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エノク書:その構成要素とその年代

 エノク書は今では、普通は第一エノク書を意味しており、後の第二エノク書として知られる黙示録「エノクの秘密の書」とは区別されている。前者はまたエチオピア語エノク書、後者はスラブ語エノク書とも呼ばれ、これはそれぞれ各々に現存する最も初期の訳にちなんだ命名である。いずれについても、原本の言語による写本の存在については知られていない。

 キャノン・チャールズ(Canon Charles)によれば、我々の書がその現代の姿に形作られたところの種々の要素は、様々な年代に属する。以下の表はおそらく、この書の様々な部分の年代を示すであろう。キャノン・チャールズは、それぞれの判定においてその確実性に責任を負う事無く、これらはほぼ正しいと考えている。

章
xii.-xxxvi.               +
xciii.     +              |
           | 「週の黙示録」 | 最古のマカバイ戦争以前の部分
xci. 12-17 +              +

vi.-xi.       +                   +
liv.7-lv.2    |                   |
lx.           | 「ノアの方舟」の断章 | 遅くともマカバイ戦争以前
lxv.-lxix. 25 |                   |
cvi., cvii.   +                   +

lxxxiii.-xc.  「夢幻」 紀元前165-161年
lxxii.-lxxxii.  「天空の星々の書」 紀元前110年以前

xxxvii.-lxxi.  「寓話」または「たとえ話」 +
                                      | およそ紀元前105-64年
xci. 1-11, 18, 19-civ.                +

i.-v.  最後の部分、しかしキリスト教以前のもの

第105章(cv.)については、ただ二つの詩より構成されるのであるが、年代を定めることが出来ない。さらに第108章(cviii.)については、補遺の性質上、おそらく著作全体に後から付け加えたものとなる。

 これらの年代は、ほぼ正確であると見なしても良いが、この問題に関しては学者間で意見の相違がある点を指摘すべきである。例えば、シューラー(Schurer)は、第37章(xxxvii.)から第71章(lxxi.)( 「寓話」または「たとえ話」)を除いて、この書全体が紀元前130年〜紀元前100年の期間に属するという説を支持しており、「寓話」については、彼は、ヘロデ大王よりも早くない時代に割り当てている。ベーア(Beer)は、「夢幻」(第83章(lxxxiii.)から第90章(xc.))が、ヨハネ・ヒルカノス1世(紀元前135年〜紀元前105年)の時代に属すると考えおり、そして彼は、マカバイ戦争以前の部分には、ただ第91章(xci.) 12-17、第92章(xcii.)、第93章(xciii.) 1-14のみを含めていて、この書の残りの部分については紀元前64年よりも前に書かれたという説を支持している。ダルマン(Dalman)は、それがユダヤ的性質を有する事を十分に認識しつつも、重要な部分である第37章(xxxvii.)から第71章(lxxi.)(「たとえ話」)が「キリスト教以前の時代の産物」である事は証明できないと主張している。バーキット(Burkitt)は、その著者が哲学者ポセイドニオス(Posidonius)とほぼ同時代であると見なしている。このように、主要な権威者たちの間で、この書の年代に対する意見にいくらかの差異がある。総じて、キリスト教以前のものであるという事は間違いなく合意が取れていると見なして差し支えない。より困難なのは、その一部分がマカバイ戦争以前のものであるのかどうかという問題である。チャールズ(Charles)は、かなりの部分がマカバイ戦争以前のものであるという彼の考えについて種々の理由を提示している。この問題に関する最終的な言葉が発せられたかどうかについて疑問を投げかける事が出来るとは言え、我々は彼の意見に同意する方向へ傾いている。


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