1. 第一の比喩譚。
義の徒(と) 訳注2 の会衆の現れんとし、
猶(なお)、罪の徒 訳注3 、其の罪業に依りて裁かれ、
猶、地の面(おもて)より追い遣られん時、
2. 猶、義者 訳注4 の義の徒の眼前に現れんとし、
其の選ばれし業(わざ)、万霊の主に懸(かか)れたる時、
仍(すなわ)ち光、義の徒と地の面(おもて)に住まえる撰徒 訳注5 に現れん、
其の時其処に罪の徒の居処、
且つ万霊の主を拒みたる者らの憩いの処、果たして何処(いずこ)にかあらんや?
彼ら生まれざりし方(かた)こそ良かりしならん。
3. 義の徒の秘奥(ひおう)開示され、且つ罪の徒裁かれ、
猶、無神の徒 訳注6 、義の徒と撰徒との面前より追い遣られん時、
4. 其の時より後ち、地を掌(つかさど)る者等、最早権勢を振るわず且つ其の身位(しんい)高からず:
況んや彼等、聖徒 訳注7 の顔(かんばせ)を仰ぎ見る事能わじ、
蓋し万霊の主、其の御光(みひかり)を顕わしめられ、
聖徒と義の徒と撰徒との顔の上を照らし給えばなり。
5. 斯くて諸王と権者(けんじゃ)等とは滅び去り、
猶、義の徒と聖徒との手の内に引き渡されん。
6. 然らば其の後より、彼等如何なる者も万霊の主の慈悲を得んとする事能わじ:
蓋し彼等の生命(いのち)尽きたればなり。
第39章 1. 而して其の日、選ばれし聖なる裔(すえ)等、上つ天(かみつてん)より降(くだ)りて、その胤(たね)人の子等と一(いつ)とならん。 2. 加之(しかのみならず)其の日、エノク、激情の書と忿怒(ふんぬ)の書と、又、憂懼(ゆうく)の書と放黜(ほうちゅつ)の書 訳注9 とを受けき。 訳注10
而して慈悲、彼等 訳注11 に与えらるる事非じ、万霊の主言い給えり。
3. 然る後、其の日、旋風一陣、我を地より攫(さら)い去りて、
猶、我を諸天の窮まりに降(くだ)したり。
4. 加之(しかのみならず)、其処にて我、又一つの幻(まぼろし)を見るに、其は聖徒の住処にして、又義の徒の憩いの処なりき。
5. 此処にて我が目、彼等の住処を目睹(もくと)するに、其は主の義なる天使らと共に在り、
又、彼等の憩いの処、聖徒と共に在りき。
加之(しかのみならず)、彼等、人の子等の為に嘆願し且つ執り成し且つ祈り、
猶、彼等の面前にて、義、水の如く流れ、
又、慈悲、地の面の露が如く在りき:
斯くて、其 訳注12 、彼等の間に永久(とこしえ)に在れり。
6a. 猶、其の処にて、我が目、義と信義との撰者 訳注13 を目睹せり。訳注14
7a. 又、我、彼が住処の万霊の主の庇護の元に在りたるを見き。
6b. 而して、義、彼が 訳注15 日に勝利を得、
猶、義の徒と撰徒と、永久(とこしえ)に主の御前(みまえ)にて算(かぞ)うるに能わじ。
7b. 斯くてあらゆる義の徒と撰徒と、主の御前にて火焔光(かえんこう)が如く堅固となり、
又、彼等の口、賛美に充ち、
又、彼等の口唇、万霊の主の御名(みな)を褒めそやし、
又、主の御前の義、けして損なわるる事無くして、
又、直(なお) 訳注16 、主の御前にて毫(ごう)も損なわるる事あらじ。
8. 其処に、我、 住まう事を所望し、
猶、我が霊、其の住処を切望しき:
加之(しかのみならず)、其処に先より我が分与在りたり、
蓋し、斯くの如き我につき定められりは、万霊の主の御前にてなれば。
9. 其の日、我、祝福と褒讃(ほうさん)とを持ちて万霊の主の御名を賛美し称揚しき、蓋し彼御方(かのおんかた)我を祝福と栄光とに定め給いしは、万霊の主の御意に依りたればなり。 10. 長き時に亘(わた)り、我が目は其の処を凝視し、猶我、主を崇め且つ称賛して述べき:「聖なるかな彼御方、いや増して主、肇より且つ永久(とこしえ)に褒むらるべきかな。 11. 加之(しかのみならず)、主の御前に終極無し。彼御方識(し)れり、天地万有創り出でられし先、永久なるものを且つ世々に亘りて在らんものを。 12. 眠らざる者等、爾を称えん:彼等爾が栄光の御前に立ちて畏まり、猶賛美し、褒讃し且つ褒めそやして曰く:『聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな、万霊の主:彼御方地上を万霊にて充たし給う。』」 13. 而して此処に、我が目、眠らざる者等の凡(すべ)てを見き:彼等主の御前に立ち畏まり且つ賛美し且つ曰く:「聖なるかな爾、猶永久(とこしえ)に聖なるかな主の御名の。」 14. 斯くて我が容貌変易(へんえき)しき;蓋し我、最早見る事能わざりき。 訳注17
第40章 1. 而して其の後、我見しは幾千(いくせん)の幾千、且つ幾万(いくまん)の幾万(いくよろづ)の輩(ともがら)、我見しは無数の且つ数うる事能わざる衆にして、彼等万霊の主の御前に立ち畏まりき。 2. 加之(しかのみならず)、万霊の主の四方(よも)に、我、四柱(よはしら)の顕現せる者等を見しが、彼等眠らざる者等とは異(こと)にせり。猶我、彼等が名を知りき:蓋し我と共に赴きたる天使、我に彼等が名(みな)を知らしめ、且つ我に一切の奥義(おうぎ) 訳注18 を顕しぬ。 3. 猶我、其の四柱の顕現せる者等の御声(みこえ)を聴きしに、其は彼等の栄光の主の御前にて褒讃(ほうさん)を宣(の)びしかばなり。 4. 第一の御声、万霊の主を永久(とこしえ)に 褒め奉りて止まず。 5. 猶、第二の御声を、我聴きたり、万霊の主に懸りたる撰者と撰徒とを祝福したるを。 6. 猶、我聴きたる第三の御声、地の面に住める者等の為に祈り、執り成しし、且つ嘆請(たんせい)するは、万霊の主の御名の下(もと)にてなり。 7. 猶、我、第四の御声を聴きたるに、其は魔王共 訳注19 を斥け、彼等の地の面に住まえる者等の咎を告げんとして、万霊の主の御前に参り来るを禁断せり。 8. 然(しか)る後、我、我と共に赴きたる安寧(あんねい)の天使 訳注20 に、彼は我に悉(ことごと)くの奥義を顕わしたるに、彼に尋ねたり:「此等の四柱の顕現せる者等は何者にてましますや、我、彼等を見たりて又其の言葉を我聴き且つ書き下したるに。」 9. ここに彼、我に曰く:「此の第一なるはミカエル、仁慈ある者にして耐へ忍ぶ者:又第二なるは、人の子らの一切の病と創(きず)とを掌(つかさど)る者なるに、是ラファエルなり:又第三なるは、万般の権能を掌る者なるに、是ガブリエルなり:又第四なるは、永遠なる生命(いのち)を嗣ぐ者等の冀望(きぼう)へと至る悔悟を掌る者なるに、是ファヌエル 訳注21 なり。」 10. 而して、此等万霊の主の四柱の天使等にして、我の其の時に聴きたる四音の声なり。
第41章 1. 然る後、我、諸天の万般(ばんぱん)の秘義 訳注22 を目のあたりに見、又如何にして御国(みくに)の分(わか)たれ、又如何にして人の業(わざ)の衡(はかり)にて量定さるるかを見き。 2. 加之(しかのみならず)其処にて、我、撰徒の館と聖徒の館とを目睹せり。又我が目、一切の罪の徒の其処より追いやらるるを見しに、彼等万霊の主の御名を拒みし故に、強いて曳き行かれき:されば彼等の留まる事能わざりけるは、万霊の主の下す劫罰(ごうばつ)に依りてなれば。
第41章 3. 又其処(そこ) 訳注23 にて我が目、稲妻と雷鳴との秘義を見、又諸風(しょふう)の秘義、即ち如何(いか)に其等(それら)の分かたれ、地の面(おもて)に亘りて吹き懸くるかを見、又諸雲(しょうん)と露との秘義を見、猶其処 訳注23 にて我見き、其処由り其等 訳注24 の出(い)で来(く)るを、又見き、其処由り其等 訳注24 の塵に覆われたる大地をしとどに濡らすを。 4. 猶其処にて我、諸雲の其処にて分かたれて閉じられし諸蔵(しょぞう) 訳注25 を見しに、其中(そのうち)雹と諸雲の蔵(くら)、其中霧と諸雲の蔵なりき。加之(しかのみならず)、其等(それら)諸雲の中(うち)に一雲(いちうん)在りて、世の肇(はじめ)より地の上に漂へり。 5. 猶我見しは日天子(にってんし) 訳注26 と月天后(がってんごう) 訳注27 との諸蔵なりき。即ち何処(いずこ)より其等の出で来て且つ何処に其等の更に還(かえ)り来(きた)るか、又其等の輝かしき帰来の様、又如何に一方の他方に勝りて在るか、又其等の厳かなる天路の様、又如何に其等の己が天路を離れざるか、又其等の己が天路に付け加うるもの無き様、又其等の其の天路より何物をも除き去らざる様を。又其等の互(たが)ひに律を守り合う様を。是、其等の互ひに縛(いまし)むる処の誓いに依りて然るなり。 6. 而して先(ま)づ日天子、万霊の主の命令に従ひて出立し其の軌(みち)を巡り、猶彼御方(かのおんかた)が御名、永久(とこしえ)に強大なり。 7. 其の後に、我、月天后の隠されし軌(みち)と目に見ゆる軌とを見るに、猶其の身(そのみ) 訳注28 、其処 訳注29 に在りて昼夜を分かたず其の軌の針路を成し遂ぐるー万霊の主の御前にて一方の他方と対(むか)ひ合ふ座を占むればなり。
加之(しかのみならず)、其等、謝恩し褒讃(ほうさん)して止む事無し;
蓋し、其の称謝(しょうしゃ)こそ、其等が安息なればなり。
8. 蓋し、日天子屡(しばしば)変易するは、或いは祝福の為に、或いは咒詛(じゅそ)の為なればなり、
猶、月天后の軌の針路、義の徒に対(むか)ひたる光なり、
猶、罪の徒に対ひたる幽暗(いうあん)、主の御名に依りて在り、
主、光と幽暗との間(あひだ)に分別(ふんべつ)を設(まう)け給ひ、
而して、衆人(しゅうじん)の霊を分け隔て給ひて、
斯くて、義の徒の霊を堅固とし給ひたり、
是、主の義の御名に依りてなり。
9. 蓋し、如何なる天使等も妨げと為らず、如何なる凡(おほ)しき力も妨げと為る事能はず;蓋し彼御方、其等一切(それらいっさい) 訳注30 の為に判事を任じ給ひ、加之(しかのみならず)、彼の者 訳注31 、其等一切を審判す、主の御前に在りて。
第42章 1. 智慧(ちゑ)、其の身(そのみ) 訳注32 の住み得る如何なる処をも見出(みい)でざりけり;
因りて一つの隠れ処(かくれが)、諸天の中(うち)に其の身に配(はい)せられけり。
2. 智慧、人の子等の間(あひだ)に出(い)で行(ゆ)きたり、其の身が住処(すみか)を得むが為に。
されど、如何なる住処をも見出でざりけり:
智慧、其の身が隠れ処へと還(かえ)りけり、
而して其の身が座を得たり、天使等の間(あひだ)に。
3. 加之(しかのみならず)、不義、其の身 訳注33 が室(むろ) 訳注34 より出で行きけり:
其の身の索(もと)めざりし者等 訳注35 を、其の身見出でけり、
猶(なほ)其等と共に住みけり、
恰(あたか)も沙漠に降る邪雨(じゃう) 訳注36 の如く、
猶乾きたる地に置かるる禍露(かろ) 訳注37 の如くに。
第43章 1. 加之、我、天上の余の稲妻と諸星とを見、猶我、主の如何に其等が名に因りて其等一切を呼びたるかを見しに、猶其等、主の御声(みこえ)を聴きたり。 2. 又、我見き、如何に其等の、其等が光の賦分(ふぶん)に依りて義の衡(はかり)にて量らるかを:猶我見き、其等が空界の廣袤(こうぼう)と、其等が現れ出づる期(とき)と、如何に其等が周 訳注38 の稲妻を生ぜしむるかとを:又、我見き、其等の天使等の數(すう)に因りて周を巡る 訳注39 様と、如何に其等の互(たが)ひに律を守り合うかとを。 3. 爰(ここ)に、我、我に伴ひ往き、我に隠されし諸事を顕(あらは)したる一柱の天使に問ひたり:「此等は如何なるものなるか?」 4. 然るに、彼我に曰く:「万霊の主、爾に其等が譬への真義を顕はしたり:此等地の面(おもて)に住みて永久(とこしえ)に万霊の主の御名を信ぜる聖徒の名なり。」
第44章 更に、稲妻に係りて別の事象を我見き:如何に諸星の幾つかの昇りて稲妻となり、かくて其等の新しき相(さう)を離るる事能はざるかを。
訳注1 : 原語は'the wicked'。「見守る者らの書」では「邪悪なる者たち」と訳出したが、比喩譚ではより文語風に「邪悪の徒」と訳出する。「徒」は自然に複数を表すことが出来る。
訳注2 : 原語は'the righteous'。先の「見守る者らの書」では「義なる者たち」と訳出したが、比喩譚ではより文語風に「義の徒」と訳出する。
訳注3 : 原語は'sinners'。「見守る者らの書」では「悪なる者たち」と訳出したが、比喩譚ではより文語風に「罪の徒」と訳出する。
訳注4 : 原語は'the Righteous One'。先の「義の徒」は集合体であったが、この「義者」は特定の一人を言い表す。
訳注5 : 原語は'the elect'。比喩譚では「撰徒(せんと)」と訳出する。もちろん、複数形を表している。
訳注6 : 原語は'the godless'。比喩譚では「無神の徒」と訳出する。
訳注7 : 原語は'the holy'。比喩譚では「聖徒」と訳出する。
訳注8 : 原語は'praises'。褒讃(ほうさん)と訳出した。
訳注9 : これら四書(激情の書、忿怒の書、憂懼の書および放黜の書)の原語はそれぞれ'book of zeal'、'book of wrath'、'book of disquiet'および'book of expulsion'である。これら四つの書物は、天上の法廷における裁きの目録であるとされ、エノク書が編纂されたユダヤ第二神殿期の時代背景を反映しているモチーフである。聖書でも「命の書」などのモチーフが出てくるが、エノク書ではより細分化・具体化されており、当時の腐敗した社会情勢に対する人々の怒りと希望が反映されているのであろう。これら四書には罪人や権力者らの悪行が記録されていると考えられていたようだ。
訳注10 : エノクが「四書」を受領した39:2の時点で過去形となっている事に注意せよ。直前の39:1は未来形であった。エノクはこの時点で既に「昇天」しつつある事が暗示されているのである。天界に在る預言者の目には、過去も現在も未来もすべて「既に起こった事」と見える。
訳注11 : 原語は'them'。この「彼等」とは、第38章にて詳述された「不義なる諸王と権力者」を指すと考えるのが自然である。
訳注12 : これは直前の「慈悲」を指す。
訳注13 : 原語は'the Elect One'。「撰者(せんじゃ)」と訳出する。
訳注14 : 39:5から39:8にかけては、以下のような時系列で進んでいると考えられている。
5: 聖徒たちの住処の全景(義と慈悲の充満)
6a: 「撰者」の目撃
6b: 「撰者」による統治と、その支配下の「義の徒」と「撰徒」
7a: 「撰者」の住処の様子
7b: 聖徒たち(義の徒と撰徒)の住処のさらなる詳細(主の御前)
8: エノク自身の魂の切望
チャールズの訳出はエチオピア語(ゲエズ語)の順序そのままを保ちつつ、それに番号付けをする事で同時並行的に記述されているのであろうと推定される情景の描写(つまり6a/7aと6b/7bの二つの場面)を示している。この技法は、エノク書ゲエズ語版の底本となったであろうアラム語またはヘブライ語の「ヘブライ詩」の技法であり、類義的並行法(Synonymous Parallelism)と呼ばれているものである。
訳注15 : 原語は'his'。これは直前の'the Elect One'(撰者)を指す。
訳注16> : 原語は'uprightness'。「まっすぐであること」を意味するのだが、「義(righteousness)」と釣り合わせて「直(なお)」一語で訳出した。
訳注17 : エノクが天上の光景、特に「万霊の主」とその栄光を凝視し続けた結果、彼の人間としての肉体的な制約が一時的に書き換えられ、天上の光(火焔光)を反射するような状態になった事を表している。「見ることができなくなった」のは、エノクが視力を喪失したという意味ではなく、人間としての器(肉体と感覚)が、神性の圧倒的な光に対して「飽和状態」に達したからであると解釈されている。「人間の目」では、これ以上の幻視を見続ける事が出来ないのである。
訳注18 : 原語は'all the hidden things'。この「隠された事」を奥義(おうぎ)と訳出した。
訳注19 : 原語は'Satans'。エノク書の「サタン」は地獄の底に幽閉された堕天使たちとは別の存在で、一種の「天上の悪徳検事」の役割を担っている。その役割は地上の人間たちに悪事を働かせ、その罪を天界へ「告訴」する事である。彼らは地獄へ幽閉されているわけではないので、天界へと自由に出入りする事ができる。本訳では「魔王共」と訳出した。イメージとしては、「一定の権威を有して自分の軍勢を率いている悪しき親玉たち」である。
訳注20 : 原語は'the angel of peace'。「安寧(あんねい)の天使」と訳出した。
訳注21 : この天使ファヌエル('Phanuel')は、先の第20章の七大天使には出てこない。諸説あるようだが、一説によればこれは七大天使とは別格の黙示文学における「秘義の天使」であるとする説。今一つは、第20章の「ウリエル」の別名とする説。
訳注22 : 原語は'all the secrets'。この「秘密」を「秘義」と訳出した。前出の訳注18の「奥義」との使い分けは以下の通りとなる。
【「奥義」と「秘義」の使い分け】
1. 奥義(おうぎ / おくぎ): All the hidden things
・ニュアンス: 本質的な真理、物事の奥底に隠された究極の理(ことわり)。
・対象: 天上の法廷の仕組み、天使の正体、神の計画など、「深み」にある真実。
2. 秘義(ひぎ): All the secrets
・ニュアンス: 秘められた事柄、公にされていない具体的な「秘密」や「仕掛け」。
・対象: 天体の運行の法則、雷や風の出納、罪人のために用意された裁きの場所など、具体的な「天上のカラクリ」。
訳注23 : 原語は'there'。この直前で「罪の徒」が神の「御国」から追い出されている場面でも'thence'が使われており、この'there'もその続きとして神の「御国」の範疇を指していると考えられる。しかし、ここではエノク書の宇宙論的な機構の話になっているので、その中に於いてもより具体的にこういった「物」(稲妻や雷鳴や風や雲や露など)が貯蔵されるとされる「エノク宇宙論」的な「天上の蔵」を指すと考えるのが自然であろう。
訳注24 : 原語は'they'。これは直前の文の「諸雲と露」を指す。
訳注25 : 原語は'chambers'。これは前出の"storehouses"や"treasuries"と同様なものであると考えられ、天文現象の保管庫を指している。直訳すると「室(むろ)」となるが、天文現象や良いものに関する時は「蔵(くら)」を訳語として使用する。複数形なので、「諸蔵(しょぞう)」。
訳注26 : 原語は'the sun'。素直に「太陽」と訳出したいのだが、この後直ぐに太陽を'his'と受ける文が登場する。チャールズは原典であるゲエズ語の性別をそのまま英語にも反映させている。文語で彼の/彼女のという言い方も(明治期以降の表現となるが)可能であるが、文体実験の意味もあり、ここでは明示的な性別を使用しない訳出を行ってみた。諸文化において太陽と後述する月はそれぞれ男性的・女性的または逆に女性的・男性的な表現としてその扱いが割れている。ここでは太陽は男性的となっているので、仏教的な太陽の表現である「日天子(にってんし)」と訳出した。これにより太陽の性別が男性であると暗示されるので、'his'を「其の」と訳出する事が出来るようになる。
訳注28 : 原語は'she'。直前の月天后を指す。文語で女性を匂わせるならば、「其の身(そのみ)」となる。
訳注29 : 原語は'in that place'。これは訳注23と同様な「天上の蔵」を指している。
訳注30 : 原語は'them all'。「それら全部」という意味であるが、その指示範囲はこの比喩譚にて語られてきた一切の被造物を指している。
訳注31 : 当然直前に出てきた「神が任命する判事」の事である。
訳注32 : 原語は'she'。これは「智慧」を指す。チャールズの英訳は、もとのゲエズ語やアラム語の「智慧」という言葉の性別を保持している。ここでも「智慧」が女性の性別を有する事を他の言葉で「匂わせる」方法を採用する。ここでの訳語「其の身」という代名詞は女性を暗示している。
訳注33 : 原語は'her'。「不義」も「智慧」と同様に女性形なのである。
訳注34 : 原語は'chamber'。訳注25では「蔵」と訳出したが、「不義」は良くないものなので、「室(むろ)」と訳出した。
訳注35 : 原語は'Whom'。漠然と前出した人を指す語であるが、具体的にはこの第一の比喩譚にて語られてきた罪の徒や不義の徒などを指す。
訳注36 : 原語は'rain'。これは只の雨ではないし、もちろん恵みの雨でもない。沙漠は不義の徒を暗示しており、常に乾いている彼等の燃料となるような「邪悪の雨」 を暗示している。故に訳語は「 邪雨(じゃう)」とした。
訳注37 : 原語は'dew'。ここでも露が降りる「乾きたる地」は不義の徒を暗示しており、露は単なる美しい露ではない。雨の方で「邪悪さ」を表現しておいたので、こちらではその結果として地に災いをもたらす意味合いを載せて「禍露(かろ) 」と訳出した。
訳注38 : 原語は'revolution'。これは天体の運行を表すが、「周」と訳出した。
訳注39 : 原語は'(their) revolution'。このtheirはrevolutionの主語で、それらが周回するという意味となる。ここでは「周を巡る」と訳出してある。
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