遁(のが)るる事能はじ、
 8. されば、其処に戦(いくさ)に用ゐる鉄(くろがね)在らじ、
  況んや一人として己が身に鎧(よろひ)を具(そな)へじ、
  青銅(せいどう)無用(むよう)ならむ、
  猶、錫(すず)無用ならむ、且つ重んぜられじ、
  猶、鉛(なまり)欲せられじ。
 9. 斯くて、此等悉くの物拒まれ且つ棄てられむ、地の面(おもて)自(よ)り、
  撰者顕(あら)はれむとする際(きは)に、万霊の主の御面前(みまへ)にて。」

第53章乃至第54章六節 審判の谷:懲罰の天使等:撰者の会衆(ゑしゅ)訳注60

 第53章 1. 其処にて我が目の見しは、其の諸口を開け放ちたる一つの淵(ふち)深き谷なり。猶、陸上と大海(おほうみ)と嶋々とに住まう物共 訳注61 の悉く、彼 訳注62 に贈物と土産と敬意の徴(しるし)とを持ち来(きた)らめど、其の淵深き谷充たさるる事あらじ。
 2. 而して、彼等が手、不法(ふはふ)なる所業(しょぎょう)を犯(をか)し、
  猶、罪の徒貪(むさぼ)れるは、不法に陵虐(りょうぎゃく)する者等悉くなり:
  されど、罪の徒滅ぼされむ、万霊の主の御面前(みまへ)にて、
  猶、彼等、主の地の面(おもて)自(よ)り放逐(ほうちく)されむ、
  斯くて、彼等覆滅(ふくめつ)せむ、世々(よよ)常(とこ)しへに。
 3. 蓋し、我見き、其処に住まふ懲罰(ちょうばつ)の天使等の悉くを、是、魔王の諸(もろ)の拷具(がうぐ)の悉くを調(ととの)へつつあり。 4. されば我、我と共に往く安寧の天使に問ひたり:「誰が為に(たがために)彼等、此等の拷具を備(そな)へつつあるや?」 5. 而して彼、我に曰く:「彼等、此等を此の地の諸王と権者等が為に備へれり、是、彼等 訳注63 の此等を用ゐて滅ぼされむが為なり。
 6. 斯くて此の後(のち)、義なる撰者(せんじゃ) 訳注64 、彼の会衆(かいしゅう)の堂 訳注65 を顕(あらわ)せしめむ:此れより後(のち)、彼等、最早妨げらる事あらざるは、万霊の主の御名に依りてなり。
 7. 然(さ)れば此等の山々、陸たるところならじ、是、其の御身が義の御前(みまえ)なればなり、
  然(しか)れども群丘(ぐんきゅう)、水の泉が如くならむ、
  而して義の徒、罪の徒の陵虐(りょうぎゃく)より解き放たれて休みを得む。」

 第54章 1. 加之、我目睹し向きたるは地の別なる処にして、猶其処に、炎の燃ゆる一つの淵(ふち)深き谷を見き。 2. 而して、彼等 訳注66 、諸王と権者等を将(ひき)ゐて来たりて、猶、彼等を 訳注67 此の淵深き谷へ投げて墜(お)とし始めき。 3. 猶其処にて、我が目、此等の彼等が 訳注68 諸の拷具を見き、量るべからざる重さの鉄鎖を。 4. 然(さ)れば我、我と共に往きし安寧の天使に問ひて、曰く:「誰が為に(たがために)此等鉄鎖の調へられつつあるや?」 5. 而して彼我に曰く:「此等、アザゼルの輩(ともがら)が為に備へられつつあり。是、彼等 訳注69 の彼等 訳注70 を掴みて全(まった)き罪科(ざいくわ)宣告の深淵へ投げて墜とさむが為なり。猶、彼等 訳注69 、彼等 訳注70 が顎(あぎと)を凹凸(おうとつ)の石にて塞がむ、万霊の主の命じたる故に。
 6. 斯くて、ミカエルと、ガブリエルと、ラファエルと、ファヌエルと、其の大いなる日に 訳注71 彼等を制し抑(おさ)へむ、猶、彼等を其の日に投げて墜とさむ、其の燃ゆる焦熱(しょうねつ)地獄 訳注72 へ。斯く在るは万霊の主、其の不義が故に彼等に応報せむが為なり。是、彼等の魔王に隷属(れいぞく)するに至りて、且つ地の上に住まふ者等を惑はしたる咎に由りてなればなり。」

第54章七節乃至第55章二節 初(はじめ)の世(よ) 訳注73 の審判に係るノアの断章

 第54章 7. 「加之(しかのみならず)其の期(とき)、万霊の主より懲罰来(こ)む。されば主、諸天の上なる諸水(しょすい)の諸蔵を悉く開け放ちて、猶地の下なる諸(もろ)の水源の室(むろ)をもまた悉く解き放たむ。 8. ここに、悉くの諸水 訳注74 、諸の他水 訳注75 と相合(あひあ)はさらむ:即ち、諸天の上なる物、陽(やう) 訳注76 なるに、地の下なる水、陰(いん) 訳注77 なり。 9. 而して、其れ等、地の上に在る一切の者共を滅ぼさむ。是、天の諸涯(しょがい)の下に 訳注78 在る者共につきても然るなり。 10. 斯くて、彼等認むる時、其の地の上にて為したる其の不義を、其の時此等に因りて、彼等覆滅(ふくめつ)せむ。」

 第55章 1. 而して其の後、万古の首、悔いたりて曰く:「徒(いたづら)に、予、地の上に在る一切の者共を滅ぼせり。」 2. されば、主誓ひ給へり、主の偉大なる御名に依りて:「此れより後、予、地の上に住まふ悉くの者共に向(むか)ひて斯くの如きを為さじ、猶予、天に徴(しるし)を置かむ:さすれば、此れ、予と彼等との間の信義の証とならむ、常(とこ)しへに且つ天の地の上に在る限り。是、予が命(めい)に従ふものなり。」

第55章三節乃至第56章四節 アザゼルの終極の審判、見守る者等と其の子等

 3. 「予、此れが故 訳注79 の艱苦と苦悶との日に、天使等の手に由り彼等を捕らふるを望める時、予、予が懲罰と予が忿怒(ふんぬ)とを彼等が上に滞(とどこお)らしめむ、神、万霊の主言ひ給ふ。 4. 爾等、強盛(きやうせい)なる諸王、地の上に住まふに、爾等、予が撰者を目睹するを免れじ、如何にして彼、其の栄光の玉座に座し且つ裁くかを。是、アザゼルと其の輩(ともがら)の悉くと其の一味の一切とを裁く処にして、万霊の主の御名に依りてなり。」
 
 第56章 1. 然(しか)る後(のち)、我其処に見き、懲罰の天使等の軍勢の進み行くを、猶彼等手に把(と)るは、鉄(くろがね)と青銅とを以て成れる諸(もろ)の鞭(むち)と、 同然の諸の鎖となりき。 2. されば我、安寧の天使に問ひたり、彼の我と共に往きたるに、我曰く:「誰に向かひて此等、諸の鞭を執りて、行きつつあるや?」 3. 而して彼我に曰く:「彼等が 訳注80 選(え)り抜き且つ執愛(しふあい)する 訳注81 者等に向かひてなり。是、彼等 訳注82 の彼(か)の谷の深淵の裂け目へ投げて墜とされむが為なり。
 4. 斯くて其の果(はて)、其の谷、彼等が選り抜き且つ執愛する者等にて満ち溢られむ、
  猶、彼等が生命(いのち)の日尽くらむ、
  猶、彼等が迷妄(めいまう)に導(いざな)ふ日数(ひかず)、其の時以来肯(がへ)んぜられじ。

第56章五節乃至八節 イスラエルに背く異邦(いはう)の権勢の最後の闘争(とうさう)

 5. 而して其の期、彼(か)の天使等 訳注83 返(かへ)り来(く)るらむ、
  猶、己等を駆りて、東方の安息人(あんそくびと) 訳注84 と瑪代人(めでいびと) 訳注85 とに向かはむ:
  彼等、其等の諸王を扇動せむ、擾乱(ぜうらん)の気風、彼等に達(いた)らむが為に、
  猶、彼等 訳注86 、彼等を 訳注87 其の 訳注87 玉座自(よ)り起こしめむ、
  而して彼等討ち出でむ、恰も獅子の其の塒(ねぐら)自り躍り出づるが如く、
  猶、恰も飢ゑたる狼の其の群(むら)自り飛び出づるが如く。
 6. 加之、彼等攻め上らむ、又蹂躙(じうりん)せむ、主が選びし者等の地を、
  猶、其の主が選びし者等の地、彼等が前にて打ち据ゑ処ともなり、大路(おほじ)ともならむ:
 7. されど、予の義の徒が都 訳注88 、彼等が馬にとりて障碍(しやうがい)とならむ、
  斯くて彼等、己等が間(あひだ)にて戦ひ交(まじ)へ始めむ、
  猶、彼等が右腕、己等が身に向ひて猛からむ、
  猶、兵(つはもの)、其の兄弟を知らじ、
  況や子も亦、其の父と母とを知らじ、
  彼等が殺戮に依りて、屍(しかばね)累々として数なからむまで、
  されど、彼等が懲罰、空(むな)しからじ。
 8. 其の期(とき)陰府(よみ)、其の顎門(あぎと)を開(あ)けしめむ、
  猶、彼等 訳注89 、其の中に残らず呑まれむ、
  斯くて彼等が滅亡、終極に帰さむ;
  陰府、罪の徒を喰ひ尽くさむ、撰徒の面前に於いて。

第57章 離散せる者等の帰還

 第57章 1. されば此の後起こりたるを我見き。即ち是、別の諸(もろ)の天(あま)つ戦車の軍勢 訳注90 にして、且つ天(あま)つ人等 訳注91 其の上に乗りて、且つ東方と西方とより来て南方へと吹く諸風に随(したが)ひて来たれり。 2. 又、彼等が天つ戦車の轟然たる音聞かれたり。此の鳴動起こりし時、 天の聖なる者等其れを見留(みと)めたりて、猶、諸の地の柱、其の基(もと)自(よ)り外(はづ)れ、猶、其の響き、天の一方の端自り彼(か)の一方の端に及びて聞こえたり。是皆、一日にして成りたるなり。 3. 而して、彼等一同降り下りて、万霊の主を崇めむ。斯くて、第二の比喩譚、此処に結了す。


【注記】

訳注1 : 原語は'the Apostates'。「背教者」という意味合いであるが、本訳は宗教的というよりも神秘文書としての翻訳を目指しているので宗教色を出したくない。故に「義」に背くという意味で、「背義の徒」と訳出した。

訳注2 : 原語は'the sinners'。比喩譚を通して「罪の徒」と訳出している。具体的には表題の「背義の徒」の範疇に入るものである。

訳注3 : 原語は'I'。神の一人称語り。エノクが「我」を使っているので、神の一人称では「予(よ)」を使用する。

訳注4 : 原語は'Mine Elect One'。比喩譚全体を通じて、"Elect One"は「撰者」と訳出しているので、ここでは「予の撰者」と訳出した。Mine=My=God'sである。チャールズの時代の英語では"my"の直後が母音の場合、"mine"へと変化する古々しい語法であった。単語の先頭が大文字なので、当然これは神の事を意味する。

訳注5 : 原語は'their'。「罪の徒」を指す。次の'works'を「罪業」として「裁く」('try')と読める。

訳注6 : この部分のtheyシリーズの代名詞が誰を指すのかで、この部分の解釈が割れる。「撰者等」とする向きもあるが、私は一貫して「罪の徒」とした。「頑なにして解けず」の部分の原語は'grow strong'である。強くなる方向が解釈上の問題となる。

訳注7 : 原語は'among them'。直前の45:3では撰者と罪の徒に関する言及であったが、この45:4では「新しき地」へと話題がシフトしている。故に「其の民の中(うち)に」と訳出した。

訳注8 : 原語は'Mine righteous ones'。'the righteous one'を「義者」と訳出してきたので、「予の義者等」とした。

訳注9 : 原語は'the Head of Days'。これはダニエル書に出てくる"Ancient of Days"(「日の老いたる者」)と同様な神の称号であると考えられる。本訳は宗教書ではなく神秘文書なので、「万古の首(ばんこのしゅ)」とした。

訳注10 : 原語は'the Son of Man'。いわゆる「人の子」である。「人の子」はあまりにも宗教的含意が強すぎるので、ここでも独自訳とした。'Son'を「子」ではなく「裔(すゑ)」とすると共に、上代の所有の助詞「つ」を採用する。つまり、採用した訳語は「人つ裔(ひとつすゑ)」。

訳注11 : 原語は'One'。これは大文字から始まる単語なのでもちろん神を表している。「一(いつ)なる者」と訳出した。「一者(いっしゃ)」という訳出もできるのだが、文語では「一者〜、二者〜」などの列挙表現でも使用するので適切ではなかろう。

訳注12 : 原語は'a head of days'。先程の神の称号とは別に神を叙述する内容なので、「元始の寿」と訳出した。

訳注13 : 原語は'another being'。これは先の「人つ裔」を指す。

訳注14 : 原語は'his'。これは先の「他の一つの在りて在る者」を指すので、「其の御身(おんみ)の」と訳出する。

訳注15 : 原語は'all the hidden things'。これは第一の比喩譚の訳注22にも示したとおりである。

訳注16 : 原語は'the Head of Days'。訳注9の通り「万古の首」となるが、これは訳注11の'One'(「一柱の者」)を指している。

訳注17 : 原語は'uprightness'。以前にも出てきたが、「直(なほ)き」と訳す。

訳注18 : もちろん「人つ裔」を指す。

訳注19 : 原語は'the Most High'。聖書などでは「いと高き者」と来るのであろうが、本訳では「至高なる者」と訳出した。

訳注20 : 原語は'them'。これは権門の徒などの悪人どもを指す。

訳注21 : 原語は'they'。直前のthemは悪人らを指していたが、このtheyは義の徒を指す。

訳注22 : 原語は'the books of the living'。「生命(いのち)の諸書」と訳出した。

訳注23 : 原語は'counsellors'。天界法廷にて神を補佐する役目なので、意思決定に直接関与しない「参与等」と訳出した。

訳注24 : 原語は'the holy'。比喩譚では聖徒と訳出する。

訳注25 : 原文は'the blood of the righteous (had) been required'。直訳すると「義の徒の血が求められた」となり、まるで義の徒が生贄となったみたいな意味合いとなってしまう。そうではなく、これは創世記のカインとアベルの物語(アベルの血が地から叫ぶ)に由来する「血の復讐(Blood Vengeance)」の法理に基づいている。故に「求められた」のは「血の代償」であり、義の徒を殺した悪人共に対する求償である。よって「義の徒の血の報ひ、徴(め)し立てられたり」と訳出してある。

訳注26 : 原語は'the fount of righteousness'。チャールズの訳では'fount'と'fountain'が使い分けられており、それぞれ「水が湧き出てくる源」と「水の流出する様」を意味している。翻訳ではそれぞれ「泉源」と「泉」と訳出することとする。故に、「義の泉源」と訳出した。

訳注27 : 原語は'the Stay of the Righteous'。ここで'stay'は杖や支柱のような支えを表している。本訳では「義の徒の依憑(いひょう)」とした

訳注28 : 原語は'fountain of righteousness'。訳注26でも述べた通り、「義の泉」と訳出する。

訳注29 : 原語は'drink of them'。'drink of'は大きな泉からその一部を分けとって飲むというニュアンスがある。ここでは「酌(く)む」と訳出した。

訳注30 : 原語は'their'。これは直前の「一切の渇(かわ)ける者等」を指す。

訳注31 : 原語は'His name'。このHisは神を指すのではなく、人つ裔を指す。神の表現と同様に単語の先頭が大文字となっている事に注意せよ。「彼(か)の御身が名」と訳出した。

訳注32 : 原語は'He'。これは人つ裔を指す。

訳注33 : 原語は'the Gentiles'。エノク書の編纂されたユダヤ第二神殿期においては、ユダヤ教もキリスト教もまだ制度化はされておらず、これに「異教徒」という言葉を当てはめるのは不適当である。チャールズの時代の学術的・神学的な文章においては、民族的・宗教的グループを表す言葉を大文字で記述する風潮があった。ここでもユダヤ思想的な神の民(選民)に対する「諸国民」、「諸邦」という公的な属性・範疇を指す固有名詞的表現となっている。これらを考慮し、「異邦人」と訳出してある。

訳注34 : 原語は'its'。これは直前の'this world of unrighteousness'(此の不義の世)を指す。

訳注35 : 原語は'before them'。「彼等の面前」という事であるが、この「彼等」は人つ裔、義の徒、聖徒などを表している。

訳注36 : 原語は'they'。このtheyはこれまでずっと指し示してきた諸王や権者等を指している。

訳注37 : 原語は'His Anointed'。「主の聖別せられし者」と訳出した。

訳注38 : 原語は'him'。大文字で始まるならば神としたいところだが、この章は撰者(the Elect One)について書かれているので、「撰者」と訳出している。「撰者」=「人つ裔」=「主の聖別せられし者」 は天地創造の前から居るとされているので、神の如き永遠性を有すると考えられる。

訳注39 : 直前の「撰者」を表す。「其の御身」とした。

訳注40 : 原語は'his'。これは撰者を指す。「其の御身が」と訳出した。

訳注41 : 原語は'the spirit of wisdom'。「智慧の精霊 」と訳出した。

訳注42 : 原語は'might'。「大能(だいのう)」と訳出した。

訳注43 : 原語は'they'。これは罪の徒(the sinners)を指す。

訳注44 : 原語は'the unrepentant'。「頑迷(がんめい)の徒」と訳出した。

訳注45 : 原語は'I'。今までは神は'He'、つまり三人称で登場していたが、ここでいきなり神の一人称となっている。古代文書ではよくある人称の変化またはゆらぎである。

訳注46 : 原語は'the Dead'。単に「死者」としてしまうと「死んだ肉体」程度の意味と受け取られてしまう。ここでは「復活」を待ち侘びている「死せる徒」という意味合いで、「死徒」と訳出する。

訳注47 : 原語は'resurrection'。いわゆる「復活(ふっかつ)」。キリスト教テキストでの定訳でもありキリスト教的なニュアンスが強く滲むのだが、その漢語的な硬質な響きは魅力的。読みを古くして「復活(ふくくわつ)」と訳出した。

訳注48 : 原語は'that (which)'。漠然とした「もの」を言い表しているが、文語では「物(もの)」を割り当てるのが便利。人も、物質も、霊的存在も、目に見えぬものも、すべて「物(もの)」の一語で表現可能である。

訳注49 : 原語は'Sheol'。これまで通り「陰府(よみ)」と訳出する。

訳注50 : 原語は'hell'。黙示録的文脈でもあり、定訳である「地獄(ぢごく)」を用いる。しかし、「地獄」という語そのものは、もともと仏教より取り入れた言葉であり、決してキリスト教的な用途に限られている訳ではない。

訳注51 : 原語は'them'。これは直前の地や陰府が預かっていた死徒を指す。

訳注52 : 原語は'they'。これは義の徒や聖徒を指す。

訳注53 : 原語は'(them)'。これは直前の’all the secrets of wisdom and counsel'(智慧と訓との万般の秘義)を指す。

訳注54 : 原語は'angels'。「天使等」としたいところだが、直前に「天の」と修飾語が来て「天」がだぶついてしまう。聖書でよく使われる「御使い」を利用して「御使い等」と訳出した。

訳注55 : 原語は'Metal Mountain(s)'。硬質な響きの「金属山(きんぞくざん)」と訳出する。これが七座あるから複数形としたいところだが、「異邦人」の時と同様に、この語単独で集合的含意をもたせる事とする。

訳注56 : 原語は'they'。余りにも曖昧であるが、文脈からしてこの者たちには、エノクに同行する案内人としての役割がある。それは天使等かもしれないし、エノク書の世界観であるならば、擬人化された超越的な霊的人格かもしれぬ。

訳注57 : 原語は'potent'。'be potent'で「影響を及ぼす」と訳出したいのだが、あまりにも現代語過ぎる。影響という語を「響き」に差し替えて、「響きを顕す」と訳出した。

訳注58 : 原語は'mighty'。'be mighty'で「大能を顕す」と訳出した。

訳注59 : 原語は'they'。これは前出の鉄の山、銅の山、銀の山、金の山、軟金属の山、そして鉛の山を指す。これらの山はもちろん比喩となっており、撰者によって滅ぼされる対象となっている。

訳注60 : 原語は'communities'。「会衆(ゑしゅ)」と訳出した。実は以前に、'congregations'を「会衆(かいしゅう)」と訳出している。前者は仏教用語。後者はキリスト教用語。同じ文字となってしまうが、読みで区別する事とする。

訳注61 : 原語は'all who (dwell)...'。直訳すれば「全てのもの」であるが、基本的に人間は陸地にしか住んでいないとされていた。本来人間が住む陸地以外の海洋や島嶼といった場所を含める事で、撰者の権能が人間だけでなく世の中の一切に及ぶ事が強調されている。また、この時代に於いても、海の中には「リバイアサン」などのモンスターが住んでいたと考えられているので、「者共」ではなく「物共」と訳出してある。

訳注62 : 原語は'him'。唐突に誰を指すのか不明な代名詞が出てくるが、これは一般的に、集合的に「諸王と権者等」の事を表していると解釈されている。訳注48にも示した通り、「物(もの)」は人も、物質も、霊的存在も、目に見えぬものも、すべて言い表す事が出来る。

訳注63 : 原語は'they'。これは直前の「諸王と権者等」を指す。

訳注64 : 原語は'the Righteous and Elect One'。これは義者と撰者が組み合わさっているので、「義なる撰者(せんじゃ)」と合成して訳出した。

訳注65 : 原語は'the house of his congregation'。「会衆(かいしゅう)の堂 」と訳出した。

訳注66 : 原語は'they'。これは「懲罰の天使等」を指す。

訳注67 : 原語は'them'。これは直前の「諸王と権者等」を指す。

訳注68 : 原語は'their'。これは「懲罰の天使等」を指す。

訳注69 : 原語は'they'。これも「懲罰の天使等」を指す。

訳注70 : 原語は'them/their'。これは直前の「諸王と権者等」を指す。

訳注71 : 原語は'on that great day'。これは黙示録的終末と審判の起こる日を指しており、「程度が甚だしい」という意味合いとなる。よって「其の大いなる日に」と訳出した。

訳注72 : 原語は'the burning furnace'。「其の燃ゆる焦熱地獄 」と訳出した。これが単なる「炉」ではない事は明らかであろう。

訳注73 : 原語は'the first World'。これはノアの洪水によって滅ぼされる前の旧世界を指している。「初(はじめ)の世(よ)」と訳出した。

訳注74 : 原語は'all the waters'。「悉くの諸水」と訳出してあるが、これは先の「諸天の上なる諸水」を意味している。

訳注75 : 原語は'the waters'。ここで登場している「水」は二種類しかなく、これは先の「下なる諸(もろ)の水源」の方を指す。諸天の上なる諸水」と区別するために「諸の他水」と訳出した。

訳注76 : 原語は'masculine'。男性的という意味だが、黙示文学の世界観に合わせて「陽(やう)」と訳出した。

訳注77 : 原語は'feminine'。これも女性的という意味だが、黙示文学に合わせて「陰(いん)」と訳出した。

訳注78 : 原語は'under the ends of the heaven'。「天の諸涯(しょがい)の下に」と訳出した。これは天と地が出会う付近、つまり我々の世界の果てにおいても、ノアの大洪水を免れないという意味合いである。それ程苛烈な神の懲罰となるという事だ。

訳注79 : 原語は'because of this'。'this'は54:10の「諸王と権者等の地上で為した不義により、彼等が神の審判に直面する事」を指す。訳語は「此れが故に」を当てた。

訳注80 : 原語は'their'。これは前出の「強盛(きやうせい)なる諸王」を指す。

訳注81 : 原語は'beloved'。「執愛(しふあい)さる」と訳出した。実際の訳出では受動態ではなく能動態で訳出してある。

訳注82 : 原語は'they'。これは直前の「彼等が選り抜き且つ執愛する者等」を指す。

訳注83 : 原語は'the angels'。これはもちろん、「懲罰の天使等」を指す。

訳注84 : 原語は'the Parthians'。アルサケス朝パルティアの人々を指す。流石に片仮名は厳しいので、中国の史書(『史記』や『漢書』)に出てくるパルティアの呼称「安息国(あんそくこく)」に基づき「安息人(あんそくびと)」とした。この「安息国」は初代国王アルサケスの音訳に由来する。

訳注85 : 原語は'the Medes'。こちらは漢訳聖書において採用されている「瑪代人(めでいびと)」を訳語として採用した。国名は「瑪代国(めでいこく)」。先の安息国(あんそくこく)」とも釣り合う。

訳注86 : 原語は'they'。これは'the angels'、つまり懲罰の天使等を指す。

訳注87 : 原語は'them/their'。これは直前の諸王を指す。

訳注88 : 原語は'the city of my righteous'。まず、この'my'は'My'とあるべきもので、神を指している。そして'the city'であるが、これは単なる町ではない。チャールズの見出しが示しているように、具体的にはエルサレムを指していると解釈されている。本訳では「予の義の徒が都」と訳出した。

訳注89 : 原語は'they'。これは文の流れ通り、聖都(the city)へ攻めてきている安息人と瑪代人の王らとその兵を指す。

訳注90 : 原語は'wagon'。これは我々が通常想像するであろう4輪の荷馬車を表している訳ではない。語義としては'wain'や'chariot'と同様な昔の「戦車」を表している。特にこの場面では「天上的な戦車」を表しており、昔の戦で用いた二輪の小さな戦車よりもスケールが大きい。チャールズは幾つかの理由からこの訳語を採用している。(KJVの用語である、ゲエズ語の単語の意味範囲が広い、天を想起させるその天文学的なつながり(北斗七星)) また、'host of wagons'として'host'(エノク書では常に「天の軍勢」を指している)と併せて用いられているので、これも天界の乗り物としての性質を補強している。 本訳では「天つ戦車」と訳出した。

訳注91 : 原語は'men'。訳注90の通り、「天つ戦車」に乗る者は死すべき定めたる人間ではない。これは天上の存在を表しており、「天つ人」と訳出した。聖書などでもそうだが、天界の存在を人として描写(あるいは訳出)しているケースがある。

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