第20章 1. さて、これらは守視の任にある聖なる天使らの名前なり。 2. ウリエル、聖なる天使らの一人にして、天地万象と地獄の底 訳注1 とを掌(つかさど)る。 3. ラファエル、聖なる天使らの一人にして、人間の霊魂を掌る。 4. ラグエル、星辰 訳注2 の世界に復讐を為すところの聖なる天使の一人。 5. ミカエル、聖なる天使らの一人にして、人間の最良の性(さが)と混沌とを掌らしめらる。 訳注3 6. サラカエル、聖なる天使らの一人にして、その魂において罪を犯す者らを掌らしめらる。 7. ガブリエル、聖なる天使らの一人にして、楽園と蛇(おろち)ら 訳注4 と智天使らとを掌る。 8. レミエル、聖なる天使らの一人にして、神は甦る者らを掌らしめらる。
訳注1 : 「タルタロス」の事。もともとギリシャ語から来ているのだが、キリスト教ではこれは堕天使らが懲罰を受ける場所の事であり、地獄の最深部を表す。
訳注2 : 原語は'luminaries'。エノク書の世界においては、星々には意識があり、一種の自律的な生き物(生ける星々)として扱われている。星々に天使を関連付けるのは、それらが共に「天上」にあるからであろう。luminariesは字義的には天上の発光体を指すのだが、単に「天体」としてしまうと現代的な我々には「水素ガスの塊たる恒星の集まり」にしか聞こえぬ。「星々」は'stars'で使う。そこで、ここでは「星辰」という訳語を採用した。これならば星も月も太陽も表すことができる。他の場所では「綺羅星」と訳出しているところもあるが、それは「死すべき定めたる人間が地上から見てキラキラしている存在」として詩的な訳出をしたい時。
訳注3 : (掌る/掌らしめらるについて)
本訳では、原文における “be over” と “be set over” の違いを反映し、
前者を 「掌る」、後者を 「掌らしめらる」 と訳した。
・「掌る」 は、天使が本来的に担う領域を司ることを表す。
・「掌らしめらる」 は、神によってその任に就けられたことを示し、
天使の役割が神の意志による委任であることを強調する。
この区別は、エノク書における天使の階層性と役割の差異を明確にするためのものである。
訳注4 : エノク書における「蛇(serpents)」は、原語の段階で複数の意味が重なっている語である。ゲエズ語では、ヘブライ語 śārāf(燃える者)に由来する語が「蛇」と「熾天使(セラフィム)」の双方を指し得るため、「蛇」=「燃える蛇」=「熾天使」という語源的連関が存在する。
そのため、本節の “the serpents” は以下の三つの解釈が可能である。
① 文字通りの蛇
エデンの園の蛇や、誘惑・堕落の象徴としての蛇を指す可能性。
② 黙示文学における竜・混沌の怪物
エノク書では Leviathan(リヴァイアサン)など、蛇・竜の姿を取る混沌の怪物が登場するため、象徴的な「大蛇」を指すと読むこともできる。
③ 熾天使(Seraphim)
語源的には「燃える者(seraph)」と「蛇」は同根であり、イザヤ書6章の伝統では熾天使が蛇の姿を取るとされることから、高位天使 Seraphim(熾天使)を指す語が「蛇」として伝わった可能性もある。
本訳では、これらの重層的な意味を保持するため、象徴性を含む「蛇(おろち)ら」と訳した。
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