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第12章から第16章 エノクの夢幻:アザゼルと堕天使らの為のエノクによる執り成し:そして彼らの最初で最期の破滅についてのエノクによる彼らへの告知

 第12章 1. これらの諸事に先立ち、エノクは隠され、そして人の子らの誰もが彼がどこへ隠され、どこに住み、そして彼に何が起こったのかを知らなかった。 2. しかし、彼の営みは見守る者たちの処遇に当てねばならず、彼の日々は聖なる者らと共にあった。  3. さすれば我、エノクは、威厳満ちたる主にして世々の王を賛美しているところであった。そして見よ!見守る者ら 訳注1 が我ー書記官エノクーに呼びかけ、そして我に言った: 4. 「エノクよ、汝、義の書記官よ、高き天、とこしえなる聖所を去りて、女らで自らを汚し、地上の子らの如く振る舞い、そして自分らに妻を得たる天の見守る者ら 訳注2 のもとへ行き宣告せよ:『汝らは地上にて大破壊を働きたり。 5. さすれば汝らにこそ平和も来たらず、罪の許しも得まじ:彼ら 訳注3 が子らを限りなく愛(かな)しと思えども、 6. 彼らが慈しむ者どもの死にこそ臨まん。して彼らが子らの滅亡を彼らは嘆かん。而(しか)して来世への嘆願を為さんとすれども、汝ら慈悲も平和をも得(う)まじ。』」

 

 第13章 1. それからエノクは赴き伝えた:「アザゼルよ、汝に平安は無いであろう:汝に対し厳しき宣告が発令され、汝を拘束する: 2. されど汝が教えたる不義のため、そして汝が人間らに為し見せたる不敬と不義と罪のあらゆる業のため、汝には容認も要望も認められる事はないであろう。」 3. 次に、我 訳注4 は赴き、彼ら全員に話すと、彼らは皆怖気づき、そして恐怖と身震いが彼らを捕らえた。 4. すると彼らは、彼らが許しを見出すかもしれぬ嘆願書を彼らの為に作成し、そして天の主の御前でその嘆願書を読み奉る事を我に懇願した。 5. というのも、その時以降、彼らが責められてきたその罪の恥のため、彼らはかの御方と話す事が叶わず、また天を仰ぎ見る事が出来ぬからである。 6. そこで、我は彼らの嘆願と、彼らの霊と行いに関わる個々の祈願と、そして彼らに許しと長命を賜りたき旨の要望をすべて書き出した。 7. その後我は立ち去り、ヘルモン山の南東に位置するダンの地にあるダン河岸にて座した:我は眠りに落ちるまで彼らの嘆願を読み上げた。 8. すると、見よ、夢が我に浮かび出で、そして幻が我が身に流れ下りけるが、それは懲罰の幻であり、そして声が我に天の子らへと告げ彼らを叱責するよう命じた。 9. それから我が目覚めし後、我は彼らの元へやって来たが、彼らは皆集まり、座して居り、レバノンとセニル 訳注5 の間にあるアベルスジェイル 訳注6 にて顔を覆いて泣いて居た。 10. それから我は彼らの前で、眠りの間に見たる幻をすっかりと物語り、そして我は義の言葉を話し、さらに天なる見守る者たちを叱責し始めた。

 

 第14章 1. 義の言葉のそして永遠なる見守る者たちへの叱責の啓示であり、その(エノクの)幻の中の神聖にして偉大なる者の命令に従う所のものである。 2. 我は、その肉の舌とその口の息を持って今言わんとする事を、その眠りにおいて見た:偉大なる者が人間らに与え、それをもって親しみ、真心を持って理解するところのものを。 3. かの御方は天地創造し、そして人間に知恵の言葉を理解する力を与えられたので、かの御方は我をも同様に作り出し、我に天の子ら、見守る者らを叱責する力を与えられた。 4. 我は汝らの嘆願を書き出したが、我が見し幻の中では次のような事となるようだ。つまり、汝らの嘆願が未来永劫に渡り承諾される事はなく、そして審判が最終的に汝らに下るであろう:然り、汝らの嘆願が承諾される事は無いであろう。 5. さすればこれより後、汝らは永久(とこしえ)に天へと昇る事が許されず、そして地上にて禁錮された状態で神意が下り、世界のあらゆる時代に渡り汝らを拘束する事となるであろう。 6. しかも、前もって汝らは、その愛しき息子らを滅びに委ねる事となるであろう。汝らがそれを喜ぶことは無いであろうが、彼らは剣によりて汝らが前に崩れ落ちるであろう。 7. そして汝らによる彼らの為の嘆願が承諾される事はなく、またその嘆願が汝ら自身によりて為されたとしても同様であろう:例え汝らが泣いて祈り、そして我が書き下せし書き物の中に含まれるあらゆる言葉を持ってしても。 8. それから、次のような幻が我に示された:見よ、その幻の中にて雲が我を引き寄せて靄(もや)が我を呼び出し、そして星々の軌(みち)や稲妻が我に拍車を掛け急き立て、さらにその幻の中のその突風が我を飛翔させ、上方へと持ち上げ、そして我を天上へと運んでいった。 9. そうして水晶から造られ、そして炎の舌で取り巻かれた一つの壁へと次第に近づくまで、我は(天へと)入っていった:そしてそれは我を恐れさせ始めた。 10. それから我は炎の舌へと立ち入り、そして水晶から造られし大きなる建物へと次第に近づいた:その建物の壁は水晶から成る切子細工にてあしらいし床 訳注7 の如きであり、そしてその下地は水晶から成っていた。 11. その綾なす天井は星々や稲妻の通り道の如きであり、そしてその間には火花を散らすが如き智天使らが居り、しかも彼らの天は水の如く澄んでいた。 12. 燃え立つ炎がその壁を取り囲み、その表玄関の数々は炎で煌めいていた。 13. それから我はその建物へと足を踏み入れると、それは炎の如く熱く、かつ氷の如く冷えていた:そこには如何なる生命の歓喜を与える力も存在しなかった:畏怖と恐れの念 訳注8 が我を覆い、身震いが我を捕らえた。 14. そして我は恐れ慄き、うつ伏せに倒れ込んだ。するとまた我は幻を見た。 15. 見よ!第二の建物が在り、それは前(さき)のものよりも大きくして、またその入口全体が我が面前にて開け放たれて居り、さらにそれは燃え盛る炎にて築かれていた。 16. 更に、その建物はその光輝と壮麗さと広がりのあらゆる点にて非常に卓越したれば、我は汝らにその華麗さや広大さを言葉で言い表す事能わぬ。 17. そしてその床は炎にて成り、更にその上には稲妻と星々の軌(みち)が在り、かつその天井もまた燃え盛る炎にてありき。 18. その後我はその中に在りし一座の崇高なる御座を視認し、目を配りたり:その外見は水晶の如きであり、かつその車輪は輝く太陽の如きであり、またそこに智天使らの像(かたち)在りき。 19. 更にその御座の底からは火炎の激流が迸りたれば、我はその上(崇高なる御座)を注視する事能わざりき。 20. さすれば大いなる栄光その上に座し給い、更にかの御方のお召し物は太陽よりも燦然と輝きて、かつ如何なる雪よりも純白なりき。 21. 如何なる天使らも、その荘厳なる雰囲気と神の栄光の故に、その中に立ち入りたり、主の御顔を凝視したりする事能わず、いわや如何なる人間も主を凝視する事能わざりき。 22. 燃え盛る炎、かの御方の周囲を取り巻き、更に主の面前に一本の巨大なる火柱立ち昇り、故に周囲に在りたる如何なる者も主へ近づく事能わざりき:一万の一万倍の天使らが主の前に在れど、かの御方助言者を必要とせざりき。 23. 更に主の近くに在りし最も聖なる者ら、夜といえども離れず、また片時も離れる事あらざりき。 24. そしてその時まで、我は震えてうつむけにひれ伏していたのであるが、主はご自身の御口で我が名を呼ばれ、そして我に言われた:「ここへ参れ、エノクよ。して我が言葉を聞け。」 25. そこで聖なる者らの一人が我が元に来たりて我を喚起し、してかの御方我を起(た)たしめ、かの扉に近づかせ給う:されば我その頭を下に垂れたり。

 第15章 1. 然るにかの御方我に応じて仰せられたれば、我主の御声を聞きけり:「恐るる事なかれ、エノクよ。汝義なる者にして義の書記官よ:ここへ寄りて我が声を聞け。 2. さして行け、かの天の見守る者ら、汝を彼らの為の執成(とりな)しとして遣わしたる者らへ告げよ:『汝ら人間の為に執成(とりな)すべきなり。人間は汝等の為にこれを行うにあらず: 3. それ故に汝ら、高く在りて、聖にして、かつ永遠なる天界を去り、して女らと共に寝、かつ人間の娘らと共に自らを汚し、して汝らに妻を娶り、かくて地上の子らの如く振る舞い、而して汝らの子として巨人を設けたり。 4. かくてあるに汝ら聖にして霊的なる、とこしえの生命(いのち)を生きる者なりしかど、汝ら女の血にて自らを汚し、して人類の血筋の子を設け、なお人の子らの如く、死して腐敗する者どもが同じく為すが如く生身の人間を欲したり。 5. かかる事の為に我彼らに 訳注9 同じく妻を与え、彼らを懐妊させ、して彼らのみにて子を設け得る様にし、かくして彼らに地上で何も欠く事無からしめたり。 6. されど汝らかつては霊的にして、とこしえの生命(いのち)を生き、かつ世界のあらゆる時代にて不死なりき。 7. その故をもって我汝らに妻を定めざりき:蓋し天界の霊的なる者として、彼らの住処は天界に在るなり。 8. さて、巨人ら、霊と肉とより生み出(い)ださるるに、地の面(おもて)にて悪霊と呼ばれ、而して其処(そこ)彼らの住処たるべし。訳注10 9. その悪霊彼らの肉体より生ぜり;彼らは人間より生まれ、かつ聖なる見守る者らよりその濫觴(らんしょう)と根源の出自とが発したれば;彼らは地の面(おもて)にては穢れたる霊にして、また彼らは悪霊と称(とな)えらるべきものなり。 10. 天界の霊にありては、天上こそ彼らの住処(すみか)なれど、地上に産(う)まれたる地上の霊に至りては、其の処こそが彼らの住処となるべきものなり。 11. 然れば巨人らの霊、悶えしめ、虐げ、打ち毀(こぼ)し、襲い、戦い、また地の面(おもて)にて破滅を齎(もたら)して累(わずらい)を及ぼすなり:彼ら食を摂らざるも、しかも飢渇して、遂に非道を為すに至る。 12. 而してこれらの霊、人の子ら及び女らに背き立たん。そは、その霊の彼らより出(い)でたればなり。

 

 第16章 1. 巨人の大虐殺と破滅と死の時より、またその肉身の亡霊より、これら霊は来(きた)れり。而して審判を受くることなく一(いつ)に破壊せんー斯くて彼らは、世の末 訳注11 に至るまで破壊を事とせん。かの大いなる審判の日は、即ち見守る者らに報ゆる窮まりの時とならん。その不敬なる者どもは、然り、全く終(つい)を遂ぐるに至らん。』 2. さて、執成(とりな)しの為に汝を遣わしたる見守る者らに就(つ)きては、彼らは嘗(かつ)て天界に在りし者なれば、彼らに斯く告ぐべし: 3. 『汝ら 訳注12 は嘗(かつ)て天界に在れども、諸(もろもろ)の秘儀は未だ悉(ことごと)くは明かされざりき。汝らが知り得(え)しは唯(ただ)無益なる知識のみにて、その心の頑(かたく)なきがままに、それを女らに知らしめたり。其の浅はかなる秘事(ひめごと)を由(よ)りどころとして、女らと男らとは地上に夥しき悪事を蔓延(はびこ)らせたるなり。』 4. 故に彼らに告ぐべし:『汝らに安らぎはあらじ。』」


【注記】

訳注1 : この「見守る者ら」(Watchers)は天界にまだ残っている*堕落していない*天使たちの事である。エノクに対し、もともと彼らの仲間であった「堕落せし見守る者ら」の所へ行き、そしてこれらの事を伝えよという事である。エノクはこの直前、「聖なる者ら」(the holy ones)と共に人目から隠れて過ごしている。

訳注2 : この語に直前で掛かってきている「そうそうたる悪行」の形容詞句のオンパレードを見れば、この「天の見守る者ら」は堕落した天使どもである。それをわざわざ「天の見守る者ら」と表現するのは、堕落に対する皮肉のようにも聞こえるし、あるいはそもそもそれは「役職」であるからありのまま表現しているという解釈もありえる。これは以前から学術界で議論されてきている「微妙な点」のようだ。

訳注3 : この12:5では「堕落せし見守る者ら」を文の冒頭では「汝ら」(ye)と表現している。これは天上の見守る者らからの言い伝えをエノクが直接話法で「堕落せし見守る者ら」へと話す形式となっている為。しかし、ここで途中からこの人称が「彼ら」(they)へと変わっている。天上の見守る者らはもはや「堕落せし見守る者ら」に対し直接話法にて話をするに値しないとみなしており、一方的な判決風の文言へと「冷酷な感じに」切り替わっているのは、原典となっているエチオピア語(ゲエズ語)テキストにおける意図的な表現である。チャールズはそれを素のままで英訳している。もはや全てが「決まっている事」であり、「彼ら」にはこの時点で既に「何のチャンスも無い」のである。

訳注4 : この「我」はエノクを表す。冒頭では第三者による物語形式で'Enoch'(エノク)が動作主であったが、ここで'I'(我)が動作主となっている。三人称視点の物語から一人称視点の回想録形式に変化している訳だ。これは古代文書によく見られる現象で、この物語が複数の情報源の寄せ集めとなっている為と考えられている。また、セム語属の古代文学の「様式」としてこのような暗黙の人称の切り替えが許容されていたともみなす事ができる。いずれにしても、読み進めていくにつれて、このような「人称の移動」は今後も出てくることがあろう。

訳注5 : 原語は'Seneser'。これはSenirであろうと解釈されている。セニル(Senir)は聖書にて時折登場する地名で、ヘルモン山全体またはその一部を指す。ヘルモン山は堕天使ら(見守る者たち)が最初に降り立った場所である。

訳注6 : 原語は'Abelsjail'。レバノンとヘルモン山の間にある地名。現代のAbileneであるともAbel-beth-maacahであるとも言われている。

訳注7 : 原語は'tesselated floor'。'tesselated'は恐らく'tessellated'の誤記かまたは表記ゆれであろう。説明的には「モザイク状の床」という意味であるが、ここではちょっと色気を出して「切子細工にてあしらいし床」と訳出した。

訳注8 : 原語は'fear'一語のみ。このfearにはエノクの「二重の感情」が入り混じっており、それを日本語で表現しようとすると「畏怖」と「恐れ」の二語が両方とも必要となる。よって「畏怖と恐れの念」として重ねて訳出してある。

訳注9 : 原語は代名詞"them"。これを「見守る者ら」(Watchers)と解釈すると意味が破綻する。これまでの文中ちょっと影が薄いかもしれないが「人間たち」とか「人の子ら」と解釈すると筋が通る。

訳注10 : 神が巨人らについて言及しているが、この段階では彼らは既に殺し合って肉体を失っており、その霊のみが地上を「悪霊」として彷徨っていることを付け加えておく。天使と人間の「ハーフ」である巨人らの霊は天界へ帰る事が許されていないので、地上を彷徨う事になる。この部分を含む「神の宣告」全体はエノクの夢の中の出来事であり、夢一般がそうであるように、その内容は断片的で論理に飛躍がある。

訳注11 : 'consummation'の訳出であるが、キリスト教的にはこれには二重の意味がある。すなわち「世の終わり」と「神の計画の達成」である。両方同時に訳出すると冗長となるので、場面においていずれかの意味として訳出する事となる。

訳注12 : 'you'(複数形主格。もちろん堕天使らを指す。)の訳語を「汝ら」とした。今までの流れから'ye'とあるべきと感じるであろうが、チャールズの時代に於いては既に'ye'は詩的かつ古風な言葉となっていて、このような厳粛な「判決文」に用いるのは相応しくないと判断したのであろうと思われる。しかし、これを日本語にすると、「被告ら」みたいな現代語的な「乾き切った」言葉しか思い浮かばぬ。黙示文学の格式も考慮し、日本語では「汝ら」という訳出で統一すべきであろう。

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